史上最強の弟子ケンイチ〜宇喜田転生伝〜   作:夏野菜固定金具

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ちょびっとシリアス。


敗北

やっとこさバトルロイヤル(果し合い)が終わり第一拳豪による閉会式みたいな空気になっている。伸びている奴らは第四拳豪の指示の元、手当てをされたり他の拳豪の処に振り分けられたりしている。

一方、ガン黒ボクサー、もじゃもじゃロン毛、武器女はホッとした感じでいるのだか足技バンダナだけは尻を抑えながら産まれたての子鹿を演じているかの様だ。

 

「さて君達五人はそこらで伸びている者たちよりも優れている事を証明したわけだ。何かしら希望があればできる限りの事をしよう。」

 

太っ腹だな白スーツ。各々が希望を述べた結果、ガン黒ボクサーと足技バンダナが遊撃隊、武器女が第三拳豪の直属部隊に配属。もじゃもじゃロン毛が自分の部隊を持つ隊長となった。で、オレはというと、

 

「第一拳豪の強さが知りたい。この場で喧嘩しちゃくれねぇかな?」

 

今後の目指すところとなる、取り敢えずといえる高さが知りたかったのだ。今現在武術などは習っていないし、筋トレや体力作りはしているが効果の程はわからない。我流の才があるとなってはいるがそれを自覚出来ていないのだ。

オレのこの希望に対してどよめく周囲、笑い出す半裸パツ金、どーでもいいけどなんかキャラ被ってる気がする。あ、グラサンまで掛けやがった。あれか?それはオレに対する挑戦か?おカブを奪おうとしている奴を睨み付けていたら、

 

「おいおい、何処を見ているんだい?君が挑戦したいのは僕だろう?」

 

気が付けば拳の届く範囲に第一拳豪が居た。真横から掛けられた声にドキリとする。慌ててやり易い位置に飛びすさる。どうやら喧嘩を買ってくれるらしい。嬉しい事だが探る様な黒フード視線がウザい。チリチリとした空気が漂うなか、こちらを見てクククと笑う後片付け係りの第四拳豪が審判を買って出た。

 

「いつでも良いよ。」

 

第四拳豪を中央から少々ずれた位置に置いて相対し、第一拳豪がメガネを外して構えを取った。それに対してオレはというと、

 

「必殺……、ロボパワー全開投げぇっ!」

 

そばにあったドラム缶をぶんっと投げつけた。いつでもイイと聞いたんで、始めの合図を待つ気はサラサラ無い。驚く周囲を無視して次々に重そうな物を投げ付ける。

 

「正直驚いたよ。全くもって馬鹿げた力だね。」

 

手当たり次第の最後を投げた瞬間、投てき物の影に隠れながら近付いて来たのか自分の間合いの内側から第一拳豪の声がした。全く持って気付かなかった。

 

「はぁっ!グングニルッ!」

 

無数の掌底突きが閃いて襲いかかって来た。今まで自分が感じたことの無いレベルの、一発一発が身体の芯まで響くほどの攻撃。急所を手で覆う事すら許されなかった。

 

「‼︎」

 

コレで決まったと思ったであろう第一拳豪の右手首を左手でガッチリ摑む。掌を引くのが少し遅れていた。順手で摑みつつ右手を振りかぶり一撃を見舞おうとしたら左肘でアゴを打ち抜かれた。一瞬ぐらつくが離すまいと左手を握り込む。瞬間左手首に電流にも似た痛みが奔った、多分左肘を振り抜いた勢いで点穴とやらを突かれたのだろう。器用なことだ。しかし、第一拳豪がそちらに気をそらした今がチャンス。スタンバッてた右手でコンクリート粉砕パンチを思い切り繰り出す。

 

「ごっばぁ、あ、あ。」

 

思い切りのいい一発を貰ったのはまさかのオレ自身。腹から空気が漏れて出た。カウンターで、きっと寸剄らしきモノを腹にお見舞いしてくれたのだろう。内臓が殴られた気分だ。

 

「随分と頑丈だったがこれで終わ…」

「こども煉獄っ‼︎」

 

これしきで終わるかよってんだ。全力の平手打ち連打を叩っ込んでやるわ。この至近距離、手を伸ばせば相手に触る事だって容易。

 

「シッ!」

 

