Magic game 作:暁楓
後書きにて言い訳はしますので、それを見た上で本文に対するツッコミをしてね!
本文ですでに書いてあることに対するツッコミは控えてくださいお願いします。
「ヴィータ攻略おめでとさん。反逆者のリーダー」
「別に。俺が勝った訳じゃないぞ」
媚びへつらうような態度を少々鬱陶しく感じながらも、取り合えずは事実で言い返して先に進む。
今日、俺はある場所へと向かっていたのだが、偶然出会った氷室とこうして歩きながら会話をしている。
「つっても、お前も攻略した扱いにはなっているんだしよ。何より作戦考えたのはお前じゃないか」
「まあ、な」
「ところで、どこ向かってんだ?」
「大体はお前もわかってんだろ。シグナムに勝負できる可能性がある場所」
「やっぱり、あそこか。一応言っとくが、やめた方がいいぜ?」
「理由は」
「俺もリサーチしに行ったんだが、お前と同じく『シグナムと勝負できる』って理由で何人もその門をくぐって、その全員が手を出す前に惨敗したって調べがついてんだぜ?」
「だろうな。シグナムなら手を抜くことはないだろうし」
「挙げ句の果てには最近、そういう奴ばかり押し寄せては負けてもう来なくなる奴ばかりだからシグナム自身かなりイラついてるらしいぜ?」
「今までの相手全員が根性なしだとしたら十分ありえるな。というかそれはどこで仕入れた」
「頭の回るガキ」
「どっちだ。一応二人いるぞ」
「由樹の方だ。つーか才のアドレスなんて持ってねえし、そもそもあいつはアースラだろうがよ。あいつにはガキ呼ばわりもしない」
だよな。俺も絶対にしない。
「それで? シグナムからしたら俺もボロクソに負けてもう来なくなる根性なしと見られると?」
「お前、剣道やったことがあんのかよ?」
「ある。大分昔で、もう錆だらけかもしれないけど」
「そんなんで勝てるのか」
知るか。
話の途中にもう出たが、俺が向かっている場所はずばり剣道場である。非常勤講師をしているシグナムが今日そこにいると聞いて、向かっているところだ。
けれど話を聞く限りでは相当ヤバいことになってるみたいだな……戦闘以外の勝負もありだと気づいている奴がそこそこいることを喜ぶべきか。
と、話し合っている家に道場の門前に到着した。
「そうこうしてる内に、着いちまったぞ」
「ああ、着いたな。剣道体験や防具貸し出しをやってくれるらしい」
「俺も一応ついてくが、どうなっても知らねえぞ。剣道って防具着けてるとは言え、怪我することも十分ありえるんだからな」
「一切怪我のないスポーツの方が珍しいさ。行くぞ」
俺達は門をくぐった。
◇
剣道の体験として手続きを取り、道場内を見学。
一通り見学していった後、防具を借りて体験させてもらうことになった。氷室も一応防具を着込んでいる。渋っていたが、俺が説得した。
「で?」
稽古の途中、氷室が話しかけてきた。
「何が」
「調子だよ。どうなんだ?」
「六年ぶりかな。久々に着て重い。あと視界が悪い」
「そっからかよ……」
……さて、挑戦前にこれだけは確認しないとな。
「氷室、ちょっと胸当て脱いで吊すように持ってくれ」
「あん? いいけどよ……」
一旦稽古を中断し、氷室は俺の言うとおりに胸当てを腕に吊す形で持った。
「で? どうすんだよ」
「……………」
俺は胸当ての正面に立った。
そして右足を引き、重心を落とし、肩と同じ高さで水平になるように持った竹刀を先端を胸当てに向けて引く。
その態勢で、俺は身体を固めた。
「平突き、か?」
「……………」
氷室の呟きには答えず、とにかく己の集中力を高める。
……一呼吸。
「――だぁあっ!!」
バシンッ!!
