インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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特別編 最終章 君と歩く光
お堅い親心


「全く、男女同衾などと何を考えている」

翌朝、零とヒカリ、そして百花が箒の前で正座させられていた。

夜中に帰って来なかった一夏が気になり、箒は布団から出て様子を見に行った。その時に廊下で倒れている一夏を発見した。

思わず『死んでる!?』と叫んだ箒。『いや、死んでないよ!』と百花が部屋から出てツッコんだ。

その際、百花の部屋でヒカリが寝ていないことに気付いた箒が問い詰めて、百花は零の部屋で寝るように仕組んだとゲロってしまった。箒は良い年をした男女が共に寝るなんてとんでもないと彼らを起こそうとしたが、百花がそれを止めた。

『まあまあ、にーちゃがヒカリさんに手を出せるわけないじゃん』

『でも、万が一があるだろう。もしそうなったら、ラウラと白さんに何て言えばいいんだ』

『そうなってるなら、とっくになってるし手遅れだよ。それに、何も問題なかったから大丈夫。……誰かさんの所為で』

百花の一言で箒は全てを察した。

幼馴染である箒は一夏の言動を把握している。彼の間の悪さやハプニング率の高さも理解している。箒自身、何度それに巻き込まれたことか分からない。

『ああ、うん、そうか……』

箒は少しだけ遠い目で頷いた。

夜も遅かったので、今日はこれで良いと放置することに決め、翌朝は説教するぞと約束を取り付けた。

一夏はズルズルと箒に引き摺られていった。

『……あの扱いでとーちゃを愛してるってんだから、かーちゃもよく分からんなぁ』

2人を見送った百花はボソリと独り言を呟いた。

織斑百花。自分の事で手一杯だった彼女は、恋とも愛ともまだ無縁であり理解不能の事象である。そんな彼女の学校生活はどうなのか。百花は間違いなく織斑家の娘である、という事だけは確実に言えた。

兎も角、そんな事情があり、絶賛正座中の三人。

百花が仕組んだ事ではあるが、一応当事者として零とヒカリも正座させられていた。ちなみに、普段から礼儀正しい姿勢だったり武道を嗜んでいる彼らにとって、正座は普段の行い故に罰でも何でもなかったりする。

「だいたい、お前達はまだ高校生なのだから節度を持って……」

箒は侃々諤々と説教を続けた。

零と百花は辟易としながら話を聞き流し、ヒカリは白張りの無表情を貫いた。

「これから気を付けます」

全員で深々と土下座することで箒の勢いを削ぐことに成功した。

「反省してるなら良い」

箒のお許しが出て、3人は気付かれないようにホッと溜息を吐いた。こういう一方的な説教は、される方からすれば割とストレスの溜まるのだ。

一息吐いた中で、暗闇を放っている一人の男性に注意の目が向けられた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

部屋の隅にいる一夏である。

「父さんはいつまで落ち込んでんだ?というか、何であんな事になってんの?」

「まあ、一夏にも色々あったんだよ」

一夏は部屋の隅の方で膝を抱えてプルプル震えていた。昨晩の打撃と箒の怒ってる姿を見て過去のトラウマが蘇ってしまったらしい。

「あれを色々で済ませられるんですね」

部屋の隅に丸まる一夏から暗雲が漂ってくるようだ。まるで覇気がない姿は、モンドグロッソ優勝者どころか教師とすら思えない。なんとも情けない姿だった。

「強いて言うなら、一夏が悪い」

「じゃあ仕方ないな」

「仕方ないね」

箒の断言に、零と百花が神妙に頷いた。一夏の女性問題は昔から知られている事であり、彼を知る者にとっては衆知の事実だ。故に、そこに同情の余地はない。

家族のシンクロに、唯一の良心であるヒカリがオロオロとする。

「良いんですか?」

「なに、すぐに復活するさ。それより、今日も訓練するんだろう?準備をしてくると良い」

箒の言葉に一同が頷いてぞろぞろと動き出した。

「ああ、零」

「何?」

ちょいちょいと箒が手招きする。

零が近寄ると、箒は普段と変わらない様子で、しかし真剣な口調で言った。

「私は別に白さんと戦うことに異論はないし、お前の自由にして良いと思っている」

それを前提にと、人差し指を立てて顔の前に持ってきた。

「だけど、一つ約束しろ」

「約束?」

今更何を言われるのかと首を傾げる零に、箒は必ず守れと告げた。

「怪我だけはするな」

予想外の言葉に、零は目を瞬かせた。

一瞬、箒の言葉が理解出来なかった。

零の気持ちは当然である。ISの強度と防御力は凄まじい。ISが壊れる程攻撃を加え、絶対防御のエネルギーまで侵食するようなら肉体にダメージが及ぶ。しかし、逆に言えばそこまでしなければ滅多に肉体までダメージが伝わる事はない。それは白も知っているし、彼がそこまで零を傷付ける事もないだろう。

