ラグナレク第四拳豪ロキは焦っていた。新生ラグナレクを創るために目を付けていた人材が、準拳豪を決めるこの
「なかなかに良い素材が揃っているね。」
第一拳豪が口を開く。なるほど、右手一本で生き残っているボクサー崩れや足技を器用に取り扱うバンダナ。喧嘩慣れしているもじゃもじゃロン毛に跳ね回るデブと武器使いの女。
「ぐっぎゃ!」
今跳ね回るデブがロキ注目の人材、宇喜田孝造によって沈められた。第五拳豪ジークフリートとは違う、相手の攻撃を完全に受けてからのカウンター。タフネスは第七拳豪トールに勝るとも劣らない。相手を行動不能にする一撃は第二拳豪バーサーカーに匹敵する程の凶悪さを誇る。素人臭さ丸出しであるが充分な原石とも言える。コレを手駒に加えない手は無い。
「そろそろ終わりが見えて来る頃だ。ロキには脱落者の振り分けを頼む。理由は解っているね?」
ロキの視線から漏れ出る野心に釘を刺すかの先制。無論何故かという理由の心当たりは有り過ぎるくらいなのだから、無難に返事をして頷くしかないのだ。ロキがまた何かを企んだ事を知った拳豪達が不穏に近い空気を発するなか、第一拳豪の言う通りに
「ハハッ、なかなかヤるじゃなぁ〜い」
右手一本で勝ち残っているガン黒ボクサー崩れが笑顔でジャブ打ち出して来る。
「ちっ、ウザってぇんだよ!」
ジャブのほとんどに被弾しながらも、お返しにと放つこちらのアッパー、フック、ストレート各種の擬きパンチは華麗なフットワークやスウェー、パリーなどで逸らされて当たらない。
「そーらコッチも忘れないでくらっとけよっ!」
こちらが打ち終わりに一息付ける瞬間を狙って死角から足技バンダナの蹴りが入る。
「行かせるかよっ!」
バンダナを追撃しようとすればもじゃもじゃロン毛からの妨害が入り、今カニ挟みしているロン毛を踏み潰そうとすれば武器女が持つトンファーによる連撃が迫る。そちらに意識を割こうとした瞬間にガン黒ボクサーによる奇襲。と、宇喜田一人を狙ったパターンに入っている。
「くっそ、本当にウザったいっつの。」
ここで宇喜田は考えた。こいつ等の誰か一人に心を折る一撃を与えれば何とかなるか知れない。と。
「…コオォォォ……」
突如宇喜田が立ち止まり呼吸を整え始めた。すわ最後の特攻かと技を振るっていた面々は緊張の面持ちとなる。全員一致の見解として、この
「ヒデヒコ神拳奥義……」
皆考えたことは奇しくもまた一致した。今まで素人丸出しの動きしかしてなかった男が拳法の動きなどできるわけがない。ハッタリに違い無いと。
宇喜田はゆっくりと肘から先を回転させながら合掌をした。そして
「ッッッ!」
宇喜田は全身のバネを使いバンダナの後ろに回り込む。他の面々には急制動の動きは捉えられなかったことだろう。はたから見ていた拳豪達ですら一瞬見失った程なのから。宇喜田は両手を握り合わせて拳銃を模した形を作り出す同時にしゃがみ、
「
バンダナの尻に
「ぎゃあっおおぉぅ。」
バンダナは無情にも一撃で沈む事になった。今はクハ、クハと尻を抑えながら尻の中身をどうしようかと身体と相談している最中だ。それを目の当たりにした残りの三人は顏を蒼くした。ガン黒ボクサーはあんなマヌケな技で終わりたくないと、もじゃもじゃロン毛はせめて普通の拳でと、トンファー女は思考を放棄して尻を抑えながら後ずさっている。
宇喜田はボロっちくなったグラサンの奥の目でニヤリと笑うと一歩を踏み出した。
「それまでっ!」
第一拳豪のよく通る声が響いた。宇喜田以外の三人は冷や汗を垂らしながら安堵の溜息をつく。それがゴングの役割となり、