声とともに勢い良く突き出された竹刀の先端が、胸当てを捕らえて乾いた音色を打ち出した。
胸当ては氷室の腕を中心に弧を描き、それから重力に従って元の位置へ戻る。突き出してそのままだった竹刀の先端に当たり、振動が腕に伝わった。
「……おい、今の突きは、なんだ」
俺が突きを繰り出してから十数秒後、ポカンと口を開けていた氷室がようやく言葉を発した。
「誰から教わったんだ?」
「……教わった、というより、一緒に作り上げた我流だ。六年前に知り合った人とこの突きの技術を磨いていたんだよ」
「あのドベとか?」
「違う。海斗と知り合ったのは高一の頃だ」
『あいつ』は……元の世界で元気にしているんだろうか。……いや、今はよそう。考えるべきなのは勝負のことだ。
長年やってなかった分、筋がかなり荒くなっているが、使えなくはない。
……よし、準備運動もこんなもんか。
「……勝負、やるか」
◇
試合の体験をさせてもらうことにした。というか、お願いした。
それでシグナムを相手にお願いすると、案内人は「最近シグナムさん人気者だなぁ」とぼやいていた。
シグナムは最近自分への指名が多いのか一瞬だけ苛立った様子だったが、すぐに平然とした表情に戻して申し込みを受け入れてくれた。
試合場に入り、二歩進んで礼、三歩進んで蹲踞。
「始め!」
審判員のその声で、立ち上がる。そしてすぐ俺は平突きの構えを取った。
(試合は一本勝負……これにかける他はない……)
あくまで体験だからということで一本勝負となったのだが、俺にとっては有り難かった。一本取られれば終わりになってしまうが、俺には三本勝負でシグナムから二本取れるとは思えない。良くて最初の一本だ。
開始早々平突きの構えを取るのは、元から防御なんて考えていないから。錆びた腕で剣に長けたシグナムの太刀筋を防ぎきることは絶対不可能だ。
(そもそも、『あいつ』は防御なんて一切考えてなかったからな……)
『あなたの攻撃なら、防ぐ必要もありませんわ』
脳裏に、『あいつ』の言葉が蘇る。
『攻撃は最大の防御という言葉がありますが、それ以前に『相手に何もさせずに』倒す。これがわたくし流ですの!』
……ああ、そうだったな。結局はお前には一度も勝つことはできなかったな。
竹刀を握る手に力を込める。いつでも踏み込めるよう、足に力を溜める。
シグナムは中段の構えのまま、まだ来ない。普通とは違う俺の構え方に出方を伺っているらしい。俺にとっては好都合だ。
『彼女』が言った言葉を……思い出す。
『いいこと? 突きというのは斬撃の中でも最も相手への到達に必要な距離が短い攻撃ですの』
……ああ、そうだ。そして、
『そしてその最短距離を、最速最強の力で貫く。それが、わたくし流刺突術ですの! 極めれば敵などいませんわ!』
……そう、なんだな。でも、当時の俺は「敵なしなんて言葉を使う流派はどこにでもあるだろ」なんて言って、
『う、うるさい! 文句があるなら、わたくしに勝ってみせてから言いなさい!』
そう怒られたものだ。
それから一緒に研究したりして俺は『彼女』と我流剣術を作っていったんだよな……。
(……っと、思い出はまた今度だな)
思考を試合に戻し、相手を見据える。
防御に回って勝ち目はない……勝つとしたら、相手の攻撃が入るより早くこちらが決める他はない……!
(初撃で勝つつもりで……行くぞ!)
摺り足で踏み込みまでの距離を調節後、ダンッ! と一気に踏み込む。
右足で踏み込むと同時に突き出した竹刀が、シグナムへと迫る。
バシンッ!!
しかし鳴り響いた音は、竹刀同士のぶつかり合う音。
シグナムの袈裟切りによって、竹刀の軌道は右下へと叩き落とされてしまった。
それだけじゃない。
(……っ!!)
手首を返し、迎撃から反撃に移ろうとしているのが見えた。
(右切り上げによる籠手打ち……! ……なら!)
「……であぁっ!!」
力一杯に腕を上げ、竹刀をかち上げる。
追撃……はせず、すぐに間合いを取る。無駄に上げ過ぎた。攻撃しても防がれたか、最悪先に打たれる。
間合いを取った俺は、再び平突きの構えを取った。
呆気なく防がれてしまったが、他が有効だとは思えない。やるべきなのは、
(もっと速く……もっと強く!)
ダンッ!!
先程以上の力で踏み込み、突きを繰り出す。
バシンッ!! という音と共に、また同じく竹刀が叩き落とされる……だが!
