ルルーシュが平和な世界を旅する   作:佐羅田

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お久しぶりです。

お待たせしました。


不変と変化

世界大戦時において、誰よりも名が通った人物は誰か?

諸侯反乱事件の際、反乱分子がこぞって狙った人物は誰か?

この問いは何種類もの回答が存在する。それは自らの地位であり、国であり、民族によって答えは変わってくる。

しかし、歴史の当事者、またはそれに近しい者の答えは何時だって誰だって同じである。

 

――――ニーナ・アインシュタイン。

 

大量破壊兵器フレイヤの開発者でありシュナイゼルお抱えの研究チーム『インヴォーグ』のチーフを務めた若き少女である。

フレイヤが撃たれれば戦争が終わる。

後に語り継がれることになった名言である。それは誇張でも大袈裟でもない。

第二次トウキョウ決戦しかり、最後の世界大戦しかり。

最後にフレイヤを撃ったものが戦争を、世界を支配してきた。

そしてもう一つ、彼女が狙われた理由がある。

確かに、フレイヤは強力だ。しかしフレイヤの作成のみならば別段彼女の必要はない。

他の研究者を拉致して作らせればいい。その出来が悪くても、例え10分の1の威力でも問題はないのである。

対戦に勝利するための条件。それは敵の戦力の無力化。

つまりは相手の兵器へ対策を練らなければならないのだ。

そこで狙われたのが彼女、ニーナ・アインシュタイン。

オリジナルのフレイヤを製造出来るだけでなく、対フレイヤ特殊兵器フレイヤ・エリミネーターの数値設計を知っている唯一の人。

第一作フレイヤ・エリミネーターの成功率は極めて低く、実践運用に乗せられるものではなかった。

しかし、機械とは時間をかければかけるほど熟成し正確性を見出していく。

最強の武器は最強の対策をもって完成となるのだ。

 

そんな今でも狙われ続けているニーナ・アインシュタインは現在、復興された帝都ペンドラゴンの中で暮らしていた。

ヒステリック体質のニーナだが、意外にも怯えたり、外に出られないといった症状は未だ出ていなかった。

アッシュフォード学園に出向くこともあれば、ミレイの家にも遊びに行ったりしている。

ニーナはニーナなりにルルーシュが作った世界、否、ユーフェミアが願った世界を守ろうとしていた。

 

『それで? こっちにはいつ来れそうなの?』

「んー、まだ解んないかなー。研究に進展があったから今は忙しくて」

『あららら。有名人は大変ね~』

「ミレイちゃんこそ有名人じゃない」

 

夜。深夜と言ってもいい時間帯。ニーナは習慣となったミレイとのテレビ電話を楽しんでいた。

 

『あたしはほら、ニュースキャスターだからね』

「そっちじゃなくて。特番の方」

『解っててスルーしたのよ。というか私ばっかり毎回毎回、なんで私ばっかりなのよ! 何回同じ話したと思ってる!』

「落ち着いてよミレイちゃん。私も声かけられるけど、出るわけにはいかないし。リヴァルはカチコチだったし」

『ほんとね~、リヴァルはいつもはお調子者なのに真面目な所に出るとああなっちゃうのが残念だわ』

「司会とかは上手くやるのにね」

『なんでかしらね』

和んだ空気が心地いい。

しかし、画面の向こう側でご飯を食べるのは止めて頂きたい。こっちまで食べたくなるではないか。

ニーナは飯テロに屈せずに時差を少し恨んだ。

アッシュフォード学園生徒会。ニーナにとっては凄く不思議な場所だった。

一番懐いていたのはミレイであったが、それでも一方的に少し距離を開いていた。

ルルーシュの事はいつも分からなかった。何を考えているのかも、何がしたいのかも。

そしてルルーシュにゾッコンだったシャーリー。彼女はいつも笑っていて、素直で、ニーナには眩しくて苦手だった。

リヴァルはミレイに対して隠さず積極的に思いを伝えていた、実ることは無かったが。

ニーナ個人として、リヴァルは話しやすい人であり、もしかすると二番目に心を開いていた人かもしれない。

様々に思う所はあったが、それでもニーナにとっても快適で凄く凄く不思議な場所だった。

 

『それでさ……聞いてる?』

「ん? なにが?」

『やっぱり聞いてなかったのね……。まあいいわ。それでアッシュフォードで行うダンスパーティーなんだけど』

「それには行けるように間に合わせる」

『そう、なら心配いらないわね。しっかしリヴァルも面白いこと考えるわよねー』

「卒業生並び関係者パーティーだもんね。招待制にするらしいけど、それでも結構の人数よね」

『そうそう。それに私はOG代表だし、本当ならニーナもだけど』

「私がそんな事出来ないって知っているでしょ? それに私は一応退学者だし」

『知っているから私がやんのよー』

「楽しみにしているね」

 

