インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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日の当たる所

あと水着を決めていないのは鈴とセシリアなので、女性で集まって話しながら選びにいっていた。

「やっぱり、セシリアはセクシー系で、鈴は可愛い系が良いよ」

「私、あまり体に自信ないのですけれど」

「それは外人感覚だからだろう。日本からしたら充分だぞ」

「可愛い……。水着に猫耳つけてランドセル背負ったらどうなるかな」

「お前はどこへ行こうとしているのだ」

「いやもう、いっそのこと突き抜けてみようかと」

その輪から抜けて、一夏と白は脇に設置されているベンチに座っていた。

「一夏は水着買ったのか?」

「はい。白さんは臨海学校には行けないんですよね?」

「ああ。ま、ラウラもアイツらに馴染んでいるようだし、心配もいらないだろ。俺は必要ない」

「俺としては残る白さんが何もしなさそうで不安なんですが」

「何故、何もしないのが不安なんだ」

「何もしなさ過ぎて。食事もしないだろうし、仕事を早く淡々と終わらせてそのままで居そうです」

「…………」

軍ではそのような生活だったから、一夏の予感は当たるだろう。白はラウラが居なければ何もする気がない。

「……そこもどうにかしなければならないのだろうな」

これといった興味もなく、暇という感覚もなければ、ただそこに在り続けることが出来る。

自分を変える為に何かするべきなのだろう。

しかし、やはり興味がない。

「…………」

……ああ、本当に俺は、ラウラが全てなんだな。

「一夏、ラウラ達の買い物は長引きそうだし、他の所へ行ってくる」

「ついていきますよ。暇だし」

……元々、シャルロットとのデートの筈だったんだろう。

やはり一夏にデートという意識はなかったようだ。シャルロットの頑張りを嘆くべきか、一夏の鈍感さを怒るべきか。

どちらにしろ、既に女性だけでかなり盛り上がっていて、男の一夏と白は忘れられている。このまま一夏を残してても何も変わらないだろう。

「ああ、良いぞ」

白が立ち上がると、遠くにいたラウラがそれに気付いた。白が指で適当な方向を示し、何処かへ行くと伝えれば、了承したラウラがいってらっしゃいと手を振る。

「良し、行くぞ」

「ごちそうさまです」

「別に食べに行くわけじゃないぞ?」

「ええ、俺もそういう意味で言ったのではないです」

そう言う彼の目はどこか呆れていた。

……何で俺が一夏に呆れられているんだ。

「ところで、何処へ行くんです?」

「ラウラに何か買ってやろうと思ってな」

「へえ、祝いか何かですか?」

「いや、何となくだ。お前も誰かに何か買ってやったらどうだ?」

「そしたら全員分買わなくちゃならないじゃないですか」

まだ一夏は心に決めている人が居ないようだ。昨日の今日で決めるような話でもないが、少しくらい動きを見せて欲しいものだ。

歩みを進めていると、エスカレーターから上がってくる二人の女性が目に入る。千冬と真耶だ。

「あら、白さんと一夏くん。こんにちは」

「こんにちは山田先生」

「こんにちは」

真耶の挨拶に一夏と白が返す。

千冬は渋めの表情で唸った。

「本当に会うとはな」

「安心しろ。これから俺達だけ少し別の所へ行ってくる。ラウラ達は水着を見ているがな」

「ほう?女の水着姿に興味ないのか?」

「織斑先生⁉︎」

「千冬姉⁉︎」

千冬の色気のある挑発に真耶と一夏が顔を赤くする。

「ラウラの水着ならもう見たが?」

白の答えに、千冬は無表情になった。

「ああ、うん、そうか。良かったな」

「?」

「い、行きましょうか、白さん。山田先生と千冬姉もまた後で」

「あ、はい。いってらっしゃい」

千冬と真耶から離れ、一夏は白に言う。

「白さん、何処でも惚気るのやめてくださいよ」

「?」

白は何が悪かったのかと首をかしげ続けていた。

 

 

 

「本当に彼奴は……」

「あはは……」

千冬はブツブツと文句を言い、真耶は苦笑いでそれに答える。水着売場へ行けば、ラウラ達が楽しそうに水着を選んでいるのが見えた。一人一人の魅力が高いのもあるが、集団であるから余計に目立っている。

