史上最強の弟子ケンイチ〜宇喜田転生伝〜   作:夏野菜固定金具

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変わり行く貴公子

私がキサラ様の腹心として動き始めて二ヶ月と少し、四月の半ばの今は肌寒さも残るが動けば汗ばむ陽気だ。

 

「白鳥っ!行くぞっ!」

 

キサラ様は最近荒れていらっしゃる。原因は当然拳豪戦の決着と最近のラグナレクにおける女性構成員軽視の風潮によるものだ。あからさまな視線こそ向けられないが性の対象として慰みものを見る様な視線はまだまだ健在だ。

 

「はい、キサラ様。」

 

今も春の空気にやられたおめでたい連中を蹴り飛ばしたところで、イラつきは多少治まったかと思ったがフラストレーションの減りは芳しく無い様だ。やはり新参者達の侮りや配下の少なさという事実が澱の様に溜まっているのだろう。

 

キサラ様と出会った当初も荒れていた。第三拳豪フレイヤ様が信条とする、女が男と対等に戦うために武器を持つという事に直属部隊ワルキューレで在りながら反発し、その為に周囲の構成員と折り合いが悪くなっていた。その憤りを技の三人衆の代理として、そして拳豪戦で強さを証明するということで発散していたが今回はそれが無い。更には嘲りの視線と漂う陰口が心に障るのだろう、一層のこと男に対しての敵愾心が強くなっている。私を助けてくれた時よりも。

 

 

私は髪を伸ばしているのにも関わらず、態度故か男として扱われる事がままある。あの日も学校の女子からデートを申し込まれてそれに興じていたら不良達に絡まれた。どうやらその娘に気があった様だ。私自身は無難にやり過ごそうとしたのだが、何処か気に障ったところがあったのか不良が激昂して殴りかかって来た。当時の私は運動神経がいいだけの素人だったので一方的に殴られ、女の子を逃がすだけで精一杯だった。そこをキサラ様に助けられるという、ありきたりの展開だが私にとっては運命的な出会いが起きた。凛々しさを纏いながら、激しい情熱に燃えるかの様な蹴り足を不良に放つ姿に陶酔してしまい、その後の私を決定付ける忘れられないこととなったのだ。

 

その時からキサラ様の隣に立ち支えられるように自らを鍛え上げて今に至る。と、アジトに着いた。キサラ様はイラつきながらいつもの部屋に行き、ソファーにどかっと腰掛けて足を組んだ。そして俯き帽子で表情を隠す。どうやら先程文字通り一蹴した不良達との諍いを思い起こしてイメージトレーニングをしているのだろう。それを見ながら私はソファーの後ろに回り、キサラ様の右斜め後ろに立つ。キサラ様が拳豪になってからの私の定位置だ。

 

暫くすると信頼の置ける配下が報告を持ってきた。辻隊の帰還と技の三人衆の集結、それと頼んでいた噂の裏を取る事だ。今回の調べで裏が確実に取れたので辻隊と三人衆の呼び出しを配下に言付けておく。

しばらくして辻隊隊長の辻新之助と他二名、技の三人衆がキサラ様の部屋に来た。

 

「何かご用ですか〜?キサラ様ー。」

 

軽い調子で三人衆の一人、蹴りの古賀が声をかけて来る。人を小馬鹿にするかの様な態度を取ることが多い彼だが、何故かキサラ様に対してはそんな雰囲気を感じさせない。

 

「ヴァルキリーさんよぉ、話ならこのボクサーシメてからでも良いかい?」

「ヘェ〜奇遇じゃなぁ〜い。丁度拳の具合を確かめたかったところでさぁ。」

 

三人衆の一人、突きの武田と辻隊隊長が一触即発の空気を醸し出している。どうしたのだろうか?古賀は我関せずだし、三人衆の残る一人投げの宇喜多はボロボロになっているし。理由を古賀に聞いてみると、辻隊の討伐対象と技の三人衆の討伐対象とが合流して結構な数となって攻め込んで来て、武田と辻隊長が倒した数を競い合うということを始めて決着が着かなかったそうだ。それはいいとして宇喜多はどうしたのだろうか?今の話しとはまるで関係が無さそうだ。すると古賀が苦笑しながら説明を始めた。何でも一人だけ集中的に狙われてしまい、隙を付かれてロープを巻かれ車で引き摺られてしまったそうだ。笑うに笑えない。