零は考え、結論を出す。

「…………」

……そうなる程、無茶をするなという事だろうか。

「分かったよ」

「うむ。行っていいぞ」

零の承諾に箒も満足そうに頷いた。

箒の発言の大本は親心から来た言葉だったのだが、受け取る側の零はニアミスをしていた。親の心子知らずとはよく言ったもので、零が箒の心情を測るにはまだまだ人生の経験不足だった。

三人が部屋を出て行った後、部屋の隅で丸くなっていた一夏がポツリと呟く。

「……悪気はなかったんだ」

出てきた台詞は弁明だった。

「そうだな。そうだろうよ。一夏は昔から間が悪いんだ」

箒は一夏の隣に座り、慰めるように彼の背中を軽く叩いた。

「あー……。悪い事したなぁ」

深い溜息を吐く一夏とは対照的に、箒は朗らかに笑った。

「そうか?寧ろ、私は変なスイッチが入る前に止めたと思ってるし、寧ろ感謝してるぞ」

一夏も箒もヒカリの事で反対する事はない。ヒカリの事はそれこそ赤ん坊の頃から知っているし、彼女の人間性もよく理解している。零には勿体無い娘だと思うと同時に、お似合いだとも思っていた。

しかし、それが不純異性交遊の許可にはならない。

「健全な付き合いなら良いが、接吻とか破廉恥だろう」

「接吻て、古めかしい言い方だな」

調子が戻ってきたのか、一夏が呆れたように箒に振り返った。

「高校生ならそのぐらい当たり前だろ?キスなんて今時、小学生でもやってるだろ」

「最近の風紀は乱れているな」

「お前がお固過ぎるんだよ」

零が奥手であり肝心なところで手が出せないのは一夏の血筋もあるが、箒の固い性格も合わさってのものだろう。

本人達にその自覚がないのが質の悪い話である。

「第一、そんな事言ったら白さんとラウラなんて……」

「白さんとラウラは別だろう」

真顔で言う箒に、一夏も真顔で返した。

「ごめん。俺も言ってて途中でそう思った」

白とラウラは特別だ。色んな意味で。それは一夏達を含め、全員の共通見解であった。

これもまた、白とラウラに自覚がない。彼らに言わせれば、愛し合ってるのだから普通だと答えるだろう。

普通ってなんだと思い知らされるのが彼らのクオリティである。

「でもまあ、幸せになってくれればそれで良いさ」

「……そうだな」

そう言って笑い合う一夏と箒。子の幸せを願う親の顔で、彼らは笑い合った。

 

 

学園のアリーナに到着した零とヒカリと百花。

アリーナには既に生徒会長がスタンバイしており、その隣に意外な人物が居た。

「楯無さん?」

「如何にも。我が母、更織楯無だ」

娘に紹介された楯無は笑顔で手をヒラヒラと振った。

「やっほー、ご紹介に預かりました、楯無さんですよ」

大人になっても変わらない悪戯っ子のような笑みを浮かべる楯無。

生徒会長の無駄な男気の所為で、本当に親子かと疑った時もあったが、悪戯っ子の部分で親子だと確信する。

「どうされたんですか?」

零の質問に楯無は笑顔で答える。

「少しだけ時間が取れたから、直接指導してあげようと思ってね。あと、かんちゃんから完成した武器を預かってきたのよ」

「え、もう出来たんですか?」

頼んでからまだ数日だというのに随分早い対応だ。仕事は良いのかとか、本当に大丈夫な武器なのかとか、余計な心配が生まれてしまう。

「テンション振り切って作ってたらしいから、多分大丈夫だよ」

……それは本当に大丈夫と言えるのだろうか。是非、目線を逸らさないで同じ台詞を言って貰いたい。

まあまあ、と楯無が話を次に進めた。

「時間取れたって言っても少しだからね。武器の練習も兼ねて、早速やろうか」

「はい、宜しくお願いします!」

零は深々と楯無に頭を下げた。

「にーちゃ張り切ってんなぁ」

「暗部直々に指導されるなんて贅沢な話ですからね」

「うむ、私の母は強いしな」

それを見ながら割と好き勝手に宣う女性陣だった。

そこで、何かを思い出したのか、百花がポンと手を打つ。

「ああ、そうだ。にーちゃ」

「何だ?」

「後であたしと戦ってよ」

「…………は?」

それこそ予想外な言葉に、零は口を開けて間抜けな声を漏らすのだった。




やっと最終章入った……。
長え……。どうしてこうなった。

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