愛し合っていながら、けれど幸せへと至れず苛まれ続ける加賀。
提督。
私は貴方を。
貴方は私を。
私は貴方を好いている。
貴方は私を好いている。
私は貴方を求めている。
貴方は私を求めている。
私は貴方を欲している。
貴方は私を欲している。
私は貴方を認めている。
貴方は私を認めている。
私は貴方を乞うている。
貴方は私を乞うている。
私は貴方を期している。
貴方は私を期している。
私は貴方を望んでいる。
貴方は私を望んでいる。
私は貴方を追っている。
貴方は私を追っている。
私は貴方を祈っている。
貴方は私を祈っている。
私は貴方を抱いている。
貴方は私を抱いている。
私は貴方を尊んでいる。
貴方は私を尊んでいる。
私は貴方を希んでいる。
貴方は私を希んでいる。
私は貴方を願っている。
貴方は私を願っている。
私は貴方を想っている。
貴方は私を想っている。
私は貴方を愛している。
貴方は私を愛している。
私は貴方という人を。
貴方は私という人を。
男を女を。人間を艦娘を。互いの存在を。
愛し、愛し合っている。
身体を痛烈な痺れで震えさせ猛々しい豪炎で焼き上げるような、崩壊をも伴いかねないほどの濃密な情動を以て。
心を芯の底の最奥の本質から蕩けさせ、満ちる想いに弾け飛ばんほど注がれる想いに握り潰されんほど、それほどの想いの奔流に溢れさせ塗り潰すような、筆舌に尽くせない狂おしいほどの強烈な感動を以て。
私と貴方は愛している。
想いを紡ぎ、想いを交わし、想いを尽くして、
私は貴方を愛し、
貴方は私を愛し、
私と貴方は愛し合っている。
そこにはわずかの嘘もなく、かすかの打算もなく、些かの偽りもない。
本当の愛を以て、真実の愛を以て、至高の愛を以て、私たちは互いを愛している。
一方的なものではない、相互のもの。
染めあい、高めあい、重ねあう、互いが互いを向いた相互のもの。
私と貴方は愛し合っている。
好み、想い、愛し、結ばれている。
確かな結び。揺るがない関係。絶対完全な繋がり。
私と貴方は決して絶たれない。
私と貴方は未来永劫、この淀みのない純粋な愛を以て結ばれ続ける。
誰も邪魔はできない。何も入り込めない。他のどんな誰もどんな何にも侵すことなどできはしない。
至高の愛によって、私たちは真実決して分かたれず結ばれ続けていく。
今もそうして、結ばれている。
――提督。
私は貴方のことを愛しています。
心の底から、全身全霊を以て、私という存在のすべてを懸けて貴方という人を愛しています。
私の愛は、私自身のありとあらゆる何もかもすべてを捧げたもの。
私の過去、現在、未来。
私の身体、心、在り様。
そのすべてを捧げたもの。
私の地位も、名声も、財産も、そのすべては愛する貴方へ捧ぐもの。
私が築き上げるもの、私が持ち得るもの、私が紡ぎ出すもの、そのすべては愛する貴方へ捧ぐもの。
私の尽力は貴方が為。私の成果は貴方が為。私のすべては貴方が為。
貴方が為。私という存在を構成し私という存在を取り巻く何もかも、それらは余さず貴方が為。
愛する貴方の、愛する貴方だけの為に自身のすべてを捧げて尽くす。
他はない。私の愛、私の世界には二人だけ。
私。貴方。二人だけ。
身体、心、私という存在は貴方にのみ捧げられるべきものだから。
他に触れる必要はなく、他に揺れる道理はなく、他に関わる意味はない。
だから私には貴方だけ。
私の世界には貴方だけ。
私には貴方だけがいればいい。
私は貴方にだけ捧げられ、私の世界は貴方にだけ満ちていればいい。
誰も、何も、他は要らない。
愛おしい貴方とだけ繋がって、重なって、結ばれていればそれでいい。それがいい。それこそが至高。
自身のすべてをあなたへ捧げ、自身のすべてを貴方に満たす。
