Magic game   作:暁楓

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第四十七話

 海斗と由衣が次の相手を捜している頃。

 才もまた、白杖を手に闇の欠片の捜索を行っていた。

 と言っても、今は厳密には戦闘が終わって小休止しているところである。

 

「……………」

 

 鈍い光から落ちてくるスターチップを受け取って、ポケットへと入れる。

 ポケットの中で、チップ同士の接触音が鳴った。

 現時点で、才が倒したのは闇の欠片が三体。チップの入手数は三つ。

 才が持つチップの総数は、その三つを含めて二十一個にまで膨れていた。才も、あの闇の書から逃げる指令に参加し、綾達とは別ルートで闇の書から逃れたのである。

 

(……綾が持つチップの総数は確か……無印終了時に十六個だったから、それに第二指令の十個……加えて綾が最後に受けていた緊急指令……闇の書と直接関わる分、獲得数は十個以上は間違いないだろうから……)

 

 四十個ぐらいか。と才は弾き出した。

 その計算はおおよそ正しく、実際には十五個獲得によって四十一個からのマイナス三で三十八個。加えて今回の指令で海斗が闇の欠片を一体倒したため、三十九個にまでなっている。

 比べれば倍近い差になっている。第一指令の分は仕方ないとして、第二指令でシグナムとヴィータの分を取らなかったのは大きかったか。

 

(……いや、そんなことを考えている暇はないか)

 

 とにかく、今はチップを多く手に入れることが先決だ。

 幸い、この指令は比較的簡単だ。相手を厳選すればリスクを大きく減らせるし、うまくいけばチップの大量確保も不可能ではない。

 ただ……不確定要素が一つ。

 

(問題は……メールにもあった『イレギュラー』の存在……)

 

 獲得できるチップ数が多いとは言え、こればかりはどうするべきか迷う。

 まず、イレギュラーという存在がどういったものかわからない。これが一番問題なのだ。戦闘能力や武器がわからなければ、どう対処すべきかわからない。

 イレギュラーとして考えられるは、才や綾といった転生者をコピーした闇の欠片。原作には存在し得ないという意味ではイレギュラーと言える。しかし、闇の欠片という括りに入れられそうなので正直微妙だ。戦闘能力も決して高い訳ではないため、それも首を傾げる理由になっている。

 後は『U-D』が現れるという可能性も考えたが、こっちの方が有り得ない。U-Dを目覚めさせるには、まずU-Dの正式名称であるシステム『砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)』を起動させる方法が必要になる。後の物語のことも考えれば、ない。

 では、イレギュラーとは何なのか? イレギュラーとは自分達にとって有り得ない存在であり、この物語、原作に対しては何らかの存在意味があるようになっているはずだ。意味もなく強引に入れるような真似を、神がするとは思えない。

 

(……考えるのは後にしよう)

 

 しばらく考えて、才は考えるのを止めた。

 敵が来たからだ。

 フェイトと瓜二つのシルエット。しかし、フェイトとは明らかに違う、青い髪と魔力。

 

「……君か」

 

「砕け得ぬ闇を手に入れるため、僕は目の前の敵を、お前を叩き斬る!」

 

 マテリアルL――雷刃の襲撃者。

 新しいカートリッジを組み込み、才は白杖を雷刃へと向ける。

 

「……やれると思う?」

 

「僕の剣に斬れないものはなーいっ! いくぞぉーーー!!」

 

 雷刃は自分のデバイス、バルフィニカスを上段に構えて突撃してくる。

 才は、白杖の先に集束させた魔力を撃ち出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 一方、海斗と由衣はある人物と出くわしていた。

 

「……綾、さん」

 

「……よぉ、由衣。海斗も」

 

「……………」

 

 見間違えるはずもない、自分達のリーダー、朝霧綾その人だった。

 しかし海斗は、手にしている長杖を強く握り締める。

 違う。『これ』は綾じゃない。綾であるはずがない。

 

「……海斗、できれば状況教えてくれるか? 今俺に何が起きてるのか、俺にはよくわからねえんだけど」

 

「……ああ、そうだったな。綾は、ここらへんの物語は知らないんだっけ」

 

 そう思い出して苦笑して、それで力んでいた力が少し抜けて。

 少し気持ちを落ち着かせて、海斗は状況を話し始めた。

 

「……綾は、いや……あんたは、闇の欠片って言って、闇の書の残骸が色んな人の形になっているんだよ。あんたはそれで綾の姿と人格を写してる」

 

「……ああ、なるほどな。プログラムとして作られたから、今の俺は右目が見えるし、左手があるのか」

 

 目の前の綾は左手を握ったり開いたりしながら、納得したように言った。

 

「……覚えてるのか?」

 

