インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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女子達の対談

セシリアが額に汗を滲ませながら、グツグツ湧いている鍋に、具材を入れて煮込む。

「カレーは定番の食べ物だ。ルーから作ると手間がかかって難しいから、慣れないうちは市販の物を使うのが良いだろう。玉ねぎは甘味を生み出すから……」

黄色のエプロンを着けたラウラが台所に立ち、一個一個説明していく。隣に立っているセシリアが聞き逃さないように一生懸命メモ帳に走り書きを行っていた。

リビングでは箒、鈴、シャルロットが机の上に料理本を広げて、各々が好き勝手にページを捲っていた。

「いやー、何で私達もこれに参加してるのかしら」

「お前は酢豚ばっかり作るからだろう。シャルロットは料理得意なのか?」

「うーん、それなりかなぁ。ラウラよりは美味しくない自信はあるけど」

「そりゃ、この学園の誰もがそうでしょ」

日曜の昼下がり。セシリアの為にラウラの擬似的な料理教室なるものが開かれ、何となくノリで何時ものメンバー、一夏に惚れてる四人組がゾロゾロと参加した。

台所は狭いのでラウラとセシリアだけでそれなりで、あと一人でも入れば一杯だろう。そもそも台所自体が複数人で立つのを想定していないので当然である。

折角だから入れ替わりで作り、一夏に何か一品作ろうと話の中で決めていた。こういう時、一夏は割とタイミングが悪かったりするので、ラウラが事前に

「今日、箒達で夕食作るから、ちゃんとお腹を空かせろよ。今日ぐらい夜を多めに食う覚悟をしろ」

と、伝えて置いた。下手なサプライズは失敗の原因となる。そこはミスしないように堅実に行くことにした。

「冷めても美味しい料理って難しいわよね」

鈴は未だに何を作るか迷っていた。

ちなみに、箒は煮物。シャルロットは冷製スープを作るつもりである。煮物は冷えていく過程で味が染み込んで行くし、冷製スープは元々冷やして飲むもの。一方、中華料理ばかり作り、熱々好きな鈴は、火力に頼った熱い料理ばかり習得していた。