「お前ら、燥ぎ過ぎるなよ」

「織斑先生と山田先生。こんにちは」

千冬達が近づくと、皆が頭を下げた。

「先生達も水着を?」

「私はいらないと言ったんだが、山田先生がしつこくてな」

「だって、織斑先生スタイル良いのに勿体無いじゃないですか」

千冬はやれやれと肩を竦めた。

「ま、お前らの邪魔はするつもりないから楽しくやれ。ああ、そういえばボーデヴィッヒ。白に無茶を言うなよ?あいつが臨海学校に行くのは無理だぞ」

「ええ、分かっています。朝は少し駄々こねちゃいましたけど」

「ん?朝?」

千冬がはて、と首を傾げた。

「さっき、行けないかと電話してきたんだがな」

「そうなのですか?」

「案外、本人もついて行こうとしたんじゃない?」

シャルロットの言葉に難しい顔をする。

「白さんが?無いと思うが……」

「いえ、ラウラさんラブな白さんなら、ひょっとしたらあるかもしれませんよ」

「そうだな。さっきだって惚気られたし」

「え、何て言われたんですか?」

わいのわいのと白の話で盛り上がる。いつだって恋愛話は女性のネタになるのだ。

「…………」

ラウラはラウラで背中にこそばゆいものを感じていた。他の人から白の好意を言われるとなんとなしに照れ臭くなってしまう。

「そういえば、いつの間に男二人で何処か行ってたのね」

「さっき、白が何処かへ行くようで、一夏はそれについて行ってたぞ」

「なによもー。折角なら一夏の意見も欲しかったのに」

文句を言う鈴をシャルロットが宥めた。

「まぁまぁ。どうせなら、当日のお楽しみで一夏に見せれば良いじゃない」

「その方がインパクトありますものね。……女子は沢山いますけど」

「そこは言わない約束だセシリア」

じゃあなと千冬と真耶が離れ、再び学生だけになる。

「シャルロット、邪魔しちゃってごめんね」

鈴が申し訳なさそうに頭を下げた。

「良いよ。どうせデートとは思われてなかったし。水着選んで貰っただけで満足だから。どうせならこのまま皆で遊ぼうよ」

「良いですわね。このままウィンドウショッピングでも続けますか?」

うーんと、鈴が難しい顔をした。

「多分、それだと一夏はつまらないわよ。男友達多かったから知ってるけど、男ってそういうの駄目みたい」

「じゃあ、ゲームセンターとか?」

「それは私達が楽しいのか?」

「さあ、どうでしょう?でしたら、カラオケとか、ボーリングとか?」

「白さんがやるの想像つかないぞ」

箒の発言にラウラが驚いた。

「え、白も入れるのか?」

「ん?入れないのか?てっきりラウラと白さんも一緒だとばかり思ったんだが」

「ああ、お二人はデート中でしたものね。お二人で楽しんでた方が良いかもしれませんわね」

そういえばとセシリアが言うが、ラウラが驚いたのはそこではない。

「いや、てっきり、皆は白を避けるものだとばかり思っていたから」

あの食事の件で、白が異常なことは明白になった。食事だけでなく、他にも色んなものを抱えているのは、察する所ではあるだろう。そんな白から離れていくと思っていたのだが、どうもそれは検討違いだったようだ。

「だって、ラウラが愛した人なんでしょ」

「だったら、僕達も白さんの事を分かってあげなくちゃ。理解出来ないからって拒絶する前に、ちゃんと受け入れる所から始めるのが正しいと思うし」

「……そうか」

白はずっと闇の中に居た。その異質さと異様な雰囲気から、誰しもから拒絶され、自身も手を伸ばすことがなかった。

ラウラが寄り添い、支え、側に行き、やっと立つことができた。ラウラと手を繋ぐことが出来た。たった一歩だったけれど、彼は立ち上がり、歩む事が出来たのだ。

「…………良かった」

……こうして、皆が白の事を見れる所まで連れて来られたのか。ちゃんと、光が当たる所まで、一緒に来れたんだな。

「ありがとう、白の事を見てくれて」

「何言ってんの、当たり前じゃない。私達はラウラの友達で、白はその恋人……夫婦?バカップルだもの」

「最終的にバカップルか」

「だって何て言えば良いのか分からないじゃない、この二人」

「ははは……」

ラウラは笑った。

とても安心した笑みで、嬉しそうに、笑った。

 


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