「まあ、ボロボロになって、ぶっ倒れたところまではな」

 

 そういえば、欠片の個体によっては事件後の記憶を持った奴もいたんだっけ。と海斗は思い出した。

 

「そういや、なんで綾はレイジングハートを持ってんだ?」

 

 海斗はさっきから気になっていたことを訊いてみた。綾はいつもの長杖ではなく、レイジングハートを手にしていた。

 

「なんでって、お前の話からすると、俺は闇の書によって再現されたんだろ? だったら基本的には、闇の書が見た装備なんじゃないのか?」

 

「……ああ、そっか」

 

 言われて、それはそうだと納得し、気づかなかった自分を恥じた。あの戦いで綾が使っていたのはレイジングハートだったのだから、レイジングハートを持っているのが普通だ。

 

「さて、で、二人はどうするんだ?」

 

「え?」

 

「お前達がここにいるということは、何らかの目的があるはずだ。でもって俺は闇の欠片として、闇の書の防衛プログラムで動いていることになる。正直、こうして止まって雑談してるのも限界がきてる」

 

「そんな……」

 

「……………」

 

 綾は何でもないように言ってるが、言ってることは現実だった。こうして戦うことなく話しているということが長く続くはずがない。

 

「闇の欠片を潰すのが目的なら、今すぐ俺を倒せばいい。それ以外が目的なら、すぐに行け。判断して行動するまでなら、なんとか止まり続けてやれるから」

 

「……、……わかった」

 

 海斗は、中段に構えた長杖に魔力を付与させる。

 

「海斗さん……」

 

「これは……夢なんだ。あいつにとっても、俺にとっても。そして……夢は覚めなくちゃいけないんだよな」

 

 夢――綾が無事でいて、こうして普通に話しているという夢。しかし、その夢はいつか覚める。覚めてしまう。綾が半死半生である現実に戻る。

 でも……最後に一つ、綾に訊きたいことがあった。

 

「……なあ、綾。一つ訊いていいか?」

 

「なんだよ? てか、早くしないとホント限界になるぞ」

 

「……今の、本当の綾はボロボロでさ。右目も左腕もなくして、他の怪我もたくさんして……それでも、お前はその体のまま戦うのか? 奴への反逆を続けるのか?」

 

 海斗の問いに、綾はめんどくさそうに頭を掻いた。

 

「俺は朝霧綾の姿と人格を持った闇の欠片であって、朝霧綾じゃない。俺の答えがその綾の答えじゃない以上、俺が答えても意味ないぞ」

 

「難しい言い方しねえでよ……お前ならどうすんだ? 綾の人格持ってんなら、似た答えになるだろ?」

 

 綾は空に仰いで、しばらく思考した。

 しばらく時間をかけて、綾は答えた。思考時間に反して、随分短い答えだった。

 

「そうだな。……わからん」

 

「……ははっ」

 

 海斗は、思わず笑った。

 

「なんだ……結局、闇の欠片だろうが綾は綾だな」

 

「ん? そうなのか?」

 

「そうだよ。肝心な時にはぐらかした答え方するんだもんなぁお前。高校の時も、今も」

 

「ああ……あれか。お前に勉強教えようとした理由。あれもはぐらかしたんだっけ」

 

「思い出したか? その理由」

 

「さあな。質問すら忘れてた」

 

「ほら、誤魔化してばっかりじゃねえか」

 

「それは本人に訊け。つーか、もう限界になるぞ」

 

「わかったわかった。……じゃあな、綾」

 

「ああ。まあ覚めた後も会えるには会えるんだから、またな」

 

 海斗は、振りかぶった長杖を真っ直ぐ振り下ろした。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 綾の姿がプログラムとなって消え、鈍い光がそれぞれ二人の目の前に現れる。

 そこからスターチップが落ちてきて、しかし、ここで由衣が気がついた。

 

「……あれ? イレギュラーって、あの綾さんの闇の欠片なんじゃなかったんですか?」

 

「へ? ……あ」

 

 海斗も改めて手元を見てようやく気がついた。

 今入手したチップは一つだけだったのだ。即ち、あの綾はただの闇の欠片であり、イレギュラーでないということになる。

 

「となると……イレギュラーって何なんですかね?」

 

「んー……ま、それはいいよ。マテリアルよりもヤバい相手かもしれないんだし。さ、次行こうぜ」

 

「あ、はい!」

 

 このイレギュラーの存在は、二人とは別の場所で明らかとなるのだった。




 ……あれぇ? 由衣の出番作ろうと思ってたのになぁ……?
 次回から全く別の人の視点だし……うーん、どうすりゃいいんだろ。
 あ、次回は話の中でも出てきた『イレギュラー』が登場します。

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