Magic game 作:暁楓
(――来る)
直感的にしゃがみ込み、後ろから来る斬撃をかわす。回避したら回転をつけて、レイピアの柄で後ろにいるシグナムの腹を殴りつける。
「くっ、はああっ!」
明らかに苛立っている様子のシグナムがレヴァンティンを振りかぶる。そのシグナムの脚を蹴りつけ態勢を崩し、突きを放つ――が、ここは防がれる。
ギャンッ! という金属音。その音と共に剣が弾かれ、距離が置かれる。
シグナムが剣を構える。苛立ちから歯を食いしばり、叫ぶ。
「そこを退け、朝霧!」
「……………」
「我が主を救うために、お前に構っている暇はないのだ!」
「ああ」
俺はそのシグナムの言葉を肯定する。そして平突きの構えを取る。
「俺だって、お前の夢物語に構っている暇なんてない」
「っ、レヴァンティン! カートリッジロー――」
シグナムが自身のデバイスに命令を下す
シグナムの右腕とレヴァンティンが宙を舞う中俺は接近、突きを繰り出す。
いきなり腕を失ったことに同様しながらも、シグナムは俺の平突きをかわし続ける。
『末崎!』
『わかった!』
攻撃の手を休めないまま、俺は末崎に合図を送る。
シグナム程の猛者なら、腕が吹き飛んだくらいで思考が完全停止しないことはわかっている。だが、それでも思考力はだいぶ落ちる。
片腕を失い、武器を失い、状況を理解し終える前に立て続けに攻撃を仕掛けられている状態では、目の前の対応で精一杯になる。
死角である真後ろで剣を振りかぶっている末崎には、気づかなくなるってものだ。
「うらあああっ!!」
バシッ! と肉を裂く音。
斬られたシグナムの背中からは鮮血の変わりに、崩壊したプログラムが散ってゆく。
だが傷は浅くないものの、致命傷にもなってない。
やるからには完全に、徹底的に、例え知ってる顔だとしても――殺る。
パキッ
首にレイピアを突き立てるとそんな音と共に首の骨が割れる感触がした。それからシグナムは動かなくなった。
レイピアを抜き、血がついている訳でもないが軽く振るう。ヒュンッ、とレイピアが風を斬る。
動かなくなったシグナムはホログラムのようになって崩壊していった。
周囲を見渡し、後続の敵が出てこないのを確認してからレイピアを鞘に納める。パチンと綺麗に納まる音がした。
「あー、終わった〜!」
末崎はへたり込んで四肢を投げ出した。
「お疲れ」
「つーか、綾は疲れてねえのか? 天才は身体も強いのかよ?」
「俺だって少しは疲れてるさ。ただ表に出す労力を惜しんでるだけだ」
「疲れる労力を惜しむって……」
そんな話をしていると、ビルの屋上から由衣がふわりと降りてきた。
結構最近になって知ったことだが、由衣には飛行適性があったのだ。初期魔力がデフォルト最大値のB+であることと言い、魔法の素質には恵まれているらしい。
なお、シグナムの腕が吹き飛んだのは由衣がビル屋上から砲撃で狙ったためである。砲撃の適性もちゃんとあるみたいだ。
「お疲れ様です。綾さん」
「ああ。そっちもお疲れ」
軽く言葉を交わす。
主にこの三人での動きはこうだ。俺が敵の真正面を陣取って陽動、由衣は死角から射砲撃による支援、そして隙を見て三人のいずれかが急所を刈る。ただそれだけだ。
口にすれば単純な策だが、それがいい。個人でやるならまだしもチームプレイであれば複雑な策は味方のせいでつまずくなど却って危なかったりする。味方にわかりやすく、敵に感づかれづらい策というのが最高な訳だが、策が成立しなければ元も子もないため、取るとしたら迷うことなく前者だ。
「魔力バイパスを繋げますか? 遠くから見てましたけど、途中から左腕の動力切ってましたよね?」
「それはそうだが、まずはアースラに次の確認だな」
俺に魔力を供給しようとする由衣を手で制し、携帯を操作する。
由衣の言う通り、魔力の消費を抑えるために俺は戦闘の途中から左腕の動力を切った。そうやって片腕が使えなかった故に戦闘中に少々つらい展開になったこともあった。
