インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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Lost Xmas Ⅳ

白を襲ったのは高圧力の電撃だった。

連絡用に持っていた通信機器は全て破壊され、白自身もダメージを負う。漂う海の中、強力過ぎる電気ショックは白の心臓停止まで追い込んだ。

「…………」

海の中へ入ってくる2機の全身装甲IS。

白に動きがないのを確認して、警戒をしながら、コードを辿って彼に近付いていく。

ISは宇宙でも活動出来る。つまり、海の中でも呼吸が可能である。深海へ行かない限りは宇宙よりも安全が保障されている。

海流に流されないよう注意しながら、白へと近付いて行き

「……!」

白の瞳が2機を捉えた。

「馬鹿な!?」

驚きに声を上げる。

声を上げるということは、そこに隙があるということ。

場所は海の中。水圧により動きは鈍くなる。それは神化人間の身体であろうとも変わらない。水という固まりを使い衝撃を操ることは出来るが、それも抑えられる。

……だが。

「!」

一瞬の無音。

間が去った瞬間、白を中心に波が騒ぎ出す。海面が爆発したように飛び上がり、巨大な生き物のように水がうねる。

白の四肢を縛っていたコードは跡形もなく引き裂かれた。

何が起こったのか、波に流されないように耐えているIS達には理解出来ない。

白の片目が赤ではなく、白く染まっているのに気付くことはない。

白が行ったのは自身のリミッターを外すこと。己の肉体の限界を引き出す作業。だが、白はこの力を完全に操れない。

故に、白は半分だけ解放した。

「…………」

……この戦闘、実験とさせて貰うぞ。

白の心臓は既に完全に起動している。

かつて、白は二重人格が目覚めそうになっていた時、己の意思で心臓を止めていた。自分の心臓に衝撃を与えることで心肺を停止させ、二重人格が出る前に意識を失わせていた。

既に体は心臓が止まったぐらいでは死と直結しない。二重人格の引き鉄は死と感情。

いくら心臓を止めても、動き出すのは分かっていた。故に、死とは繋がらなかった。

「…………」

そしてこの電撃もまた、彼にとって、死とは繋がらない。

いくら鼓動を止めようとも、この肉体は動き出す。

白を殺したければ体を完全に破壊するか、大量の血液を抜き出すか。或いは、心臓を壊すか。

亡国機業も白を殺そうとはしていない。動けなくした後に蘇生技術を施すつもりであった。

だが、彼は動き出した。

「……化け物め」

白が水を蹴り、衝撃を前方へと向ける。海の中で速度は制限されるが、軌道の切り替えが早くなる。

白の攻撃を防ぎながら反撃するが、紙一重で躱される。

2機のISは仕込んでいた機雷を展開し爆発させる。白は爆発により跳んだ破片を器用に足場代わりにしながら、海を蹴り続けて距離を開ける。

「……このまま海中で時間を稼ごう。いくら奴でも息が出来なければ動けなくなる筈だ」

「了解」

ISは距離を保ち続けながらも白を海上へと出さないよう立ち回る。白も魚雷や機雷を避けつつ、彼女らの目的は気付いていた。

「…………」

……俺を海から出さないつもりか。当然の選択だな。

そして、最初に俺を捉えようとしていたことから、やはり俺が目的だったようだ。

双剣を構え直し、異なる双眸で敵を睨み付ける。

……さて、海中での戦闘。空気は無い。そして、リミッター半分解除の状態。

果たして、どこまで戦えるか。

「あの男……」

自らの状況をまるで他人事のように冷静に判断し、その上で何も無いように戦う姿勢を取っている。

……まるで、命などないかのように。

「油断するな」

「ええ」

この時点では白が海面に出来るか出ないかの勝負。

そして、白を逃せば、事実上、亡国機業の敗北が決定する。

 

 

 

