インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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全然終わらなかったので、もう少しお付き合い下さい……。


Lost Xmas Ⅲ

風を切る音と共に閃光が走る。

積もった雪が吹き飛び、吹雪の中に暴風と土煙が舞い上がった。

「チィッ」

煙の中からISを纏ったアンネイムドが飛び出す。追撃してきたアリーシャ、もとい、スコール・ミューゼルを剣で受け止める。

「貴様、スコール・ミューゼルだな」

「だとしたら?」

「一応聞いておくが、本物のアリーシャ・ジョセフターフはどうした」

「さあね。今頃、IS実験の所為で病院じゃないかしら?」

そうか、と短く呟く。もう、余計な会話は必要ない。

「貴様を捉える」

「やってみな」

煙を突き破り、新たな影が飛び出す。

剣を構えたクラルが、空に線を描くように切り裂いた。同時にアンネイムドも高速の突きを繰り出す。

スコールは直前で体を反転させ、わざと剣同士を激突させた。

剣が弾かれ、3つの翼が空を舞った。

 

 

「……どうやら当たっていたようだが、先手は打ち損なったな」

「仕方ない」

白は吹き飛んだ瓦礫をそのまま足場とし跳躍。低空飛行をして離れた場所へと着地する。ラウラは武器を展開しつつ白について行き、彼の真横へと降り立つ。

「しかし、アレは何だ?」

見上げた空は分厚い雲に覆われていたが、その一部がポッカリと穴が開いている。先程の光源はそこから通ってきたという推理は想像に難くない。

「衛星兵器。通りで晴れを待ってたわけだ」

ある程度の場所は把握できても、雲に覆われていては細かい調整や出力が出来ない。

バレたと判断したスコールが直前で発射したのだろう。

しかし、調整が効かない攻撃だ。スコールも牽制になれば良いとわざと外れた場所に大きい出力で放ったに違いない。直撃でなければISで耐え得ることが出来る。

「…………」

「白、アレが当たれば」

「ああ」

……神化人間でも死ぬだろう。

白は直接は言わなかったが、そのことをラウラは重々理解出来た。

「2発目が来ない。連続での発射は無理なようだ」

「クラリッサ。聴こえるか?」

『はい、隊長』

ラウラが無線で連絡を取る。

「損害状況は?」

『軽微です。活動に支障はありません』

「敵は姿を見せたが数が分からん。私は他の隊長と共に敵を叩いて、他を対応しながら行動する。クラリッサは宇宙へ行き、兵器を停止、或いは破壊しろ」

『任務了解』

『隊長。データの解析が完了しました。送信します』

情報部隊から送られてきたのはスコール・ミューゼルの情報と衛星兵器の情報。

「ラウラ、お前はクラリッサと共に宇宙へ行け。俺がやる」

白の進言に

「断る」

ラウラは淡々と拒否した。

「何?」

ラウラは情報を頭に叩き込みながら白に振り返らずに続ける。

「白の異常性を他の者に見られるわけにはいかない。だから、白は部隊と合流して活動してくれ」

「この状況で俺の異常性に拘ってる場合か。勝利を優先しろ」

「他の軍隊にお前の異常性を認知されるということは、何にも代え難い損失だと判断した。それだけだ」

「…………」

……嘘ではないのだろうが、言い訳も込められている。

しかし、ラウラは折れないだろうし、これ以上時間をかけるわけにもいかない。

「……分かった。お前はアンネイムド達と合流してスコールを叩け」

「言われずとも」

ラウラは飛び立つ姿勢に入り

「……ちゃんと、部隊と合流してくれよ」

その一言だけを残して、高速で戦いの中心へと飛んで行った。

「……状況によるな」

何とも卑怯な返答だと自覚しながらも、ポツリと返す。

あそこで不安というか、優しさを見せてしまう所が、軍人のラウラとして弱い部分であろう。

或いは、一人の少女としての願いなのか。

白は考えを放棄し、部隊と合流する為に跳躍した。

 

 

 

アンネイムドの体に衝撃が走る。

咄嗟にシールドで受けた箇所にエネルギーの残滓が儚く消えた。

「……レールガンか」

吹雪が強い中では銃弾は役に立たない。視界も悪いので銃の使用も好ましくはないだろう。

その為、真っ直ぐな軌道のレールガンか接近戦の勝負となる。

「参戦する」

ラウラが横を通り過ぎてスコールへと向かう。スコールは距離を離しながらレールガンを撃ち続ける。

既に地上でも騒ぎが起きており、戦場は火を吹いていた。

イタリア軍に紛れ込んでいた亡国機業の人間が暴れている。この作戦の中で上の立場にいた者、ほぼ全員が亡国機業側だったこともあり、イタリア軍は混乱の中にいた。他の軍隊は衛星兵器に注意しながらも行動を開始する。

