インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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2章と3章の間に起きた出来事です。
映画みたいな感覚で楽しんで頂ければ幸いです
数話に分けて投稿します。


第2.5章 Lost Xmas
Lost Xmas Ⅰ


小さく息を吐く。

外気に触れ氷の粒となった吐息は、可視化できる白い塊へと変化して大気中へと消えて行った。

後ろには雪が降り積もる陸が広がり、前方には雪を飲み込む大海が広がっている。

黒い空から零れ落ちるように雪が降っていた。突風に合わせて吹き抜ける雪粒の数は多く、遠方の光景を覆い隠してしまう。

その白い雪と同じ髪をした彼は、吹き抜ける風に表情を変えることもなく、ただ静かにそこに立っていた。

「白」

名を呼ばれて振り返る。

唯一の色に反した赤い瞳が、声の主を映し出した。

銀色の髪を風に靡かせて歩み寄る少女。軍服を纏ったラウラだった。

「交代の時間だ」

「俺一人でも良いんだがな」

「そういうわけにもいかんと言っただろう」

ラウラは目だけを動かして左右を確認する。遠く離れた海岸に、雪に紛れてほんの僅かな光が漏れて見えた。

「他国との共同作戦だ。お前の異常性を他の者に見られるわけにはいかない」

「交代の人間の確認などしてもいないだろうに」

「万が一があるかもしないだろ?隊長命令だ、大人しく従え」

「イエス、マム」

共同作戦。各国のIS部隊が此処に集結している。

その為、白は外部に目立たぬよう、普段は身につけない軍服やジャケット、フードを被っていた。無論、下には普段着でもある神化人間の身体能力でも耐えられる白い服を身につけている。

此処はかつて、篠ノ之束捕獲作戦の際、IS部隊が集まった土地である。何故此処で再び作戦が行われているのか。

それは数日前に遡る。

 

 

「IS部隊共同作戦」

軍上層部からの通達に、ドイツのIS部隊シュバルツェ・ハーゼの面々は顔を合わせた。

昔からいたメンバーは古い記憶を思い出し苦虫を潰した顔をする。新しいメンバーは先の事件は聞かされているので、不安や驚愕など様々な表情を見せた。だが、さすが軍人であると言うべきか、それも一瞬ですぐに表情を切り替える。

その光景を、白は無表情に眺めていた。

「現地に集まるのは3日後だ、各自準備をしておけ。白、クラリッサ、後で部屋に来い」

ラウラは作戦通達を終えた後、白とクラリッサを招いて部屋へ通す。

念の為にと全員で盗聴器やカメラなどが仕掛けられていないか確認した後、本題へと入った。

「今回の作戦、どう思う?」

ラウラの率直な質問に、白は感情のない声で淡々と返した。

「任務内容は篠ノ之束の捕獲。前回と同じ。だが、問題はそこじゃない」

何故この作戦が再び出てきたのか。

それは軍に篠ノ之束から直接挑戦状が来たからに他ならない。

『あの時に負けたままじゃ悔しいでしょ?再戦させてあげる』

文章をそのまま受け止めるなら、束が挑発してきているということだ。

あからさまな罠であるが、篠ノ之束の直接関与の機会は少ない。これでもし本物が来るのならば、それは捕らえるチャンスとなる。無論、前回の反省を踏まえての参加だ。万全の体制となることだろう。

「罠ですよね」

クラリッサが同調して頷く。

「罠だが、問題は誰に対しての罠か、ということだ」

ラウラは机を指で叩きながら疑問を口にした。

今回のことが起きたことで、前回の事件は束によって引き起こされたものだという線が濃厚になった。

これはドイツの見解であるが、前回の作戦はISを軍事目的に使う者への報復。或いは、千冬を奪ったドイツ軍に対する攻撃反応であったと予測される。

なら、今回の目的は何か?

