ルルーシュが平和な世界を旅する   作:佐羅田

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サブタイを『教えて!C.C.先生☆』にしようとしてやめた。


暖かさの大切さ

C.C.が予約した部屋に入るとルルーシュは感嘆の声を上げた。

それも仕方がないことだ。

生き返ってからというものまともに暖を取ることもできず、ソファーといった柔らかい道具の上に腰を下ろすこともなく、無慈悲に寒さを伝える地面や鉄板を椅子としてきた彼にとってはまさに天国のようにも見えた。

 

「まずは……そうだな。軽くシャワーでも浴びてきたらどうだ?」

「俺は今すぐにでも眠りにつきたいんだが」

「そういうな。それに服も着替えた方がいいだろう? 私は色々と用意しておくから体を暖かくして来い」

「それもそうだな。……では借りるぞ」

 

あれこれ考えたがやはり体の芯には寒さが残っている。

ここは素直に従っておくべきだ。

ルルーシュはフラフラした足どりでドアを開けてシャワーを浴びに行った。

 

「食べ物と着替え、それから……」

 

C.C.は必要なものを並べるように言葉を発して考える。

あの様子だと食べ物もろくに口に入れてないのだろう。最後に見た時よりも痩せていて、弱々しかった。

久しぶりの再会に歓喜するのはどうも時間が早いようだ。

C.C.はカウンターに電話をかけて要件を伝え終えると、ソファーにだらしなく座りテレビの電気をつける。

夜番組の今時はニュースばかり流れていて、これといった興味を引く番組は存在しなかった。

ポチポチと適当にリモコンを押していき、その指が止まった。

画面に映りだされているのは大きなボードとその横に並ぶ大人たち。

それぞれ下に評論家だの、歴史研究家だのといった自己の役割を示すプレートが張られている。

 

「ミレイのやつも大変だな」

 

くすっと笑い、いつものオチャラケた服装ではなく清楚感あふれる服を身に纏って座っているミレイ・アッシュフォードをみる。

緊張こそしていないものの、多少疲れているのが見て取れる。

といってもこれはC.C.が長い人生で養った能力であり、一般人から見れば変化には気付かない程度ではあるが。

 

「よくもまぁ、懲りずに同じやり取りをできるものだ」

 

画面右端に写るタイトルは『第99第皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの素顔について』、つまりはルルーシュ討論会である。

こういった内容の番組をすでにC.C.は嫌というほど見ている。

その度にミレイは駆り出されていて、同情したのも記憶に新しい。

ミレイがルルーシュの計画を知っているはずがなく、実際に話しているは生徒会や学園での態度など関連ばかりである。

余談であるが前にリヴァル・カルデモンドもゲストとして呼ばれたことがあったが、いつもの飄々した態度をどこに置いて来たのかカチコチに緊張してほとんど喋れていなかった。

 

『……それでも私はルルーシュ皇帝が行った政策には評価の声を上げられずにはいられません』

『それはそうでしょう。長い歴史を誇ったブリタニアという国を根元から、悪しき風習を取り払ったのですから』

『それについてミレイさん。どう思われますか?』

『そうですね……ルルーシュ皇帝は――――』

 

流れるやり取りをぼーっと見ていたがトントンとドアを叩く音が聞こえ立ち上がる。

扉を開けると立っていたのは白い服に素敵な笑顔を兼ね揃えた女性の乗務員であり、トレイを壁側に置いて一礼した。

 

「お届けに参りました」

「後はこちらでやっておく。戻ってもいいぞ」

「では、また何かおありになりましたらお電話ください」

 

すっと頭を下げて元来た道を戻る乗務員が角を曲がったところでトレイを台車ごと中に入れる。

ルルーシュが上がる気配を感じたC.C.はリモコンを適当に押してチャンネルを変え、同じようにソファーに寝転んだ。

 

『C.C.俺は何を着ればいいんだ?』

 

シャワールームから聞こえてくる声に首だけ動かして反応する。

 

「棚の所に適当な服が置いてあるだろう? それを自由に使ってくれ」

『すまないな』

「なーに。それぐらい容易いことさ」

 