バチッバチッという音が連続して響き全ての攻撃が迎撃された事を知らしめる。マジかよ、掛け値無しの全力をこの近距離でかよ。だが未だ詰めが甘いためか襟を摑むことに成功。即座に背負い投げる。

 

「フッ!」

 

途中重さが無くなり後頭部に衝撃。視界の隅に第一拳豪の下半身が映ったので多分肘か空手の鉄槌だが、どうやら上着を脱ぎ捨てたらしい。と、足が跳ね上がって来て膝による鳩尾と胸骨に追撃。どこのカンフーマスターだよ。こちらから攻めないとサンドバックになりかねない。距離を取ってカズフサミサイルですっ飛ばそうとしたら腹に両手を添えられた。行動を読まれていたのか流れる様にコッチの動きに合わせて来た。

 

「フンッ!」

 

本日二度目の寸剄はさすがに効く。しかも殆ど同じ場所に。

 

「せやぁっ!」

 

オマケの連続掌底突きもプレゼントされて吹き飛んだが、何とか距離を置くことに成功する。

 

「君、本当は超合金か何かで出来てるのかい?いい加減手が痛くなってきたよ。」

 

相手の余裕に思わず舌打ち。彼我の戦闘能力の差がここまであるとは正直思ってもみなかった。殴られて吹っ飛ぶなんて初めてだ。喧嘩という得意ジャンルでここまでダメージを負わされることもなかったためか、余計に焦る。いや、ダメだ焦るな。せめて一撃、相手の虚をつき隙をつき、入れてやる。

 

「…コォォォ…コォォォ……」

 

相手の声を無視し、その場で空手の息吹の様にゆっくり静かに呼吸を整える。視界の隅でバンダナが尻を押さえているのが映ったが気のせいだ。神様的存在(キンニクビキニ)からギフトが一つ、正式な技名は無いが使わせてもらおう。

油断無く構える第一拳豪を見ながら服を脱ぎ上半身裸になる、相手と周囲から困惑の表情と空気が立ち昇って来た。が、

 

「はぁっ!」

 

オレの気合い声と共に全身の筋肉が四倍ほどの大きさにバンプアップ。困惑の空気は一気に驚愕へ。そして更に力を込めて己が授かったギフトを解放する。

 

ヌ〝ルンッ!ヌ〝ルンッ!

 

解放された、ミル貝が如くそそり勃つ乳首!更にそれらは風車を髣髴させる様に、いや、まるでスクリューの様な勢いで元気良く回転!名付けて回天双乳頭(ダブルタイフーン)!誰も彼もがなんじゃそりゃという顏をしている。……今ここに最大の隙が出来たっ!

 

「いいぃぃ今だああっ!」

 

オレ自身が驚くほどの声を出して間合いを詰めて拳を振るう。力が最も乗る上から叩きつけるかの様なチョッピングライト!咄嗟にガードされたが返しの左アッパーで目的の一撃を入れることが出来た。

 

「ぐくっ」

 

呻いたか第一拳豪。十分にダメージのある一撃を入れたみたいだ。このまま押し切ろうと再度右手に力を込める。あとはアッパーの返しで準備万端である右手を振り下ろすのみ!

 

「フヒュッ」

 

力を込めた一瞬、オレの動きが止まったのかはわからないが第一拳豪にとっては勝機を観る一瞬だったのだろう。待機していた左手を引かれてバランスを崩されて、ダンスを踊るかの如く流麗な動きで後ろを取られた。慌てて肘を叩きつけようと振り向くが首に手を廻されて裸締めを決められた。

 

「正直に言いますよ、ここまでヤるとは本当に思ってもいなかった。宇喜田さん、貴方のお陰で基礎の見直しと制空権の修行を急ぐことになりそうです。」

 

アッパーを貰ったにしては整った呼吸で囁かれながらグイグイと締め付けられる。オレの腕力なら外せると思ったが第一拳豪の技が上手すぎた。オレの手が首を締める手に触れる前に視界が暗転。耳には血管を奔る血の音が響いて四肢から力がフッと抜ける。そして徐々に回天双乳頭(ダブルタイフーン)が勢いを無くして行き、タユンタユンと重力に遊ばれて揺れる頃にはすっかりオレは落ちていた。

 

この日、オレは初めて負けたのだ。

 

 

 

 


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