忘れられていてるでしょう。
長々書くのは意味ないので、本編をどうぞ
指導訓練を終えたジェレミアとアーニャは、帝都ペンドラゴンでの用事を終えると漸く自由の身となった。
ナナリーに用意して貰った監視カメラなどが一切ない部屋で、二人は寛ぐ。
「明日の予定なんだけど」
「ん? どうしたのだ?」
「いや、御墓参りの後で少し寄りたい所があって」
「別に構わないが」
「そう、ありがとう」
会話はそこで終わり、各自の趣味へと戻っていく。
元々二人ともお喋り気質というわけでない。
そして、沈黙に耐えれないほど仲が浅いわけでもない。
どちらとも部屋着に着替えてベッドで寛いでいるが、やはり性格なのだろう。
ジェレミアは壁に背をつけ片足を立てて本を読み、アーニャはうつ伏せの格好で端末を弄っている。
1時間ほどお互いに趣味に没頭していたが、アーニャが欠伸をした事が決め手となった。
「シャワーはお先に譲るとしよう」
レディファーストだ、と冗談めかして言い、アーニャは頷いてバスルームに歩いて行った。
高いホテルだけあって浴室はかなり大きめである。普段使っている家には程遠いものの、一般家庭よりは豪華に作られているだろう。
余り長時間風呂に浸かるタイプではいアーニャだか、日本人は風呂と言えばキッチリ100まで数えてから上がると言う。
微妙に歪んだ日本の知識を持つジノが伝えたため、アーニャは怪訝そうに聞いていたがそれでも何となくで続けている。
それまで浴槽に御湯をためて浸かるという文化がなかった為、始めて実践した時はのぼせてしまったのは恥ずかしい思い出である。
しかも目を回しながら、浴槽に浮かぶ姿をジェレミアに見られたというのが更に恥ずかしい。
ジェレミアにピンク色の気持ちが無いのは重々承知であったが、目が覚めた後でその事実に気付き、殴ってしまったのは仕方の無い事であろう。
悪いと思っているが、アーニャには謝るつもりもない。
「97、98、99、100」
しっかりと声に出して数えてから上がる。
体を拭き、パジャマに着替えて、濡れた髪をタオルて巻いて声をかける。
アーニャが完全にバスルームから出るのを確認したジェレミアも、本を閉じて風呂に入る。
浴槽に浸かるというよりはサウナで篭る方が性に合ってるのがジェレミアだ。勿論、家にはサウナを完備している。
テキパキとシャワーを済ませて上がれば、まだ髪を乾かしているアーニャの姿があった。
髪を下ろして大人びて、水を滴らせる髪は色気を錯覚させるが、生憎とジェレミアは少女趣味ではない。
それに同じ屋根の下で暮らしている分、どちらかというと妹という方が感情的には近い。
同じくジノから教えられたように、購入しておいたコーヒー牛乳を片手を腰につけて一気に飲み込む。
「プファーっ!」
お決まりのセリフを言えば日本式の完成だ。
その姿を見慣れているアーニャは『やっぱり似合ってない』と内心で貶しながら髪を乾かす。
自分にはまだ手入れがあると、ジェレミアにドライヤーを貸す。
分かっていたようにジェレミアは受け取って髪を乾かし始めた。
両者の寝る準備が整えば後は就寝の時間となる。
二人とも夜更かしは昔の職業上余裕であり、短時間睡眠でも問題ないのだが、それを使う手段がないのだ。
共に自分の趣味というものが薄い。
エリート軍人と皇帝直属部隊、得意な事はナイトメアフレームの操作。
どちらも元貴族である為にある一定以上の教養と芸能系の腕はあるが、それは自分の格を高くする為の付属品である。心からこれがやりたいと思った事は残念ながらなかった。
平和な日々を過ごす中で見つけるのもそれはそれで楽しい事だ。
二人は平和な世界に順応してきている。
しかし、今日も夢を見る。
夢に見た夢を、もう手に入れられない幸せを。
翌朝、ジェレミアとアーニャはホテルをチェックアウトし久々の街並みを堪能している。
使い道の判らない、市で売っている小物を物珍しそうに見物するジェレミア。
学生時代にも街に遊びに行く事はあったが、それでも貴族として行ける場所は限られていたし、本当に必要な物なら家の者が全て手配してくれていた。
