Magic game 作:暁楓
時間が飛びました。一部省かれたことについては謝罪します。後書きで言い訳もします。
『結局、ヴィータとシャマルを攻略ってとこで原作メインに突入かぁ』
食事中、突拍子もなく竹太刀がそう念話をしてきた。
十二月に入り、季節は冬。確かに原作A'sの激闘が始まる頃である。
『こっからどないすんのや? 原作に突入したら守護騎士とのエンカウント率がかなり下がるんとちゃう? シグナムとザッフィーどないすんねん』
『ザッフィーってなんだ。まぁそれもそうなんだが、今話しかけてくんな。こっちは忙しいから』
『忙しいて……』
竹太刀は俺の方をジト目で見てきた。なんだ。
『幼女とラブラブしてることのどこが忙しいねん』
何その言い方。お前事情知ってる上にいつも見てるだろうが。
「アリシア、あーん」
「あーん♪」
『どこが忙しい訊いとるやろが』
『まずさっきの言葉訂正しろ。俺はアリシアにご飯食べさせているだけでラブラブはしてない』
『アリシアは幸せそうなんやけど。そして普通にラブラブやん。で、どこが忙しいねん』
『由衣に手伝ってもらってる分楽になってるとは言え、ほぼ四六時中アリシアのそばで世話役だぞ。忙しい、つーかお前もわかりきっているだろ』
『幼女と四六時中……うわぁ、変態や』
『ぶっ飛ばすぞ』
念話は混沌としているが表面上はとても平穏だ。
普通に作業しながら、アリシアには内容を聞かれないように竹太刀に念話でツッコむ……俺も成長したもんだ。あまり嬉しいとは思えないが。
『何、冗談や冗談』
『わかってはいたけどな』
心の中で溜め息をついた。
さて、ここで今日に至るまでの経過を話しておこう。
まずアリシア。リハビリの甲斐あって、ちゃんと声を出し会話をすることが可能になった。
アリサとすずかに「友達になってほしい」と自分から言いたいということが原動力となり、アリシアがすごく頑張ったのだ。たまに噛んだりつっかえたりすることがあるが、日常の会話に支障がない程にまで上達した。
そして二人への友達宣言は無事に達成した。というか、やっぱり予想通りもう友達として見てたらしい。アリサ談。ちなみになのはについてはそれより前に念話で完了してたりする。
きちんと喋れるようになり顎の筋肉もしっかりとしてきて、食事もスープやお粥状のものから普通の食事に変わった。ハンバーグやカレーライスといったものが食べられてとても嬉しいとのこと。
それと手足についてだが、こちらは進展が遅い。というのも握力もないため手すりや松葉杖を使って立つというリハビリができないことに俺も結構最近になって気づいたからである。なのでまだしばらく車椅子の生活が続きそうだ。現段階では、手や足を上げたまま静止することが少しだけできたり、軽く滑らないものを持つことができるくらい。食事でスプーンやフォークを扱う程細かい動きはまだできないため、練習させつつもこちらで食べさせている。竹太刀がさっきラブラブ云々言ってたのはこれだ。
次に指令について。こちらは竹太刀が言った通りシャマルに勝利した。
攻略者は竹太刀になっている。攻略したのは由衣がヴィータに勝った数日後。あの偽学芸会練習を続けていると、ヴィータがはやてと、はやての付き添いの形でシャマルもやってきた。戦闘関係ではなく、ああいった手品のことならヴィータははやてに話をする。そしてヴィータ、はやてともう一人来る可能性があるかもしれないと考えていて、うまくその通りに動いてくれた。
それで由衣がヴィータやはやての相手をしている間に、竹太刀がシャマルと勝負。
ゲームは、俺も興味があって読んでた『賭博覇王伝 零』で出てきた『百枚ポーカー』。ただし少しルールを変えてやってみた。
百枚ポーカーオリジナルバージョン
・ジョーカーを抜いたトランプ五十二枚で、十種類の役を作る。
・役の作成に制限時間は設けない。(シャマルへの配慮)
・役を作成し終えた後、互いにそれぞれルーレットを三回回し、出た数字三種類を開示する。
・先攻後攻はコイントスで決め、最初に先攻が三回、次に後攻が三回、後の四回は後攻だった者が先に二回攻撃。
・役同士をぶつけ合った結果、強い役が勝利となり、役において一番大きな数字が得点になる(Aは14点)。終了時の合計得点が高い方が勝利となる。
まあ、要するに買い物タイムというのが排斥されたってことである。当然だが。
買い物タイムがない代わりにルーレットで三種類開示するルールは、ギャンブル性が高いとは言え必要だった。これがなければただの運頼みのゲームとなり負ける可能性も十分あり得る。
このルーレット開示のルールで運を見せたこともあって、百枚ポーカーで竹太刀は勝利を収めることに成功した。