貴方が至高。貴方が最上。貴方が世界。貴方こそが私の意味であり夢であり、私のすべて。
それが愛。貴方へと贈る、私の愛。
――提督。
私と貴方は愛し合っています。
私の好意に貴方も好意を、貴方の想いに私も想いを、互いの愛に互いの愛を贈り合い、そうして私たちは愛し合っています。
どんな介入も許さない。どんな邪魔も叶わない。どんな例外も起こり得ない。
それほど強く繋がっています。私と貴方の間はそれほど深く固く繋がって、並ぶものなどあり得ない唯一比類なき絶対性を以て結ばれています。
私の愛は――私から貴方へと贈る愛は今、まさにその在り様を叶えています。
私には貴方だけ。貴方こそが私の世界。今の私はただ貴方へとだけ捧げられ、ただ貴方にだけ満ちている。
私の愛は今こそ叶い、叶っている。
満足。甘心。充足。
望む通り、願う通り、祈る通り、私の愛は実現しています。
そこに負はありません。私のすべてである貴方への愛が叶っている今、そんなものは何一つ。
あるはずがない。あり得るはずがない。決してありなどしていません。
私の愛、私からの愛は、今まさに完全です。
――。
――、――――。
――――、――、――けれど。
けれど、しかし、それなのに今、私はまだ――この、こんな、ここに是を唱えられないでいるのです。
否。否。否。
私の愛は叶っていて――けれど、私の貴方は叶っていない。
違う。まだ違う。これは違う。
私は今そう唱える。
許さない。許せない。認めない。認めたくない。受け入れられない。受け入れたくない。
辛い。寂しい。悲しい。嫌だ嫌だ嫌だ。
そんな感情や衝動を抱き、私は是を唱えず、この今に否を唱えているのです。
私の愛は叶っているのに。
私は貴方を愛し、貴方は私を愛している。私たちは結ばれているのに。
どうしようもなく満たされて、どうしようもなく結ばれて、どうしようもなく愛し合っているのに。
――けれど、貴方の愛は違うから。
だから私は、今もこうして是を唱えることができずにいるのです。
貴方の愛は、提督の愛は、無限の愛。
贈られる好意にそれ以上の好意を。贈られる想いにそれ以上の想いを。贈られる愛にそれ以上の愛を。
誰も除かない。何も排しない。例外はなく、あらゆるすべてを分け隔てなく。
その者の一生、持ち得るすべて、存在の何もかもを懸けて贈られるそれらを余さず受け入れ、そしてそれらに対しそれらを超える更なる愛を以て応える。
熱で上回り、量で上回り、質で上回り、濃度で上回り、絶対の値で上回り、それを以て愛し尽くす。
愛を贈ってくる者へ――そう、自身へ愛を贈る存在すべてへ対して。
貴方の愛は無限の愛。
その質に限界はなく、その量に際限はなく、その対象に上限はない。
文字通りの無限の愛。
全て。凡て。総て。あらゆる愛そのすべてを愛そう。それが、それこそが貴方の愛。
だから、貴方は愛している。
私を、私が貴方へ贈る愛以上の愛を以て、私のことを愛している。
私のことを愛していて――けれど同時に、私以外の数多様々な女のことをも愛している。
この鎮守府の中へ存在するすべての者を、百を超える艦娘たちのことを、貴方を愛する女のことを、ただ一つの例外なしに全員等しく真摯に向き合い愛している。
貴方は美醜のわかる人。
良いものは良く、悪いものは悪く、そう見ることができ聞くことができ読むことができ、理解することのできる人。
私にも、他の艦娘にも、どんな誰にも美点があれば醜点もある。自分で自覚のできるもの、他人から見付けられるもの、自分からでも他人からでもなかなか認識することの難しいもの、それらの美醜がそれこそ無数に。
そんな普通は把握し切れなど決して叶わない多くの美醜を、貴方は把握し理解することができている。
