Magic game   作:暁楓

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 なんとか一ヶ月以内に投稿。
 全然ペースが上がらないなあ……。StSまで行けばなんとかなるとは思うんだ。


第七十三話

 緊急指令の通知を受けて数時間。プレシアとリニスはそれぞれ人と接触して戦闘、転移を繰り返している。

 ブリッジのモニターに映されるのは現地でユーリや闇の欠片を捜索しているチームのデバイスからの映像であり、リアルタイムなのだが、二人が転移されてから別の映像に映るまでに数分から十数分ほどの空白がたまにあった。ほぼ確実に、アースラ側が認知していない転生者の元へ転移したためだろう。成功条件の一つである接触人数についてはなんとかなるかもしれない。

 後は才と由衣がプレシアと接触することそのものと接触のタイミング。それも今し方訪れた。

 フェイトのバルディッシュから送られてくる映像、そこにリニスが姿を現した。

 

「フェイトちゃん、リニスと接触。アルフ、急いで!」

 

『わかったよ!』

 

 エイミィの指示を受けて、フェイトから少し離れていたアルフが現場へと向かう。

 それを見てから、俺の隣にいた才はきびすを返した。

 

「……行ってくる」

 

「ああ。由衣も気をつけろよ」

 

「はいっ」

 

 才と、才に続く由衣の二人が静かにブリッジを後にする。

 俺は携帯がいつでも才にかけれる状態であることをもう一度確認し、それからモニターに視線を戻した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 才と由衣は海鳴市内のビルの屋上に転移された。

 二人ともすでにバリアジャケットに身を包み、才は白杖を、由衣は長杖を手にしている。

 

「あの、才……さん。これからどうやってプレシアさんと会うのでしょうか」

 

 会ってからの戦闘のプランは聞かされているが、プレシアと会う方法を聞かされていない由衣はそう尋ねた。なお、由衣と才は年齢はおそらく一緒(才の年齢は未だに不詳)だが、由衣には到底届かない存在かつ、怖いとは別のベクトルで近寄りがたい雰囲気であるため、敬語とさん付けになっている。

 

「……待つ」

 

 才はまずそれだけ言った。そして後から付け足す。

 

「……五分以内に来ない場合は、諦めて戻る」

 

 ええ〜……。というのが由衣に浮かんだ素直な感想だった。アースラにてプレシアとの戦い方、特にリニス側に合わせるためにどうするかを入念に説明した人物とは思えない話だった。

 しかし実際にはこれがまともな方法だった。なんせ、プレシアはこちらを座標に転移してくるのでこちらから探すなどの行為は一切意味がない。五分という待ち時間も、リニスとフェイトの戦闘が中盤に差し掛かる前にはプレシアとの戦闘を始めたい才としては結構、というかかなりギリギリなものである。

 待ち始めて一分。二人の前で転移の光が輝いた。

 転移の光が止むと、そこには――

 

「あなたは……」

 

 才が確かに、アルハザードで死亡を確認した大魔導師、プレシア・テスタロッサの姿があった。

 プレシアが二人の前に現れて発した第一声は才に対するものだった。口調からして、才のことがわかるらしい。

 

「あなたの顔……覚えているわ。ジュエルシードを持ってきた魔導師ね?」

 

「……プレシア・テスタロッサ。どこまで記憶していますか?」

 

「……そうね……アルハザードに降り立って、蘇生装置を動かして……………それからは……」

 

 記憶はどうやらそこまでらしい。アリシアが蘇生されてからのプレシアは意識が朦朧としていたため、その記憶がないのも頷ける。

 

「……簡潔に言います。アリシアは蘇生され、今も存命しています」

 

「! アリシアが、生き返ったのね? ……なら、私をアリシアの元へ案内しなさい」

 

「今は無理です……加えて僕らは、闇の欠片を掃討するために来ている」

 

「邪魔を、する気なのね」

 

 プレシアが魔法陣を展開した。才も白杖を構え、由衣には巻き添えを食らわないように下がらせる。

 

「なら――消えなさい」

 

 プレシアの杖の先から砲撃が発射される。

 才はシールドを展開して防ぐ。じわりと響く鈍痛に加え、多量の魔力が削ぎ取られる。だが、才はそれを表情には出さない。

 

「……高速狙撃弾一発、誘導弾二発生成」

 

 魔力弾を素早く作り出し、撃ち出す。

 先に高速狙撃弾がプレシア目掛けて一直線に飛ぶ。発射されて目標まで一瞬で到達する狙撃弾を、プレシアは発射直前にシールドを張って防ぐ。

 続けて才は誘導弾二発でプレシアの両サイドを狙う。

 