なので一人で庶民的な場所に来る事は大変少ない、その為に気分も高鳴っている。
そこでふと思い出したように辺りを見渡せば、洋服屋で店主に褒められながらも、困った表情をするアーニャを見つける。
やはり、どうしても妹と思ってしまうのは、もう二度と会えない妹の姿をアーニャに被せているからかもしれない。
アーニャよりは歳も背も高い、しっかりした妹であったが今はどうしているのであろうか。
そんな何度目かになる想いにふけて、淋しく思う。
ゴッドバルト家を継ぎ、上手く家業を再開させていると聞くがそれ以外の情報は全く知らない。知ってしまうと会いたくなってしまうからだ。それでもこの平和な世界で生きていてくれる事がなりよりもジェレミアは嬉しかった。
そしてそんなアーニャといえば、慣れない様子で洋服を手に取って鏡との間を行ったり来たりしていた。
ナイトオブラウンズになってからというもの、まともなオシャレなどした記憶がない。パーティや正装にはいつもラウンズの服装であったし、貴族の娘としての正装は心得ていても、街に繰り出すような服装などアーニャは知らない。
勿論アーニャとしてはそのままでも良かったのだが、セシルしかり、神楽耶しかりと知り合いの女性陣がそれではダメだと言い出したのが始まりである。
楽耶からは日本の伝統服を貰い、セシルからは新しい洋服を買ってもらっている。
そこまでされて無視できるほどアーニャも冷めてはいない。
化粧はまだ無理でも服装には関心を持つようになっていた。というよりジェレミアに子供の肌に悪いから止めなさいと言われているので化粧はだいぶ先の事になるだろう。
その後も二人はうろうろとウインドウショッピングを楽しみ、お昼を回る頃になると荷物をコインロッカーに預けて移動を開始した。
途中で花を買い、家でとれたオレンジを持っていく事も忘れない。
汽車に揺られて少々。目的地周辺に到着し、歩いて向かう。
見えてきた入り口から見える人影は殆どないと言っていい。
「やはりこの時間は少ないな」
「いるとしても場所が広いから分からない」
「それもそうだな」
ずらりと並ぶ墓石、この中には自分達が手にかけた者が数多く存在する。
心が全く痛まないといえば嘘になるが、それでも軍人として身につけている心構えにより重くのしかかってくる事はない。
好きな言葉ではないが平和の為の礎がこの墓石群なのだ。
入り口を通り、二人は進んでいく。
そこでふと、見覚えのある色が視界に入った。
「あれは……C.C.?」
「ふむ、そのようだな」
アーニャの声に目を動かせば、本当に久しい、それこそ最後の晩餐で会ったきりの間柄だった人物がいた。
そして疑問も湧き上がる。
彼女は世界を気ままに旅している筈だ。半年前に日本を離れ、今ブリタニアにいるのは考えにくい。もし、偶々寄ったとしても彼女が、敬愛する主の墓石をこんな昼下がりに訪れるだろうか。
歩きつつ考えに耽っていると、向こうもこちらに気が付いたのか、一瞬目を見開くといつもの澄まし顔に戻った。
「ほう……久しいな」
「本当に久しぶりだ。いつ戻ってきたのだ?」
「何時だろうな。この間まではユーロピアに居たのだがな」
「またピザ食べに行ったの?」
「なんだその言い方は。もう少しでEUの有名なピザは全て食べ終わるぞ」
軽口を叩き合いながらもジェレミアはやはり何かが変だと感じる。
これといった確証がある訳ではないが、何処か首を傾げてしまいそうだ。
そして疑問の答えは直ぐに出る事となった。
「ああそうだジェレミア」
C.C.はそう呟くと自然な動作で軽く腰を二回叩いた。
ジェレミアはその姿に驚きの表情を作った後、平静を装ってアーニャを手刀で沈める。
「よく覚えていてくれた」
「当たり前だ。我が主が考えた合図なのだぞ」
気を失ったアーニャを支えながらC.C.に返す。
数あるルルーシュのサインの一つ。それは今の動作である。
意味は邪魔者を排除せよ。
今回の場合は殺す必要はないので気を失わせる事で完了させた。
「それでアーニャにも聞かせられない話とは何なのだ?」