左腕を動かす他、戦闘の持続力を持つためにも魔力は必要だ。だが、今すぐ急いで供給を貰う必要はない。供給を繰り返せば当然ながら由衣の方がガス欠になる。それに、左腕がない状態でも
まあ作戦とか俺の動きとかバイパスとかの話の前に、目当ての相手がいないのでは話にすらならないのだが。
「えっと、ここでシグナムさんの闇の欠片を倒して……これで何体目でしたっけ」
「九だな。綾が二体、由衣が五体。俺が二体」
末崎が内訳まで即答した。疲れている割には数える余裕はあるみたいだ。
大体昼の二時から闇の欠片の掃討を開始して五時間、午後七時。欠片の討伐数は末崎が言った通り九体である。まだチップ一個分の討伐もできていない。由衣が一番多く倒しているのは単純な話、陰から狙い撃つというスタンス故にチャンスと成功率が高いからであろう。少ないように感じるがこれでも稼げている方だと思う。なんたって、シグナムといった強者も倒してきてるのだから。
前回の指令である闇の欠片事件、そして今回の砕け得ぬ闇事件はPSPゲームの物語であるとは聞いている。そしてその情報を頭に入れる過程で闇の欠片についても聞いた。
実際に戦ってみて、確かに闇の欠片のシグナムはシグナムと同一だ。ただし、元が闇の書の残骸データとだけあってか、時々言動が過去のデータをつなぎ合わせたようなものになっている。俺と戦っているようで、俺に対応した動きにはなっていないことがある。
まあ、過去データであり劣化コピーであるならば、戦って勝ちやすい分こっちにとってはありがたいものなのだが。
……と、繋がった。
『そっちは終わったみたいね?』
「ええ。次はどうなんです?」
『欠片は大体叩かれて、現時点で新たな発生はないわ。一時休憩として、アースラに戻ってきてくれるかしら』
「わかりました。では、ゲートの方よろしくお願いします」
『ええ』
リンディさんとの通信を終え、通話を切る。もういなくなったのか。序盤だからまだ数が少ないのだろうか。
とにかく、まずは帰還か。二人の方を向く。
「アースラに戻るぞ。もうすぐゲートが開く」
「あ、はい」
「お? おう」
ゲートが現れ、俺達はアースラへと戻った。
◇
翌日。午前十時二十分。
昨日はアースラで一晩過ごして、また闇の欠片の反応を察知。曇天の空の下、海鳴市に降り立った。
これまでの捜索チームの途中経過は、まずなのは・ユーノペアは昨日の夜にヴィヴィオ及びアインハルト(海斗達の話だと漫画版のキャラらしい)と遭遇。今日の未明にシュテルの反応をキャッチして急行、夜明けになるまで戦闘を繰り広げたが結局逃げられた。海斗によればなのは側ルートはここまでらしい。
次にフェイト・アルフペア。二人は昨日の夜にレヴィと遭遇、戦闘。しかし逃げられる。こちらも海斗が言うにはここまでだそうで、フェイト達は捜索を続行している。これはなのは・ユーノペアも同じだ。
二組がルート終了まで行っているのに対し、はやて・リインフォースペアはそこまで行っていないらしい。まず昨日の夜に、これまた漫画版に登場というトーマとリリィに遭遇。その後は今日の早朝に捜索を始めたところ、イギリスで隠居してるはずのリーゼ姉妹と鉢合わせしてしまったそうだ。リーゼ姉妹は本物だったが、そちら側がはやて達を闇の欠片と勘違いして戦闘になったとはやては言うが、あの二人には私怨もあったのではないだろうかと思う。
とにかく、進行状況はこのような感じだ。原作ゲーム版を知ってる海斗と由衣(末崎は知らないらしい)によれば、後ははやて達がディアーチェを発見し、システムU-Dが目覚めて物語が次の段階に進むそうだ。
「シグナム達が戻ってくるのって、いつぐらいなんだ?」
「あ、はい。U-Dが目覚めた後ですよ。だから早い場合には今日中には私達呼び戻されるんじゃないですかね?」