「サンダースフィア」

 

 プレシアは両手を誘導弾に向け、それぞれの手の先に大型の魔力弾を生成。誘導弾はその魔力弾にかき消される。プレシアが作った二つの魔力弾は手から離れ、プレシアの近くを漂う。

 

「バリアントスフィア」

 

 さらにプレシアはより大型の魔力弾を生成、才に向けて発射する。二つのサンダースフィアもバリアントスフィアに追従していく。

 速い――だが、よけれないことはない。

 

「散るよ」

 

「へ!? は、はい!」

 

 散開の指示を出して、できるだけ引きつけてから才は右へと飛び出す。

 空中へ身を投げ、飛行魔法によって空を駆る。カートリッジを一発ロードして、誘導弾を十発精製。プレシアへと放つ。

 

『さ、サポートします!』

 

『任せる』

 

 返事はそれだけで済ませ、十発の魔力弾の操作を続ける。

 由衣からの射撃と衝突しないようにしつつ、プレシアに攻撃を仕掛ける。

 しかし二人がかりで多角攻撃を仕掛けてもプレシアに攻撃が通らない。

 プレシアが杖を向ける。

 

「サンダーレイジッ!」

 

「――!」

 

「あ――」

 

 紫の稲妻が二人に襲いかかった――。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「あ、海斗さん、末崎さん」

 

「ん? あれ、アリシアじゃねえか」

 

「よっ、アリシアもアースラに乗ってたんだ?」

 

 海斗と末崎の医務室に訪れたアリシア。彼女の入室に末崎、海斗の順に反応を見せた。

 ちなみに彼女はまだ車椅子に座っているが、すでに歩く訓練もそれなりに進んでいる。もう近いうちに車椅子から離れた生活を始めることが予定されていた。

 

「フェイトもリンディさん達もみんなお仕事で忙しいから、お家で独りきりにならないようにってリンディさんが乗せてくれたんだ」

 

 アリシアは嬉しそうに笑ってそう答える。

 独りきりにならないようにという理由もあるが、実際には安全確保の意味合いが大きい。アリシアにも魔力は少ないながらも存在するため、結界に取り残され闇の欠片に襲われる危険性があったからだ。

 

「ところで、綾さんは来てないの? 海斗さん達がここにいるから、綾さんもいるかもって聞いてきたんだけど」

 

「あー、残念。確かに来てたけど、もうどっかに行っちまった」

 

「えー」

 

 海斗の答えに不満なようで、アリシアは口を尖らせた。その様子を見て末崎が尋ねる。

 

「なんだ、綾に何か用でもあんのか?」

 

「綾さんまた無茶してるって話でしょ? だから私から無茶しちゃダメって叱るの」

 

「ああ、なるほど」

 

 頬を膨らませているアリシアに和みながら、彼女の話に納得する。子供や大人、さらにはデバイスにまで心配される我らがリーダーだった。

 それから末崎がアリシアと会話を始めている間、海斗はあることに少し迷った。

 迷い……そして決断する。

 

「……アリシア。綾なら、きっとブリッジにいるぞ」

 

「え、ホント?」

 

「ちょ、おい。お前何言って――」

 

 枕を投げつけて末崎の言葉を遮る。

 末崎が一瞬怯んだ隙に海斗はアリシアに答えた。

 

「ああ、きっといる。だから……綾を叱るなら早めにそこに行ったらどうだ?」

 

「うん! ありがと、海斗さん!」

 

 アリシアはぺこりと礼をすると、車椅子を操作して医務室を出て行った。

 扉が閉まってから、末崎が焦ったような、少し怒ったような口調で話しかけてくる。

 

「お、おい、何考えてんだ! 綾は会わせるべきじゃないって言ってただろ!?」

 

「……いいんだ。これで」

 

 海斗は自身に言い聞かせるようにそう答える。

 正直、海斗もこれが正しかったのかはわからなかった。

 緊急指令終了の通知が未だにきていない以上、今アリシアが行けばプレシアの存在が知られる可能性が高い。そうなればアリシアは闇の欠片のプレシアに会うことができようができなかろうが、真実を知るという結末は目に見えている。生きていると信じていた母親が実は既に死んでいたと知れば、アリシアは悲しむ……ここまでは、海斗でも理解できていた。

 それでも、海斗はアリシアを行かせた。

 