仮に同じ理由だと想定する。後者ならば、既に千冬はドイツ軍から離れ、日本のIS学園へと勤務している為、こちらは関係ないとも思える。前者ならば、まだISの使用をやめない国への再度警告とも受け取れる。

「篠ノ之束は他人に興味を持たない」

束に関する共通情報であり、束と一度面識のある白は、それを充分に理解している。

故に

「奴が軍がISを使っているからといって興味を持つとは思えない」

「それなのに、わざわざ多くの国に挑戦状を出してきた……」

クラリッサが腕を組んで脳味噌を働かせる。それよりも早く、白とラウラがパズルを完成に導いていく。

「あの時、所属不明ISは二機存在し、仲違いするような行動をしていた」

「仲間割れ。或いは、単純に敵だった」

「片側が篠ノ之束、片側が別の組織のISだとしたら……」

白とラウラの目が合う。

「この挑戦状は、その組織に向けられたモノ」

二人の結論にクラリッサが目を丸くする。

「私達は餌ですか?」

「餌で済むなら良いだろう。篠ノ之束は直接関与もせず、その組織と俺達をぶつけようとしているのかもしれない」

「意地の悪い話ですね」

「全くだ」

ラウラは長い息を吐いた後、クラリッサに顔を向けて命令を下した。

「クラリッサ。部隊に我々以外は信用するなと伝えろ。全てが敵に成り得る可能性がある」

「了解しました」

クラリッサは敬礼をして部屋を去っていく。

出発まで3日。今から戦力強化など出来はしない。最善の形で用意するだけだ。

クラリッサが離れてから、ラウラがポツリと小さく零す。

「……白。本当の所、予想はついているだろう?」

それに対し、白はなんでもないように、平然と返事をした。

「確信しているわけではない。可能性だけだ」

今回の作戦に部隊全員の参加が命じられている。前回は部隊の半分を残したが、最善を尽くす為に全員の戦力を投下する予定だ。

ここで重要なのは全員という人数ではない。白を投入するという命令が下されたことだ。

神化人間である白はISに対抗できるジョーカーとして存在している。他国はもちろん知るわけもないし、自国の軍でも知っている者は極僅かだ。当然、存在自体も極秘扱いとなっている。

そんな白を、他国の軍がいる場所へと赴かせると言う。

束と一度直接会った人物でもあるし、油断出来ない束相手ならという投入理由も考えられるが、やはり裏を疑わずにはいられない。

軍や政府に何者かの、それこそ束の息が掛かっていないとも限らないからだ。

「本当の『餌』は俺かもしれん」

もしそうならば、誰を、という選択肢は絞られる。

白と敵対した上で彼の異常性を知り、逃げ延びたのはただ一人。

織斑一夏の誘拐犯。

亡国機業。

「…………」

……だが、アレと篠ノ之束に何の関係があるのか。予想が正しいのならば、敵対しているのことは確かなのだが。

「さて、何が釣れるのか」

白の呟きにラウラが立ち上がって白の前に立つ。

「白」

「何だ」

ラウラは白の手をそっと握り、包むように両手を重ねた。

「今度は、必ず守るから」

もうあの時のような、守られるだけの、足を引っ張る無力な存在ではない。

だから、もう二度と。

「お前は隊長だ。部隊と部下の事を思え」

「だからこそ、白の事も思う」

「なら、好きにしろ」

挟まれた手を握り返す事もなく、振り払う事もなく、白はそのままでいた。

 

 

 

 