地上、空、そして宇宙へと戦火が広がっていた。

分厚い雲が風で流されて穴の空いた箇所が動いていく。

その遠い上の宇宙。

暗闇と点のような星々が支配する世界。

その闇の中に、異質な機械達がいた。

顔と姿を見られないよう、全身装甲を身に付けた数人の人型。それらが衛星兵器の第二波の準備を進めていた。

『M、目的は兎だ。海は撃つな』

「分かっている」

Mと呼ばれた少女は、スコールからの通信に淡々と返事をしながら、地球から上がってくるIS達を確認する。

「……軍人達か」

Mが軍人達を見つけたということは、軍人達もM達を発見したということ。

軍人の中の一人、ドイツ軍副隊長クラリッサ・ハルフォーフ。

地上から上がったクラリッサは衛星兵器を視認し、通信隊へ連絡を入れた。

「ポイントF-D2に衛星兵器を確認。衛生兵器1、IS4機」

『了解。他部隊は?』

「こちらは6機」

『他部隊は連携を取れます。副隊長は衛生兵器に集中して下さい』

「任務了解」

クラリッサは螺旋を描きながら敵の銃弾をかわし、問題の兵器へと急接近した。

ISは当初、宇宙へのパワードスーツとして発表されていた。軍隊に支給されているISならば、宇宙へ行く出力は持っている。

しかし、肝心なのは、宇宙で戦闘を行うという行為そのものだ。

宇宙は空気がない上に、太陽の放射線も浴びる。それらの救命措置としてISの機能が発揮される。最終的には絶対防御が発動されるが、大気圏突破も考慮しなければならない。

つまり、宇宙での戦闘は地上よりも遥かに危険を増す。

「隊長が敵リーダーを捕まえるのが早いか、私が先か」

隊長に接触してきたスコール・ミューゼル。現時点で彼女が敵のリーダーと思われる。彼女を捉えれば、それで終わる筈。

「どちらにしろ、アレをこれ以上撃たせはしない」

クラリッサの視界の端から何かが動く。反射的に防御を取った。

金属同士のぶつかり合いを肌で感じながら、攻撃してきた機体を睨みつけた。

クラリッサは知らないが、Mと呼ばれた少女もまた、全身装甲の仮面の下でクラリッサを睨みつけている。

宇宙空間の中、音のない戦いが始まった。

 

 

 

「隊長、副隊長、A部隊戦闘に入りました」

通信隊が各ISのカメラと同時中継を行いながら連絡と状況、相手の戦力や兵器を捜索していく。

「……?補佐官の軌道が変わりました」

合流すべく動いていた白の反応が急激な変更を見せる。点滅していたレーダーの動きを追うと、海の方へと流れていくのが把握出来た。

「補佐官と連絡を」

「補佐官の反応ロスト!通信機器を破壊されたと思われます!」

通信隊に衝撃が走った。

 

 

 

 

白は部隊と合流すべく移動していた。

出来るだけ目立たないよう、雪の白さに紛れながら低空飛行で跳躍を繰り返す。始まった戦闘音を耳にしながら駆け続けた。

ある地点に足をついた瞬間、それが動き出した。

「!」

無数のコードが下の雪から這い出て足に絡みつく。

白は反射的に斬り裂こうと双剣を出現させるが、更に多くのコードが雪から出てきて四肢を奪う。

猶予なく白の体を海の中へと引き摺り込むように動き、白は地面へと接地することは叶わず、そのまま海中へと飲み込まれた。

「…………っ」

海へと入ったと同時に、高出力の電気が海を走る。

青白い光が海面にまで迸った。

 

 

白の反応が消えた。

その情報を受け取ったラウラは一瞬硬直した。

一瞬だけだった。

レールガンを避け、スコールに向かう。途中、別方向からのレールガンを避けて軌道を変えながらも剣撃とクローを繰り返し放つ。

3体のISと対峙しているスコールが止まることは、まずない。故に、縦横無尽に駆け回る空の戦闘は高速戦闘であり、ヒットアンドアウェイが主体となる。

「…………」

ラウラは考える。

軌道を変える一瞬の中、どうするかを考える。

……白は海の中。

当然、海も大シケだ。

ISに推進力はあるが、海の中では抵抗も大きくなる。

その中、白を探せるか。

今なら消えた場所を中心に探せば見つかるかもしれない。

「ボーデヴィッヒ!」

クラルの叫びと同時にスコールの剣が振り下ろされる。

ラウラはその攻撃を受けた。

「……!」

爪の刃で、攻撃を受け止めていた。

動きの効く爪はスコールの剣を絡み取る。

……一瞬隙があったように見えたが、見誤ったか。

瞬間的にラウラの剣が線を描き、スコールは武器を手放すことで紙一重で避ける。

その時、ラウラの金色の目が自身を写しているのを見た。

「……サッサと終わらせる」

眼の力を解放したラウラが、動く。

危険を感じたスコールは新たな剣を出現させて背後に滑空した。ラウラはその動きにピッタリとついていき、幾度と無く刃を交わす。フェイントや急旋回も入れていくが、即座に対応されて彼女を離せない。

ラウラの眼の力の情報はない。正確には、力そのものの情報は持っていたが、実際に使用したことがない為にその効果を知る事は出来なかったのだ。

「……チッ」

だが、これ程の動きや見切り。それを実行できるほどの能力があるとは思いもしなかった。

ラウラは白の動きを直接見てきた。

かつての両眼は、昔の白の海の戦闘を一通り見ている。そして、それ以降も千冬から鍛錬されてきた。

ラウラが吸収してきたのは白の動きと千冬の動き。2人分の力をその身に学んできた。

実戦経験は少なくとも、力を解放したラウラが実力で後手に回る筈がない。

「……!」

ラウラの攻撃が頬を掠める。

同時に、アンネイムドとクラルが背後から挟み込むように仕掛けていた。

「……ッ」

スコールは攻撃が当たる瞬間、周囲に閃光弾を大量に展開。

白い爆発が4人を包み込んだ。


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