チームで二人に勝利したことによって、報酬として四個のスターチップが渡された。
後はシグナムとザフィーラ、それぞれ勝つごとにチップが配布されるとのことらしいが、二人には勝つどころか勝負すらできていないのが現状だった。
シグナムにトランプゲームを仕掛けても乗ってはくれないだろう。そもそも、怪しまれずに仕掛ける時期はもう過ぎている。となると、何か格闘技系のものになるのだが、俺が剣道で負けてしまったためにそれもできない。ザフィーラについては言うまでもなく、狼に勝負なんて普通は無理だ。
だから、全員に勝つには手段はもうあれしかないと考えてはいるんだが……。
『綾、今日がヴィータのなのは襲撃日なんやから、夜は気い付けてなー』
『わかってる。まあ、俺達みたいな低魔力に食い付くことはないだろ』
『せやなー。普通に自分はアリシアちゃんといちゃいちゃしてればええんやー』
また言うか。
◇
冬の夕暮れは早い。外がすっかり暗くなった頃、俺は夕食の準備に取りかかった。
アリシアの食事が変わったのが比較的最近であり、アリシアの希望に合わせて洋食寄りにしていたのだが、そろそろ和食も食べたくなってきた。そこで昼に鯖を買って鯖味噌でも作ろうとしたのだが、ここで問題が起きた。
「味噌、切らしてたんだった……」
すっかり忘れてた。さらには生姜もない。
まずった。洋食寄りの食生活で使う回数がなかったから、どのくらいあったかとか把握してなかった。
「どうすっかなぁ……」
もう近いうちにヴィータが結界を張ってくる。ここはなのはの家に近いとも遠いとも言えないため微妙だ。だが仮に入るとしたら家から出る訳にはいかない。だが正直、鯖味噌を諦めたくない。
よし、ここは一つ。
「竹太刀に頼むか」
まだバイトから帰ってきてない竹太刀を使うことにした。この選択肢も竹太刀が一人になる時間が長くなるため危ないのだが、背に腹は代えられん。もしもの時には救援に行くか、アースラに救援を頼もう。
携帯を取り出し、竹太刀をコールする。
『もしもーし。どないしたん?』
「ああ、竹太刀。今日の晩飯鯖味噌にしようと思ったんだけど、味噌と生姜を忘れてた。買ってきてくれないか?」
『味噌忘れるって……まあええわ。その二つでええんやな? ちょうど今から帰るとこやし、買うてきて――』
ブツッ。突然切れた。
「……え?」
次の瞬間、辺りの風景が色褪せたものに変貌した。
「!!」
「り、綾さん! これって……!」
由衣が慌てた様子で走り込んできた。
プルルルル。プルルルル。
着信が来た。差出人は竹太刀。すぐに出る。
「もしもし、竹太刀! 無事か!?」
『いやー、びっくりしたわー。突然結界に入れられて電話切れてまったから。こっちは無事や』
どうやら無事のようだ。電話が切れたのは、時間差で結界に入れられたからだろう。つまり、竹太刀の方が結界の発生源に近いことを意味する。
「すぐそっちに向かう! 竹太刀はどこか建物の中に隠れろ!」
『ちょい待ちぃ! 自分が行ったら、由衣ちゃんやアリシアちゃんはどないすんねん!』
「氷室や由樹に頼む! だから待ってろ!」
『あんなぁ! あいつら自分にはようしてくれとるけど! あんま借り作りすぎたらアカン――』
ブツッ。切った。自分から。
すぐにまずは氷室に電話をかけてみる。
……………繋がった!
「もしもし、氷室! 今どこにいる!?」
『よう、綾。繋がってるってことは、お前も結界に入れられてるみてぇだな。チームで連合軍の四人と一緒にいるぜ』
「由樹もいるのか……今竹太刀が一人なんだ! 俺は竹太刀の元に行くから、家に来て由衣とアリシアのこと頼まれてくれないか!?」
『二人のお守りね。いいぜ。そんなに遠くねえし、任せろ』
「頼む!」
電話を切り、由衣の方を向く。
「由衣、俺は竹太刀の元に行く。氷室達が来るから、それまでアリシアを頼むぞ!」
「は、はい!」
すぐに出かける支度をし、待機状態のデバイスを手に家から飛び出した。
A'sの激戦が、幕を開ける。
前回同様言い訳タイム。
1、アリシアのリハビリが纏めてカットされたことについて。
アリシアごめんなさい。書きようがなかったんです。許して! これから結構出番があったりするはずだから許して!
2、シャマルが既に攻略されていることについて。
百枚ポーカーを書くとか無理があります。というか、トランプゲーを二回書く気にはなりません。シャマルなら省略されても大丈夫だと思った。後悔はしていない。
3、綾とアリシアが普通にラブラブ。
おのれ綾ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!
やっとA′sの本編に入りました。これからみんなの動きが慌ただしくなります。