「我流拳、撃壁背水掌!」
完成に近付きつつある雲のジュウザの技を不法侵入者にプレゼントしてやった。しかし何処かに変な力みがあるせいかカタギに見えない男は玄関から吹っ飛ぶ。せっかくの休日を潰されたのだ。後二、三発はぶち込まんと気が済まん。追撃に出ようと開けっ放しのドアから出るとメガネを掛けた女がいた。
「ん?テメェも仲間か?遺言はあの世でほざけよ?」
青ざめた顔をしているがアゴに手を掛けて上を向けさせる。オレの拳は男女平等だ。プリッキャー鑑賞を邪魔された挙句、土足で踏み込んで来たのだ。容赦の必要は微塵も感じない。
「まったぁー!ストーップストップ!」
何か知ってる声がする方を見たらラブやんさんとカズフサさんがいた。どうゆうことだ?
〜回想中〜
「そうなんですか。カズフサさんはこちらにお住まいなんですね。」
玄関でカズフサと楽し気に話す女性、ヤエちゃんが妖し気に笑いながら質問を重ねる。
「そういえば私大学生だし、そろそろ一人暮らし始めようと思うんですけどカズフサさんの隣の部屋とかって空いてますかね?」
「あー、コッチ側には知り合いの爺さんが住んでるけど反対は知らん。あんまり人見ないし大家さんに聞いてみたらどうかな?」
「そーなんですか。ありがとうございます。さ、行くわよドル山!」
ヤエちゃん、田口荘の管理人さんの元へ急ぐ。
「…フサさん、ヤエちゃんの目がマジ怖だったんだけど。」
「確かに表札のことで小一時間質問されるとは思わなかったよ。明日、いやあの勢いなら今日からお隣さんかね。」
なんやかんやでラブやんが押入れでダラダラダラリ、フサさんがインターネッツサーフィンでロリ画像をしていたら、
「カズフサさん!両隣がうまってるってどーゆーことなんですかっ!」
ヤエちゃんが部屋に突入して来た。
「うぉっ!ヤ、ヤエちゃんイキナリ何事?とゆーか鍵掛け忘れてたっけ?」
「鍵はドル山に開けてもらいました!そんな事よりも前からここに住んでいる権蔵さんはともかく、最近引っ越して来て私たちを引き裂く様な真似をしたのはどこのどいつですかっ!」
「……隣にいる、新しい人じゃないのかしら?」
ラブやんの突っ込みに対して剣呑な視線で答えるマチュピチュの娘ヤエちゃん。
「しかもそいつは男!カズフサさんの貞操の危機!見ず知らずの奴に良い人をケガされる位なら私が奪います!引越し祝い的なやつで私にください!」
「ヤオイ穴の安売りじゃ無いんだからさ。そういえばまだお隣さんからの挨拶も無いしコッチからもしてないな。」
カズフサが思い出す様に言えばドル山とヤエちゃんは視線を合わせ、
「そお、ふふふ…。まだお隣さんからの挨拶は無い。じゃ、コッチから挨拶に出向いて引越し祝いでそいつの部屋をもらいましょうか。」
「お嬢、場所のセッティングが出来れば純潔を頂く準備もすぐにできまさぁ。」
「そうね。すぐに行きましょう。」
マチュピチュの娘とドル山がまだ見ぬお隣さんに突撃をかける。それを見送るラブやんとカズフサ。何か無視出来ずこっそり様子を伺うことにした。
玄関から顔を出して隣りを伺う二人。見ればドル山はピッキングを終え部屋にカチコミをかけるところだった。
「おうおう!テメェがここに」どごぉっ!
「ぃ、イキナリ何しやが」ペゴメキョッ!
「そっちに首は曲がらな」ポゴッゴキン!
響く嵐のような殴打の音とドル山の悲鳴。ヤエちゃんはその様子を開けっ放しのドアからみていた。
パグン‼︎
一際大きな音がしたと思ったらすっ飛んで来るドル山。手すりにぶつかって宙に舞いながらフェードアウトした。
「ん?テメェも仲間か?遺言はあの世でほざけよ?」
ドアから出て来たのはプリッキャーの同志、宇喜田孝造だった。さすがにヤエちゃんが危ないため慌てて止めた。
〜回想終り〜
いや〜、まさかお隣さんが同志カズフサさんだったとは。オマケに引越しの挨拶も忘れてたよ。忙しかったとはいえ申し訳ないなぁ。
「何かいろいろと申し訳ないです。部屋の件でしたら自分が下に移りますんで、どうかご容赦下さい。」
「いや、うん。宇喜田君にそうして貰えるとコッチも助かるし、てゆーか悪いのはこの娘だし。何かゴメン。」
さすがカズフサさんは大人だな。自分みたいなガキに丁寧な対応だ。でも何で皆さん顔が青いのだろう。ここに引越した経緯を話したらなぜかラブやんさんが土下座をはじめるし。
「あとお母さんのことはここにいるキュー何とかのラブやんが責任もって対応するから。」
?オレの母親さんの再婚になぜラブやんさんが関係あるのだろうか。囲炉裏の会会長で、ゴスロリの会の会長である現旦那と水入らずで愛し合いたいからと追い出されたのだ。しかも二人の馴れ初めはリアルに飛んで来た弓矢に当たった所からというエキセントリックな内容。弓矢からかばったとかだったらわかるのだが。あ、もしかして弓矢を射ったのがラブやんさんだったのだろうか。そこの所を聞いてみたら、
「誠に申し訳ありません。責任者と日を改めてご挨拶に伺わせて頂きますのでイロイロとご勘弁下さい。まだ天使の輪を使わずに空を飛びたくありません。マジでお願いします。」
床に額をゴリゴリすり付けながら謝り続けるラブやんさん。どうやら予想が当たった様だ。責任者云々はよく分からないけど、自分としては今も迷惑を掛けている母親さんが幸せになったのだからに気にしないでもらいたい。
その事を伝えたら救われた顔を見せるラブやんさん。何だか喜び溢れるって感じだ。そして管理人さんに事情を話してヤエちゃんさんと部屋を代わった。まだ荷ほどきして無くて良かった。今度はシッカリと引越しの挨拶を忘れずにしましたとも。さあ、プリッキャーを見るとしますか。