インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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試合開始

「頑張れー、零ー!」

姿を見せた零に一夏が大声を出して応援する。

零が片手を上げて返事を返してきた。

「あ、聴こえたのか。この距離なら聴こえないと思ってた」

聴こえないと思いながらも応援するのは一夏の性だろう。相変わらずの一夏に、皆が微かに微笑んだ。

百花は隣にいるヒカリに質問した。

「それで、ヒカリさんはどっち応援するんです?」

「悩みますね」

ムムムと眉を寄せるヒカリに、シャルロットが振り返った。

「え、零に勝って欲しいんじゃないの?」

恋人同士になったのだから、当然零を応援すると思うだろう。それが普通の反応であるし、普通の考えである。

「それとこれとは別問題です!」

堂々と言ってのけるヒカリをラウラが捕捉する。

「お父さん大好きっ娘だからな」

切欠は事故の一件だろうが、今ではそれに関係なく父親大好き人間となっている。俗に言うファザコンである。

「私がファザコンに収まると思ってるのですか」

「白は渡さんぞ」

徐に構えるヒカリとラウラ。

女の戦いが今、始まろうとしていた。

「いや、始めるなや」

ペシリと百花のツッコミが入った。

そんな事をしていると、白も姿を見せる。

零は集中力を上げ構えを取るが、白は手を開いたまま普段となんら変わらない様子で定位置に着く。

「……試合開始」

試合開始のブザーが鳴り響いた。

瞬間、零は真上に飛び上がる。その際に地面を爆撃し、爆風の力も借りて上空へ飛び上がった。

白も同じく前に飛び出していた。爆撃の弾を確認の後、跳躍に切り替える。斜めに飛び出す形のなった白は手を伸ばすが、ギリギリで零を捉えられずに壁まで到達した。零は空に飛ぶ事だけに集中し逃れる事に成功した。白は地面へと着地すると、零の方向を眺めながら中央に向けて歩き出す。

零は警戒しながら空中を大きく旋回し、白の様子を観察した。

「さて、初手は上手くいったが、ここからどうなるかな」

千冬が悠長に呟いた時、反対側の席では殆どの人が唖然としていた。

「映像で見ましたが、実際に目にすると恐ろしいですわね……」

「白さん本当にIS使ってないの?目に見えないISとかじゃないの?」

半分程は白の異常性を目の当たりにするのは、これが初めてである。白が普通の人間でないことは重々承知していたが、身体能力の異常性は実際に見なければ衝撃は伝わらない。

一夏は一瞬とはいえ、白の動きに口を綻ばせる。

「……子供の頃に見た時以来だけど、やっぱり凄いな」

かつての憧れの戦士の姿は、未だそこに健在だった。

一方で、戦闘中の零は空中で冷や汗をかいていた。

「……危ねえ」

まさしく間一髪だった。

不利な体制から武器を出す隙なんてない分かっている。捕まれば終わる。

あの一瞬、白の長距離攻撃があったのなら、あのまま衝撃波で地面に叩きつけられるか壁に激突させられるかの二択だっただろう。

何をするまでもなく終わっていた可能性をなんとか回避した。

「……問題はこれからだけどな」

零の思考を読んだ白がぼそりと呟く。

零が長銃を構える。レーザー兵器と読んだ白は、瞬間的に消えた。白が居た場所に焼き跡が刻まれる。

零が白に負ける理由の一つとして、やはり生身の人間に攻撃することに抵抗があるからだろう。幾ら死なないとは言え下手をすれば白でも大怪我をする。

人を傷つけるのが怖い。

それは普通の感覚だ。人の痛みの分かる普通の人間が、普通に合わせ持つ感覚だ。

白からすれば、戦場で生きてきた者達からすれば、それは必要のない感覚だ。

しかし、失ってはいけない、大切な感覚でもある。普通の人として暮らしていく為に持ち続けていくべきものだから。

「だが」

……躊躇ってばかりでは意味がない。

「……!」

零が感覚で右側を防御した。

その瞬間、激しい衝撃が突き抜ける。白が壁に跳躍し、横から真っ直ぐに零に蹴りを入れてきたのだ。

「ぐっ!」

零は白の攻撃を防いだ長銃を消すことで白との接点を消す。重力で落ちていく彼を複数の爆撃を展開して放った。

それを、白は軽く指で撫でるように受け流す。白からも着地点からも外された爆撃は見当違いな場所に落ちて四散し、その間に白は地面に降り立った。

「…………」

白が消えた瞬間は見えていた。視界の中から消えた時、零は目で追うのを止めた。全体を俯瞰し、観察し、考察する。白が来る方向を予測しガードすれば、予想通りの方向から予想以上の衝撃が襲って来た。

