Magic game 作:暁楓
その人との関係、救える範囲、答えは変わるのかもしれない。
でも、あなたならどうしますか?
「穿て」
その一言と共に、紅い刃が俺に群がってくる。
「くっ!!」
俺は逃げながら回避。だが数が多すぎる。右手、左腕、腹部などに浅い傷ができていく。
刃の雨が止んだところにすかさず、着火させた花火を投げつける。
花火は闇の書の目の前で爆破。だが闇の書は怯んだ様子もなくこっちに来る。
(目くらましにすらならないのかよ!)
「響け……」
「っ!!」
闇の書が手に砲撃の魔力を溜めだした。
――夜天の書起動。
蒐集魔力使用。二頁分消費。
防御魔法展開。
「盾っ!!」
左手を翳し、灰色の魔法陣が現れる。
ドゥッ!!
「ぐっ……!」
左手から伝わる鈍痛。怯んでる暇はない。
蒐集魔導行使。
誘導射撃弾展開。弾数二発。
「行けっ!」
二発の魔力弾を形成。複雑な軌道を描く。まず一発は、闇の書の真正面へ。
「盾」
当然、防がれる。
(ここだ……!)
だが二発目は彼女の真後ろ。完全に死角を取った。当たる!
パンッ!
「なっ!?」
「無駄だ……」
完全な死角に入ったはずの魔力弾が、振り向きもしてない彼女の左手によって弾かれた。
「くそっ!!」
花火を投擲。今度は複数同時に投げられた花火が一斉に爆破され、もはや光の花というより壁を作る。その一瞬の間に走り出す。
状況的に、かなり……いや、絶望的にマズい状態だ。
まず、持ち込んできた最大の武器である花火が全く効かない。威力的に効かないのならまだしも、目くらましとしての役割も全く成さない。役割を果たしてもらうため数を投げるが、その結果消費がハンパじゃない。
夜天の写本の方もヤバい。元々蒐集魔力が少なすぎる。この指令のことを話していない海斗と由衣、すでに闇の書に蒐集された才を除いた除いた八人の転生者からの蒐集で集まった魔力は三十頁にも満たない。さっきの防御行使でさらに頁を失い(誘導射撃弾は俺の魔力を使った)、残り二五頁となってしまっている。これでは、間違いなく足りない。
あと頼みの綱と言えば、これしかない。
「はぁっ、はぁっ……レイジングハート! バルディッシュ! 起きろ!」
《起きてます》
《何でしょう、綾》
今は片手に小さく収まっている、二人の少女の愛機の名を呼ぶ。
「お前らのマスターとのリンクはどうなってる!? 繋がってんのか!? 魔法は使えるのか!?」
《繋がってます。しかし、マスターの魔力を行使できる状態ではありません》
《申し訳ありません》
「チィッ! だったら!」
舌打ちして、背後からやってきた無数の刃を頁を消費して防ぐ。
ガガガガッ! 喧しい音に対抗するように、怒鳴るほどの声で続きを言う。
「俺を臨時のマスターにしろ! 力を貸せ!!」
《……しかし、あなたとマスターでは魔力資質の差が大きすぎます》
「構うか! 早くしろ!」
《しかし……》
なおもレイジングハートは躊躇う。だが、バルディッシュが決断した。
《了解。臨時的に綾をマスターとして認証します》
バルディッシュのその判断で、レイジングハートも決断した。
《……わかりました。私も、綾を臨時マスターとします》
「よし! レイジングハート、バルディッシュ、展開!」
俺の展開という一言で、レイジングハートとバルディッシュが再び杖の姿となり、俺の手に収まる。
「射撃弾形成! 二発ずつ頼む!」
《《了解》》
レイジングハートによってアクセルシューターが、バルディッシュによってプラズマランサーが形成される。
「発射!!」
その一言で四つの魔力弾が闇の書へと飛ぶ。
まず弾速が速いプラズマランサー。防がれる。
その間に闇の書の後方両側へと回り込んだアクセルシューター。ダガーによって消される。
……来る!
「くっ!」
闇の書の拳をかわし、バルディッシュを振るう。当たらない!
さらに拳が来る。防御し、レイジングハートのカートリッジをロード。
「吹っ飛べ!!」
「……響け」
同時に砲撃。威力負けしてしまい、俺が吹っ飛んだ。背中から強く叩きつけられる。
「かはっ!」
「眠れ……」
「!!」
倒れた俺の真上に来た闇の書が、俺に手を伸ばす。マズい――!