数多いる艦娘たちの、さらにその中へ存在する個々それぞれが持った幾重にも満ちる多くの美醜、それを貴方は誰よりも濁さずに正しく、誰よりも多く余さず、誰よりも受け止め受け入れている。
美しい点を理解し、醜い点も理解し、その末に貴方は、それらすべてを愛している。
その者の在り様を、その者のありのままを、その者をその者たらしめているすべてを、良いものも悪いものもそのまま何もかも受け入れて愛している。
是を唱え、肯定を以て抱きしめ、無限の愛を贈り注いでいる。
だから。
そんな愛、そんな在り方、そんな貴方だからなのでしょう。
この鎮守府へ属する艦娘、貴方を慕い貴方を愛する艦娘たち、百を超えるそれらの者たちが、この今を良しとしている。
貴方へと愛を贈り、貴方から愛を尽くされ、貴方によって自分を含めたすべてが無限の愛の中に抱かれているこの、ここの、これを是としている。
貴方の愛に満ちる今を、そして未来を、艦娘たちは肯定を以て迎え入れている。
艦娘は――この鎮守府に在る皆、貴方という人を愛する女は、そのそれぞれが強く深い多様な個性を持つ者たちです。個性を、特質を、愛を持つ者たちです。
貴方に尽くしたい者もいれば、貴方に尽くされたい者もいます。貴方の後ろを歩きたい者もいれば、貴方の隣を走りたい者もいます。貴方を愛したい者もいれば、貴方だけを愛したい者もいます。
強弱や濃淡で、角度で方向で、どこかの部分で異なった個々それぞれ唯一の愛を抱く皆が、この今を良しとしている。
衝突せず、混濁せず、破綻せず、そんな今が叶っている。
……こんなの、ありえません。
普通であればこんな、愛する人が他の女をも愛しているなどという状況を、ましてそれがすべて仲間で、親しい仲の者たちで、その総数が百を超えるだなどと、そんな状況を渦中の者たちが認め受け入れるようなことがあるはずはありません。
もちろん生来の性質としてその状況を良しとする者がいないとは言いません。いるでしょう。それはおそらく確実に。
けれどこれほどの数が、これほどの個性を持ったこれほど大勢の艦娘たちが、その彼女らすべてが揃って良しを口にするなど、皆がなべて是を唱えるなど、そんなことはありえません。
数多の異性と抱き合い、繋がれ、結ばれて、そうしながら「自分はお前たち全員を愛している」だなんて、普通は決して通用しません。
私たちはこのここへ、まさに今確かにこうして生きている命。感情がある。想いがある。自分がある。であれば、普通は破綻を辿るはず。不満が溜まり修羅場が起きて、それぞれが確固として持つ自分自身を互いに幾度も衝突させあう事態が発して、その末この在り方は終わりを迎えるはず。
夢の中。すべての環境、状況、登場人物、それらの何もかもが例外なく都合のいい在り方を以て存在する自身の想像の中でのみ実現が叶うような、そんな夢物語とすら形容して相違ない不思議な形。
それを叶えているのは、それを叶えてしまっているのはきっと、その中心が貴方だからなのでしょう。
真実本当、嘘偽りなく、言葉通り言葉以上の真なる無限の愛を以て皆を愛する貴方だからこそなのでしょう。
「無限の愛」などという、ほんのわずかにでも弱ければただの優柔不断、ほんのかすかにでも薄ければただの言い訳、ほんの塵芥程度にでも足りなければただのどうしようもない戯言となってしまうようなそれを、真実まさに正しい在り方を以て体現している貴方だから、だからこそ実現し叶っているのでしょう。
貴方ほど愛に溢れ、愛に染まり、愛するものを満たすことのできる者はおそらくいません。
貴方も人間。優秀で尊く大きくて――けれど、それでもやはり人間ではある。提督という職に就き、私たちと同じ時や場所で生きる一人の人間。
それゆえ当然不可能はある。どうにもならないことはある。それは当然、そのはず。
