インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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Lost Xmas Ⅱ

吹雪の中、白はフードを目深に被り、悪い視界の中で海の方角をジッと眺めていた。

「今日も冷えるな」

不意に声を掛けられる。雪のカーテンの向こう、米軍隊長であるアンネイムドが姿を見せた。

「ここはドイツ軍の管轄ですよ」

「なに、少しだけだ。話がしたいと思ってな」

何を聞きたいのだと、目線だけで問う。

「実は、貴方に相談したいことがあるんだ」

そう言って、彼女は薄く笑った。

 

 

 

ドアを開け、ラウラが部屋へと入ってくる。

アリーシャとクラルは既に部屋で待機しており、珈琲を飲みながら他の2人を待っていた。

「すまない。直前まで連絡を受けていたので遅れた」

「いえ、構いません。珈琲をどうぞ」

「ありがとうございます」

クラルの用意してくれた珈琲をラウラが礼を言って受け取る。アリーシャは貰った珈琲で手を温めながら窓の外を見た。

「今日もひどい吹雪サ。今日も暇に違いない」

「あら、油断大敵ですよ。いつ来るとも分からないのに」

「でも、こんな日に仕事はしたくないサ」

「それは同感ね」

二人の会話を耳に入れつつ、ラウラも外を眺める。吹雪の向こう、数メートル先の光景も見えなかった。

「……サファイアさん。昨日、私くらいの歳の子供がいると言っていたが」

「ええ、写真見る?」

子供の話を振ると、目を輝かせて携帯を取り出そうとする。ラウラは結構だと頭を振って拒絶した。余波を食らったアリーシャが無理矢理携帯の画像を見せられる。

あー可愛い可愛いと、割とぞんざいに扱っていたが、それでもクラルは嬉しそうに微笑んでいた。

「…………」

……あの顔は、母親にしか出来ない微笑みだな。

「それで、娘がどうかしたの?」

クラルの質問にハッと我に帰る。

「ああ、いや。子供がいるのに、よくこんな危険な任務に参加したと思ってな」

「軍人だもの。拒否権はないわ」

それに、と続ける。

「あの子も大きくなったのだし、覚悟はしているでしょう」

人が死ぬ覚悟。

身近な者が死ぬ。

その危険は一般人でもある。事故や災害など、命が失われる場面は幾らでもある。

なら、常に人は死を覚悟していなければならないのだろうか。

常に、自分や他人の死を見つめなければならないのだろうか。

「…………」

ラウラの脳裏に浮かぶのは白い背中。

生も死も、理由なく動く人形のような彼。

……私には、覚悟があるのだろうか。

「あー、何か辛気臭い。良いじゃない。戦いがあれば人は死ぬ。それだけサ」

「シンプルだな」

「私はずっと戦って生きてきた人間だから」

口の端だけを上げて笑うアリーシャ。どこかサッパリした性格を、少しだけ羨ましくも思えた。

「すまん、遅れた」

ドアが開かれてアンネイムドが顔を出す。

「遅い……ぞ?」

アリーシャの言葉尻が、後ろについてきた人影を見て上がる。

フードを目深に被った人物。顔は下半分しか見えないが、それがドイツ軍の男であることは雰囲気からも把握できた。

ラウラでなくとも、彼が白であることは分かった。

「……どうした?何か問題でも起きたか?」

「いや、問題ない。お前にも問題はなさそうだな」

「ないぞ。しかし、なら何故ここへ来た?」

「私が連れてきたんだ」

ラウラの質問に答えたのは白ではなく、アンネイムドだった。ラウラは返答したアンネイムドへと視線を向ける。

「何故、彼を?」

「いや、ちょっとしたゲームをやろうと思ってな。彼は審判役だ」

アンネイムドが椅子へ座り、白がトランプを取り出す。フードの下から瞳を覗かせて、全員を一度見る

「休憩ついでですので、少しの時間だけですよ」

「ああ、そんな長い時間をかけるつもりはない」

白がトランプを切り始める。

唐突に始まったゲームに皆が困惑の表情を浮かべた。

「会議するんじゃないのか?」

「話す内容もあるまい。皆も責任のある立場で窮屈だろう。息抜きがてらゲームでもしよう」

特に反対する理由もないので、そのまま事が進む。

「ま、暇潰しには良いけどサ。ところで、君の名前はなんだい?」

白の代わりにラウラが答えようとして、アンネイムドがそれを止めた。

「ああ、いや、これからやるゲームなんだが、勝者が敗者に一つ質問してそれに答えるというルールを設けたいんだ。その方がゲーム性が出るだろう?だから、彼の名前も、これからの質問も、聞きたいなら勝つということでどうだ?」