「どう説明したら良いか……」
ふむとC.C.は考えこむように顎に手を当てて視線を下げた。
「やはり説明するよりも実際に見た方が早いな」
要領を得ない発言に更に首を傾ければ、見たことのない様な笑みを浮かべている。
目尻が上がり、くすりと笑うその表情は一般的に悪戯をする子供に近しい。
今日は色々な表情を見せるとジェレミアは内心呟く。
「それで? 私はどうすれば良いのだ?」
「いいからついて来い」
楽しげな背中を追って墓地を歩く。
段々と奥に進んでいけば見えてくるのは皇族エリアだ。
勿論ジェレミアとアーニャの墓石もこの地域にある。
ジェレミアはルルーシュの墓石の近くにあり、アーニャもスザクの墓石からは割と近い位置に置かれている。
といっても目立って横という訳ではない。やはり家元の順位は存在するからだ。
無言のまま歩み続け皇族エリアに入ってからはキョロキョロと辺りを見渡して進むC.C.。
先ほどC.C.は見た方が早いと言っていた。
つまり探し人をジェレミアに紹介したいという事なのであろうか。
それにしたって疑問は産まれる。
まず、自分達の状況的に新しい人物はあり得ない。
表舞台から降りた者が新しく関係を作って何になる。
だとすれば同じ者達、あるいはこちらの状況を知っている人物。
それならC.C.と一緒に行動している意味が分からない。
C.C.は単独行動を好む。
一緒に行動する間柄など数えるほどしか浮かんでこない。それもジェレミアに態々合わせる人はいない筈である。
疑問を浮かべながら歩く事数分、C.C.は「ああ、見つけた」と呟いてジェレミアに振り返った。
視線を上げてC.C.の奥を見る。
夕日に照らされて良くは見えないが一つの墓石の前に人がいる事は分かった。
シルエットは男であり、細型。横顔は何処か憂いのある影を作っている。
そして何よりも気になった事が一つ。
あの姿をジェレミアは見た事があった。
仰ぎ見る事、付き従う事、先んじて道を作る事。
「あ、ああぁ……。で、殿下……」
余りにもか弱い呟き。アーニャを担いでる事すら忘れて地面に膝が近づいていく。
決してあり得ないと心の何処かで叫んでいる。
これは夢であると。
幸せな夢を見ているだけであると。
現に投げかけた声に反応してはいないではないか。
ジェレミアは崩れそうになる膝に力を込めて立ち上がる。
その間にC.C.が後ろからアーニャを引き剥がしたのは流石としか言いようがない。
ジェレミアはなりふり構わずに足に力を込める。
そして、
「……殿下あぁぁぁぁ!」
疾風の如く駆け出した。
これに驚愕したのはルルーシュだ。黙祷を捧げていると横から懐かしい声が大声で響いてくるではないか。
ゆっくりと顔を傾ければ凄まじい勢いで此方に迫ってくる男。
「じぇ、ジェレミア!?」
ルルーシュは素っ頓狂な声を上げてその場で跳ねる。
その顔、その声、我が意を得たりと加速するジェレミア。
ルルーシュの運動神経で逃げられる訳がなく。
気が付いた時にはジェレミアは土煙りを上げながらルルーシュの前に臣下の礼を取っていた。
正にスライング土下座ならぬスライング忠誠。
「殿下、お久しゅうございます!?」
「……お前も変わらない様だな」
「はい。殿下の言い付けを守り日々を過ごしております」
粛々と話し始めているがルルーシュには状況を全く把握出来ていない。
そこで一人この場を楽しんでいる人物に非難の目を向けて声をかけた。
「これはどういう事だC.C.?」
「まぁ良いではないか。私だけで独り占めするのも悪くはないが、丁度良く出会ってしまったしな」
「俺の存在が世間にとって悪だぞ」
「その男は我々と同じであろうよ」
ルルーシュは小さく舌打ちをしてジェレミアに向き合う。
確かにC.C.の言う事に間違いはない。気を失っているアーニャの事はさて置き、ジェレミアは紛れもなく共謀者である。
先程墓石を見た限り裏に徹する役目を得たのだろう。
しかし、ルルーシュは何処とない罪悪感に襲われる。
「ジェレミアよ」
「はっ」
「色々と疑問はあると思うが今は胸にしまっておけ」