けれど、しかしそれでもだとしても、信じられてしまう。愛というその一点のためにおいてなら、貴方に不可能はないのだと。不可能ならばその不可能を不可能なまま可能にしてしまえるのだと。そんな風に信じられてしまう。そんな風に信じられてしまえるほど、貴方のという人の愛の在り方は――私たち、貴方に愛される者たちにとって、絶対的なものなのです。
愛する者の為なら死にすら戸惑いなく。愛する者の為なら生にすら躊躇なく。愛する者の為なら、何をも成せるし何にも至れる。
愛する一人ひとりに最上の愛を贈り、至高の愛を注ぎ、最高至上の愛で満ち満たす。
それを成している貴方だから、現としている貴方だから、そんな愛を叶えている貴方だからこそ、この今は現実として存在しているのでしょう。
貴方は彼女らすべての愛を受け、彼女らすべてへ愛を贈り、彼女らすべては貴方の愛を受け、貴方へ愛を贈る。ただの一つの不満もなく、諍いもなく、破綻もなく、すべてが愛に満ちながら在り続けていられているのでしょう。
けれど、私はそこへ在れない。
是を唱えられない。否としか唱えられない。
在りたくないし、唱えたくない。それを私は受け入れたくないのです。
私も、貴方を愛する者。そして貴方に愛される者。
贈った愛よりさらに強い愛に満たされて、注いだ愛よりさらに濃い愛に濡らされて、尽くした愛よりさらに深い愛に溺れさせられている。他の皆のように私も、貴方に。
そこには満足がある。喜びがある。嬉みがある。途方もない幸せが、間違いなくそこにはある。
私が貴方を愛し、貴方が私を愛してくれる。揺らぐことのない確固たるこの愛の重なりに、どうして幸せが存在しないだなどということがありましょう。
貴方を愛することができて、貴方に愛されることができて、私は確かに幸せを感じています。
けれど、やはりそれでも駄目なのです。
他の艦娘たちと同じように想われて、私以外の女と同じように幸せを注がれて……いえきっと、私が貴方へ贈る愛の大きさだけ、他の誰よりも私は貴方の愛を受け取っている。
私は貴方に愛されている。それもきっと誰よりも。私のこの愛が他の誰かの愛よりも弱いだなんてことはありえないのですから、それゆえきっと私は他の誰よりも、貴方の愛を多く深く大きく尽くされている。
私は、貴方から一番に愛されている。
けれど、それでも、駄目なのです。
愛されていても、一番に愛されていても、受け止めきれずにこの身から零し溢れさせてしまうほどの愛を以て愛されているのだとしても、それでも駄目なのです。
嫌だ。
貴方が欲しい。その身体も、心も、愛もすべて。
貴方を渡したくない。誰にも、何にも、ほんの小さな欠片でさえ。
貴方を私だけのものにしたい。私のすべては貴方、貴方のすべては私、二人の世界に存在するすべては私と貴方互いだけ。
貴方に愛してほしい。私だけを。他のものは見ないで、聞かないで、感じないで、私だけを想ってほしい。貴方のことだけを想っている私のように、貴方のこと以外はすべて排した私のような愛を以て、ただ私という存在だけを愛してほしい。
この子に優しくしないで、私にその優しさを。その子に身体を触れさせないで、私にその身体を。あの子に想いを贈らないで、私にその想いを。他のどの子にも向かないで、ただ、私だけを。
そう私は思ってしまう。
他の艦娘とは違ってそう願い、他の艦娘からは外れてそう祈り、他の艦娘のようにはなれずにそう想いを溢れさせてしまう。
愛する貴方に、私の望む愛を以て私だけを愛してほしい。
貴方の傍に私でない他の女がいるのが嫌。言葉を、視線を、想いを交わすのが堪えられない。貴方が他の女を感じるのも、貴方が他の女に感じられるのも許せない。空気を、場を、時を、どんな些細なものですら、貴方が私でない他の女と何かを共にすることが受け入れられない。
