インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》 作:ひわたり
白は跳躍した。
数瞬で目の前に来た彼を、女性はブレードで受け止める。
「何者よ、貴方」
「それは互いの台詞だ」
剣撃でお互いの距離が離れる。当然、白は重力に従い海へと落ちていく。しかし、白は海の上を跳べる。女性は先程それを確認済みだ。
すぐさま銃を展開し、白に向けて放つ。それを白は双剣で受け流し、海の上を水平に跳んだ。同時に白の着地点にランチャーの弾丸が落ちて爆発した。2度3度とランチャーの追撃を掛けるが、自在に衝撃を操り、瞬間的に方向を変える白を捉えきれない。
白が再び上空へ身を踊り出し、弾丸のような速さで女性へ迫る。
再びブレードで受けるが、そのブレードに罅が入る。それを見た女性は、驚く前に白との接近戦は不利と判断。白が双剣を振るうが、宙へと逃げられる。
武器相手には自分が持っていた白剣が、IS本体には束の黒剣が有効と判断。
白は白剣だけ指輪に戻し、ポケットからある物を取り出した。それは沢山の小石であった。
女性は疑問に思うが、それを頭の隅に放置。ランチャーを放つ。空中での爆発物は白は避けきれない。
落ちていた白は、瞬間、その場から姿をかき消した。
「!?」
驚愕と共に横から斬撃が与えられた。視界の端に白の姿が見える。
何故……!
考える間を与えないよう、白の斬撃は止まらない。女性は何とか耐えながらも何故落ちないのかと考える。脳に過るのは先程、彼が取り出していた小石。
……まさか、小石を足場に?
女性の推察は当たっていた。白は衝撃の方向を変えて跳躍へ変化させている。要は、蹴ることが出来れば、その分の衝撃で跳ぶことが可能なのだ。それが例え小さなものであっても。
女性は白の攻撃によるエネルギーの消費が尋常でないことからIS殺しと分かり、シールドを展開して防御へと移行した。
白のIS殺しで武器、つまりシールドは貫けない。双剣の入れ替えで、それぞれの剣の特性も相手に知られたと見るべきか。剣を入れ替えれば、その隙に距離を離される。
……ならば。
剣を離し収集。同時に空いた手でシールドを握力で握り締める。一瞬だけ支えと体勢を整えられた白は、手を軸に横合いから全力で蹴りを入れる。人間の蹴りとは思えない音と衝撃が走った。
「チッ」
女性はシールドを消すと共にブレードを展開しながら切り上げる。白の顔に赤い線が走った。
……胴体を狙わずに真っ直ぐ顔面だけ狙ってきたな。こいつ、俺の移動速度で服が特殊と気付いたか?
白は小石で跳躍し、一度距離を離す。
女性の反対の手には既にランチャーが握られていた。
遠距離になられたら再び避けられるかと、女性はランチャーを撃たない。驚かされてばかりだが、相手はISと思った方が良いと、その姿勢に油断はない。
白は白で厄介に感じていた。
……不意は突けているが、戦闘慣れしてるな。体が先に動いてるようだ。なら、もう一度不意を突く。
白は正面から真っ直ぐ女性に跳ぶ。
また何かする気かと、女性は考えるが、先手を取るためランチャーを構え、発射した。
弾が銃口を出た瞬間、爆発した。
「⁉︎」
爆発から予断なく白の斬撃が走る。女性は咄嗟に装甲で受ける。そのまま白の手により装甲の一部が切り飛ばされた。
女性も流石なもので、同時に斬撃を返す。
白は腕でガードし、そのまま弾き飛ばされた。
服の防御と骨の強度、そして弱い斬撃だったことから、ダメージは少ない。だが、ガードしなければ、目をやられていただろう。
距離は離れたが、先程の爆発の原因が分からない以上、女性はランチャーなどの爆発物が使えなくなった。
「本当に、何者よ」
先の爆発は、ランチャーの弾が斬撃によって切り裂かれたのが原因だ。斬撃の正体は白が衝撃波を圧縮して放ったもの。真空の飛ぶ斬撃、鎌鼬。女性がランチャーを放つ瞬間を見計らい、鎌鼬を放ったのだ。