(私はそれ以上にお前から救いを貰ったからな)

心で呟き、テレビに顔を戻す。

ニュースで取り上げられているのはベルギーのブリュッセルに置かれているEU本部で行われている超合集国の代表会議についてだ。

画面には日本の首相である扇要が演説している姿が映し出されていた。

 

「ほう、扇のやつ案外しっかりと仕事をこなしているじゃないか」

 

スエット姿に首からタオルをかけた珍しい恰好でルルーシュは感想を言う。

 

「あの後あのブリタニアの軍人と結婚したらしいぞ」

「ヴィレッタとか。素晴らしく充実していそうじゃないか」

 

C.C.の隣に座り一緒にテレビを見る。

演説内容は発展途上国における急な都市開発による環境問題において。

要約すると国同士の利潤を考慮したうえで、有害排出物の制限をかける条約の草案及び会議を行うということ。

ルルーシュはふむふむと頷いて画面に夢中になっていたがC.C.はリモコンをとっさに手に持ち、突如電源を落とす。

 

「なんで消した……」

「何残念そうにしてるんだ馬鹿者。それよりも遅めの夕食だ」

 

トレイをテーブルに乗せ、蓋を開くと出てきたのはサンドイッチに紅茶だった。

 

「てっきりピザだと思っていたんだが、どうやら外れたらしい」

「私がいつでもピザばかり食べてると思うなよ?」

「ポイントまで集めていた奴が言うセリフではないな」

「いいからさっさと食べろ」

 

ルルーシュは適当に返事をしてから食べ始める。

シャキッとしたレタスとハムの味が口の中で広がり、懐かしさがふつふつと記憶の底から蘇ってくる。

 

「旨いな……安めの客船の割には中々の味だ。ところでC.C.」

 

顔を横に向けて話題を振るが先ほどまで居たのにどこへ行ったのやら、そこにC.C.の姿はなかった。

 

「アイツどこ行ったんだ……?」

 

辺りをきょろきょろ見渡しても姿はどこにもなく、影すらつかめない。

「まぁいいか」と食べ進めていると、後ろの方からカラカラと音が聞こえてきた。

何事かと振り向くとそこにはクリップボードを押してこちらにやってくるC.C.が居た。それもビシッとしたスーツを着こんでメガネまでかけている。

 

「なんだその恰好……?」

「見て分からないのか? どこからどう見ても教師に決まっているだろう」

 

メガネをクイッと上げて光らせる。

疲れもあってかルルーシュはただただため息をつき、手を額に当てる。

 

「仮に、仮に教師の格好だとしてなぜそんな格好になってるんだ?」

「これから授業を行うためだ」

「……なんの授業だ?」

 

その質問を待ってましたとばかりに軽く笑い、ボードに手をかけて回転させると裏側には文字が書かれていた。

 

「C.C.先生によるよく分かる近代世界史ー」

 

パフパフひらひらと音楽がなりそうな口調で読み上げ、さらにルルーシュは頭を悩ます。

 

「まぁ聞け。お前にしてもあの後どのように世界が動いて来たか知りたいだろう? それを講義してやると言っているんだ」

「確かにそれはありがたい。ありがたいがタイミングを考えろ、俺はもう寝たいんだ」

「私はまだ眠くない」

 

両者一歩も譲らず重い沈黙が流れたが、諦めたようなため息が聞こえた。

もちろん折れたのはルルーシュの方だ。

 

「分かったよ。折角なのでお願いしよう」

「ふふ、素直じゃないな」

「黙れ魔女」

 

C.C.は同じようにまた笑った後、文字を消して新しく書き始めた。

ボードにペンを走らせながら、退屈そうに見ているルルーシュに口を開く。

 

「といっても私はずっと旅してたからな。各個人の詳細は分からない」

「それはこれから旅で分かることだ、気にしなくていい」

「言うと思ったよ。さてまずはお前が死んだ後の世界情勢についてだ」

 

ボードにはEU、中華連邦、ブリタニア、超合集国と書かれていた。

 

