プリッキャーのお陰で元気になれた。ブルーレイが出たら買おう。それとプリッキャーを参考に今後の展望に目処が着いた。そう、オレには必殺技が足りなかったし、何より我流という才能が有りながらもそれを磨くということをあまりして来なかった。何より技の練習を始めるとスポーツで言う処のゾーンみたいな感じのところに入り込み、過去の、前世の思い出したく無い過去と向き合う気がして頭が痛くなるのだ。しかしプリッキャーを見てオレは変わった。新生したと言っても過言では無い程に。プリッキャーは各自が必殺技を持ち、また努力を欠かしている訳でも無い。そして己が過去と向き合い超えて行き、新たな糧としている、あんな風にオレは輝きたい。
それはそうと先ずは必殺技だ。これについては既に目星がついている。オレには我流の才能がある。オレの中の目指すべき我流の人物、北斗の拳の雲のジュウザだ。南斗五車星の雲の将であり、宿命とラオウ・トキと並ぶ才能を持ちながら拳を修めず型の無い雲の様な闘いをする漢だ。彼の我流拳を確かなものにしている唯一無二の技、撃壁背水掌。これを修得したい。いや我流拳と共に修得してみせる。
我流拳と撃壁背水掌の修得のために訪れたのはラグナレクの修練場。修練場と言えば聞こえはいいが実際は単なる廃ビルである。しかしシャワールームがありお湯も出るので結構人気である。
ジャージに着替えて人目を気にすること無く先ずは寸頸の練習だ。第一拳豪から撃ち込まれた時のことを思い出しながらサンドバッグに打ち込みを繰り返す。繰り返す。暫く繰り返していたら力の入れ方や抜き方が分かって来た。始めの方はただ力任せに利き手を押し込んでいただけだった。
汗で全身が濡れ始めた頃には第一拳豪の技の様に、衝撃が対象の中に抜けるかの如く入り始めた。次のステップに移ろうとした処、ゾーンに入った感じがして来た。これはオレがあまり技の鍛錬をしない理由でもある。しかしいつものオレとは今は違う。プリッキャーから勇気と輝くための力を貰ったのだ。ゾーンの先を突き抜けるために感覚を尖らせて集中して行く。
次のステップに移る。視界の端が赤く染まって行く。
鍛錬を続けて行なう。白昼夢かの如く前世が見える。
打ち付けた衝撃が赤くなる。どんどん鮮明に、あの時の光景が溢れてくる。
いじめられていた。殴られた、痛かった。脱法ドラッグを無理矢理使われた。誰もノドから出る声を聞かなかった。どんどん薬を使われた。僕を見る顔は笑ってた。空は青かった。だけど僕を見る顔は赤かった。
空が赤かった。路地の向こうに見えるポストが赤かった。
壁が赤かった。アスファルトが赤かった。
通り過ぎる人達が赤かった。過ぎ去る車が赤かった。
手が赤かった。顔を触ればそこも赤かった。感覚が赤かった。僕を見る顔が赤くなかった。おかしかった。赤くしなくちゃいけないはずだった。ーた五感が赤くなくなった。赤くしようとした。鋭い五感をすり潰してたら赤くなった。僕を見る顔がなくなった。ーきた顔が赤くて赤かった。もっと赤くしたかった。赤い道路に向かってた。赤い車がやって来た。一緒に赤くなった。空を飛んでも赤かった。暫くしたら青かった。心地よかった赤かった青かった。「宇喜田っ!」
気がついたらガン黒ボクサー、武田一基が目の前に居た。
「だいじょぶかっ!」
いつものニヒルで余裕の態度は何処へやら。きっとオレが必殺技を開発していることに焦っているのだろう。プリッキャーを観れば道が拓くぞ。しかし武田は焦ったまま血が出ていると言う。顔をまさぐってみると目と鼻から血が出ていた。なるほど、だから武田は赤いのか。この赤さのおかげで自分のルーツが解ったような気がする。ふと打ち込みをしていたサンドバッグを見ると千切れていた。
武田に自分は大丈夫であるという旨を言って今日は帰ることにした。シャワールームに向かっている途中、第四拳豪の影武者が話しかけてきた。
「何の用だ影武者?」
「ククッ本物かもしれんぞ?」
それは無い。どうやったら数日で横に四倍くらいでかくなる?アメリカンな食生活でも送ってたのか?て言うかオレがぶっ飛ばしたやたらすばしこいデブじゃねぇか。
「ふん、まぁ良い。」
ロキになり切ってプリッキャー落書き帳を取り出した。なんだ、こいつも同志だったのか。落書き帳を一枚破り取って渡して来た。どうやらこの街にある道場の一覧のようだ。字がすげぇ上手い。
「この俺オススメの実戦向け道場だ。好きに使え。」
最後までロキになり切って立ち去るデブ。まぁ有難く使わせてもらうとするか。シャワーを浴びて文房具屋に行こう。あの落書き帳は見たことが無い。新商品だろう。
赤かったの下りは夏目漱石の「心」を参考にしましたよ〜。