いじめっ子よろしくニヤリと笑って見せる。それに対しミレイは苦笑いで答えた。

 

『あ、そうそう。アッチの方は結局どうするの?』

「私は殆ど面識ないし、でも立場的には行った方がいいみたいだけど……」

『あーまだ悩んでるのね』

「……うん。カレンは行くみたいだけど。私が行ってもアウェーっていうか」

『それはそーなっちゃうわよね。でも、無理して行かなくても責められないと思うわよ?』

「ありがとう。決まったら今度話すね。それじゃあ私寝るから」

『はいはーい。おやすみなさーい』

 

お互いに手を振って回線を切る。

ニーナは椅子に深くもたれかかって大きく欠伸をした。

天上はシミ一つない真っ白な色、その中心に曇りのないライトが光っている。

ニーナは体勢を戻し、力なくベッドに歩いて行く。

そして枕元に置いてある一つの写真を掴んだ。

 

「ユーフェミア様、今日も一日いい日でした。研究も進展があり、とても充実しています」

 

寝る体勢を取り、ニーナは写真をもとの位置に戻す。

めまぐるしく変わる世界が落ち着きつつある今、自分に出来る事は決まっている。

心の中でもう一度ユーフェミアの事を呼びニーナは眠りについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、帝都ペンドラゴン内部。

豪勢な装飾を施された廊下を三人の人物が歩いていた。

一人は白衣に似た白く長い服を身に纏い、髪は寝癖のまま落ち着きがなくどこか眠そうな男。

二人目はオレンジ色の軍服を綺麗に着こなし、身だしなみをキッチリと整えた女。

三人目はよれよれの白衣をシャツの上に羽織り、キセルを手元で弄んでいる褐色の女。

 

「ねぇセシルくん。君なんで今日に限ってそんなに張り切っている訳?」

「何を言ってるんですかロイドさん。昨日二人に協力して頂いたおかげでいいデータが取れたんですから、今日が本番ですよ!」

「それは解ってるんだけどねぇ……。ニーナくんが起きてからでもよかったんじゃーなーい?」

「そんな呑気にしていられませんよ」

「プリン元伯爵も大概だけど、セシルもホント大概よね~」

 

三人の研究者はセシルを先頭にどんどん進んで行き、本殿と離れた研究所に足を運ぶ。

その間ロイドの小さい愚痴をセシルは問答無用と答えており、ラクシャータも眠そうな顔つきで小さな笑みを浮かべていた。

 

「というか前々から言おうと思っていたけど。そのプリン元伯爵って言い辛くない?」

「じゃぁなんて呼べって言うんだい?」

「そう言われると出てこないなー。セシルくんなんかいい案出して」

「えっ! そんな急に言われても……。名前呼びって言うのは……」

「プリンロイド」

「それはもっと嫌悪感が出ている気がするので却下」

 

ロイドは顔を引き攣らせながら、拒絶の姿勢を取る。

それにセシルは大体予想できていたと苦笑いをしてから考えだす。

んーっと声を出して頭を悩ませるがどうにも出てきそうにない。

すると、何かを思い出したようにラクシャータが声を上げた。

 

「そうそう。あんた等は行くのかい?」

「……パーティですか?」

「そっちじゃなくてもう一つの方だよ」

「僕とセシルくんは参加の予定だよー。勿論ラクシャータも行くんでしょ?」

「当たり前さ。アイツ等の機体のメンテは私がしていたからね~」

 

皮肉でも込められると予想していたロイドは多少面食らったように呟く。

 

「ラクシャータにそんな感情があったなんて」

「私もあのZEROに魅入った一人って事さ」

「それも全部ギアスがあったからかもね~。おめでとー!」

「ロイドさん! 不謹慎ですよ!」

「まぁ私はギアスがあってもなくても変わらないと思うけどね~。アイツの才能はピカイチだよ」

「天才ラクシャータがそこまで褒めるなんてルルーシュ皇帝は幸せ者だな~!」

 

冗談めかした様に叫び、カードを入れて扉を開ける。

中には至る所に機械が設置されていて、開発中のKMFが画面に表示されていた。

 

