Magic game 作:暁楓
その後、ウレクの扱いの経験を積みたいと言ったものの、やはりリンディさんから今は安静にしろと却下された。
ウレクはまた暇になったとアースラ内のどこかへ行き、俺は医務室に海斗と末崎の見舞いに訪れていた。
「具合はどうだ?」
「おう。大人しく治療を受けてるよ」
「海斗に同じくだ」
海斗達とユーリの交戦からそれなりに時間が経ち、二人とも意識を取り戻していた。
しかし、末崎はともかく腕と脚の骨を砕かれた海斗は今回の指令への復帰は不可能といった状態だ。一応、魔法治療を行えば回復できないこともないが、この状況で海斗にそれだけの質と時間をかけた治療を行ってくれる可能性ははっきり言って有り得ない。そう考えると末崎の復帰もなかなか難しい。
「お前達でどこまで数を伸ばした?」
「二十三体だ。二個目までまだ一体足りない」
そう答えたのは末崎。言うまでもなく、闇の欠片を潰した数を指している。
「まだ、欠片を大量に狩るチャンスはある。それは間違いないんだな?」
そう尋ねると、海斗ははっきりと頷いた。
「ああ。ユーリの中のシステムU-Dが完全に目覚めるっていうんだっけか。それに近づくほど闇の欠片がまた増えていくはずだぜ」
「なら、焦る必要はないな」
そう言って壁に寄りかかる。第一俺も動けない状態だ。そのチャンスに降りて、一気に狩るしかチップを増やす方法はない。
「あの……ところで」
二人の看病についていた由衣がおずおずと訊いてきた。
「プレシアさんとリニスさんのことなんですけど……その……どう、しますか?」
「……どうって?」
だいたい言いたいことはわかったが、敢えて訊く。
「その……アリシアちゃんを、二人に会わせるかどうか……ということです。闇の欠片としてできた残滓とは言え、アリシアちゃんにとっては話ができる最初で最後のチャンスですよ……?」
「……………」
すぐに答えは出さなかった。
答え自体はできていた。いや、今までの俺の行いから答えは限定されていたというべきか。だが、その答えで正しいのかどうかにはまだ少しばかり迷いがあった。
「……会わせるべきじゃ、ないだろ」
それが、俺の行いから導かれた答えだった。
「……いいのか? 由衣ちゃんの言った通り、最初で、最後のチャンスなんだぞ」
「そのチャンスで会いに行ったために、五歳の子供に、母親が目の前で消えて、もう二度と会えない現実を突きつけるのか?」
「それは……」
「アリシアがプレシアの存在に気づいた場合には、その時はその時で俺が考える。どうするにしろ、俺が嫌われて憎まれ口を叩かれるだけのことだ」
プレシアが遠くの世界で仕事をしていて会えないと言ったのは俺だ。アリシアは今もその嘘を信じ、そのうちプレシアに会えると信じている。それが嘘だと知った時、まず俺を恨むのは当然だろう。
「……………」
言い返す言葉が見つからないのか、海斗は押し黙った。
プルルルル。プルルルル。
携帯が鳴った。俺だけでなく、海斗、末崎、由衣のそれぞれの携帯も鳴っている。
それだけで、差出人が誰なのかが理解できた。真っ先に俺が携帯を取り出し、届いたメールの中身を確認する。
「おい……どういう内容なんだ?」
「また失格者か? それとも指令なのか?」
「……緊急指令だ。噂をすればなんとやら、だな」
差出人:管理者
件名:緊急指令
内容:現在、海鳴市内にはプレシア・テスタロッサと使い魔リニスの残滓が同区域内で自身の関係者もしくは関係者と接点がある者の付近へ転移を繰り返している。ただし、特に介入がなければプレシアとリニスは接触できないようになっている。プレシアとリニスの接触を成功させよ。なお、該当の二人を接触させるには、両者の転生者との接触人数の合計が一定数を上回ること、両者の転移開始時刻がある程度同一であることが条件である。また、一度転移目標にされた者が再度転移目標にされることはない。
成功条件・報酬:プレシアとリニスが接触する。どちらかと接触した者にスターチップを五個配布。
失敗条件・罰:プレシアとリニスが接触できずに消滅する。どちらかと接触した者のスターチップを五個剥奪。非接触者からはスターチップを二個剥奪。
「ど、どうするよ?」
「……どうするも何も、俺達が動けない以上、参加も何もない。参加できたとしても、成功させるための条件が曖昧だし、まず無理だ」
一定回数以上転生者と接触した上で、プレシアとリニスが同時に転移できるよう調整しなければならない。ある程度と記載されているが、何秒間までのズレが許容範囲内なのかわからない上、まず同時に転移させる手段がない。幸い、こちらのチームでは例えこの指令が失敗してもまだ安全圏に留まれる。ここは無理をしないでおくのが無難だ。
プルルルル。プルルルル。
また携帯が鳴った。今度は俺だけだ。
相手は……才?
