史上最強の弟子ケンイチ〜宇喜田転生伝〜   作:夏野菜固定金具

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ほんのり長いよ。


新しい技

ラグナレク第四拳豪ロキは焦っていた。新生ラグナレクを創るために目を付けていた人材が、準拳豪を決めるこのバトルロイヤル(果し合い)に招かれていたからだ。必要な配下候補として第一拳豪に隠れながら、あるいはもし見つかっても自身の手駒に加えておいて水面下で動く計画がいきなりつまづいた。ニヤニヤ顏を表情としながらも、策を見透かされた事による憤りが腹に渦巻いていた。そして第一拳豪からの叱責が、または罰が来ないことに焦っているのだった。

 

「なかなかに良い素材が揃っているね。」

 

第一拳豪が口を開く。なるほど、右手一本で生き残っているボクサー崩れや足技を器用に取り扱うバンダナ。喧嘩慣れしているもじゃもじゃロン毛に跳ね回るデブと武器使いの女。

 

「ぐっぎゃ!」

 

今跳ね回るデブがロキ注目の人材、宇喜田孝造によって沈められた。第五拳豪ジークフリートとは違う、相手の攻撃を完全に受けてからのカウンター。タフネスは第七拳豪トールに勝るとも劣らない。相手を行動不能にする一撃は第二拳豪バーサーカーに匹敵する程の凶悪さを誇る。素人臭さ丸出しであるが充分な原石とも言える。コレを手駒に加えない手は無い。

 

「そろそろ終わりが見えて来る頃だ。ロキには脱落者の振り分けを頼む。理由は解っているね?」

 

ロキの視線から漏れ出る野心に釘を刺すかの先制。無論何故かという理由の心当たりは有り過ぎるくらいなのだから、無難に返事をして頷くしかないのだ。ロキがまた何かを企んだ事を知った拳豪達が不穏に近い空気を発するなか、第一拳豪の言う通りにバトルロイヤル(果し合い)は最終局面を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ、なかなかヤるじゃなぁ〜い」

 

右手一本で勝ち残っているガン黒ボクサー崩れが笑顔でジャブ打ち出して来る。

 

「ちっ、ウザってぇんだよ!」

 

ジャブのほとんどに被弾しながらも、お返しにと放つこちらのアッパー、フック、ストレート各種の擬きパンチは華麗なフットワークやスウェー、パリーなどで逸らされて当たらない。

 

「そーらコッチも忘れないでくらっとけよっ!」

 

こちらが打ち終わりに一息付ける瞬間を狙って死角から足技バンダナの蹴りが入る。

 

「行かせるかよっ!」

 

バンダナを追撃しようとすればもじゃもじゃロン毛からの妨害が入り、今カニ挟みしているロン毛を踏み潰そうとすれば武器女が持つトンファーによる連撃が迫る。そちらに意識を割こうとした瞬間にガン黒ボクサーによる奇襲。と、宇喜田一人を狙ったパターンに入っている。

 

「くっそ、本当にウザったいっつの。」

 

ここで宇喜田は考えた。こいつ等の誰か一人に心を折る一撃を与えれば何とかなるか知れない。と。

 

「…コオォォォ……」

 

突如宇喜田が立ち止まり呼吸を整え始めた。すわ最後の特攻かと技を振るっていた面々は緊張の面持ちとなる。全員一致の見解として、この宇喜田(おとこ)は恐ろしく硬くてタフとなっている。ガン黒ボクサーの右手は熱を持ち痺れているし、バンダナの足は左右共々腫れている。連係序盤に宇喜田を力一杯殴っていたロン毛の両手は拳が握れない程になっているし、武器女のトンファーは持ち手にガタが出ている始末である。

 

「ヒデヒコ神拳奥義……」

 

皆考えたことは奇しくもまた一致した。今まで素人丸出しの動きしかしてなかった男が拳法の動きなどできるわけがない。ハッタリに違い無いと。

宇喜田はゆっくりと肘から先を回転させながら合掌をした。そして

 

「ッッッ!」

 

宇喜田は全身のバネを使いバンダナの後ろに回り込む。他の面々には急制動の動きは捉えられなかったことだろう。はたから見ていた拳豪達ですら一瞬見失った程なのから。宇喜田は両手を握り合わせて拳銃を模した形を作り出す同時にしゃがみ、

 

通天双指肛(つうてんそうしこう)!」

 

バンダナの尻に奥義(カンチョー)を放った。

 

「ぎゃあっおおぉぅ。」

 

バンダナは無情にも一撃で沈む事になった。今はクハ、クハと尻を抑えながら尻の中身をどうしようかと身体と相談している最中だ。それを目の当たりにした残りの三人は顏を蒼くした。ガン黒ボクサーはあんなマヌケな技で終わりたくないと、もじゃもじゃロン毛はせめて普通の拳でと、トンファー女は思考を放棄して尻を抑えながら後ずさっている。

宇喜田はボロっちくなったグラサンの奥の目でニヤリと笑うと一歩を踏み出した。

 

「それまでっ!」

 

第一拳豪のよく通る声が響いた。宇喜田以外の三人は冷や汗を垂らしながら安堵の溜息をつく。それがゴングの役割となり、バトルロイヤル(果し合い)はここで終結した。

 

 

 


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