「いやー。にしてもオレンジくんとあの小っちゃい子は本当に凄いね~」

「アールストレイム卿は元ラウンズですし、オレンジさんも凄い方ですから」

「君たち、一応それは機密事項なんだけどなー。分かってる?」

「す、すいません。それにまた私アールストレイム卿と……」

「アーニャちゃんってちゃんと言ってやりなさいな」

「そうですよね。本人の希望ですし」

「そういう事じゃないんだけどなー……もういいや」

 

ここからは常人にはついて行けない天才によるマニアの討論が始まる。

現在開発されている新型のKMFの機体性能は他のモノと比べるのがバカバカしくなるほどの代物。これを乗りこなせれる者がいるとするなら、その人はもう人を超えた何かだろう。

勿論三人もそのことは十分理解している。しかし、趣味というか生き様というか、こればっかりは本能に逆らう訳にはいかない。

もはやプラモデル感覚で自分達の描く最高のパーツを企画していく。

この中で最もイキイキとしている人物は言わずとも分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリタニア本土、帝都ペンドラゴンに見守られるように作られた広い広い敷地には様々な墓が大量に並んでいた。

元々はブリタニア皇族や許しを得た貴族、目覚ましい活躍をした軍人だけが墓を作ることが許された土地は、ナナリー代表の下全ての人々が墓を作れる場所になっていた。

その内の実に60%もの墓には骨や肉体は入っていない。その全ては戦争や紛争で無くなった者達だからだ。

 

「これは……探すのが大変だな」

「ああ、全くだ」

 

地図を頼りに訪れたルルーシュとC.C.だったが、あまりにも広大な光景に思わず言葉が漏れていた。

キチンと清掃された墓地は汚い、薄暗い、近づき辛いという印象はなく、ルルーシュ達以外にも人はチラホラと存在していた。

しかし、このまま立ち止まっている訳にもいかない。二人は敷地に足を踏み入れた。

 

「この場所はお前の良い懺悔場になりそうだな」

「……ああ。この墓石に書いてあることから察するに、俺が駒として使っていた奴の一人なんだろうな」

「後悔しているのか?」

「まさか? と言いたいところだが、他の良い手があったかも知れないと思うとどうも」

「お前、死んでやっぱり少し変わったな」

 

隣を歩くC.C.がニヤつきながらルルーシュに言う。

 

「そうだな、前までの俺ならこうは思わなかっただろう。俺は人を、国さえも利用できるものなら全て利用したからな。知らない奴が死んだってなんとも思わなかったさ」

「何がお前を変えたんだか」

「……お前だよC.C.」

「なぁっ!?」

「というのは冗談で……ん? どうした?」

「なんでもないっ!」

 

面食らったC.C.は顔を赤らめながら強く言いきる。

前までのC.C.ならば「冗談はよせ」と一蹴していただろうことから考えると、C.C.にもきっと気付いてないだけで変わった部分はあるのだろう。

 

「多分、余裕が出来たからってのが一番だろう。今の俺には無限ではないが制限されていない時間が多く存在する。そう思うとじっくり考える事が多くなってな。お前の言う通り感傷的になってるかもしれない」

「急に爺臭いことをいうな」

 

道の両幅にある墓石には様々な生きた証が連なっているが、ここにルルーシュやC.C.の知っている名前はない。ルルーシュが駒として使っていたとしても、覚えていないし、顔を見たからといって思い出せるものではない。

ルルーシュは改めて自分が魔王だったと自覚する。

歩いて行くと、少し大きめの墓石が並ぶエリアに入っていた。

 

「ここは……どうやら皇族達のエリアの様だ」

「ならばここら辺に俺のモノもあるって事になるな。ふふ、自分の墓を探すのいうのは中々どうしておかしいものだ」

 

二人は別々に捜索しつつ、話し合う。

 

「これはギネヴィア姉上。それにド家の墓だな」

「こっちにはカリーヌのネ家の墓があるぞ。中には何も入ってないだろうに」

「その他にも……死んだ後も自らの権力を象徴するようにやはり大きいな」

「それはどの国でも変わらんさ、それこそ時代が変わっても何千何万ともな」

 

ルルーシュはやけに説得力のあるC.C.の話を聞きながらオデュッセウスの墓の前に立ち止まった。

オデュッセウスを一言でいうならば凡人。

これがルルーシュが思う長男の姿だ。

ブリタニア皇族の中では極めて稀な温厚で善良な性格であったが、その為に向上心も才能も人並み、自ら前に立つことを心の奥では嫌がっていた。

けれど、小さい頃は何度も遊んでもらった思い出がある。

 