すべてを捧げます。贈り、渡し、捧げます。だからどうか貴方のすべてを、この私という存在一人の手によってのみ愛させてください。
欲しい。欲しい。欲しい。貴方が、私だけの貴方が欲しいのです。
愛しているがゆえ、貴方のことを狂おしいほどの熱を以て愛しているがゆえ、私のこの愛によって愛しているがゆえ、それゆえに、もう、そんな想いが溢れて止めどないのです。
たとえ無限に与えられようと、どれほどの質を、どれほどの量を、どれほど幾重にどれほど何度もどれほど際限なく尽くされようと、私はそれでは駄目なのです。
貴方から――愛する貴方から、私というただ一人だけを愛してもらえなければ駄目なのです。
だから、私は皆のようには至れない。
わがままなのは知っています。これかただのわがままであることなど、知っています。
けれど、だからそうして、私は否を唱えるのです。
だからこうして、私は……醜く、浅ましく、抑えられない想いのまま浅ましく、貴方の上で腰を振っているのです。
それはきっと叶わないものなのだと、理解はしています。
貴方の愛は大きい。強く、深く、大きく、何物にも左右されない確固たるもの。
私の力、私の想い、私の愛、それらは貴方のその愛を塗り潰すに至らない。塗り潰し、染め変え、私の望む愛を貴方へ抱かせるには至らない。
貴方を、私だけのものへ、それはきっと、叶わない。
貴方を縛れば手に入る。
縛り付け、杭を打ち付け、磔にして捕らえれば、あるいは貴方は手に入る。
貴方を殺せば手に入る。
毒を染ませ、首を刈り、心の臓を射抜いて破れば、あるいは貴方は手に入る。
貴方のその身体。顔。腕。胸。腹。背。股。足。髪の毛の一本から血の雫の一滴に至るまで、貴方の身体のすべてを手に入れることはできるでしょう。
艦娘と人間。力の違い過ぎる私と貴方、それはひどく簡単です。
今まさにこの瞬間。眠る貴方へ手をかけて、それを為すのはひどく容易な他愛なきことです。
けれど心は、想いは、愛は違う。
貴方の心は揺らがない。壊せず崩せず変えられない。
貴方の想いは染まらない。消せず褪せず塗り替えられない。
貴方の愛は何にも並ばない。届かず至らず比肩すること敵わない。
貴方のその心を、想いを、愛を、それらを私だけのものにすることは、きっと叶わない。
貴方を監禁したならば、それを。貴方を殺そうとするならば、それをも。――こうして無防備に晒された貴方の肉体を淫らに貪り、自分勝手な言葉ばかりを吐き出すこの私すらも、貴方は愛するのでしょう。愛していて、そして愛しているのでしょう。
そんな愛を、そんな貴方を、貴方の愛を私は塗り替えること敵わない。
貴方のその愛を私のこの愛で侵し冒して犯すことは、きっと決して叶わない。
私が貴方の愛を独占することは決してない。
貴方が私だけを愛し、私以外を愛さず、私というただ一人だけを愛してくれることは永劫ない。
私は貴方からの愛を受け取ることはできても、貴方から貴方が持つその愛のすべてを私だけのものとして受け取ることはできない。
提督。
私は貴方が欲しい。
決して手に入らないと分かっていて、けれどその貴方がどうしても。
胸が張り裂けてしまいそう。頭が弾け飛んでしまいそう。全身が壊れて崩れ落ちてしまいそう。
愛されたい。
辛く、苦しく、泣き叫んでしまいたいほどに狂おしく、貴方からの私だけに向けた愛を欲して仕方がない。
貴方の体温、鼓動、精、それらをこうして感じていても、それでは私はどうにもならない。
貴方のその愛に溺れさせられていても、塗られていても、満たされていてもそれでは私はこの狂おしいまでに溢れ出て止めどない想いをどうにもすることが叶わない。
提督、私は貴方が欲しいのです。
私は貴方を、貴方という人のことだけを愛しています。
それゆえにできません。