「御意。このジェレミア、殿下に会えた事こそが至上の喜び。数多くを望む事などありません」
死して尚、自らを想ってくれる人がいるというのは素直に嬉しい。
だからこそ、その想いを踏み躙っている様な気がしてならない。
想いは届かないからこそ想うのだ。
半年の間、ルルーシュの死に想っていてくれた人がいるとする。
冥福を祈っていた人物が実は生きてましたなど三流喜劇並だ。
だからこそルルーシュは次の一言を言わねばならない。
「……ジェレミア、もう二度と会う事もないだろう。最後に言う事はあるか」
ルルーシュはサングラスを外し、罪の瞳でジェレミアを見つめる。
その瞳にジェレミアは息を呑んだ。
死者が生き返る事などこの世にはあり得ない。
あり得ないが、そんな不条理が目の前に存在しているのだ。
だからこそ、ジェレミアは失ってしまった時間をルルーシュに過ごして貰いたいと思っていた。
しかし、罪はそれを許さないようだ。
瞳に映る緋い鳥。
緋く、紅く、赤い、血溜まりの色。
お前はこの瞳が染まるほどの血を演出したのだ、そう言い聞かせるような咎人の瞳。
ジェレミアには何も言う事は出来なかった。
本当ならば色々と言いたい事はある。話したい事だって数え切れない。
けれども親愛なる御身がそれも是としない。
その決定にジェレミアが口を挟む事が出来るであろうか。
だから最後に、
「……御自愛ください。私は何時までも、何時までも殿下の家臣であります」
どうしても伝えたい事だけを言って終わりにした。
溢れる涙を堪え、堪えて塞き止める。
ルルーシュを送り出すのに涙を見せてはいけない。
臣下として、在るべき姿で送り出さねばならない。
ルルーシュもこれ以上何を言って良いか分からず、小さく動き出す。
そんな両者を見定め、C.C.は大きなため息をついた。
「呆れたぞ、全く」
「なんの事だ」
「ルルーシュ、お前はそれで良いのか?」
「俺には正解は分からない」
「ジェレミア、貴様はどうだ?」
「私は忠実なる家臣。ただそれだけだ」
またしてもため息をつくC.C.。
不器用な男だとは思っていたが、まさかここまでとは。
C.C.はニヤリと笑みを浮かべて問う。
「それで? この後は何処に行くんだ?」
「日本に行こうと思う」
「あーそれは困ったなあー」
C.C.はワザとらしく大変だと、素振りをする。
「なにがだ?」
「日本は入国が厳しいからな。私では手配することは無理かもしれないなー」
勿論これは嘘だ。
ブリタニアの上位陣に言わなくとも日本ならば神楽耶を頼れば直ぐにでも入国できる。
駄目押しとばかりにカレンに伝えれば一発だろう。
「お前の力でなんとかならないのか」
「無理だな」
C.C.がキッパリと断ればルルーシュは視線を下げて黙り込んだ。
今頃良いアイディアがないか模索しているのあろう。
「殿下、私ならば入国の準備を整えられます」
話の最中、チラチラとジェレミアを見るのだから馬鹿でも分かる。
これは一つ借りであろう。
「本当か?」
「はい。少々用事があり、近々日本に渡る予定だったのです」
「いや……しかし……」
煮え切らないルルーシュにC.C.はキラーパスを出す事にした。
「そういえばルルーシュ。ブリタニアにいる間にランペルージさんの果樹園に行くのではなかったのか?」
「そ、そうだったな! だからすまないなジェレミア、船の事は自分達で解決し――――」
「おお! 殿下が我が農園に来てくださるのか!」
「え?」
「我がオレンジ農園の味は抜群です。屋敷も広く、部屋数は十分あります!」
「いや、俺はそういう意味で」
まんまと引っかかったルルーシュは焦りながらも、C.C.を強く睨む。
「C.C.っ!?」
「ん? どうした?」
「お前、これを知っていて話しただろう!?」
「お前も言ったであろう? 」
C.C.は笑いを隠さずに、楽しげに告げる。
「面白い偶然だ。世界は狭い、とな」
今度の投稿も時間はかかります。
実は完成形は見えています。
終わらせ方も決まってます。
時間と文字起こしの気力の問題です。
今後ともこんな感じですが宜しくお願い致します。