『こちらデルタ1。最終目標と交戦中』

「交戦中……!?本気で言ってるのか!?」

連絡の入ったスコールは驚愕に目を見開く。

地面に線を描くようにレールガンが放たれる。それを反転して避けつつ撃ち返した。

「チッ」

……あの男が目に付けていたから只者ではないと思ったが、あまりにも異常過ぎる。

まさか自力で蘇生する上に、海中まで戦えるなどとは思いもしていない。

「見誤ったか……!」

スコールは軌道を変えて、地表で戦っている部隊の方へと向かう。見方がいる方向へと攻撃を打てないラウラ達はレールガンをしまい接近戦に移行するべく近付いていく。

「奴は明らかに時間稼ぎをしている」

「2発目を狙ってるのでしょう」

アンネイムドとクラルの2名は衛星兵器の時間だと思っているが、ラウラは亡国機業の目的が白だと知っている。

それを伝えるべきかどうか判断に悩んだ。

それはドイツ軍の切り札を知られたくないからか。白の異常性を見られたくないからか。

それとも、私は……。

「ボーデヴィッヒ。ミューゼルだけでなく、亡国機業共は見つけ次第拘束していくぞ。こうなれば奴らの情報を少しでも得る」

アンネイムドの声に我に返り、少しだけ掠れた声で小さく返事をした。

地上は亡国機業のISと部隊のISが戦闘を行っている。そこにスコールの姿はなく、紛れ込んで隠れていると思われた。

「……どこでしょう」

「サファイア、お前は地上部隊の援護を頼む。ラウラは遊撃を行いながら奴を探せ。私は捜索を中心に行動する」

「了解」

「了解です」

3人はそれぞれの方向へ別れた。

ラウラは地表スレスレを飛びながら岩陰の間と雪を縫うように敵のISへと接近し、裏から一気に距離を詰める。

「なっ!」

敵が振り返った瞬間AICを起動。

動けなくなった敵を、ラウラがほのまま突っ込み、前方から汎用機を纏ったドイツの隊員が同時に特攻する。

挟むように剣の突きを突き刺し、そのまま絶対防御を削り続け、最終的に相手の意識を奪うことに成功した。

「任せるぞ」

「はい」

敵を隊員に任せ、ラウラは再び飛んだ。今の自分ができることを、精一杯全うする為に。

 

 

 

クラリッサは苦戦を強いられていた。

衛星兵器を守っているだけのことはあり、敵の部隊は思いの外強い。他の部隊は敵に苦戦しており、結果的にクラリッサは個人で戦っている状況となっていた。

だが、クラリッサと相対しているのも1人のみ。

Mと呼ばれる少女。

「…………ふっ!」

クラリッサは起動を変えつつ、衛星兵器に迫るルートを考えながら、それを邪魔するMに剣を突き出す。

攻撃が当たる瞬間、一瞬だけMの姿がブレて見えた。

次の瞬間には自分に攻撃が帰ってきている。何とかそれを受け止めながらも、後退させられて衛星兵器に近付くことが出来ない。

「…………」

……やはりこいつ、微細だが、瞬間移動をしている?

ISには瞬時加速度などはあるが、それはあくまで速度を極限まで上げたものだ。場所から場所へ空間移動する技術などない。

だが、クラリッサの勘が正しければほんの僅かに自分の位置を移動させて、こちらの誘導を誘っているように思えた。

「…………」

何にせよ、相手は未知の敵。

あり得ないということは考えない。

そういう手段があってもおかしくはないと考える。

……白さんほど、未知なわけでもないしね。

自分で思っておきながら、少し笑えた。彼には失礼な話だが、多くの者が納得する考えだろう。

「……?」

一方で、クラリッサが笑ったのを不審に思うM。

この状況で余裕が見えるのは、敵対している自分としては好ましくない。現状でMが優っているように見えるが、決してそんなことはない。剥き出しの衛星兵器を守りながらの戦いは神経を削る。銃弾一発でも当たれば、それは敗北となる。

「…………」

クラリッサが顔を上げ、巨大な2丁レールガンを手にした。

それを見たMは口の中で舌打ちをする。遠距離攻撃にのみ集中されてしまえば一方的に攻撃されるだけだ。

「派手に行くわよ」

「慎ましくしろよ」

巨大なシールドを手にしたMがクラリッサへと突っ込み、クラリッサは引き金を絞って太い光の線を宇宙へ放った。

シールドを2枚手にしたMはレールガンを掻き分けるように進み、足から刃を展開させる。クラリッサは銃底でそれを受け止め、レールガンをそのまま鈍器のように振るった。

捉えたと思えた攻撃は瞬間的に回避され、反撃に転じられる。避けられるであろうと予測は着いていたクラリッサ。目の前にシールドを展開し、攻撃を抑える。

互いに周囲に武器を展開しながらの超接近戦が行われた。

剣を交え、弾き、爆発物を用いてはヒットアンドアウェイを繰り返す。

一瞬でも隙があれば衛星兵器を狙いたいが、Mの空間移動がそれを許しはしない。

Mは衛星兵器を守る為にエネルギーを削られ、クラリッサは空間移動に完全に対応出来ずダメージを受ける。

宇宙空間という、ただでさえエネルギーが削られる場所。

どちらが先にエネルギーが尽きるか。

一歩も譲らない戦いは互いの骨身を削る戦闘となった。

 


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