……次やったら見抜かれるな。
白にとって、今の一撃を防がれたのは中々手痛い。
女性は牽制に銃弾を撒き散らし、白は海上を滑るように移動しながら受け流していく。
女性の背中の装甲が開かれる。気付いた時には、無数のミサイルが発射された。
「隠密する気を無くしたか」
白はミサイルの軌道を瞬時に読み取り、宙へ跳ぶ。一つのミサイルを足場代わりに跳ぶ。衝撃は全て跳躍へ回しているのでミサイルはそのまま目標を見失い海へと着水し爆発した。
ミサイルの雨の中を飛び続ける。女性はミサイルを放ち続けながらマシンガンを呼び出し乱雑に撃った。
銃弾をミサイルに直撃させ白が足場にする前に爆発に巻き込ませた。
白は手を振るい衝撃波で余波を防ぐが、完全に取り去ることはできない。熱風と無数の破片が白を容赦なく襲う。
爆発が爆発を呼び、巨大な爆炎と黒煙が包み込んだ。
「白……!」
ラウラは悲鳴に近い声を上げる。立ち上がろうとしたが、体が言う事を聞かずに、その場で倒れてしまう。
彼女は悔し気に歯を食いしばりながら爆発を見ることしかできなかった。
既に勝利したかに思える光景の中、しかし、女性に油断はない。
ハイパーセンサーで360度警戒しながら、ジッと黒煙を見続ける。
その時、黒煙の中から無数の金属片が襲いかかった。
シールドを展開し防御する。銃弾と同じ速度で繰り出されたそれらは甲高い音を立てながら弾かれた。通り過ぎたのを見れば、それはミサイルの破片であったり、自分が放った銃弾であった。
白が衝撃波でまとめて吹き飛ばした破片達は凶器となって女性を襲う。衝撃波により煙も晴れて白の姿が視認できた。
瞬間、女性のシールドが拉しゃげ、続けて真っ二つに折れた。
……いや、斬られた!
白の両手には双剣が握られていた。
衝撃波後に複数の鎌鼬を間髪無しに放ち込んでいた。
まだ宙にある破片を足場に跳躍。
女性は咄嗟にブレードを展開して斬撃を受け止めたが、既に負荷が大きかったそれも音を立てて折れた。白がそのまま突きを打つ。
女性に届く瞬間、切っ先に手榴弾が展開された。
剣により爆発。爆発の衝撃で白は強制的に離れさせられた。お互いにダメージはあるが、これは白の方が大きい。
海上に落とされた白は海上を跳びながら的を絞らせないよう移動を続ける。
「チッ」
既に白は先のミサイルと今の手榴弾で顔や手に傷を負い、肉に大小様々な金属片が突き刺さっている。服に覆われている部分に傷はないが、衝撃などのダメージは確実に蓄積されていた。
一方で女性もランチャーとシールド、そしてブレードを失った。まだエネルギーに余裕はあるが、武器を確実に減らされている。
「おまけに時間を掛け過ぎか……」
この男を倒せないのは悔やまれるが、派手にやったこともありドイツ軍と織斑千冬が来るのも時間の問題だ。流石にそいつらをまとめて相手に出来ない。
女性は再びミサイルを大量に放つ。
「む」
ミサイルは白に向かわず、大雑把な形で白の周囲を囲むように着水して爆発した。
その間に女性は距離を大きく離し、海の中へと飛び込む。それを見た白は岸へと降り立ち、しばし海面を警戒した。
「…………」
気配がない。
「……逃げたか」
流石に海の中まで追いかけることはできない。後は海軍に期待するしかないが、望みは薄いだろう。
白は軽く血を吐き出す。衝撃である程度防げたとはいえ、大量ミサイルの威力は身体に負担が大きかった。
「まともにやり合えばこんなものか……」
少なくとも織斑一夏は無事に保護出来た。敵の目的は不明のままだが、一先ずはこれで良いだろう。
「白……!」
泣きそうな顔で、足を震わせながら歩いてくるラウラ。
白は表情を変えることなく、彼女の元へ向かった。
勝利とは言い難い勝負の結末だった。