「……されてたまるか!!」
「……っ!」
その場の土を掴み、彼女の顔へと投げつけた。目に異物が入ったことで、闇の書の動きが止まる。
その隙に立ち直り、逃走を再開する。
(とにかく、マズい! どうにかしてよりあいつの攻撃から逃れられる手段を作らないと……!)
でもどうすればいい? 考えろ。今すぐ、もっと考えろ。
時間はまだ経って五分。あと二十五分間も逃げ続けられる手段を考えないと――!
「……!?」
何かが横目に入り、俺はその場で急停止した。
(……今、人がいなかったか……?)
いや、有り得ない。有り得ないはずだ。ここには結界が張られている。魔力のない人間は原則存在できない。転生者にしても、余程のことがない限り、指令に関係がなく命を危険に晒すような場所に来る奴なんていないはずだ。
(……どうなっている?)
とにかく、引き返すのは危険だ。先に進み、そこからさっき見た道を確認すればいい。
再び走り出す。そして、横目でさっきの道を見ると――いた。
人がいる。それも一人や二人といった単位じゃない。もっといる。
より確かめるため、俺はその道の方へと出た。
「……!?」
あまり広いとは言えない道路。そこに集まっている人、人、人。
道が広くないこともあって、何人いるのかはよくわからない。ただ、中には銀髪だったりオッドアイである者もいることから、おそらく転生者だろう。
その中の一人が、こちらに気づいた。
「……おい、あいつが持ってるのって、レイジングハートとバルディッシュじゃねーか?」
「ホントだ……」
「なんであいつが持ってんだ……?」
ぞろぞろと近づいてくる。
引き返すべきか、と思っていると、
「どけっ! このボンクラども! 邪魔なんだよ!」
荒々しい声と共に目の前の奴らを押しのけ、こちらに誰かがやってきた。
誰か、というか……
「……氷室! 由樹!」
「よぉ、綾!」
「頑張ってるねえ」
氷室であった。由樹もいる。
互いに相手の姿を確認して、すぐに駆け寄った。
「お前ら、なんでここに……」
「まあまあ、その話はちょいと移動してからだ」
「いや、呑気に話してる暇は……」
「大丈夫だよ。探知魔法で調べたけど、闇の書はこっちに来てない。君を見失ったらしいよ」
「とにかく、こっちだ」
氷室に案内されて道の真ん中に移動する。するとそこには、俺の知ってる顔があった。
「海斗、由衣、竹太刀!」
「綾!」
「綾さん!」
三人だけじゃなく、チーム『インテリ不良』の残る二人も、チーム『連合軍』の三人もいた。
「どうしてこんなところにいるんだ!? 家にいたはずだろ!」
「そういう綾こそ何やってんだ? レイジングハートとバルディッシュなんか持って!?」
「まあ落ち着きなよ。まずは僕らの現状を教えるから」
由樹が俺と海斗を制止させ、説明を始めた。
「まず、綾を除いたここにいる連中にこんなメールが来た」
由樹はそう言って、携帯を俺に見せてきた。
差出人:管理者
件名:特別指令
内容:スターチップ大量確保のチャンスです。
達成すればスターチップを十個入手できる特別指令を発令します。
強制ではありませんので、参加しない場合には今すぐ不参加の通告をしてください。
不参加通告をしなかった方には、転送後指令を通達します。
「……通告はしたけど、やられたよ。まさかずっと下に注意事項があるなんてさ」
由樹が携帯を下へとスクロールさせていく。しばらく真っ白だった画面に、文字が入ってきた。
注意
チームの場合、不参加通告は全員分行わなければ全員参加になります。
「で、参加させられてから来たのがこれ」
差出人:管理者
件名:緊急指令
内容:三十分間、闇の書の意志から逃亡を続けよ。闇の書の意志からの攻撃は受ける度にスターチップを十個剥奪される。
成功条件・報酬:三十分間、闇の書の意志から逃げ切る。スターチップ十個配布。
失敗条件・罰:三十分間に闇の書に吸収される。もしくは指令による剥奪個数が所持数を超える。失格。
「失敗したよ。これなら二人にちゃんと注意させとけばよかった。マリアとのデートも強制中断されちゃったし」
「俺はいくらこいつらに言っても聞かなかったからな……ちっ」
「うぐぅ……」
「……じゃあ、海斗達は俺のせいか……?」
この話を聞く限りだとそうなってしまう。
「いんや、わいらは強制なんや」
竹太刀はそう答えた。
「わいらもこれ見る前に通告しようとしたんやけどなぁ、神の方から拒否権はないーって言われてもうてな。そのまま参加するしかあれへんかったんや」
「……そうなのか?」
「は、はい。私の元にも来ました……」
「俺のところにも来たぜ。で、綾は何してんだよ」
「……、実は……」
《警告。三時方向上空より高魔力反応確認しました》
「おい! なんだよあれ?」
俺の受けている指令を海斗達に明かそうとしたとき、レイジングハートのその音声が割り込んできた。それから誰かの声。
すぐに指定された方向を見ると、桜色の光球が徐々に膨張していた。
闇の書は完成までになのはの魔力を蒐集していない。だが、今はどうだ?