EU(ユーロピア・ユナイテッド)――つまりユーロピア共和国連合は解体され、新しくEU(ユーロピアユニオン)と変名された。これには欧州の全ての国が加盟している。つまりは欧州連合だな」

「まぁ想定内だな。俺も時間があれば行っていた」

「流石はシュナイゼルと言ったところか?」

「その通りだ」

 

EUの文字に情報を書き込んだ後、今度は中華連邦の文字にペンを当てた。

 

「次に中華連邦だが。特にこれといっての変化はないな、合衆国中華に変わったが変わらず天子が代表を務めている」

「大宦官もシンクーが全て消し去ったし建設の際は俺も手伝ったからな」

「そういう事だ。次行くぞ」

 

簡易な世界地図を書き、所々に色を塗っていく。

その地域にルルーシュは見覚えがあった。所々に塗られる場所はかつてブリタニアが占領し、ルルーシュが解放した数字を与えられた国たちだ。

 

「ユーロ・ブリタニアは解体されそれぞれの地域区分に分かれていった。そしてブリタニアは国土が減り、超合集国での投票権による揉め事は解消された」

「上手くいっているんだな」

「そうだな……続けて超合集国だが、一応の本部は設立されているが殆ど持ち回りで会議場所が変わるな」

「経済力の上下を取り払うためか。各国が一つの場所に集まるのではなく、かく地域連合に赴くことで平等を謳っているわけだな」

「そうなるな。この前は日本、その前は南部のどこかだったか。そして今回がEUだな」

 

C.C.は説明をぱっぱと済ませると文字を消してルルーシュの隣に座った。

 

「そして次はその過程で起きた出来事だ」

「語るほど大層な出来事が直ぐに起きたのか!?」

「慌てるな……。なぁルルーシュ、確かにお前は世界の憎しみと一緒にこの世から去ったかもしれない。しかし、個人の、人間の憎しみが消えることなんてありえないんだ」

 

優しく、儚くC.C.は語る。

 

「お前が死んだあと世界は少しの混乱を招いた。悪逆皇帝に従っていた貴族、いや元貴族が自分の利益を優先しようとこぞって競いだしたんだ。当然血は流れた」

「けして予測できなくはない未来だが……難しいものだな」

「ああ、そうだな。結局一部の暴動は直ぐに鎮静化され、今は文字通りの平和だがな。そして世界は貧困や発展途上国を手助けしている」

 

冷めた紅茶を飲み、話すことは終わったとC.C.はくつろぐ。

同じく紅茶を飲んでいたルルーシュだったが思い出したように口を開いた。

 

「そうだ。軍事、つまり黒の騎士団のその後はどうなったんだ?」

「私の分かる範囲でいいか?」

「構わない」

「超合集国憲章に則り、世界の軍事は黒の騎士団一つになった。しかし、事が起きた時に直ぐに世界のどこにでも向かうってのは無理があるだろ? だから各諸国連合、例としてEUで言うならwZEROという機関がヨーロッパ圏を警護している」

 

「だから軍服を来ていたのか……」

「何をぶつぶつ言っている?」

「いや、なんでもない。ただ俺が初めて会ったやつが軍服を着ていてな、あの時はじっくり考える余裕がなかったが今考えてみて疑問に思ったってだけだ」

「そういうことか」

 

他にも聞きたいことはあるがルルーシュの睡魔は限界に達しようとしていて、今ならこのまま眠れてしまえるほどだ。

C.C.も質問が来ないので話は終わったと結論づけて着替え始める。もちろん場所を移動してからだが。

着替えながらC.C.は船を漕いでいるルルーシュに声をかける。

 

「ルルーシュ。寝るならベッドで寝ろよ」

「いや、俺はソファーでいい。ベッドは一つしかないようだしな、お前がそっちで寝ろ」

「私こそソファーでいい。今日は譲ってやる」

「……何から何まですまないな」

 

フラフラと歩き、ベッドに倒れこむ。電気が消されて夢の世界へと飛び立つ寸前のルルーシュは背中から暖かさを感じて起き上がった。

 