「面白そうですが、軍事機密に関わることは話せませんよ?」

クラルの言葉にアンネイムドが頷く。

「もちろんだ。そこは質問者も解答者も配慮しよう」

「まあ、それでしたら……。ところで、何の勝負をするんですか?」

「ポーカーだ。ルールは分かるだろ?」

ポーカーとは5枚の手札から役を作るゲーム。

役が弱かったり揃わなければゲームを降りることもできるし、自分の手札が強いと思えば勝負に出ることもできる、本来は心理戦を含まれるゲームだ。

「私は問題ないサ」

「ええ、大丈夫です。でも、チップはどうします?」

「軽いゲームだから、無くても良いだろう。チップの代わりが質問と返答だ」

皆が頷く中、ラウラが白に視線を向けた。白はラウラへと目は向けず、トランプを配り始めた。

ただ一言だけ、ラウラは白に問い掛ける。

「良いのか?」

それに対し、白も一言だけ返した。

「大丈夫だ」

「……そうか」

ラウラは綺麗に置かれたトランプを手に取り、一瞬だけ目を細めた。

「ボーデヴィッヒ、ポーカーなんだ。顔に出すなよ」

「おや、失礼」

ラウラが背筋を正す。

クラルは手札を取り、一度自分に揃ってるカードを確認した後、ゲームの外にある疑問を口にした。

「ところで、ゲーム前提の話だけれど、何で審判役に彼を連れてきたの?」

「昨日話題に出たてたからな。興味本位さ」

「なるほどね。……ドイツ贔屓にしないでよ?」

「俺は配る役だけです」

クラルは意地悪そうな笑みを浮かべるが、白は素っ気ない反応で返す。クラルの顔が少しだけ引き攣った。

「あー、まあ、彼はこんな感じだから気にしないでくれ」

ラウラが微妙なフォローをしつつ、手元のカードから1枚抜き取り、そのまま白へと渡した。

「1枚ドローだ」

「随分と無愛想な男君だねぇ。3枚ドローお願い」

アリーシャがラウラと同じ様に手元のカードを白へ渡し、その分だけカードを配った。他の人間が2人の顔を見るが、軍人ということもあり、その表情から読める情報はない。

「他は?」

「2枚交換お願い」

「私はこのままで良い」

其々の手札が揃ったのでコールに移る。

「私は降りる」

ラウラがカードを伏せた。

「私も降りましょう」

クラルも小さく微笑みカードを伏せた。

「私はコール」

「コール」

アリーシャはツーペア。

アンネイムドもツーペアだった。

「同点の場合はどうするサ?」

「2人とも質問で、降りた2人が答えるで良いんじゃないか?」

ラウラの返答に、そうだなとアンネイムドが同意した。ニヘッとアリーシャが笑う。

「なら、さっきの質問。君の名前は?」

質問に、白は単調に、ただ一言告げた。

「白」

続く言葉はない。

一瞬だけ空いた間に、アリーシャは目を瞬かせて首を傾げた。

「……え、それが名前?」

「ああ」

「色々事情があるんだ、白がこいつの名前だ。それは私が保障しよう」

会話を続けない白に対し、ラウラが肩を竦めて見せる。

既にこの時から、この場にいる全員が白の人となりを理解し始めていた。

「では、私の質問だな。じゃあ、サファイア。これは本音で話してもらってもいいし、嘘をついてもらっても構わない」

そう前置きしてから質問を口にする。

「この作戦、成功すると思うか?」

「それはまた……突っ込んだ質問ね」

クラルは苦笑いを浮かべた。

「軍人としての答えはやり切る。個人としては、成功すれば良いと思っている。……もちろん、どちらにせよ犠牲は出るでしょう」

「そうか。……ま、そうだろうな」

「失敗したら目も当てられないわよ、本当に」

白がカードを回収して切り出す。

クラルは1枚チェンジするが、今度も再び降りを宣言した。アンネイムドとアリーシャがツーペアで、ラウラがストレートで勝ちとなる。

「私か。……なら、アリーシャ。個人の答えで良いが、本当に篠ノ之束は来ると思うか?」

アリーシャは腕を組んで唸り声を上げた後、顔を前に戻して答える。

「うーん、篠ノ之束が実は強いとかいう噂もあるから、戦ってみたいといえば戦ってみたいけど。正直、どっちでもいいかな」