「……もしもし?」
『……今、緊急指令が来たけど、そっちにも来たかい?』
「ああ。プレシアとリニスを会わせろって指令だろ」
『……それについて、手伝ってほしい』
「俺はまだ降りることができない状態だぞ。ついでに言うなら、海斗と末崎も今回復帰は難しい」
『わかってる……海斗達も怪我したとも聞いてる……だけど、本当に全員動けないの?』
「……………」
俺は横目で由衣を見る。
由衣の怪我は小さく、もうすでに回復している。このメンバーの中では由衣だけは今すぐ出ることが可能だ。問題は由衣がどこまでやれるのか、そもそも才が何を望んでいるのかだが……。
「……今出れるのは由衣だけだ。どうするつもりなんだ?」
『……今回の指令は、プレシアかリニスのどちらかをこちらでもう一方に合わせることができれば多分成功する。そのためにこちらにもう一人ほしい。……加えて、こちらが戦っている間にもう一方の様子を見て、知らせてくれる人も必要……』
「……転移のタイミングを合わせる方法はわかった。だが、そのためにどうやってどちらかに遭遇するかが問題だぞ」
『……アースラにいれば座標にされることなく、時間が経つにつれて降りた時に座標にされる確率を高めることができる。降りる狙い目はリニスがフェイトと接触した時……リニスがその場に留まる時間は長いはずだから、プレシアとの接触が多少遅れても合わせやすいと思う……それでも、さっきの説明も含めて運に頼るところが大きいけど』
「……………」
運に頼る。それが問題なんだ。その方法でプレシアに接触できたとして、プレシアとリニスが同時に転移してくれなければ失敗となり、チップも余計に失うことになる。由衣も才も、ユーリに遭遇しない限りはその失敗で失格にはならないが、特に才にとってはチップ五個の剥奪は大きいはずだ。
しかし才の運の強さは俺も目にしている。才自身が大丈夫だと思ってるなら、成功するんじゃないかと思ったりするが……。
「……俺が行くならまだしも、俺以外の人に行かせるとなると独断で決める訳にはいかない。少し時間をくれ」
『……いいよ。僕も座標にされないためにアースラに戻るから……じゃ、切るよ』
通話が切られ、携帯をしまう。
携帯をしまうとほぼ同時に、由衣が訊いてきた。
「あの、綾さん、何の話だったんですか? 私の名前が出てたと思うんですけど……」
「ああ、実は――」
俺は才との電話で聞いたことを説明した。
「――ということだ。現状、俺達の中で身動きが取れるのは由衣、お前だけだが……どうする?」
「……わかりました。やらなければチップが減っちゃいますから、ここは私が頑張ります!」
「……無理はするなよ。状況の連絡は俺がやる」
頷いて了承を示した由衣に俺はそう忠告しておく。
そして再び携帯を取り出して、才へと連絡を取った。
さて、プレシア&リニス編です。二人をまるごとカットしてもGOD編は成り立つんじゃないかと個人的に思ったりしてます。もうちょっと関わりがあっても良かったんじないかなぁ。
それはいいとして、ここから少しの間プレシア、リニスと関わっていきます。そこまで長くは書きません。ただでさえこの小説話の進みが遅い上に更新速度も遅くなっていますので、余計な手間をかけるわけには行きません。ちなみに、StS編はグダる気満々の作者です。