「守護騎士のみんなが戻ってくるまでって話だからなぁ……ああでも、稼ぎたいよなぁ。才はもう九体倒してるっぽいしなぁ……」
俺の質問に由衣が答えると、末崎が名残惜しいようにそう言った。なお、今回も海斗は才と共に掃討へ赴き、俺達は三人チームでここにいる。
海斗と才の欠片掃討チームは、昨日の時点で討伐数十一体。その内訳は海斗が二体、才が九体である。つまり、才はすでにこの指令で必要最低限のチップの入手は約束されている。対して俺達は海斗の分を含めて十一体。まだチップ一個分にも到達していないのだ。最悪でもチップ二個分は入手したいところだが、リンディさんと約束した『クロノや守護騎士達が戻ってくるまで』という制限がある以上、由衣の言う通り今日ぐらいが掃討ができる限界かもしれない。
「守護騎士が来てからの立ち回りは、その時に考えるか。――来るぞ」
「!」
前方を見る。そこにいるのは暗い紫に染まったバリアジャケットを纏い、紫のパーツを輝かせる杖を握り締めた少女。
「苦しい……邪な殺意が、私の胸の炎を燃やします……あなた達を屠れと、そう語るっ……!」
ガシュンッ、と闇の欠片のシュテルが持つルシフェリオンが吼える。
それに合わせ、こちらもレイピアを鞘から抜き取る。
「昨日と同じだ。俺が陽動。二人は死角からの奇襲を仕掛けろ」
「はいっ!」
「お……おうっ」
「ブラスト……ッ!」
「……行くぞっ!!」
俺達が散った直後、炎熱砲が襲いかかった。
◇
捜索が再開されて数時間後、午後二時を過ぎた辺り。
はやてはようやくディアーチェの姿を捉え、交戦の末にディアーチェを無力化することに成功した。と言っても、双方魔力切れという終わり方のため、捕獲はできていないのだが。それでもリインフォースが来てくれれば今のディアーチェを捕縛することはできる。
しかし、それはこの場にいた相手がディアーチェだけであったならばの話。現実にはキリエに加え、巨大で禍々しい魔力の球体まで存在していた。
おそらく、あれがシステムU-D。キリエが操作しているのは、システムU-Dを起動するプログラムのはずだ。
「いずれにせよ、時は満ちた。――桃色! 準備はよいか!」
「はぁーい。強制起動システム正常、リンクユニットフル稼働♪」
ディアーチェに『桃色』呼ばわりされて普通に受け答えするキリエ。愛称と化しているらしく、気にする素振りは一切ない。そして予想通り、キリエが操作しているのは起動用のプログラムであった。
と、ここでリインフォースが駆けつけてきた。
「我が主!」
「リインフォース! 状況は……見ての通りや。砕け得ぬ闇が起動しようとしとる」
「はい……!」
「む、融合騎まで来たか。だが今更よ。さあ蘇るぞ! 無限の力『砕け得ぬ闇』! 我の記憶が確かなら、その姿は『大いなる翼』! 名前からして戦船か、あるいは体外強化装備か――」
両腕を広げ、期待を膨らます目の前で、巨大な球体が卵の殻のように剥がれ、消え始める。
その様子を見てディアーチェは高笑いを始める。
「ふはははは! さあ蘇れ、そして我が手に収まれっ! 忌まわしき無限連環機構、システムU-D――砕け得ぬ闇よっ!」
そして外殻が消え失せ、その中身が、砕け得ぬ闇が――
「ユニット起動――起動命令確認――無限連環機構動作開始。システム『アンブレイカブル・ダーク』、作動」
――第一声を、放った。
「お……おおお?」
「はいっ?」
「え……? これって……」
起動した本人であるディアーチェやキリエ、夜天の主であるはやても、目の前の『砕け得ぬ闇』に驚きの声を隠せなかった。リインフォースも声は漏らさなかったものの驚きで唖然としていた。
目の前に出てきたのはディアーチェの想像に反して人だった。ウェーブがかった金髪に、袴に似た防護服。見た目年齢はおそらくはやてよりも低い。ただの女の子である。
そんなただの女の子にしか見えないU-Dは、おもむろに自分の手を眺め、手を握ったり開いたりする。
