インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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朝日が出てきて

俺はずっと座り込んでいた。

気付けば朝日が覗いている。もう既に朝を迎えていた。

「……はぁ」

今日は土曜日だ。休みで良かったと安堵する。こんな状態では授業所ではないし、全く集中出来なかっただろう。

「……くそっ」

自分を責められればまだ良かったかもしれない。自らを攻撃出来れば、まだ楽になれたかもしれない。

しかし、それは出来ない。

ヒカリに約束してしまったから。

俺が自己嫌悪したら底なしに沈んで行くだろう。ヒカリはそれを見越していた。ヒカリの願いを裏切る事のできない俺は、後悔をしようにも、自分の所為にする事は出来なかった。それでも、愚かだと思った。例え、どうしようもなかったとしても、何も知らずに、側にいたヒカリの事に気付けなかった己をぶん殴りたくて仕方がない。

「…………」

今、ヒカリに対して出来る事は何か。

零は考えて、考え抜いて、一つの結論に至った。

そして、零は携帯を手に取った。

 

 

闇の中に居た。

暗い暗い闇の中に居た。

激しい音共に岩と土が壁となって迫ってきた。声は出ず、体も動かず、抵抗する間も無く土砂の中へ身体は連れて行かれた。

頭の中は不思議と冷静で、このまま死ぬのかなと考えていたりもした。

私が死んだらどうなるのか。

一人娘の私。

両親は人造人間だと言っていた。本来なら、子供が出来る筈もなかったと語っていた。

産まれてきてくれてありがとう。

ここで生涯を終えたとして、産まれただけで、私はあの両親に孝行できただろうか。

とても愛されていた。

それは分かる。

時に厳しく、とても優しく、私は愛されていた。

そして、私は……。

 

 

私は朝を迎えた。

「……むぅ」

鏡を見ると隈が酷かったです。昨夜は零に御守りを渡した事が正しかったのかどうか、零は今どう思っているのか。手遅れな事は分かっていましたが、考えられずにはいられませんでした。

気付くと朝日が昇っており、そして丁度いい具合に眠気が来てました。眠いですね、非常に。

「……まあ、どうせ休みですし」

土曜日で助かったと、洗面所からフラフラと部屋へ戻ります。

「おはよう、ヒカリ」

「おはようございます」

その途中で母さんに呼び止められました。エプロンを身に付けたお母さんは見慣れたものですが、相変わらず反則的に可愛いですね。自分のお母さんに可愛いというのも変な話ですが、抱き締めたいくらい可愛いです。何なんですかね、この若さ。人造人間だからって卑怯じゃないですかね。

「どうした?」

「眠いのです」

端的に答えました。実際眠いですし、目がシパシパします。

「おお、酷い隈だな。寝とけ」

頭を撫でられました。癒されます。でも、お父さんの方がもっと癒されます。お父さんにナデナデして貰いたいですね。えへへへ。

……む、勘付かれましたか。目が鋭くなりました。娘相手に嫉妬とか恥ずかしくないんですか。私もお母さん相手に嫉妬しますけどね。

「おやすみなさい……」

戦術的撤退です。

そそくさと部屋へ戻り、許可も出たので、ゆったりとベッドに入ります。

完全な二度寝体勢に移った時、悪いタイミングで携帯電話が鳴りました。メールではなく電話の着信音の為、私は煩わしく思いながら携帯を手に取りました。

案の定というか、ディスプレイに映ったのは織斑零の名前。

このタイミングであることを考えて、通話をオンにすると、先手を取るべく、淡々と述べます。

「現在この電話は電波の届かない所にあります。ご用件の方は……」

『いやいやいや、普通に出てるじゃん』

零くんからツッコミが来ました。

ははっ、甘いですね零くん。私と電話するのに、暗いテンションなんてさせるわけないじゃないですか。声質から分かりますよ、落ち込んでましたね。だから、調子を戻してあげましょう。