「そうか」

敗者は2人だがどうするかと話し、ラウラに任せるとアンネイムドが答える。

「それじゃあ、アンネイムドだが、名無しなのは軍事機密だからか?答えられなければ良い」

「名前か。これは隠しているわけでもなく、訓練過程で名を忘れてしまっただけだ。文字通り血反吐を吐く思いをしてきた」

アンネイムドの返答にクラルが眉を顰めた。

「それは……。いくら軍人とはいえ、酷すぎない?」

「行き過ぎたものは軍でなくとも、どこにでもあるからな。私の他に名前を忘れている者もいる。言うなら、それら全てがアンネイムドだ」

……だが、私以上の者がいそうだがなと、アンネイムドは心の中で呟いた。

次の勝負ではクラルの一人勝ちとなり、質問に悩む様子を見せる。

「ええと……じゃあ、ボーデヴィッヒさん」

「何だ?」

クラルがにっこりと笑顔を作り、身を乗り出す。

「彼とはどんな関係?」

「?」

ラウラが白を見上げる。白はただトランプの山だけを見ていた。

「……同じ部隊の上司と部下、ですかね」

「そう。なら、軍を抜きにしたら?」

「…………」

何故そんな質問を、ということは聞かない。

ラウラは考えるまでもなく、素直に答えた。

「大切な人です。私は、いつの日か、彼の支えになりたい」

そう、迷いはない。

この想いに嘘偽りはなく、誤魔化すことでもないのだから。

「……そう。ありがとう」

クラルは礼を言って、今度は素直な笑みを浮かべた。それは娘のことを語った時のような、優しい微笑みだった。

「…………」

白が黙ったままカードを切る。

一瞬だけ視線がらへと向けられ、ラウラもまた、白へと一瞬だけ向けられた。

1秒にも満たぬ交差に誰も着目をしたりはしない。更にそこに意味があるなど、想像すらしないだろう。

「……あれ?」

そして、次のカードが配られた時、アリーシャが首を傾げた。

「ねぇ、ジョーカーが入ってるんだけど、ありだったっけ?」

アリーシャがジョーカーをひらりと指で摘んで見せる。

全員が顔を見合わせて、手札を確認した。

「そう、残念ね。揃っていたのだけれど」

「ああ、私もだ」

「私も揃ってたな」

そして、手札を机に広げる。

全員の役が、全てがスリーカードで揃っていた。

それが意味することを、彼女は理解する。

「……アリーシャ・ジョセフターフ」

白が山札から一枚引く。

「いや、亡国機業所属スコール・ミューゼル」

その一枚、ジョーカーを掲げた。

「コールだ」

瞬間、全員がISを身に纏う。

引き金が引かれるその時。

白い光が空から降り注いだ。

 

 

 

 

数分前

 

 

「集まった軍隊の中で、もしスパイがいるのなら、怪しい奴が複数いる。分かるか?」

アンネイムドの問い掛けに、白は横目で彼女を見た。

「俺」

まず、自分を真っ先に候補に上げる。

「今回参戦した米軍全員」

容赦なく面と向かって相手に言い放ち、指を2本立てる。

そして、あと1人。

「アリーシャ・ジョセフターフ」

3本目の指が答えを示した。

「ああ。私の予想と一致していて嬉しい限りだ」

アンネイムドは煙草を取り出し火をつけた。風が強い中で煙が雪に混じって飛んで行く。

「まず、私は私の軍を疑っていない。全員が私の部下であり、異常があれば分かる。それぐらいに機能しているし、異常だとも理解している。もっとも、これは私の主観の話だから、貴方には当て嵌まらないだろう」

「…………」

「そして次に、貴方だ」

煙草で白を指す。白は特に反論もせず、目線だけで続きを促した。

「……怪しくもあるし、実際に会ってみて、雰囲気も質も異質だと感じた。それに、元々男の時点で注目を浴びている。怪しいといっても人間として怪しいだけだ。スパイにしてはおかしすぎる」

スパイと送り込むには、白は目立ち過ぎるのだ。侵入こそ問題はないだろうが、スパイとして敵と共に活動するならば、白は雰囲気も質も注目を浴びてしまう。スパイとは最も不適任な存在だろう。