「セシリアみたいに、後で温めて食べられる物を作れば?」

「それはそれで迷うわね。そもそも、カレーって食い合わせ悪くない?スープは兎も角、煮物に合うの?」

「まあ、皆の料理の食べ比べみたいな物だし、そこまで気にしなくて良いだろう」

必死に料理を作っているセシリアの背中を見て、箒はポツリと呟いた。

「懐かしいな。私も入学当初は料理が下手くそでな、苦労した」

シャルロットが料理雑誌から顔を上げる。

「へえ、意外。箒はずっと料理が美味いと思ってた」

「そんなことはない。当時、一夏に炒飯を作る機会があったのだがな。美味しいとも不味いとも言われず、味がしないと言われたよ」

「あー、そうね。不味ければ無理しても美味しいって言うだろうけど、味しないと誰でも素が出るわよね」

「それが悔しくてな。料理を頑張ったよ。たくさん失敗したけど、今ではマトモな物を作れるようになった」

「女磨いてるわね」

鈴は指で本をクルクル回す。非常に無意味な行為である。

「本で遊ぶな。というか、何作るか決めろ」

「中華駄目?」

「だーめ。これを機に別の料理作りなよ」

そこへラウラとセシリアが部屋へ戻ってくる。圧力鍋を使って煮込んでいる間の小休憩だ。

「何だ、まだ決めてないのか?」

「むー、冷めても美味しい物って何よー」

「和え物とか色々あるだろう。少しは火力から離れろ。まあ、どうしても思いつかなければ電子レンジで温めても良いんじゃないか」

ラウラがエプロンを外して腕で折り畳む。一連の動作がとても自然なのは、それ程料理をしてきた証だろう。

ラウラとセシリアも席に座り、各々で好きな飲み物をコップに注いだ。

「それはそれで嫌ね。あ、これ作るわ。冷しゃぶ。簡単だからタレも作ろっと」

「ああ、良いんじゃないか」

「皆さん、レパートリーがあって羨ましいですわ」

メモ書きと睨めっこしていたセシリアが口を尖らせた。経験値の差と分かっていても悔しいものは悔しいものである。

「セシリアはこれからでしょ?楽して上手くなる物でもないし」

「ところで、デザートは作るの?」

「デザート作るのなら、それこそ今の内に準備しなきゃ間に合わんだろう。キッチンは小さいし、無理じゃないか?」

「じゃあ、デザートは、あ・た・し」

「ぶふっ!」

鈴のお巫山戯発言に、飲み物を飲んでいたラウラが噎せた。雑誌にかからないように後ろを向いて咳き込む。その背中を箒が摩った。

「じ、冗談よラウラ。そんな反応しなくても」

「……あの、ラウラ」

シャルロットが極めて真剣な顔で言う。

「ぶっちゃけ、白とやったの?」

あからさまに動揺した箒達が騒ぐ。

「ちょ、聞いちゃう⁉︎それ聞いちゃう⁉︎」

「だって気になるじゃない!」

「でもそんなお二人のことですしそこは突っ込んでさしあげなくても違うんです今の突っ込むはそういう意味ではなくて」

「お、落ち着けお前ら。私だって興味がないわけじゃないが、そこは察してやろう」

ラウラが復活して、ゴホンと一度最後に咳払いをした。

「まあ、何だ……。抱いてもらったぞ」

「きゃーっ!」

「マジでぶっちゃけたわ!」

「ど、どんな感じだったの?」

「痛いのか?やっぱり痛いのか?」

昼間とは思えないテンションで話が盛り上がる。

「痛いぞ。個人差があるかは知らないが、私は最初は痛かった。体が小さいのもあるかもしれん」

「ちょ、それだと私いざって時怖いんですけど」

ラウラの生々しい発言に若干青ざめる鈴。

「男の人のアレってどうなの?」

「言わん。白の裸は言わん。私だけの物だ」

「さりげなく惚気たぞコイツ」

「白さんから誘ったんですの?こう言ってはなんですが、彼から求めることってしなさそうで……。でも男の方だから、やっぱりあるのかしら?」

白の体の事を箒達は知らない。そういう意味で言うなら、ラウラも普通の男がどうなのかは全く知らなかった。

「白は事情があって性欲が薄くてな。でも、お互いが了承というか、主に私が誘えば受け容れてくれる」

流石に赤裸々に語るのは少し恥ずかしいようで、指を絡めて忙しなく動かしながら答えた。

「なんと言うか、良いわね。羨ましいわ」

「やっぱり一夏も攻めなきゃ……誘わなきゃ駄目か?」

全員の目が一瞬怪しく光るが、ラウラが止めた。

「やめておけ。あいつの場合、逆に逃げるぞ、きっと」

「……だろうね」

男と偽っていた時、一夏と風呂を共にしたことがあるシャルロットが神妙な顔で頷いた。

「何ですのその経験者が語るみたいな表情」

「ところで、その一夏は何処にいるんだ?一人だから訓練もしてないだろ?」

ラウラは一夏に説明はしたが、その後彼がどこへ行ったかは把握していない。寮の外ならおそらく監視が付いて行ってるだろうが。

「白さんの所行ってるらしいぞ」

箒の発言に全員が驚く。

「え、あの二人でどんな会話するのよ」

「一夏が一方的に喋ってそうだよね

そこへ、扉が開き一人の乱入者が現れた。

「美味しそうな匂いさせてるわね、皆の衆」

生徒会長、更識楯無その人であった。

「うわぁ」

一人の漏れなく、出たよこの人、と表情で語る。鈴なんかはあからさまな声を上げていた。

「ちょ、その反応流石に傷付くわよ」

楯無が扇を広げる。その扇には悲惨の漢字が書かれていた。どういう仕組みかは分からないが、無駄な機能である。

「面識があるのか?」

ラウラが箒達に聞き、一斉に頷く。

「まあ、新しいライバルみたいなものよ」

「またか……」

一応ラウラは千冬から一夏の護衛を兼ねてる話を聞いているが、それでもあの一夏のことだ。有り得なくない。

「ちょっと無視しないでよー」

……こうして集団の所でやってきたということは、少なくとも情報交換の話をする気ではないのだろう。懐柔策にでも出るのか?

「私も参加して良い?」

「良いですよ」

ラウラがあっさりと答え、楯無を含めて全員驚いた。

「ラウラ⁉︎」

「良いの?」

「別に断るほどのことでも無いだろう。それに、ライバルだと思うなら敵の素性を把握しとけ。ただし、更識先輩、作る量は少なめにお願いします。人数が人数ですので」

「了解よ。白さんの分も作った方が良いかしら?」

……他の人間が白の食事を作る?それは。

「……食べるか分かりませんよ」

「あら、嫉妬?」

「いえ、本当に食べるか分かりませんよ、彼は」

白が食事したのは異常に思われない為のポーズか、命令など必要に迫られた時か、ラウラの料理か、あるいはラウラと一緒に食事をする時のみであった。

必要でもない状況で他人の料理を食べるのだろうか。

「何なら試してみても良いですよ」

「何、この余裕……」

「そりゃ、この二人の間に隙間なんて無いもの……」

微塵の動揺も見せないラウラに楯無は困惑し、箒達は溜め息を吐いた。

箒達は楯無が苦手であるが、楯無はラウラと白が苦手になりそうだと何となく予感した。


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