そして、これは白の手加減だった。

この時点で白が銃を掴み、それを軸にしていれば零にダメージが与えられた。それを敢えてやらなかったのは、本気で来いという白からのメッセージだ。

それを受けた零は覚悟を決め、白に爆撃を放って見せた。悉く躱されはしたが、これは白への返事でもあった。

「…………」

……しかし、強い。

一瞬の攻防だけだが、実力の差は明白だ。今だって防ぐのが精一杯で、攻撃を当てる暇がなかった。

千冬や一夏なら白に攻撃を加える事に成功していただろう。

兎も角、無い物強請りをしても仕方がない。力がないのは自覚している。白の移動中に攻撃を当てるのは不可能だという現実を見据えて、作戦を立てなければならない。

……その為には、やはり。

 

 

「……ん、剣か」

零が剣を展開するのを確認出来た。

日本刀のような形をしているが、その大きさはISのそれであり、到底人間が持てる品物ではない。ISの力なら大きさや重さに関わらず振れるだろうが、それで白と渡り合う気なのか。

「ルール上、白って獲物使ってオッケーだっけ?」

「いいえ、禁止してるわ。奪って使う分には構わないけど」

鈴の質問に楯無が答える。

白の自前の武器は無い。敢えて言うなら、彼の着てる服自体が防護服とも言える。ただ、白が肉体で攻撃を受けた時点で一撃と見做すので、白の手段は回避か攻撃しかないのが現状だ。

楯無の言葉通り相手から奪うのは構わないので、剣を奪われれば当然使われる。前の試合などは、武器を取られて銃弾の起動を器用に変えて零に当てたりしていた。当時は芸当染みた光景に呆気に取られたものだ。

ラウラは零の武器を見て首を傾げる。

「でも、零ってあんな武器使ってたっけ?」

剣は装備していたが、大会で見た時は両手剣の西洋のような剣だったと記憶している。

「アレは簪さんに作ってもらった武器です」

「ブイッ」

ヒカリが簪の名前を出し、答えるようにピースしてアピールする簪。

「何だ、アドバイスだけでなく武器も作ったのか?忙しい身だろうに」

「趣味で作りたい物もあったから、個人的に満足」

ホクホク顏の簪に楯無は若干苦笑いを浮かべた。言葉の端からも感じられるが、ただの武器ではないのだろう。しかし、アレがどんな性能なのかは殆どの者が知らない。

「凄い武器なのか?」

「凄いっていうか……見てれば分かりますよ」

疑問に答えたのはヒカリで、彼女もまた呆れたような顔をしていた。

「そうだね、あの剣は名付けて……」

零が空中にいる状態のまま刀を振るう。

「『如意棒』かな」

刃が瞬間的に伸びて、地面を叩き切った。

見た目よりも軽いのか、ペンでも動かすように地面を切りつけていく零。白は紙一重でそれを避け続ける。

「でも、あれ足場にならない?」

シャルロットが言っている側から白が剣に足を掛ける。

ところが、足を当てた所が軽くポキっと折れた。

「別名、カッターかな。変にちょっと大きい力入れちゃうと簡単に折れる仕組みなの」

一瞬、全員が無言になる。

「……それって、相手を切ること出来るのか?」

「切れると言えば切れるけど、そこまで深くは無理ね。当たったら折れちゃう」

「……本当に、攻撃を当てるだけの武器なんだな」

実戦ではまるで役に立たない武器に、一同は呆れた溜息を吐いた。

折れた刃は足場に使ってはいけないし、物を投擲するのも禁止している。だから、折れた物の使用価値はない。

この試合の為だけに考案された武器だった。

百花が大袈裟に肩を竦めてみせる。

「ずるっこいなぁ」

「元々貴方のアイディアですよ、百花さん」

「そうでしたっけ?」

ヒカリの呆れ顔に、百花は舌を出して惚けてみせた。

 




最終回まで絵を描き終えられるかな……。

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