インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》 作:ひわたり
この話は白とラウラの娘の話となります。
要望にありましたので書かせていただきます。
しかし、原作と全く関係のない上、時が経っているので蛇足と感じる方もいらっしゃると思います。
どうしてもオリジナルキャラも多くなるので、見たくないと思う方はそっ閉じをお願い致します。
ヒカリの日常
朝の日が昇る。
十代半ば程の1人の少女がカーテンを開けて、部屋に日の光を取り込んだ。窓から朝の空気が入り、柔らかい髪が風に揺れ、腰まで伸びた銀色が日に輝く。小柄でありながら女性らしい体付きを持った彼女は、精一杯伸びをして体を解す。
IS学園の制服を身に付けて、気合いを入れるように両手で頰を叩き、外を見上げた。既に美人と言って良い整った顔立ち。白いきめ細かな肌に赤い瞳を煌めかせている。
部屋から出て、階段から降りてきた彼女を、エプロンを着けたラウラが出迎えた。
「おはよう、ヒカリ」
少しだけ身長を伸ばしたラウラ。柔らかく微笑む笑顔に変わりはない。
「おはようございます、お母さん」
彼女、ヒカリ・ボーデヴィッヒは、微笑んで挨拶を返した。そして、庭のある窓へと近付く。
庭に白が立っていた。片方の手をポケットに入れながら、じょうろを使って庭に水を巻いている。
「おはようございます、お父さん」
「おはよう、ヒカリ」
白が振り返って応えた。
すうっと息を吸い、ヒカリが高らかに宣言する。
「お父さん、私はお願いがあるのです!」
ヒカリはビシリと白に手を差し出した。指を差すのではなく、手で相手を示す所から育ちの良さが窺えた。
ふむ、と白は手を顎に添えた後、じょうろを置いてヒカリに近付く。
両脇に手を差し込むと、重さを感じさせない仕草でヒカリを持ち上げた。
「高い高ーい」
「そんなこと望んでませんよ⁉︎」
顔を赤くして抗議する。パタパタと前後に動くが、地面に触れられない足が哀愁を漂わせた。ヒカリの身長は平均より低いくらい。ヒカリはモデル体型を夢見ているが、母親であるラウラを見る限り無理だろうなと、内心諦めている。
それでも、出る所は出ているので、希望はあるぞと、ラウラに励まされた。泣けた。
「次、私がやりたい」
ラウラがひょっこりと顔を出してきた。
「やらせません!それにお母さんの身長だと出来ないでしょう!」
抱えられたままヒカリがラウラに言う。ラウラは左右に首を振った。
「いや、私が高い高いされたい」
「どちらにしろやらせませんよ⁉︎」
「そんなにお父さんから離れたくないのか……」
「ふむ、父親冥利に尽きるな」
「違います!」
少しだけ残念そうにする白の頭をラウラが撫でた。
「いいから降ろしてください。子供じゃないんですから」
「親にとっては、子供はいつまで経っても子供だ」
「なにちょっとだけ良いこと言ってるんですか」
白から手放されたヒカリは身を整えて咳払いをする。改めて仕切ると、白とラウラに向かって言った。
「今日は学年トーナメントですが、来たら駄目ですよ」
全学年トーナメント。
かつて、ラウラが箒と共に出たイベントと似たようなトーナメント。学年別ではなく、全学年で2人を作り、学年全員でトーナメント式に戦う大規模イベントだ。
二人組のペアで行われる大会で、国の重役や企業の人間も訪れる。この時になると、学園の親族や紹介された者も見学が可能となっていた。
「何故だ?」
首を傾げるラウラと白。やはり見に来る気満々だったかと頭を抱える。
「高校生にもなって、親が学園に来るなんて恥ずかしいです」
特に、ラウラと白は見た目が若い。若過ぎる。とても高校生の子を持つ親には見えない。ヒカリからしても、美男美女のカップルにしか思えない程だ。
両親が造られた人間であることをヒカリは知っている。周りには理解者もいるし、自分は大切に育てられてきた。両親が人造人間だったことによって、ヒカリに被害を被ったこともないので、特にそれに関して思う所はなかった。ないが、こうも老けない2人を見ていると、ズルいと最近は思う。
「良いじゃないか、大会くらい。一夏からヒカリは優秀だと聞いてるし」
……一夏先生、余計な事を。今度千冬さんに怒ってもらおう。
「見に来られるとやり難いです」
「周りを気にせず戦う事ができなきゃ一人前になれないぞ」
「私は技術者になるから実力はなくても構いません」
戦闘センスを引き継いでいるのか、ヒカリのISセンスは抜群である。特に気配や勘が敏感だ。学園一の優秀者と言っても過言ではないだろう。また、技術者になりたいと言ってる事もあり、勉学に置いても優秀な成績を収めている。親譲りの容姿も含め才色兼備として学園で有名人だ。
