インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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日常の合流

臨海学校。

単純に言ってしまえば、海でやる課外授業。

夏。海。水着。学生にとっては嬉しいイベントである。

「いや、だから俺は行かないと言ってるだろう」

「何故だ……!」

ラウラは臨海学校で白と一緒に泳げると楽しみにしていたのだが、白が行かないことを告げるとその場に崩れ落ちた。

「何故も何も、俺は用務員だぞ。学校内が俺の仕事場だ」

「今すぐ辞めるんだ!」

「IS学園に居られなくなるぞ」

「臨海学校の時だけ辞めるんだ!」

「お前、無茶苦茶言ってるからな」

余程楽しみにしていたのか、駄々っ子のように言うことを聞かない。

「今日は休みだから水着買いに行こうと思ったのに、白が居ないんじゃ意味ないじゃないか……」

「いや、どちらにしろ水着は必要だから買えよ」

立ち上がったラウラが頬を膨らませて白に迫る。

「何故、白はそんなに冷静なのだ」

「そもそも行くことを想定してないからだ」

「私の水着姿が見たくないのか?」

「…………」

性欲の薄い白にはなかなか難しい質問だった。だがしかし、普段と違う姿を見れるなら、それも良いかもしれないと、最近は思えるようになっている。

「……俺だけに見せてくれるなら」

「…………」

「……?」

少し無言になったラウラが白に正面から抱き着いた。

「何だ」

「白はたまに凄く卑怯だ」

「何の話だ」

「……むう」

ラウラは白から身を離して唸る。

「織斑先生に頼んだら何とかならないか?」

「一介の教師にそこまで権限はない。諦めろ」

「むー!むー!」

「むぅむぅ言うな」

ラウラは白の腕をブンブンと揺らして抗議するが、白は全部スルーした。何故か罰として今夜一緒に寝る約束をさせられた白であった。

 

 

「……というわけで、俺が行くことは出来ないか?」

『何がというわけだ馬鹿者』

携帯の向こうで千冬の呆れた声がした。

「いや、実際どうかと聞こうと思ってな」

『とか言って、お前も実はかなり行きたいんじゃないのか?』

「まさか」

白は軽く否定した。

「何故わざわざ集団の中で好き好んで行かなくちゃならない。行くならラウラと二人きりで行く」

『……あ、そう。』

少し間を空けて、心底どうでも良さそうな返事が来た。

『ま、どちらにしろ無理だよ。教師なら兎も角、用務員が学外で何をするって話だ。お前らには悪いが、大人しくしとけ』

「了解」

『ところで、さっきから後ろが喧しいな。何処にいる?』

「学外のデパート。ラウラの水着を買いに来てる」

『そうか。私も山田先生に無理矢理誘われたからな。もしかしたら会うかもしれん』

「会わないことを祈るか?」

『運命に任せるさ』

じゃあな、と携帯を切られた。

「…………」

白は無言で携帯をしまう。

そこへ、お手洗いから出てきたラウラが戻ってきた。

「どうかしたか?」

「いや、何でもない」

二人は並んで水着売り場へ向かって歩き始める。

「なぁ、ラウラ」

「なんだ?」

「海には二人きりで行こう」

「おお?どうした急に。もちろん、喜んで行くけれども」

白は千冬と電話したことは黙ったままにした。

世の中が女尊男卑ということもあってか、女性の水着売り場は大きな面積で用意されている。ワンピース型からビキニまで様々な種類と色合いが目を刺激する。

「どれが良い?」

当たり前のようにラウラが白に意見を聞いた。前の服の時同様、白はファッションや趣味はないので、ラウラに似合うと思ったのを選ぶことにする。

「…………」

……そう言えば、ラウラは黒色が好きだったな。

なら、黒色が良いかと、先ずは色を基準に選び始める。しかし、何如せん水着の種類が多い。正直、どれも同じように見えて仕方ない。これなら服の方が分かりやすいと白は思った。

「白」

そこに、ラウラが声を掛けてくる。

「白の水着を選んできたぞ」

ラウラはそう言って、目をキラキラさせながら掲げて見せた。

黒いサーフ型の水着で、右足側に青いラインが入ったシンプルな物だ。

「……いや、何故、今俺のを選ぶ必要がある」

「着てくれ!」

……何故興奮気味なんだ。

流されるままに試着室へ押し込められ、試着を強いられる。仕方なしにと着替えてカーテンを開ければ、ラウラは頬を赤らめながら携帯で写真を撮った。

「いかん、鼻血が出そうだ」

白の身体つきは細めだが、しっかりと筋肉がついている。腰の位置が高く、足はスラリと長い。筋肉と肉体は尋常じゃない強さと頑丈さを持っているが、見た目には全然分からない。