 

「次はアレだ。車引っ張って動かさないからだいじょぶだ。」

 

本人はそう言うが見聞きする方はリアクションに困る。古賀の話しを聞いているうちに雄くさい二人はキサラ様に沈黙させられていた。下腹部を押さえてうずくまっている。静かな今の内に裏を取った噂の事を話してしまおう。

 

空手部副主将の筑波がイジメられっ子の白浜に倒された事を言い伝えて、噂が本当であったことの確認も取ったと続けて話す。キサラ様はその白浜という男に興味を持ったらしく連れて来いと三人衆、辻隊長に命をくだす。彼等は同時に調子に乗っている新入生の不良にお灸を据える役を担っているので二手に別れるそうだ。細かい詰めは任せっぱなしにしてこの場は解散となった。

 

 

 

 

このアジトにはキサラ様専用のトレーニング場があり、解散後にキサラ様と組手を行って自身の実力の向上とキサラ様のストレスの発散を並行して行う。キサラ様には申し訳ない事なのだが私の実力が足りないせいで、組手よりサンドバッグ打ちの方が発散になっている様だった。もっとキサラ様に近づくため精進せねば。

一時間程練習を続けて、その後に交代でシャワーを浴びる。無論キサラ様専用のシャワールームだ。恐れ多いが使用させてもらっている上、先にお湯を頂いている。キサラ様はまだ一人でサンドバッグを打っているハズだ。練習後にすぐお湯を使えるようにと出来るだけ早くシャワーを済ませて着替えていると、

 

「お、白鳥か。お疲れ。」

 

宇喜多孝造が、入って、来た。私は、今、汗の匂いが着いた服に、消臭のスプレー、を、掛けて、いる。いるのだ、全裸で。

 

「なんだぁ?感じワリィなー。」

 

パシンッ‼︎

 

叩かれた?叩かれた。何処を?尻を。左側の、尻を。あ、宇喜多が左側で着替え始めた。尻、叩かれた。なんで?ノリ?服ボロボロだったな、そーいえば。あ、なんか言ってる。グラサン?それより尻だ。ナゼ尻?尻?尻?

 

「にしても白鳥よぉ、タッパは有るのに細いよなぁ。ちゃんと筋トレしてんのかよ?」

 

ペシペシ!

 

「なっははは、胸筋柔らかすぎんぞ。それじゃあ愛しのキサラ様に失望されちまうぜぇ。」

 

あ、うん。ムネか。ムネ。失望?いや、脂肪でしょ?柔らかくないと、尻だ。いやムネ?ムネムネ?

 

「いやさ、なんとプリッキャー劇場版の初日舞台挨拶があるチケットが取れてよぉ、もーマジで嬉しくてさ。」

 

プリ尻だ。ムネ?より尻。尻が嬉しくて?触った?いや、叩いた、のか?尻を。尻。ムネ?

 

「この幸せを分けてやりてー位なんだがな。あ、チケットは渡さんぞ。」

 

分ける?尻を、か?ムネはキサラ様に、だ。ヤりたい。ヤりたい‼︎何を!尻と!ムネは?尻なのか?

 

「じゃあな、お先に。」

 

パシンッ‼︎

 

あな、穴?去り際、にまた尻、を叩く?アナがあるのはムネ、じゃない。それはキサラ様に。アナが好き?尻尻なのか?え、ていうかなに?何をしに、来た?あ、服、スプレーしなきゃ、匂いが、何の?尻の?いや、汗、尻、じゃない尻じゃ。

 

「おーい白鳥ぃー。シャワー終わったかー?」

 

…あ、キサラ様。

 

「ん?裸で何してんだ?」

 

……いえ、何も。

 

「どした?固まっちゃって。」

 

………。

 

 

 

 




尻を叩くのはあだち充作のラフからです。はい。

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