ヒカリが太一を落とすまで   作:斧我為

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プロローグ 始まり

 これは初代選ばれし子供たちの一人でありリーダーとして皆を導いた少年・八神太一に恋い焦がれるその妹・八神ヒカリの恋物語である。

 

 

 

〜〜〜〜

 

「あら、やだ! どうしよう〜〜」

 

 朝、日も上りきった頃に八神家母・裕子の困った声が家に響いた。

 

「お母さん、どうしたの?」

 

 その声に唯一家にいた八神ヒカリが問いかけた。

 

「あらヒカリ。おはよう」

 

「おはようお母さん。それで、どうかしたの?」

 

「あ〜それがねえ……」

 

 そうして裕子が差し出したのは小さな包みだった。

「太一、お弁当忘れてっちゃったのよ」

 

「え? そうなの?」

 

 そう言われてその包みをよくよく見てみれば、確かにそれはヒカリの兄である八神太一のお弁当だった。

 

「えっ、じゃあお兄ちゃんお昼抜き?」

 

「だから困ってるのよ〜。私もそろそろ出なきゃいけないし」

 

 そこまで話を聞いてヒカリも裕子と一緒にう〜んと頭を捻らせる。

 

 何故なら、

 

(確かにお母さんはそろそろ出なきゃいけないよね……)

 

 と言うことが分かっていたから。かといって、

 

(部活でお腹を空かせるだろうお兄ちゃんを、ほおっておくわけにもいかないし……)

 と、そこまで考えたところでふと気がついた。

 

「なら、私が届けてこようか?」

 

 もともと今日のヒカリの予定と言えるような事は宿題を済ませていく位しかないので、太一の学校まで行ってお弁当を届けるくらいのことはどうってことはない。

 

 そうヒカリは思って裕子に提案すると驚いたように問い返された。

 

「えっ、ヒカリ頼んでも大丈夫なの?」

 

「うん、それくらいなら大丈夫だよ。だからお母さんは安心して仕事に行っていいよ?」

 

「う〜ん。ならお願いするわね。……てっ、不味い! 本当に時間が無い! ならヒカリ! お弁当、よろしくお願いね!」

 

 そう叫んで裕子は急いで仕事に向かった。

 

 残されたヒカリはとりあえず、この後の予定を立てることにした。

 

(とりあえず、まずは朝御飯を食べよう。その後に着替えてお兄ちゃんにお弁当を届けに行けば−−)

 

 と、そこまで考えたところでふと思いつく。

 

(待って。ならお昼時に持っていって、お兄ちゃんと一緒にお昼にしたら良いんじゃない? そうね、それがいいよね! そうしよう!)

 

 予定を決めるとまずはウキウキとしながら太一へとメールを打つヒカリ。

 

『お兄ちゃん。お昼時にヒカリがお弁当を届けに行きます。だから一緒にご飯を食べましょう。』

 

「これでよしと。さ〜て、まずは朝御飯を食〜べよっと」

 

 お昼に思わぬ嬉しいイベントが起きることになって、とても嬉しそうな雰囲気を醸し出すヒカリ。

 

 まあそれも仕方ない事ではある。

 

 最近は部活が大変らしく、夏休みに入っているのに逆に太一との関わりが減っている位なのだから。

 

 

 

 ……だからこの時のヒカリの行動は何一つとしておかしくはなかった。

 

 ヒカリの事をよく知る者ならば「ヒカリちゃんらしいな」と言って苦笑いするくらい、妥当な行動だったろう。

 

 だからこそ、この時のヒカリには想像も出来なかった。

 

 まさか、こんな何気ない事が切っ掛けで自分の人生が大きく変わっていくなんて……思いもしなかった。

 


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