Magic game 作:暁楓
指令開始です。
海斗はこの戦いに勝てるのか。
差出人:管理者
件名:指令3
内容:
次の指令を指定期間内に実行、達成せよ。
指令内容:闇の欠片事件における、闇の書断片データとの戦闘に勝利せよ。
期間:十二月二十八日、闇の欠片事件終了まで。
報酬:報酬は勝利する度に配布され、報酬の内容は勝利した相手によって以下の通りである。
闇の欠片……1個
マテリアル……2個
イレギュラー……3個
なお、同一種に複数勝利してもカウントされる。
◇
建物の陰に隠れた海斗は長杖を展開し、陰から通りの様子を観察する。
もうすでにここは結界の範囲内。いつ敵が現れてもおかしくない。
(俺は綾みたいに頭がいい訳でも、戦術がある訳でもない。魔力もあいつより少ない……でも、相手を厳選さえすれば俺でもいけるはずだ……)
そう、無理をする必要はない。この指令で死ぬことはないのだから、無理してリスクの大きい相手を選ぶ理由などない。
チップを一個取れば十分。二個取れば最高。三個以上は、高望みだろうがやれたら儲け。
(できるだけ、綾のチップが減らないようにする……)
それが、今海斗が成すべきこと。
では、厳選で誰が狙い目か?
(まずは騎士とは言え一番戦闘能力が低いシャマル。あとは……張り付きさえすりゃ近接戦で勝てる見込みがあるなのはとはやてってところか。同じ理由でシュテルとディアーチェ……あ、今は星光の殲滅者と闇統べる王か? どっちでもいいか。……あの二人はやめといた方がいいか。リアルだと性格的な攻撃傾向に違いがでるだろうし)
ともかく、人数は絞り込めた。後はその人物を探し当て、戦うだけだ。
「……おしっ、行くか」
気合いを入れ直して、海斗は探索を始めた。
◇
しばらく探索して回って、ようやくターゲットを見つけ出した。
見つけたのはシャマルだった。しかもまだこちらに気づいていない。
(よし……行くぞ……!)
魔力弾を一発作り、狙いを定めて飛ばす。
……当たった!
「ブーストアップ……アクセルッ!」
強化魔法を行使し、一気にシャマルへと駆け出す。元々運動能力が高い海斗。加速強化によって瞬時にトップスピードへと上り詰め、跳び蹴りを叩き込む。
だがまだだ。追撃はまだ終わらないし、終わらせない。
長杖を器用に使い、追撃を仕掛ける。できるだけ手足を狙い、反撃は許さない。
だがそれでも、反撃はきた。
「うおっと!」
クラールヴィントのクリスタルコアが飛んで襲いかかってきた。とっさに避けたが、追撃の手が止まってしまった。
(しまった――!)
追撃を止めてしまったことを悔やむが、もう遅い。主導権が変わってしまい、主導権を取り戻すのが難しくなってしまった。なぜなら、このコア飛ばしは遠距離に効くからだ。
シャマルの攻撃は距離が開いてもできる。しかし海斗の行う棒術は今持っている長杖が届く距離まで近づかなければならない。魔法で攻撃しようにも肝心の魔力が少ないから手数が取れない。こちらに気づかれて距離が開けられる以上、主導権を取り戻すのは難しいのだ。
「くっ……!」
飛んでくるコアを避けながら、海斗はどうすればいいのか考える。
とにかく、あの飛んでくるコアが邪魔だ。近接距離に近づけさえすれば主導権を取り返せる。
(あいつならどうする……?)
思考する。彼ならどう動くか。彼なら、どうやってあれを止めるか。
(やるとしたら……)
そう考えている間にも、相手の攻撃の手が止まる訳ではない。
四つのコアが、海斗目掛けて襲いかかる。
ブシィッ!
肉体に突き刺さり、鮮血が噴き出した。
しかし、それからコアが動くことはできなかった。
なぜか。それは、四つのコアが突き刺さった箇所が海斗の左手の手中だからだ。
「いってぇ……っ」
血液が垂れ落ちる左手の痛みに顔を歪めながらも、海斗は握った左手を開くことはしない。
海斗は自ら、左手でコアを受け止め、そのまま手を握り締めたのだ。
これで、コアが飛んでくることはなくなった。
「終わり、だぁあっ!!」
海斗は長杖に魔力付与をさせ、力一杯に振るった。その一撃がシャマルの頭に直撃して意識を刈り取り、シャマルは断片データとして消え去った。
闇の欠片が消え去ってから、鈍い光が現れ、スターチップが一つ落ちてきた。
「ふぅ……」
海斗はチップをポケットに突っ込むと、溜め息と共に座り込んだ。
時間にしてたった数分の戦闘だったはずだ。たった数分なのにも関わらず、強い疲労感に見舞われている。
(綾はこれ以上の相手と、すげぇ時間をかけてやりあったんだよな……)
それは肉体的にも精神的にも、計り知れない負担だったのだろう。体感してみて、改めてよくわかる。
そして、そこまで苦労して手に入れたせっかくのチップが、毎回一定数消されていく。
(これじゃあダメだな……もっととらねえと!)
「いっつ!?」
気合いを入れ直して海斗は立ち上がろうとするが、立ち上がる時に左手をついたのが悪かった。左手に痛みが走った。比較的軽傷とは言え、怪我は怪我だ。
(これぐらい……綾が受けた痛みに比べりゃ、なんともねえ!)
「ヒーリング発動……傷ついた身体に癒やしを……」
「……!?」
知ってる声と共に、水色の魔力が海斗を囲んだ。魔力が左手へと集中し、痛みが引いていく。
振り返ると、そこに長杖を持った由衣がいた。
「由衣ちゃん!? なんでここに……」
「すいません……どうしてもじっとしていられなくて、綾さんのデバイスを持って来ちゃいました」
「来ちゃったって……危険なんだぞ!」
「わかってます! でも、それでも……なにもできないまま、ずっと頼ってばっかりなのは嫌です!」
由衣の表情には、決意が込められていた。
「回復と……それから支援射撃なら術式がこれに入っているのでできます。海斗さんを、サポートしますね!」
「……全く」
海斗は眉間を押さえた。
それを見た由衣は怒られるのかと思って慌てだした。
「あ、あの、海斗さん……」
「……まあ、どうせ俺一人だとこれで限界だっただろうしな……。わかった。サポートは任せたぜ」
「……はい!」
こうして合流した二人は、次のの相手を探すため走り出した。
いい加減由衣を活躍させねばならないかなと思いまして。
というか、ホント由衣の存在感が出ないんですよ。聖祥行ってない、専用デバイス持ってないとなるとここまで影薄くなるんですね。なのは達と同じ九歳のはずなのに。