「動作確認……正常」
そんなU-Dをよそに、はやて、ディアーチェ、キリエの三人は敵味方入り混じっての話し合いが行われていた。
「ちょっと王様? システムU-Dが人型してるなんて、聞いてないんですけどっ!?」
「むう、おかしい。我が記憶でも、人の姿を取っているなどとは……いや、それを言うなら、我々も元々人の姿などしておらなんだ訳で……」
「あー……とりあえず、『砕け得ぬ闇』やから……ヤミちゃん?」
「ヤミちゃんっ!?」
U-Dは目の前にいる四人を認識していないのか、それとも敵意はないと判断しているのか、確認作業を続けている。
「システム確認……、……………、……システムに一部欠損を確認……? 欠損部分、修復不能。動作再度確認……、……………正常。駆体への異常はなし」
(害意は感じない。無害なシステムであってくれれば良いが……)
確認作業を淡々と続けるU-Dをリインフォースは、いつ何があっても動けるように準備しておきながら眺める。
自分の中に存在しながらも、自分の記憶には一切存在していなかった砕け得ぬ闇。警戒に越したことはない。
U-Dはようやくここで、はやて達の方を見た。
「視界内に夜天の書――……夜天の書に類似したストレージデバイスを二冊確認。識別、困難……」
U-Dは夜天の書を認識しようとして、それが失敗に終わった。はやてが今手にしているのは写本であり、ディアーチェが持っているのは夜天の書を元に出来た別物。どちらも本物としては認識できないようだ。
その声に気がついたはやてが、U-Dに声をかけた。
「あー……あの、こんにちは、現在の夜天の主、八神はやてです」
「待てぇーいっ! うぬら、なんたる横入りっ! 起動させたのは我ぞ!」
「起動方法を伝授したのは私です〜!」
だがそれは残る二人によって止められた――いや、厳密には違う。はやてに反論したディアーチェにキリエが文句を言っている。
そこからまた三人による口論が繰り広げられようとしたその時、凄まじい魔力の放出と共にU-Dの背中から一対の巨大な翼が生えた。
「「「「っ!!」」」」
突然のことに、全員に緊張が走る。
「状況不安定……駆体の安全確保を最優先。視界内の魔力反応四体を脅威判定と認識し、危険因子を……」
翼は大きさを納めていくが、魔力の放出量は依然として変わらない。小さくしていると言うよりは、形を変えているようだ。
翼はU-Dの身の丈近くまでの大きさに変え、さらにそこから姿を変え――
「排除しま――」
宣言するU-Dの顔面に、何かが突撃した。
意識が目の前のはやて達のみに行き、他が全く持って無警戒であったU-Dは、突撃してきたそれ――足裏蹴りをモロに受け、軽い身体を吹っ飛ばした。
「なっ――!」
あまりに突然のことに、誰もが驚いた。
「――お前はっ!!」
そしてその正体を知って、一番に警戒心を露わにしたのはリインフォースであった。因縁深い
「よぉ……やっと会えたなぁ。地獄から蘇ってきたぜ……」
黒い道着。手に持っているのは全てが真っ黒な刀。金髪に血のように赤い瞳。
三ヶ月前には、その『奴』に苦しめられた。
因縁深い奴の口元が大きく吊り上がり、狂気に歪んだ濃い笑みをU-Dに向ける。
「さぁ殺りあおうか、『ユーリ・エーベルヴァイン』っ! 俺はてめえに
イレギュラーとして存在する、綾を元とするマテリアル――狂気と共に参上。
GOD編最後で明らかになるU-Dの名前を四章第二話で明かしてやったぜ! どうだびっくりしただろー!
はい、という訳です。マテリアル綾(仮)はユーリについて知ってるのです。
マテリアル綾(仮)の正体も今後明らかにしていきます。名前はもうちょっとマテリアル呼びで、それからちゃんとした名前を付ける予定です。
それと、何の躊躇いもなく幼女の顔面を蹴りやがったよアイツ。綾も欠片とは言え知り合いを情け容赦なく息の根止めてるし。この辺同類なんだろうか。