闇の書は、
「……!! スターライトブレイカーが来るぞおおおおおっ!!!! 全員、逃げろおおおおおおおっっっ!!!!!」
喉を枯らせるほどの声で辺りに怒鳴る。
辺りの参加者は呆けた顔をしていたが、上空の光球を見て、その言葉を現実と見た者達が顔を青くした。
「う……うわあああああっ!! 嫌だっ、死にたくないーーーっ!!!」
誰かのその言葉が、一斉に全体へと広がっていった。
「い、いやあああああっ!!」
「逃げろーーーっ!! チップがないなら死ぬぞーーーっ!!」
「うわあああああっ!!」
すぐ近くの脇道に群がる人達。しかし、さらなるパニックが起きていた。
「おい! 早く行けよ!!」
「と、通れないんだ!! 変なっ、光の壁みたいなのが!!」
「うわあああっ!! 馬鹿っ、押すな!」
どうやら脇道が通れなくなっているらしい。しかしパニックで外側まで言葉が通じておらず、ごった返しのままどうにかなりそうにない。
「お前ら、こっちだ!!」
俺は海斗達を先導して走り始めた。
「おい、綾! どうすんだよ!?」
「住宅でも脇道でも、片っ端から調べろ! 封鎖されてるのは近くの数カ所しかない! 絶対に助からない構造にはしないはずだ!」
「てめぇらもさっさとしろ! 俺をこんなことに巻き込ませたツケはきっちり返しやがれ!!」
「僕はこっちを調べるよ! 綾は身体強化使ってできるだけ遠くを調べて!」
「わかってる!!」
通れない、通れない、通れない……!
……! ここは通れる!
「こっちだーっ!! 早くこっちに来い!!」
できるだけ大きく手を振って、大声で知らせる。全員がこっちに気づいて急いでこっちに来る。
「早く入れ!」
「てか、大丈夫かこんな民家で!?」
「闇の書のスタブレは広域型や! 物質破壊効果はあらへん! ほな急げ!」
急いで海斗達が入る中、上空の光球はいつ解き放たれても不思議じゃないほど大きくなってきていた。
「……あ? あいつ何やってんだ!?」
氷室が声を上げた。
視線を落とすと、ここから十メートルほど先で末崎が座り込んでいた。
「ったく、もう集束が終わる! 綾! あいつはもうほっとけ!」
その時だ。奴のあの言葉を思い出した。
『汝は負傷すると指令の遂行に支障が出る。しかし、汝の負傷はルールに一切関係ない……』
……負傷のリスクを負ってでも助けるか、見捨てて負傷のリスクを避けるかだと……?
「っ、ふっざけんじゃねえぞあの野郎!!」
「おい、綾!!」
俺は飛び出した。氷室の声は無視だ。
俺は、見捨てない! 俺の届く範囲で、誰も死なせたくない!!
ほんの一秒もかけずに末崎の元に辿り着き、腕を引っ張り上げる。
「早く立て!」
「こ、腰が抜けちまった……」
末崎に肩を貸し、さっきの民家へと急ぐ。
ふと後ろを見ると、桜色の光球は今にも溢れそうに……否。
今、溢れ出した!
「う、うわああっ!! もうダメだあああっ!!」
「くっ……!!」
強化を使う暇がない。玄関までもう少し……せめて、末崎だけでも……!
「ったく、何やってんだよ」
……え?
「お前は、俺達の希望じゃねえか。そんな奴に構ってたら、てめぇの命なくすぞ」
ドカッと、後ろから強い打撃の感触。
打撃は末崎を巻き込み、俺達は二人とも揃って玄関の中に放り込まれる。
後ろを、見ると、
「綾。ついでに末崎。……………生きろ!」
脚を蹴り上げ、そう笑みを浮かべた彼が、桜色の光に飲み込まれた……。
「氷室ぉーーーーーっっっ!!!!」
圧倒的力の差。そして烏間氷室の死。
絶望的状況で、戦いはまだ続く。
次回に続きます。