ラウラのすぐ後にやってきた二人の隊員に見張りを引き継ぎ、白とラウラは肩を並べて仮設基地へと戻る。

「交代するなら、わざわざラウラが呼びに来る必要があったのか?」

「白が素直に言う事を聞くとも思えなかったし、他の者達がお前に強く言えるとも思えないからな」

ラウラの返答に、確かにそうかもしれないと自身で納得した。

入り口の見張りの横を通り、ドアの前で降り積もった雪を払い落とす。

背中の雪を払ってやるとラウラが白の背中を叩き、ラウラの長い髪に付いた雪を白が丁寧に払った。

「お帰りなさい。外は冷えたでしょう。珈琲飲みますか?」

「うん、お願いする」

出迎えた隊員の提案に白はいらないと口に出そうとしたが、その前にラウラが先に答えた。

背中を向けて給湯室へと向かう彼女を見送った後、何故勝手にとラウラを横目で見た。

「寒い中ずっと居たんだ。温かい物を飲んだ方が良い」

「こんな気温くらいでどうにかなる身体じゃない」

「それでも……」

ラウラは白の手に触れる。

酷く冷たい感触が直に手に伝わる。

「温かい物を飲んで、温かい場所へ行こう」

この手より冷たく冷え切った心を温められるように。

少しでも温もりが伝わるように。

ラウラは白の手を引いて、ストーブのある部屋へと進んで行った。

ドアを開けた先には他の隊員達が暖を取っていた。主に部隊がここの部屋で交代や定時連絡を行っている。すぐ隣にトレーラーがあり、通信隊が常時異常や情報を掻き集めていた。

「隊長、補佐官、お帰りなさい」

「やー、流石は隊長。あっさり補佐官を連れ戻しましたな」

そんなに隊員達の言葉に、俺は意固地に見えるかと、白は内心首を傾げた。

「何か飲みますか?」

「いや、頼んだから大丈夫だ。……異常はあったか?」

テレビ画面に映っているトレーラーの中から返事が返ってくる。

『いいえ、いつも通り静かな物です』

束の挑戦状に特別な期間は設けられていない。ただ、来週中のどこかという、とても曖昧な時間指定が行われたのみであった。

千冬がいたのならば、アイツらしいと頭を抱えていたことだろう。

「ずっと吹雪ですし、向こうも動かないんじゃないですかね」

「そんな性格でもないと思うがな」

白はそう言ってみるが、本当に束が動くかどうかは本人のみしか分からない。

他の何かが動くかもしれないと、白が頻繁に単身で見張りを行ってみたものの、特に動きらしい動きもなく空振りに終わっている。

「珈琲お待たせしました」

「ありがとう」

珈琲を受け取った白とラウラは並んで腰を掛ける。自然な動きであった為か、それとももう慣れたのか、誰もそのことにツッコミはしなかった。

「このまま何事もなく終われば良いんですけどね」

「その後、重大な事件が……!」

「発生する予兆もないけどね」

部隊の雰囲気は明るい。

前回の作戦の結果は当然全員が知っているし、死ぬ可能性があるのも分かっている。

それでも、いつも通りでいられることは非常に強い精神だ。

「でも、何もクリスマス時期にやらなくても良いのにね」

今週に入り、間も無くクリスマスとなる。世間はイベント事で浮かれた日を過ごしていた。軍であり仕事故に仕方がないことは理解しているが、歯痒い思いがあるのは否めない。過ごす相手がいたのなら当然のことだろう。

無論、白にそのような人間的な思いがある筈も無く、嘆く隊員達を尻目にいつも通りの無表情で腰を落ち着けていた。

「白さんも隊長も残念ですよね」

話を振られ、白とラウラは顔を見合わせてから同時に首を傾げる。

「残念?」

「何がだ?」

いつもの2人の反応に、クラリッサを筆頭に皆が溜息を吐いた。

「ま、お二人はそうですよねぇ」

呆れる隊員達に、ラウラと白は疑問符を浮かべるばかりだった。

 

 

 

 

翌日。

作戦の実行以前から全く睡眠という行動を行っていない白。

見張りや待機、トレーラーの中へ赴いてデータを確認したりもするが、何一つ問題なく時間は過ぎて行く。

時間が経つほどに危険なのは軍の士気が下がることだ。

見えない相手と常に臨戦態勢で挑む。張り巡らしている神経がいつ弛緩してもおかしくはない。

トレーラーの中、壁に背を預けて危機と隊員を見ている白に、隊員の一人が話し掛ける。

「時間稼ぎですかね」

彼女の質問に白は肩を竦める。

「さてな。奴の性格を考えれば、それこそただの揶揄いとも考えられるがな」

……もっとも、本当にそうなら完全に奴の勝ちだな。

「凄い嫌がらせですね。たった一言で色んな国の軍を動かしているんですから」

「ああ、まったくだな」

モニターを確認していた一人が振り返って問いかける。

「そろそろ会議のお時間ですけど、白さんは参加するのですが?」

「俺は出来るだけ人目につかない方が良いからな。ラウラとハルフォーフに任せるさ」

 

