Magic game   作:暁楓

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 調子が戻ってきたとか言ったな。あれは嘘だ。
 いや、ホントすいません。戦闘描写との格闘がマジでキツかったんです。
 駄文ですがどうぞ。


第七十八話

 ユーリの正面にはシグナムとクロノが立っていた。

 その三人から少し離れて囲うようにヴィータ、アミタ、キリエ、さらにそれをシャマル、ザフィーラ、ヴィヴィオ、アインハルト、トーマ(リリィとリアクト状態)が包囲している。ユーリを逃がさないようにするための多重包囲網であった。

 

「脅威判定、十……十一体検知。排除します」

 

「早速、話をする余地もなしか」

 

 振り下ろされる巨大な爪を、シグナムは引かずにくぐり抜け、すれ違いざまにユーリを斬りつける。

 人間の見た目からは想像できないほどの硬い感触。同時に刃を阻む存在をシグナムは感じた。

 

(朝霧が言っていた多層防御機構――すでに回復されたか)

 

 しかし、綾とユーリの戦闘から大した時間は経っていない。加えて干渉制御ワクチンも撃たれていることも考えると、回復してもその量はさほどのものではないはず。

 なら、再び防御層を砕き、それから斬り伏せればいい。

 

「プログラムカートリッジ『ヴィルベルヴィント』、ロード」

 

 対U-D用のプログラムを走らせる。

 プログラムの持続力は持って数分。その数分で果たすべき役割を全てこなさなければならない。

 爪がまた迫る。一歩踏み込んで避け、同時に回転して遠心力をつけた一撃を後頭部に叩き込む。

 そしてすぐユーリから離れる。こちらの攻撃が阻まれている間は長々とした攻撃はできない。一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)で確実に攻撃を蓄積し、こちらに狙いを向けさせる――それが、シグナムが導き出した自分の役割。

 そして、

 

「ブレイズカノン!」

 

 プログラムシステム『オストヴィント』で強化されたクロノが遠距離から火力支援を行っていく。

 表情を変えずにただ受けていた先ほどとは違い、ユーリはそれを魄翼で受け止めた。

 攻撃を受け止め硬直しているユーリの背後からシグナムが斬りつける。本来正々堂々、一対一を良しとするシグナムだか、そうは言ってられない。

 

「弾幕陣、展開。全方位斉射開始」

 

 ユーリの頭上に魔力の塊が形成、そこから大量の魔力弾がばら撒かれる。

 シグナムは弾幕を縫って進み、炎熱を纏ったレヴァンティンで斬りかかる。

 

「紫電――ッ!?」

 

 剣を振り下ろす直前、シグナムの目が驚きで見開かれた。彼女の目には、レヴァンティンと同じくらいの刃渡りに調節されたエターナルセイバーを持ち、シグナムと同じ動きを取るユーリがいた。

 

「紫電――」

 

 台詞まで同じ。シグナムは内心で舌打ちしつつも、回避は間に合わない身体を可能な限りの攻撃に当てる。

 

「――一閃ッ!!」

 

「一閃」

 

 同じ技同士の衝突。しかしエグザミアの恩恵を受けているユーリの方が魔力、筋力共に大きく勝っていた。

 ガァンッ!! と僅かな拮抗も叶わずにシグナムが海面へと突き落とされる。

 

「シグナム!」

 

「クロノ執務官、あたしが入ります!」

 

 シグナムが墜とされた穴をカバーするため、ヴィータがユーリに突貫した。ユーリの顔面にグラーフアイゼンを叩き込む。

 

「かってぇ……!」

 

 が 、使用しているのが不完全なプログラムカートリッジであるヴィータでは威力が足りず、防御層が削れる手応えもなく弾かれ、逆に蹴り飛ばされる。

 シグナムとヴィータを蹴散らしたユーリは、クロノに背を向け逃走し出した。

 

「待てっ!」

 

 クロノが射撃で足止めを図るが、ユーリは防御層によって強引に無視していく。アミタとキリエも追うが、追いつけない。

 

「逃がさん!」

 

「ヴィヴィオ、行きます!」

 

 第二包囲網のザフィーラとヴィヴィオがユーリの前に立ちはだかった。

 ユーリは速度を緩めることなく、邪魔な二人をどかそうとエターナルセイバーで薙ぎ払う。それをザフィーラはくぐり抜け、ヴィヴィオは飛び越えてユーリへ向かう。

 ザフィーラの拳はユーリのボディをとらえようとして、しかし無効にされる。逆に魄翼の腕が襲いかかり、ザフィーラは防ぐものの、こちらは押し潰されるような力にミシミシと身体が悲鳴を上げた。