なかなかに失礼な話だが、白はその通りだと思っているので、やはり何も言わずに受け止める。

「ドイツ軍は少数精鋭部隊の上、ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長はドイツ軍のプロパガンダもあり有名だ。過去の作戦以降は編成もない。故に彼女は信頼出来て、彼女の部下も彼女を通じて信頼出来るとする」

雪を踏む。凹むような感触を足で感じながら、アンネイムドは一歩踏み出した。

「……さて、ここまでで、私は自軍とドイツ軍は味方と考えた」

「……それで?」

「早い話、協力しよう」

煙草を吸い切り、一気に吐き出した。

「恐らく、敵は吹雪が収まるのを待っている。ここまで来たら晴れが狙いだろう。無論、こちらも晴れの方が戦い易いだろうが、待っているということは向こうは晴れの方が勝算が高いと考えているわけだ。ならば、その前に叩きたい」

「拒否したら?」

「通常通りの相手の行動待ちになるだけだ。変わらんよ」

白は1度目を瞑り、少しだけ逡巡した後に開く。

「……話だけでも聞きましょう」

「ありがとう」

……素直な笑みだが、油断を解いていないのは流石というべきか。

白は信用の証としてフードを取る。白髪に赤目と、とても印象の強い色に驚くが、すぐに表情を戻した。

「……それで、協力とは、具体的には」

「その前に、私の……米軍の目的を話そう」

アンネイムドが指を一本立てて話し始める。

「数年前、米軍IS部隊で1人の女性が戦闘中に亡くなった」

「……亡くなったと思われていた、ですか?」

「話が早いな。当時の事件、不鮮明な点が多い。状況から死んだと思われていたが、姿を変えて生きているとの情報が入ってな」

「その情報が偽りの可能性は?」

「もちろんある。が、情報提供者は篠ノ之束だ。死んだ筈のIS操縦者、スコール・ミューゼルが亡国機業で活動していると」

……随分と簡単に情報を提供するじゃないか、アンネイムド。

「そこまで俺に話しても良かったのですか?」

「『確実性を求めるなら彼を利用すると良い』篠ノ之束の言葉だ。彼とは誰を指すのかはわからなかったが、此処で男は貴方しかいない。先ほどの理由と合わせて、少なくとも、貴方が敵の可能性は無い。故に、私は情報を提供した」

だから、他の部隊でもなく、隊長でもなく、白を選択した。

米軍の立場からすれば、恐らくは束に脅されての行動であり、同時に彼らの狙いも含まれていた。選択の余地は無かったに違いない。米軍の狙いはあくまでスコール・ミューゼル。彼女を捕縛することに他ならない。

束からすれば、己の手を煩わせることなく亡国機業の戦力を削ぎたいということなのだろうか。

「…………」

現時点での状態が全て束の狙い通りである。彼女の掌で踊らされている感覚は否めないが、最善策を考えればそれに従うしかない。

「…………篠ノ之束は」

……そこまでして、亡国機業を潰したいのか?

「……まあいいでしょう。互いに利用されている立場であることを仮定して進めます」

「おや、厳しいな」

「100%の信用よりも余程安心出来る対応と思いますが」

「それもそうか」

どこか楽しそうな笑みで頷くアンネイムド。

「……面倒だから、今だけ敬語を外す」

白はそう前置きしてから話を進めた。

「まず、スコール・ミューゼルなる者は姿を変えている。言い換えれば、その人物は姿を変えることに抵抗はなく、どの人物にも変装ができる」

ここで最初の問いに還帰する。

「アリーシャ・ジョセフターフはイタリア軍人ではない。にも関わらずこの作戦に参加してきた」

確かにモンドグロッソの優勝者だ。実力は折り紙付きだろう。しかし、モンドグロッソはあくまでスポーツだ。

千冬のように完全に軍で働くことになったのならば話は別だが、今作戦だけの参加に違和感が生じる。千冬狙いにしても他に方法があるだろう。

ましてや、他国の軍人がいる中での作戦。隊長の会議にも出張ってきた。

「……仮にスコール・ミューゼルがアリーシャ・ジョセフターフを演じていると仮定しよう。ならば、イタリア軍は敵だと思うか?」

「さてな。もちろん人数に関係なく、可能性はあるだろう。だが、もしそうなら叩くまでだ。戦いに変わりはない」

ならば、残る疑問は後一つ。

「ギリシャ軍はどう思う?」

「半々、と言ったところか。クラル・サファイアの裏は取れた。娘もIS学園に通っている。彼女は大丈夫だとは思う」

「…………」

白にとっての一番の懸念は、このアンネイムドが敵であること。嘘の情報を提供していることだ。

しかし、白が素顔を見せた時、アンネイムドは素直な反応を見せた。わざわざ亡国機業の名まで出してきたのだ。もし彼女が亡国機業なら、一度敵対した白の顔ぐらい知っているべきである。