 

 

少し離れたテントの中。

小さな机を簡易椅子で囲み、それぞれの国の隊長と副隊長が揃って座っていた。

「かれこれ4日目だ。吹雪続きだが向こうに動きはない。各隊、異常はあるか?」

アメリカ国の隊長の言葉に各々が返事を返す。

「こちらは特に異常なし」

「こちらもよ」

「右に同じサ」

「此方も問題ない」

今作戦のアメリカ隊の隊長、アンネイムドが息を吐く。

「……前もこんなものだったのか?」

前回、アメリカはこの作戦に参加はしていなかったが、今回参加するとの手を挙げたのだ。逆に、前回の痛手を負った為に参加していない国もある。

今ここに揃っているのは、全部で4つの国。

アメリカ、アンネイムド。

イタリア、アリーシャ・ジョセフターフ。

ギリシャ、クラル・サファイア

ドイツ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

「前の作戦はほぼ全滅で記録しか残されていない。前情報と同じデータならあるけど」

ラウラはそう言ってデータチップをアンネイムドの隊長へ掲げて見せる。

「いや、事前の情報と同じなら必要ない。結構だ、ボーデヴィッヒ中佐。そもそも奴を測るというのが土台無理な話なのに変わりはないからな」

「でも、その若さでISの隊長なんてねぇ」

クラルの発言にクラリッサが何か言おうとしたが、ラウラがやんわりと手で抑えた。

「不服か?」

「不服ではないわ。他国の軍にそんなこと言える訳もないし。ただ、娘が貴方と変わらない歳だから、少し思う所があっただけよ。ごめんなさいね」

「いえ……」

ラウラが返事を返そうとした所で、アリーシャが横から入ってきた。

「それより、貴方ドイツ軍よね?千冬は来てるのかしら?」

「織斑教官は既に元教官だ。軍を辞めて日本に帰ったぞ」

「えー!私何の為にここに来たのサ!」

……本当に何をしに来たんだ。

ラウラはそう言いたくなったが、他の二人も同じような顔をしていたのを見て、口に出すことはしなかった。

「……そもそも、貴方はイタリア部隊の特別員であって、今作戦の隊長ではないだろう。何故この会議にいる」

アリーシャ・ジョセフターフ。

かつてのモンドグロッソで優勝に輝いた人物である。もっとも、優勝したその大会が織斑一夏誘拐事件の時であったが為、千冬との決着はついていないし本人もそれを公言している。

以来、千冬との再戦を望んでいるようだが、千冬は乗り気ではないようだ。

今回の作戦もアリーシャの腕を買われた特別参加であったが、彼女の目論見としてはドイツ軍にいた千冬が来るかもしれないと踏んでのことだったようだ。

「遊んでたら、隊長にそんなに暇ならお前が会議に行けって怒鳴られたのサ」

何ともいい加減だと思ったが、実際この会議で何かが決まるかと言えば、何も決まることはない。

異常事態がないことは目に見えて分かっているし、代わりを寄越すということは、特に変わったことも起っていないのだろう。他の国で何か情報があればアリーシャが持って帰って来れば良い。