 

「アクセルッ!」

 

 足が止まっている隙を狙ったヴィヴィオのアクセルスマッシュ。その直撃も、まだ効き目がない。

 ユーリはヴィヴィオの方が脅威と判断したのか、ザフィーラを押しのけて魄翼で彼女に襲いかかった。

 魄翼の二本の腕に加え、小型のエターナルセイバー二刀流による四連攻撃。ヴィヴィオは攻撃を全て見切り、最小限の動きで避ける。そして、攻撃後の隙を狙い、カウンターの拳をユーリの顔面に打ち込む。

 

「――ッ!?」

 

 直後、ガリッという音と共にヴィヴィオの顔が歪んだ。

 ユーリはヴィヴィオの拳を歯で捕らえていた。歯は拳の皮膚と肉を裂き、骨にヒビを入れる。下手に振り解こうとしたら食い千切られる状態だった。

 それでもヴィヴィオはアクションを起こそうとするが、魄翼の砲撃がヴィヴィオを吹き飛ばす。

 しかしヴィヴィオもただでやられはしなかった。例え自分がやられても、次のための布石を残した。

 最後に置かれた遅延型の拘束魔法。それが作動しユーリの身体を巻きつける。その拘束はすぐに破られてしまうが、その一瞬で充分だった。

 

「覇王……」

 

 後ろに、すでに構えたアインハルトがいた。足先から練り上げた力を拳に籠める。

 

「断空拳ッ!!」

 

 アインハルトの一撃がユーリの防御を突き抜けた。ユーリは吹き飛ばされる中即座に体勢を立て直し、同時に魄翼から槍を二本生成して放つ。

 

「はああっ!!」

 

「でえいっ!!」

 

 しかしアインハルトを狙ったその二本は、アミタとキリエの大剣(ヘヴィエッジ)ザッパーによって弾かれた。弾いた反動で二人の顔が歪むが、怪我はない。

 ユーリはすぐさまさらに大型の槍の生成を行う。しかし、

 

『させない!』

 

「クリムゾンスラッシュ!」

 

 トーマとリリィがそれを止めた。真紅の飛ぶ斬撃が槍を“分断”し、破壊する。

 反撃を無効化されたユーリ。しかしそれだけじゃない。いつの間にか、水色のスフィアが周囲を漂っていた。同時に彼女の感覚機能があることを察知する。

 

「極度の気温低下……緊急回避――」

 

「遅い!」

 

 デュランダルによる空間凍結。スフィアを中心に発生した氷がユーリを飲み込んだ。

 

「シャマル、転移急いでくれ!」

 

「はい!」

 

 シャマルが旅の鏡によって氷漬けのユーリを転移しようとする。

 だがユーリが膨大な量の魔力放出が氷を砕き、旅の鏡も吹き飛ばした。

 

「弾幕陣展開……」

 

 魔力の塊が形成される。先ほどの物よりもさらに巨大な塊となっていた。弾幕の量、威力が強力になるとう想像は容易だった。

 

「全方位斉射――」

 

 破裂せんばかりに膨れ上がった魔力。

 しかし遠くから、この魔力を放とうとする彼女を狙う者がいようとは、誰も予想だにしていなかった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 第二チームが控えている場所からほど近いビルの屋上。そこには双眼鏡を手にする少女と狙撃銃を構え、スコープを覗く少年がいた。以前、海斗達とユーリの戦闘に乱入し、海斗達の窮地を救った二人組だった。

 二人が見つめる先ははるか遠く、海上にいるユーリの姿があった。少年が覗くスコープの標準はユーリを中心に押さえている。

 ユーリに標準を合わせたまま待機しているよう少年に命じていた彼女が口を動かした。

 

「撃ちなさい。ただし、半分で」

 

 それだけの言葉。少年は従う前に、スコープから目を離さないまま少女に確認の言葉を放った。

 

「全弾ぶち込むんじゃなかったっすか? やっぱ、地上の奴らの中に気になる奴でも――」

 

「いいから撃ちなさい」

 

 棘のある鋭い声。少年はそれ以上言葉を続けるのをやめ、息を吸って止め、トリガーに指をかけた。

 

「アンチプログラムカートリッジ、ロード」

 

