インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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第4章 黒と白
近付く暗雲


学年別個人トーナメント。

もう間も無く行われるその大会は、様々な国の重役人や企業の人間が学園へ足を踏み入れる。この大会の目的は主にこういった人間の就職先やスカウトであり、学生達は自分達をアピールする場でもある。

「…………」

白は書類を確認しながら、学園へやってくる人間の裏を一人残らず洗い出していた。

「どうだ、白」

部屋に入ってきた千冬が珈琲を手渡す。

「今の所、誰一人問題ない。もっと時間があれば裏世界からも情報を引っ張ってこれるんだが」

「それは仕方ないことだ。そもそも、政府というだけで既に怪しく思わなくてはならない。逆に、これだけ第三者が多い前で何かするとも思えん」

「それでも可能性はある。これで亡国機業の尻尾でも掴めれば、逆にこちらにとって有益だ。……無人機のコアは?アレの回収に来るかもしれんぞ」

「厳重な管理の部屋に置いてある……。と、思わせている」

「思わせてる?実際どこにあるんだ?」

「私が持ってる」

ああ、それは世界一安全だな。

「何にせよ、問題なく終われば良いんだがな」

「それは無理だろう」

どれだけ防衛策を張ろうとも、何かが起こる予感は二人の中にあった。

そんなことを知らない生徒達は、今もまた無邪気に学園生活を楽しんでいる。

今の話題はもっぱらトーナメントに持ち切りで、誰と組むとかいつ練習するなどの話が飛び交っていた。そんな中、一つの噂が舞い込んでくる。

「優勝すれば一夏くんと付き合えるんだって!」

「……は?」

それを聞かされたラウラは間抜けな声を出した。あの朴念仁がそんなことを言うとはとても思えない。

「本当か?」

「本当本当!あ、でもボーデヴィッヒさんは白さんが居るから関係ないよね。良いなぁ、私も彼氏欲しいなあ」

この歳の女子は夢を見がちな子が多く、相手を見ているというより、男や彼氏の幻想、そしてそれと付き合っている自分に酔っていることが多い。所謂、恋に恋している状態である。もちろん、中には本気の子もいるのだろうが、噂を聞いて、じゃあ私もと便乗している者が大半であろう。

「…………」

教室を見回すと、箒が頭を抱えているのが目に入る。噂を聞いてショックを受けているのかと思い、近寄ってみた。

「……どうしてこんな事に」

どうも噂の出処は彼女のようだ。

「箒」

「あ、ラウラか。どうした」

声を掛けると虚ろな瞳で返事が来た。

「噂を聞いたのか」

「あ、ああ」

箒が目線を反らす。当たりか。

「お前が発端なんだな」

「な、何故分かった。いや、発端というか、こんなことになるとは……」

箒の話では、彼女は昨夜一夏に学年別個人トーナメントで優勝したら付き合ってくれ、と言ったそうだ。彼女にしては勇気を出した行動で賞賛を送りたいが、如何せん場所が悪かった。寮の廊下で叫んだらしく、それを聞いた誰かが曲解したか、噂が広がるまで情報が歪んでしまったのだろう。

「……御愁傷様だな」

いつの間にか近寄ってきたセシリアと、噂を確かめに来た鈴も話に加わる。

「箒さん、勇気を出すのは結構ですが、場所を選びませんと……。部屋で話せば宜しかったのに」

「本当よ」

「だって、あの時は勢いで……」

同じ男性を好きになっているからといって、決して仲が悪いわけではない。一夏を取り合う場面がなければ、こうして普通に会話できるのだ。

「ところで、トーナメントのパートナーは皆さんどうしますの?」

「そりゃ勿論、一夏に決まってるわ」

「何を言う。奴は私と組むのだ」

睨み合う箒と鈴にラウラは疑問を投げかける。

「大会の優勝は一夏とでも良いのか?」

「…………」

「い、一応優勝だから良いんじゃない?」

「どちらにしろ、遅いですわ」

セシリアの言葉に三人が顔を向けた。セシリアが頰に手をついて溜息を吐く。

「一夏さんは既にシャルルさんと組みましたもの」

「そうなの⁉︎」

「ああ、でも、男同士だから当然か……」

癇癪を起こす鈴と落ち込む箒。シャルルが実は女だと知っているラウラは素知らぬ顔をした。

「なので、折角ならこの四人で分けて組みませんか?」

「ああ、構わない」

ラウラは承諾の意思を示し、そういうことならと残りの二人も頷いた。

「じゃあ、誰と組むのよ」

「セシリアと鈴で組んだらどうだ。お前らは山田先生の時に一度組んだことがあるから、お互いの不足部分が分かっているだろう?そこを補いあっていけば良い」

「そうですわね。あの時はみっともない姿を晒してしまいましたし、他の人に見せつけるといった意味でリベンジしましょうか、鈴さん」

「ええ、望む所よ」

「ラウラは私とで良いのか?自慢じゃないが、私のIS適正は低くて、お世辞にも上手いとは言えんぞ」

「なに、構わんさ。できるだけフォローはするから共に頑張ろう」

こうして二組の方ペアが出来上がった。

「ところで、私達が勝ったら一夏と付き合うのってどうなるのかしら」

「うーん、噂自体誤解だと知ってますし……」

「そもそも、一夏は男女交際ではなく、買い物か何かに付き合うと思ってるんじゃないか?」

「わー、ありえるわー」

「わ、私の勇気……」

ガックリと項垂れた箒を、三人は仕方ないと慰めた。

一夏とシャルルを交え、昼休みに申請書を出しに行くと職員室で白に出くわした。

「ああ、ペアの申請書か。俺が受け付ける」

「白さんが管理してるんですか?」

「このぐらいなら誰でもできるからな」

実際、こういったイベントは書類整理などが増加するので猫の手を借りたいほど大変になっている。その点、白は優秀なので、実はこれ以外にも多くの業務を任されていた。

最初は白のことを怪しんでいた教師陣も、今では白に頼っていたりする。軍でもそうだったが、人間性はともかく仕事面の評価が高い。その為、仕事に関しては白の信頼はうなぎ登りになっているのだ。

「無理をするなよ」

「平気だ」

ラウラと白のやり取りは簡単で、たったそれだけの会話しかしなかった。職員室を出てからシャルルが尋ねる。

「あれだけで良かったの?もっと話せば良かったのに」

「何を言う。彼は仕事中だぞ。邪魔になるじゃないか」

ラウラは当たり前のように答えた。

「ここ最近の業務は多いようだからな。甘えることもせんよ。精々、白が部屋でしっかり休めるようにするだけさ」

「…………」

一夏を除いた全員が足を止める。

「おい、どうした?」

「いや、なんていうか……」

「うん……」

「負けましたわ……」

「何と戦ってるんだお前らは」

ラウラはただ首を傾げるばかりだった。


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