それでも、いい加減だという感情がなくなるわけではないのだが。

「……そういえば、ドイツ軍はIS部隊にしては珍しく男が居たようだな」

アリーシャの特別参加の繋がりで、男性がいた事を思い出すアンネイムド。

「……ああ、いるぞ」

ラウラは内心、遂にこの質問が来たかと思いつつも、それを顔に出す事なく普通に答えた。

「まあ、当然ISが動かせるわけでもないが、能力が高いからな。腕を買われてIS部隊にいるのさ」

少なくとも嘘ではない情報を流す。

「そんなに奴が気になるか?」

ラウラは敢えて不思議そうに聞き返す。

「いや、単純に女所帯となる部隊に男がいるのが気になっただけだ」

「そうね、新しい部隊だし、そういうのも積極的に取り込んでるんじゃないかしら。能力の差では男女なんて関係ないもの」

アンネイムドが答え、クラルが新しい部隊という所に着目する。千冬がいないと知ったアリーシャは、男の話題でも興味なさげな風で椅子に体を預けていた。

「戦えないならどうしようもないサ。実は秘密裏に世界初の男性操縦者だったりしない?」

「もしそうだったら、戦場じゃなくて研究所行きだ」

「それはそうよね。あ、良かったら紹介して」

「おい、人妻」

「あら、イケメンかどうか見るだけよ」

「狙ってるサこいつ」

アンネイムドが二回手を叩いて注目を集める。

「会議から話題がズレ始めたから戻すぞ」

「といっても、これ以上話す事はあるサ?」

「まあ、正直ないな。ただ、晴れた時が危険だとは思うから全員警戒はしておこう。明日、午後まで何もなければその日に一回集まるぞ」

「つまりいつも通りだな」

「そういうことね」

全員が立ち上がったのを合図に解散した。

 

 

 

「……ま、概ねそんな感じだったな」

ラウラは鍋の様子を見ながら状況を報告した。

近くで壁に背を預けていた白は、ラウラの報告を頭の中で反芻する。話を聞く限り怪しい点はない。

「…………」

話を聞く限りでは。

「考えるのは後にしよう。出来たぞ」

ラウラが作っていたのはボルシチ。見るからに赤いのが特徴の代表的なスープの一つである。

「しかし、こんな所に来てまで料理することはないだろう。部下に任せれば良いものの」

「もうこれが趣味だしな、作ってたら落ち着くから良いんだよ」

あと、と白に振り返る。

「私じゃないと、白が食べないじゃないか」

「…………」

……本当の目的はそっちじゃないだろうな。

白は小さく肩を竦め、大きな鍋を持って部屋へと運んでいった。ラウラは食器を持って白の横に並ぶ。部屋へ入ると、ラウラの料理を待ちかねていた隊員達が歓声を上げた。

「お、隊長の料理が来たぞ!」

「宴じゃ!宴じゃー!」

「ありがたや……」

オーバーなまでに燥ぐ姿は子供のようである。ラウラは苦笑いしつつ、スープを取り分けて皆へと与えた。

「トレーラーの連中に運んで行く」

白がそう言って持って行こうとしたが、皿を取る前に別の手が伸びてきて掻っ攫われた。

「白さんは食べててください。私達が運びますから」

白が顔を上げると、手の主、クラリッサが実に良い笑顔で笑っていた。

白が何か言う前に他の隊員達とスープを運んでいってしまう。逃げるくらいに早い動作だった。というか逃げた。

ポンと白の肩を他の隊員達が叩き、そのまま流れるようにラウラの隣に座らされてスープを持たされる。

「何なんだお前ら」

「まあまあ」

「……そんなことせずとも、食うぞ?」

「まあまあまあまあ」

白は何故か皆に見守られる中でスープを食すことになった。何故こうなったと疑問符を浮かべながらも、スプーンで掬い、口へと運ぶ。

その仕草が何故か色気があり、隊員達がゴクリと別の意味で唾を飲み込んだ。ラウラはラウラで、何してるんだこいつらと首を傾げていた。

「…………で、何なんだ」

白は未だ見てくる皆をぐるりと見返す。

「いや、味の感想とか、そういうのは」

「俺にそういうのを求めるな」

無表情のまま咀嚼するいつもの白に、揃って溜息を吐いた。

「ちょっとー、隊長、良いんですか?」

唇を尖らせながらラウラに言ってみるものの、ラウラもラウラで何か問題かと首を捻る。

「白だからな、別に良いだろう。私は食べて貰えるだけで満足だよ」

本当にこの2人はと、全員の心境が一致した。どちらかが一歩踏み出せば、あるいはほんの少しの欲でもあれば、距離は縮まるというのに。

そんな他人の感情のことなど気にかける事もなく、白はゆっくりとスープを味わって完食した。ラウラはそんな白を、ニコニコと笑いながら見つめていた。

隊員達が飲んだスープは悔しいくらいに、とても美味しかった。

 




長いので、誤字脱字があればご指摘をお願い致します。

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