「貴方は皇族には向かなかったが、とても良い人でした」

 

目礼をして右隣の墓の前に行く。

墓標に書かれている名前はクロヴィス・ラ・ブリタニア。

ルルーシュが後に引けぬように最初に殺した腹違いの兄。

総督としての才能は三流も良い所で頭も悪い、小さい頃はいつもいつも負ける勝負を挑んできて正直面倒だった。

しかし、そんなクロヴィスが唯一ルルーシュに勝っていた才能、それは芸術だった。

どんな風景画でもどんな作品でもルルーシュは一度も勝てたことが無かった。それはコンクールの審査員が付ける取り繕った評価ではなく、小さい頃の自分が何より認めてしまった事だった。

 

「貴方は誰かの二番煎じのような総督だった。私との勝負はいつも私が勝ちでしたね。ですが、貴方の芸術作品は尊敬していました」

 

死んだ人間に何を行ったところで変わるものではないが、ルルーシュは心の内にある思いを自然と口に出していた。

そして次にルルーシュが向かい合った墓に眠る(いやこちらには眠ってないと思うが)人物を思い返すと、胸が締め付けられるように痛くなる。

 

「ユフィ」

 

ポツリと力のない言葉が漏れた。

ギアスユーザーの覚醒と共に起こってしまった惨劇は全ての国民の記憶にも、歴史の記録にも強く残ってしまっている。

心優しく、そして強く生きていた初恋の少女を、穢してしまった罪。そして親友の恋人を失わせてしまった罪。

魔王ルルーシュが真っ赤な罪の瞳から涙を零して、それでも殺してしまった過去。

 

「ユフィ、君の描いた幸せな世界は今ここに存在しているよ。それもナナリーとスザクが見守る中でだ。俺は……なぜだか生き返ってしまった。笑えるよな、よりにもよってこの俺がだ」

 

顔を隠すように手を置き、自嘲気味に笑う。

 

「一度は自殺しようと考えたこともあったが、もう俺は迷うことはしない。いや、迷うことは許されないんだ」

 

ユーフェミアの慰霊碑は日本に建てられている。ルルーシュは日本に訪れる際は出向こうと最初から決めている。

墓石から離せるように踵を返して歩き出した。

 

「また会おう、ユフィ」

 

 

 

 

 

 

何とも面倒な場所だ。

C.C.はぐるりと辺りを見渡して、視界いっぱいの墓石を眺める。

ルルーシュは懺悔というか先ほど自分が言ったように爺臭く思い巡らせていた。

何を言っているのかを聞くのも野暮であろう。

C.C.はルルーシュの墓を探しながらも、少し距離を開いて歩いていた。

気が付くと皇族のエリアを抜け、一般人のエリアに来ていた。

 

「ほほう。まさかアイツの墓まであるとはな……」

 

意外だと思う気持ちを隠さずに、目の前の墓石を見る。

ディートハルト・リート。主義者ではないが、黒の騎士団に参加したブリタニア人。

その生き方はまさに報道者の塊。有能な男であり彼の情報は全て役に立ったと言ってもいい。ZEROであるルルーシュが逸材とまで評価した男だ。

しかし、C.C.はどうも好きになれない男だった。それは何かがあったわけではなく、生理的なものからだ。

 

「お前にも墓が作られたんだな」

 

どんな人物であろうが、そこには物語があり、全ての人間から嫌われる人などいないかもしれないと考えさせられる。

 

「私はお前の事がどうも好きになれはしなかった。理由は分からないがな」

 

興味を失ったように歩きだし、思い出した様に呟いた。

 

「あ、一つ言いたかったことがあった。あの髪型はとても面白かったぞ」

 

クスリと笑いもう一度歩き出した。

今頃ルルーシュは誰と話しているのだろうか。

 

「まあいいさ。時間はたっぷりあるんだ。私もマリアンヌとシャルルには話したい事もあるしな」

 

C.C.は不謹慎だが、墓地の中を少し楽しげに歩く。

それは自分がこれから話したい事を想像してなのか、この後どこに行こうかなのか、それとも単にピザが食べたいだけなのか、それはC.C.自身にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時同じくして、二人の人影が墓地の入り口から歩いて来た。

一人の手には花があり、もう一人はバスケットを抱えている。

久しぶりに見る光景に懐かしさを覚えながらも、慣れた表情で歩いていた。

そして、花を持っていた人物が、ふとどこか見覚えのある人影に目を凝らした。

 

「あれは……C.C.?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、いう所でいったんお終い。
続きは次回になります笑。

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