 ガシャンガシャンと音を立てる。プログラムなので薬莢などは落ちてこない。手持ちの半分のプログラムカートリッジをロードし終え、少年は集中力を最大に高める。

 

「バンカーショット――撃ちます」

 

 幻影魔法の応用で防音を張られている空間の中、轟音と共に一発の弾丸が放たれた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 突如、ユーリの左腕が吹き飛んだ。

 少なくともクロノ達にはそう見えた。魔力弾の一斉射撃が来る寸前、ユーリの左肩が破裂したかのようにして消失した。

 それから、ユーリの様子がおかしくなる。グラグラと姿勢が揺れ始める。

 

「飛行制御困難……魔力低下ヲ確ニン……オーバーアシストプログラム……………ハツ動不ノ……ギッ、ギギギギギッ――」

 

 ノイズまで聞こえ、これがアンチプログラムであることにようやくクロノが気がついた。すぐに綾に回線を繋ぐ。

 

「おい綾、アンチプログラムカートリッジの使用は第二フェーズまで取っておくんじゃなかったのか?」

 

『いや、こっちからは何もしていないぞ』

 

「何……?」

 

「アンチプログラムはまだ一発も使ってない。第一、ここからでは才でも狙撃は届かない」

 

 確かにそうだ。第二チームの中に超長距離狙撃が可能な人物はいない。

 

「つまり、僕達が把握していない第三者が狙撃を……?」

 

『それ以外ないだろ。でも、チャンスだ』

 

 綾の言う通りだった。誰が狙撃したのか知らないが、ユーリは大きく弱体化している。ついには飛行制御を失ったユーリが落下を始めた。

 しかしユーリにもまだ手はあった。弾幕を放つための魔力を失っていないことだった。

 

「ゼンホウ位斉シャ――開シ」

 

 魔力の塊が破裂した。

 弾幕というよりもそれは、もはや嵐のような災害だった。

 

「きゃあああっ!」

 

「シャマル……ぐおあ……ッ!!」

 

「ぐ……うぅ……っ!!」

 

『銀十字、どうにか持って!』

 

 防御をしても防ぎきれない。

 そんな中、シグナムとヴィータが弾幕を突き進んだ。

 

「おおおおおっ!!」

 

「でやああああっ!!」

 

 弾幕を受けつつも、落下するユーリを打ち上げた。打ち上げられたことによって弾幕が切れる。

 

「さっさと運べえええええ!!」

 

 満身創痍のシグナムが怒鳴る。

 応えたのはアミタだった。ザッパーの銃口から射出した魔力糸をユーリに巻きつける。続いてキリエも同様にユーリを縛り、二人でユーリを引っ張る。

 

「「いっけええええええええっ!!」」

 

 第二戦闘区域上空に着き、二人で合わせて拘束されたユーリを地上に叩きつけた。

 傷付いた体で飛行継続が困難なため、アミタとキリエも地上に降りた。百メートル先ではユーリを墜落させて発生した土煙が舞っている。

 

「……早く、第二チームへの連絡を――」

 

 キリエが通信を繋げようとした次の瞬間、キリエが砲撃によって吹っ飛んだ。

 

「キリエ!」

 

 アミタが砲撃が来た方向を見ると、墜落の衝撃でさらに右腕が欠損した上に肌がヒビ割れたユーリが、アミタに向かって這っていた。這っていると言えど、その速さは並みの人間の全力疾走よりも圧倒的に速い。

 

「くっ――いぅっ……!!」

 

 迎撃しようと動かした腕に痛みが走り、ザッパーを落としてしまう。マズいと思っても遅い。

 伸ばした魄翼の爪が、アミタを引き裂こうとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ガ、ギギィイインッッ!!

 

 甲高い金属音を立て、爪は何かによって弾かれた。そして割って入ってきたその人はユーリを蹴り飛ばして距離を開ける。

 弾いたのは、黒く染まった左腕の義手だった。

 右手には真っ黒な刀。加えて腰に提げられたレイピア。

 

「――綾さん!」

 

「対象を確認――第二フェーズを開始する」

 

 綾とユーリの三度目の対峙。

 決戦は、予測不能の第二幕へと移っていた。




 なんとか第一陣メンバーを全員出せました。実は一部出せない事態が発生しかけたとかとても言えない……。
 次回はいよいよ第二陣戦。綾の作戦とは。謎の二人組はどう動くのか。これまでとは違う、人それぞれの思惑が絡む駆け引きを書……けたらいいなぁ。

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