「本気で何してんだお前」

その水着を買うのは決定事項らしく、ラウラが籠に入れたまま携帯の写真を見てニマニマしていた。傍から見れば怪しい事この上ない。

「ほら、これはどうだ」

白が選んだ水着は黒地のフリルがついたワンピース型の水着。一度ビキニ型と迷ったが、ビキニはラウラが恥ずかしがりそうだと除外した。

「試してこよう」

試してくる、というのはサイズ的な意味で、ラウラとしては既にこれにしようと内心決めていた。

試着し、その姿を白に見せる。

スレンダーな曲線美を描き、黒い布地が魅力を最大限に引き立てた。フリルがその可愛らしさを強調している。

「ありがとう。これにする」

「また即決か」

「良いじゃないか。お前が選んでくれたことに価値があるんだ」

「たまには自分で選んだらどうだ」

「私は白のを選ぶ。白は私のを選ぶ。万事解決だ」

「いや、そういうことではなく」

言い合いながらも水着を購入し、その場を後にした。

そこで、柱の陰に怪しい人影を見る。

怪しいと言うか、あからさまと言うか、何をしているのかと思った。

「おい、お前ら」

柱の陰に隠れてこそこそしていたのはセシリアと鈴だった。

「ちょ、バレるじゃないの」

鈴が慌てて言う。

「誰にだ?」

「一夏達だろう」

ラウラが首を傾げ、白が答える。白の視線の向こう、一夏とシャルロットが水着売り場に足を踏み入れていた。

「別につけなくても混ざって来れば良いだろう。知らない仲でも無いのだし」

「ですが、折角シャルロットさんが勇気を出してデートに誘ったというのに、それを邪魔するのは無粋ではありませんか?」

「変な所で律儀だな」

一夏はデートと思っているのだろうか。本人は箒達から好意を向けられていることに気付いてはいるみたいだが、天然と朴念仁であるのは素のようで、前の箒の告白も本気で買い物の意味と受け取っていたそうだ。

「でも、気になるから尾行している、と。箒はどうした?」

「……私達に呆れて別の場所に水着を買いに行ったわ。もうすぐ戻ってくるんじゃないかしら」

そこへ、噂をすれば何とやら。向こうから箒が歩いてくるのが見えた。

箒はセシリア達と、ラウラ達に気付く。

「こんにちは、二人共。……まだやってたのかお前ら」

「気になるじゃない」

「いやもう放っておいてやれよ」

箒の冷静な発言に声を詰まらせる鈴とセシリア。

「逆に、箒は良いのか?」

「一度告白した身だ。勇気のある行為は分かるつもりだからな」

「く、ラウラの影響か知らないけど、箒が大人に見えるわ!」

「実際、お前らが幼稚な行動してるだけだしな」

「それ言ったらお終いですわ」

そこで白が軽く言った。

「バレたみたいだぞ」

「え?」

その方向に顔を向けると、一夏が手を振っていて、シャルロットが苦笑いをしている。

「……どうする?」

「呼ばれたならば行くしかないだろ」

「ですわよねぇ。後悔先に立たずとはこの事でしょうか」

「くそ、バカ一夏め」

「完全に逆恨みじゃないか」

鈴は白達に振り返って尋ねた。

「貴方達はどうするの?そのままデート続ける?」

「…………」

ラウラは白を見て、白はラウラを見た。一度頷き、白が答える。

「ついていこうか」

「今の無言のやり取りで何が交わされたのよ……」

「本当に目と目で通じ合うを地で行く二人だな」

箒達がゾロゾロと一夏達の所へ向かい、合流する。

「……一夏、空気読もうか」

「え、何が?」

箒の発言に一夏はクエッションマークを頭に浮かべた。セシリアと鈴がシャルロットに頭を下げる。

「ごめんなさい、シャルロットさん」

「ごめん、シャルロット」

「いや、仕方ないよ」

シャルロットは苦笑いで応じ、その場で一夏だけがひたすら首を傾げていた。


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