……演技の可能性も否定はできない。が、自分の勘を頼るか。

もし敵だったのなら、それこそ、全てを潰すのみ。

白は覚悟を決めてアンネイムドの目を見た。

「スコール・ミューゼルは鎌にかける。事前情報を打ち合わせしていたと悟られないよう、すぐに行動しよう」

「方法はあるのな?」

その問いに対しての答えに

「トランプ」

アンネイムドは目を点にさせた。

 

 

 

白から方法を聞かず、彼に任せる形でアンネイムドは行動する。

ポーカーをすることは聞いていたが、作戦内容の打ち合わせを悟られないようにする為に何も言われていない。

「…………」

……彼に主導権を握られたことは気に入らないが、軍としては作戦が成功すれば良い。この場で心から信頼し合っているのは彼とラウラ・ボーデヴィッヒだ。なら、彼らに合わせるのが一番の最善策。

「良いのか?」

カードを切る白にラウラが一言だけ問う。

一緒に入ってきたアンネイムドを信用して良いのかと問う。

「大丈夫だ」

だから、白は大丈夫だと返答した。それによって、ラウラの中でアンネイムドは味方の位置に付ける。

白から配られたカード。きっちり並べられたカードを、崩さないように手に取る。

広げて目に入ったのは3枚のクイーンと1枚のキング。そして、ジョーカーが1枚。

クイーンの一つはクローバーであり、キングの記号と一致する。これが白とラウラを位置していて、これが席順であることは想像に難くない。

……ならば、敵は、アリーシャ・ジョセフターフ。

「ボーデヴィッヒ、ポーカーなんだ。顔に出すなよ」

一瞬漏れそうになった殺気をアンネイムドの一言で引っ込める。

「おや、失礼」

そしてこの時、クラルも同じ手札が来ていた。マークこそ違えど、赤いクイーンが2枚に黒のキングとクイーン。問題となるジョーカー。

「…………」

クラルは、まさか、とは思いもしたが、此れだけで判断は出来ない。保留である降りを選択する。

「なるほどね。……ドイツ贔屓にしないでよ?」

「俺は配る役だけです」

言外にある俺の配役に従えという言葉に少しだけ頬を引き攣らせる。

「1枚ドローだ」

ラウラがジョーカーだけを引き抜いて交換する。

つまり、ジョーカーだけが外されて4枚は手元に残った。ラウラから見て、クラルは仲間と考えている。そして、アンネイムドも味方と考えるという返答だった。

後は手札がバレないように降りを選択する。

「この作戦は成功すると思うか?」

アンネイムドからのクラルへの質問。これにより、クラルはこのカードが配られた意味が正しかったと確信する。

「軍人としての答えはやり切る。個人としては、成功すれば良いと思っている。……もちろん、どちらにせよ犠牲は出るでしょう」

「そうか。……ま、そうだろうな」

「失敗したら目も当てられないわよ、本当に」

クラルは協力することを了承。

次に来た同じ手札からジョーカーを交換に出し返事をする。

最後のターン、クラルはラウラに問い掛けた。彼をどう思っているのかと。

ラウラの答えは真っ直ぐなもの。

彼を支えたいのだと、迷いも偽りもない答え。

だから、クラルは作戦に従うことにした。

少なくとも、彼女は信頼に足る相手だと感じ取ったから。

「…………」

そして、白は勝負を切り出す。

異物にジョーカーにを突き付ける。

そして、アンネイムド、ラウラ、クラルは協力する証のスリーカードをコール。

白は己をジョーカーとして提示する。

これは鎌掛けだ。

アリーシャが敵という確信はない。

曖昧な中での作戦。

故にここまでの行いは全てハッタリであり。

 

スコール・ミューゼルが笑ったのは、確信的であった。

 

敵。

その認識の瞬間、全員がISを纏う。

そして同時に、白い光が大地を襲った。

 


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