貴方という人を愛しているから――だから貴方を諦め、あるいは貴方を殺し、また貴方の愛に妥協し、そうして生を選ぶことができません。
貴方という人を愛しているから――だから貴方との時を捨て、貴方の居る世界を見限り、貴方と共に存在する為のこの命を絶って、そうして死を選ぶことができません。
生も死も選べず、こうしてどうにもならない狭間で悶える以外ができません。
私は強い女です。狂いはしません。無くしません。終わらせません。貴方への愛を紡ぎ続けて、それを永遠のものとして叶えることができます。
私は弱い女です。狂って逃れることもできません。無くして楽になることもできません。終わらせて歩を進めることもできません。貴方への愛を無にできず、それを永遠のものとして叶えることしかできません。
貴方が欲しい。決して叶わないその願い、祈り、望みの為に私はどうにもできずいるのです。
刻々と壊れ朽ち堕ちていってしまうのを自覚しながら、しかしそれをどうにもできず何にも至れずいるのです。
私は、提督、どうすればよいのでしょう。
自分ではもはやどうしようもなくなって、本当に求めているものはそれではないと分かっていながらこうして貴方の身体を貪るのではなく。
涙を流し、涎を垂らし、液を漏らし、貴方の肉体をこの身に飲み込んで、貴方を感じる為に浅ましく愛欲のまま腰を打ち付けて、貴方への愛に狂い泣き叫んでしまいそうになりながら貴方を求めるのではなく。
欲する愛が得られないからと、こうして貴方の身体に溺れてしまうのではなく。
そんな風に、こんな風になってしまうのではなく、果たして私はどうすればよいのでしょう。
ここは辛いです。これは苦しいです。このここは、私にとってあまりにも。
私の愛と貴方の愛。愛し合っているのに結ばれることのないこの愛の狭間、辛く苦しいこの場所から、どうすれば私は解放されるのでしょう。
ねえ提督、私はいったいどうすればよいのでしょう。
貴方の唯一になれません。至高になれません。ただ一人絶対の存在になれません。
貴方の唯一になれないことが、言葉になど表せないほど痛いのです。貴方の至高になれないことが、他の何にも比べられないほど堪え難いのです。貴方の唯一至高なただ一人となれないことが、もう、どうしようもなく、苦痛なのです。
きっと貴方は、提督は、こんな私すらも愛しているのでしょう。
私のこの有り様を、在り様を、愛を、私という存在をも愛しているのでしょう。
でも、だから、それならばどうか、私を愛してくれているのなら、私は貴方に救い出してほしい。
愛というその一点においてあらゆる不可能を排した貴方に、私の愛を以てなお塗り潰すことの敵わないその愛を持った貴方に、愛する貴方に私は、私を救い出して抱きしめてほしい。
私のすべては貴方へと捧げられるもの。この身体も、この愛も、私という存在が持ち得るすべては貴方へのもの。
だから、私はなんでもしてみせます。望む貴方、欲する貴方、愛する貴方の為ならば、たとえそれが何であっても。
なんでもします。何をも捧げ、何をも尽くします。
だから――ですから、提督。
私はどうすればよいのでしょう。どうなればよいのでしょう。どうあればよいのでしょう。
どうすれば貴方の愛のすべてを抱きしめることができますか。どうなれば貴方に私というただ一人だけを愛してもらうことができますか。どうあれば貴方に私は、このここから救い出してもらうことができますか。
ねえ提督、私は――
「愛しています」
「貴方が好きです。貴方をお慕いしています。貴方という御人ただ一人だけを愛しています」
「ですから、ああ、提督」
「私をここから救い出してはいただけませんか」
「私へ、私というただ一人へ、あなたの愛をいただけませんか。――加賀を、愛してはいただけませんか……?」