「俺は……プレシアの最期を看てる。プレシアは最期の最期で結局、アリシアと言葉を交わすことは叶わなかった」

 

 そう、海斗はプレシアの最期の瞬間を看ていた。加えて、アリシアを蘇生させている間、プレシアの支えとなって彼女を間近で見た。海斗の目に映ったのは、一人の娘のために文字通り命を懸け、必死になっている母親の姿だった。

 アリシアを生き返らせることはできた。しかしそれはプレシアの目的の途中経過に過ぎない。結局プレシアの『アリシアとの日々を取り戻す』という夢は叶わなかった。

 

「アリシアをプレシアに会わせたいってのもある。けど……俺は、例え夢の中だったとしても、プレシアの夢を叶えさせてやりたい……そう思ったんだ」

 

 海斗は、願うように拳を握りしめた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 首を横に反らす。高速で放たれた鞭が頬を掠め、才の皮膚を裂いた。

 痛みを表情には出さず、才は白杖をプレシアに向ける。先にプレシアの魔力障壁が挟まれるが、構わず砲撃を発射。反動で後ろへと後退する。

 才がプレシアが離れてから少し遅れて、由衣の射撃。簡単に防がれ、逆に誘導弾であしらわれる。

 戦闘が始まって数分。二対一の状況で、才と由衣は劣勢だった。未だにほぼ無傷であるプレシアに対し二人、特に才は体中に傷をつけられていた。バリアジャケットも傷つき、多くの部分が電熱によって焼け焦げている。それでも致命傷を避けられているのは幸いである。

 才は空となったカートリッジマガジンを取り外し、新たなマガジンを白杖に組み込む。即座に一発分カートリッジをロード、弾幕をプレシアに飛ばす。

 止まっているといい的でしかない。才はプレシアを中心として周回しようとして、

 

(……………!)

 

 白杖から携帯の受信連絡。こんな時に、しかし待ち望んでいたその連絡。

 才は動きを止めた。魔法を発動する訳でもなく、ただ棒立ちとなる。

 当然、いい的にしかならない。プレシアの電撃が直撃する。

 

「あ……!」

 

 墜ちていく才を見て、由衣は彼の身を案じると同時に、理解する。これが何を意味するか。自分はどうすべきか。

 

「次は、あなたね」

 

「降参しますっ」

 

 プレシアが視線をこちらに向けた瞬間の、素早い行動だった。長杖を解除し、両手を上げ、宣言する。

 

「……どういうつもり?」

 

「さ、才さんが墜とされた時点で、もう勝ち目がありませんので……」

 

「……まあ、いいわ。私をアリシアの元へ連れていきなさい」

 

「……あの、プレシアさん」

 

「何……?」

 

「アリシアちゃん、いつもあなたのことを、優しくて大好きなお母さんだと言ってましたよ」

 

「御託はいいわ……早く案内しなさい」

 

「会えますよ。私が何もしなくても、きっとすぐに」

 

 杖を突きつけられ、恐怖から今すぐ逃げ出したくなるのを必死に抑えて由衣は言う。持てる勇気を精一杯出して、言葉を紡ぐ。

 

「でも、アリシアちゃんはあなたが今までにやってきたことを知りません。だから、今のあなたを見たらアリシアちゃんは心配しますよ。『お母さん、どうしてそんなに怖い顔してるの?』って」

 

「……っ!」

 

 プレシアの表情が険しくなる。

 かなり危ない綱渡りをしていた。プレシアの怒りを買えば冗談抜きで殺されるかもしれないと、内心ビクつきながらも由衣はプレシアに言いたいことを伝える。

 

「プレシアさん。アリシアちゃんに会う時には、優しいお母さんでいてあげてくださいね」

 

 返事は聞けなかった。転移によって、プレシアがどこかに飛ばされたからである。




 才考案の作戦。
 1,才と由衣で時間稼ぎ。できるだけ才が的になる。
 2,綾はアースラブリッジにてフェイト対リニスを観測、決着がつきそうになったら綾が才に通話。
 3,才は受信を確認したらすぐにわざと負ける。才が墜ちたら由衣はすぐ投降。
 才は痛い目みますが、命があれば安いもんだと考えてるんでしょう。チップを得るためなら一度くらいの撃墜は無問題。……綾よりかマシだし(ボソッ

 それから、海斗が地雷の爆破をさせるようです。
 アリシアのため、という二次小説はあれど、プレシアのためというものは珍しいんじゃないかなぁって思ってます。アリシアは生き返ってプレシアは死んでって構図が珍しいのか?

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