「……何をしている?」

 

同じく布団の中に入り、こちらを向き寝ている女が一人。

髪は長く透き通る様に綺麗な緑色、月光に照らされてなお光っている。

ニヤリと不敵に笑ったのは紛れもなくC.C.だった。

 

「寝ているんだが?」

「ソファーで寝ると言っていただろう?」

「いいと言っただけで寝るなんて一言も言っていないぞ?」

 

騙されたなと言わんばかりの表情を作るC.C.をみてため息を一つつく。

言い争っても無駄な体力を使うだけだと知っているルルーシュはベッドから降りて歩き、ソファーに寝転んだ。

 

「結局こうなるのか……」

 

もう一度ため息をついて眠ろうとすると、今度はさっきよりも大きな範囲で暖かさを感じた。

横を向いて寝ているルルーシュは首だけ動かしてうんざりした様に言う。

 

「いい加減にしろ……」

「なんの事だ?」

 

聞こえてくる声はニヤニヤとしているのが分かる口調。ルルーシュはもう一度口を開いた。

 

「お前はベッドで寝るんじゃなかったのか?」

「気にするな」

「気にするに決まっているだろう。二人でソファーは狭い」

「私もお前も細いから心配はいらないだろう? それに私は寝相がいい」

「そういう問題じゃないだろう!」

「煩い。叫ぶな、寝るぞ」

 

もうどうにでもなれとなるべくルルーシュはソファーの背に近づいて寝ようとする。しかし、そんな気休めが出来るほどの広さではないのでほとんど意味はなかった。

 

「なぁルルーシュ」

「……なんだ」

「暖かいな」

 

からかうような口調ではなく、たまに見せる優しい口調で話すC.C.。

ルルーシュは返事をせずに考えていた。

しばらくぶりに感じる人の温もり、前世……というには語弊があるが前の自分はこういうものからはどんどん離れていった。

常に戦場に立ち、指揮を取り、世界の注目を浴びながら世界を変えようとしてきた自分。

その一方で何度か人の温かさを知り得た時もあった。

こいつに、C.C.に会ってから人との繋がりをより深く知ることが出来た。

深く傷ついたこともあるが、ギアスを貰ったことはけして最悪だけが残る物ではなかった。

そもそも多くの人に出会えたのも元をただせばこいつと"共犯者"になってからだった。

 

「C.C.」

「ん? なんだ?」

「……一度しか言わないぞ」

「もったいぶらずに言え」

「その……だな。――――暖かいな」

「――――ああ、そうだな……」

 

ふふっとC.C.が小さく笑った気がした。

これ以上の会話は今日は必要ないだろう。

広いベッドには誰も居らず、無人なまま月の光が当たっている。

そして暗く狭い場所には二人の住人が。

皮肉なものだなとルルーシュは笑う。

そう、自分たちは光の当たる場所の住人ではない、狭く暗い場所が似合っている。

 

しかし、同時にあちらにはない物を自分たちは持っている。

 

それはとても大事で、人には必要なものだ。

(暖かい。本当に人の温もりというものは不思議だな)

 

「お休み『  』」

「ここで名前を言うのは反則だろ……」

 

ルルーシュは目を閉じて、眠りにつく。――――背中を"共犯者"に任せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォォーール・ハイル・ルゥルゥ――シュゥゥーー!!」

「ジェレミア、煩い」

「おぅ……すまない。ただ我が主が夢の中に出てきた故」

「そんなんでいちいち大声出さないで、隣の部屋まで聞こえてきてる」

「悪かったと言っているだろう? 早く寝たまえ明日も忙しいぞ」

「そうだね。お休み」

「お休みだアーニャ」

 

 

 

 

 

「オォォーール・ハイル・ルゥルゥ――シュゥゥーー!!」

「煩い!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後ふざけました(笑)

コードギアス反逆の方では初EUをEuro Universe(ユーロ・ユニバース)となっていますが、亡国ではEuropia United(ユーロピア・ユナイテッド)となっているため、アキトやマルカルを出したので亡国の方を取りました。

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