私は態と盛大に溜息を吐いて、寝転がりながら言いました。

「何ですか。私はこれから二度寝するのに忙しいんですけど」

『二度寝で忙しいなんて初めて聞いたぞ……。いや、俺もあまり寝れてないけどさ……』

……寝れてない。やっぱり御守りを見ましたか。でなきゃ、電話なんてしてきませんもんね。……本当、用事がある時にしか電話して来ないですから、全くもう。もう少し、なんでもない時にでも電話してきたらどうですか。

「紙袋の中を見たんですね、有罪です」

『は!?だって、見るか見ないかは自由だって……』

「というわけで、今日一日電話して来ない刑です。おやすみなさい」

『待ってってば!』

零くんの大きな声に、思わず眉を顰めてしまいました。

余裕が無いですね。普段ならこんなの冗談だって分かるじゃないですか。

そんなに追い込んでしまったのでしょうか?追い込んでしまったのでしょうね。私の言葉がなかったら、酷い自己嫌悪に陥ったのは、簡単に想像出来ます。

生真面目なのは零くんの良いところですが、悪いところでもありますよ。

「大声を出さないでください、煩いですよ。零くんも眠いんでしょう?なら、お互いに二度寝しましょうよ。あ、もしかして一緒に寝たいとか思ってますか?変態ですね。私のパジャマ姿とか想像してるんですか?どんなこと期待してるんですか?」

『……いつも通りだな、ヒカリ』

「安心しました?」

貴方の心は、安心しましたか?

『むしろ俺の心が抉られてヤバイ』

……柔い心ですね。柔らか過ぎて抱き締めたくなっちゃいます。フニフニしちゃいますよ。

「ちなみに私のパジャマはお父さんのお古ですよ」

『マジかよ、色々ショックだわ……』

「嘘ですよ?」

本当は白いワンピース型のパジャマです。お母さんの趣味全開です。

『嘘と思えないんですけど』

……いや、私はパジャマにしたいんですけどね。お母さんに全部取られちゃうんですよね。ぷんぷん。どうせなら零くんのお古でも良いんですよ?そんな事言いませんけどね。言われたら変態って言いますけどね。着てあげますけど。特別ですよ。

「では、想像してください。……貴方の柔らかいベッドがあります。その上で、私が貴方のワイシャツだけを着て、肩をはだけさせています。そして、潤んだ瞳で上目遣いをし、座り込んで貴方を見つめています」

『え……。…………』

「変態」

『不可抗力じゃね!?俺の純真弄ばないで!』

零くんは零くんが思っている以上に純真ですからね。だから色々とあるんですよ?本当に、色々と。いい加減自覚して欲しいものです。無理でしょうけど。零くんですし。

「……で、寝ていいですか?」

『いや、あのさ。出来るなら、今日会えないかな』

「おやすみなさい」

『駄目なの!?』

……いい加減寝たいんです。貴方に会うのに、こんなみっともない隈を作ったまま行けるわけないでしょう。

ああ、どうせならファンデーションとかした方が良いのでしょうか。化粧とかしたことないんですけどね。

「……仕方ないですね、夜なら良いですよ。確か、一夏さんが仕事で、箒さんも私のお母さん含めて友人と食事でしょう?晩御飯ついでに、良いですよ」

『本当か?』

「ええ、お父さんと二人きりの時間を奪われるのは遺憾ですが。とても遺憾ですが、でも、仕方ないことです。ただし、妹さんを連れて来てくださいね」

『へ?』

「百花さんも来なければ1人でしょう?可哀想じゃないですか。それに、お話もしたいですし」

……お父さんに近付こうなんて百年早いんですよ、小娘め。

「絶対に連れて来てくださいね。それでは」

通話を切って、ベッドの脇に置きました。後は全力で寝ます。

おやすみなさい。

 

 

零は切れた携帯電話を見つめながら、小さく呟いた。

「……なんか、最後に特大の引鉄を引いた気分」

しかし、ヒカリの反応がいつも通りだったことに安堵すると同時に救われた。

本当に、救われた。

電話した時は、正直なんて話して良いのか分からなかった。大切な話なので電話で言うつもりもなかったが、会話の内容も頭の中では考えていなかった。

しかし、会う約束を取り付けるつもりが変な事になった。

「…………」

……きっと、ヒカリなりの配慮だろう。うん、そう思いたい。

 


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