そんな噂を知らず、自分の魅力すら気付かず、常に怠らない姿勢までも親に似ていたりする。
中学では難攻不落の高嶺の花として知られていた。ちなみに、本人は自覚していない。尚、継続中である模様。
「……兎に角、来ないでください」
先程も述べた通り、白とラウラは若く見える。それこそ、大学生や高校生に間違えられる程に。年上ばかりいる場に白達が居れば目立つのは必須であり、当然生徒達の噂になる。両親や一夏先生もいるので、ヒカリの親であることを知られるのは容易に想像出来た。
「目立ちたくないのか?」
ヒカリが視線を逸らす。
……ああ、本当に、この父親は。
本質だけは鋭く突いてくる。
「……そうです。だから、来ないでください」
普段なら、別に両親が来るくらい別に良いのだ。ただ、今は少しヒカリの周りが騒がしい理由がある。故に、遠慮して欲しい気持ちがあった。
本音を言えば、両親が来てくれるのは、ヒカリとしては嬉しい。来て欲しいが、来ないで欲しい。でなければこんな直前で言ったりしない。
「…………」
白が何かを言おうとして、先にラウラが口を開いた。
「それより、もう出なきゃマズイんじゃないか?」
「あ」
気付けば、結構な時間が経っていた。もう出なければ間に合わない。
「いけない!」
ヒカリは鞄を掴むと、慌てて玄関に行く。靴を履いている途中で、ラウラと白もやってきた。白がラウラを肩車しながら。
「何してるんです⁉︎」
思わずツッコミを入れたヒカリに、ラウラが笑顔で答える。
「肩車」
「見れば分かります!」
「高い高いの代わりだ」
「本当にこの夫婦は!もう!怒りますよ、ぷんぷんです!」
両手を振り回して精一杯怒ってますアピールをするヒカリ。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
白とラウラは手を振りながらドアから飛び出て行くヒカリを見送った。
「……ふむ。どう思う?」
ラウラは白の頭を抱くようにしながら、口だけは真剣に問う。
「行こう」
白に迷いはない。
「本当は来て欲しいけど、何かしら理由があるみたいだな」
「なら、行かない方が良いんじゃないか?」
「俺達が行かなかったら、逆に後悔するぞ、アイツ」
「そうだな。私も同意だ」
この両親に隠し事など出来ないし、騙す事も出来ない。子供のことを、ヒカリのことを、白とラウラはよく理解していた。何より……。
「……で、言い訳はどうする?」
「実は、ヒカリに弁当を渡すのを忘れてな」
「そうか、なら学園に行かなきゃな。序でに大会も見る事にしよう」
「そうだな、仕方ない。序でにな」
この2人は、1枚どころか何枚も上手なのだ。
ヒカリは学園に到着した。
多くの学生と共に玄関へと歩いて行く。実の所、時間的にはとても余裕だった。ただ、図書館に本を返したいが為、早く来たかったのだ。序でに他の本を借りたいので、それを考えるとギリギリなのである。
……でも、これなら大丈夫そうですね。
時間に間に合ったことに少し浮き足立ち、心の何処かでは両親に大会に来ないよう断ったことを後悔しながら、玄関へ入ろうとした。
「ヒカリー!」
そこに、学園に入って以来の悩みの種がやってきた。
「……はぁ」
思わず溜息を吐きながら、ヒカリはこの後の出来事を簡単に予想した。取り敢えず、図書館は諦めるしかなくなったようだ。
振り返れば、案の定、彼の姿が目に入る。必死に何かから逃げているようで、全力疾走していた。
黒い髪に精悍な顔立ち。女性なら思わず見とれてしまいそうな格好良さ。頼もしそうな体と、彼の持つ独特の優しい雰囲気が魅力として溢れ出ている。
そんな彼に対し、ヒカリは冷めた目で彼を見ていた。
「今度は何をして」
「悪い!一緒に来てくれ!」
何をしているのかと聞こうとした瞬間、手を取られて一緒に走らされる。
「待ちなさーい!」
「ああ!またボーデヴィッヒさんと!」
「こらー!」
何人かの女性の怒鳴り声が聞こえたが、ヒカリは敢えて振り返らなかった。
人目につかぬ校舎の影へ来ると、やっと男が止まる。ヒカリは男の手を振りほどき、とても良い笑顔で言い放った。
「それで、何のご用事ですか?織斑零先輩」
男子生徒、織斑零は走った汗とは別の冷や汗を流した。
「お、怒ってる?」
「何の、ご用事ですか?」
……人様の用事を潰してくれやがりまして。
「ひぃっ!ごめん!」
頭を下げる零。
一夏教師を除き、学園で唯一の男子生徒。
今の悩みの最大の種であり、そんな幼馴染の情けない姿を見て、ヒカリは盛大な溜息を吐いた。