(引かない! 前へ!!)
さらに左足で相手の右側へと踏み込む。ぶつかるギリギリの距離。面越しに、シグナムの顔に驚きが見えた気がした。
踏み込んだ左足を軸に半回転。反撃時に逃げられないよう詰めるつもりだったらしいシグナムは前に出掛かっていて、俺はやや斜め後ろを取った形になった。
(取った! 入る!)
上段に構えていた竹刀を振り下ろす!
「っ……おおおおおっ!!」
その時、シグナムが叫びを上げた。
驚異的なスピードで、右薙ぎの一閃が俺の面へと迫る――。
パァアンッ!!
竹刀の乾いた音が、室内に響き渡った。
◇
「ど、どっちだ……!?」
氷室は試合の様子を見ていた。座って観戦していたのだが、思わず立ち上がっていた。
「ど、同時……?」
「おい、どっちが先に入った?」
「俺にわかる訳ないだろ……」
氷室の周りからそんな囁き声が聞こえた。
綾や氷室の他にも、何人か転生者がやってきてこうして観戦していたのだが、大したレベルではない彼らには判断がつかなかった……いや、そこそこの経験者でも判断が難しいものだった。そう思わせる程に、二人の攻撃が入ったのが一緒のタイミングであった。
審判員が、手を上げる。
「一本! シグナムの勝利!」
それが、結果だった。
打ち込んでから微動だにしなかった二人が、その言葉を聞いてやっと時を取り戻したように動き出した。
互いに礼をして、氷室の元に綾が戻る。
「負けちまったな。惜しかったんだが、な」
氷室が慰めの言葉を発した。いつもは卑屈な言葉である彼がそういう言葉を発するとは、それほど見入っていたということだろう。
綾は静かに面を外した。ふぅ、と息をして、一言ぼやくように言った。
「ああ。負けちまったよ」
神から敗北の、そして剣道での勝負が有効にならないという旨のメールが届いたのは、道場を出てからだった。
◇
帰宅したシグナムは今日の対戦相手――綾のことを考えていた。
(なかなか腕の立つ奴だったな。あの突きや、特に最後の動きはさすがだった)
判定で自分の方が早かったとは言え、本当に危なかった。振るうのがもう一瞬でも遅かったら、結果は変わっていただろう。
それに、終盤で面越しに見えた彼の目……必勝に全てを捧ぐその目は、最近迫ってきたどの対戦相手よりも強く輝いていた。
(朝霧綾、か……)
去っていく前に聞いた名前を思い出す。
あの後、彼はあの実力が認められてか講師から強く勧誘されていたのだが、忙しいとのことで断った。シグナムは道場を去っていこうとする彼を呼び止め、互いに改めて自己紹介をしあった。
再会の可能性は、低いかもしれない。
だがもう一度、闇の書が完成して八神家に平穏が訪れた後にでも、また試合をしてみたいものだというのが、シグナムの正直な気持ちであった。
「……ふふ」
「ん? 何やシグナム、今日何かええことでもあったん?」
「主はやて……ええ、まあ」
「今日は道場に行ってたのよね。だとしたら、いい相手がいたのかしら?」
「戦いに燃えるのはいーけど、本気出しすぎて相手の心まで叩きのめすなよ。相手いなくなんぞ」
だが、次の対戦は闇の書完成の『後』ではなく『前』に、本気でやりあうことになるということを、シグナムは知らなかった。
何やら新キャラの影。わーあのひといったいだれなんだろー(棒)。
一応二度目です。一度目は意外に前に綾が言ってたりしてます。
さて、言い訳タイム。
作者は剣道なんて知りません。ウィキでパッと見た程度です。突きは小中学生禁止とか知りません。ガン無視です。後ろからの面打ちは危ないとか知りません。ガン無視です。普通に考えて動きに無理があるんじゃねとか仮に言われても知りません。ガン無視です。最短距離を最速最強で打つとか、どこのマンガだよと言われたらこう答えます。マンガからこの発想に至りました。本当です。
負けちゃいました。勝負なので仕方ありません。負けることもあります。というか適度に負けも入れないと勝負じゃありません。勝つだけというのは敗北=即死の状況でないとありえませんしつまらないです。
しかしフラグを置くことに成功しました。勿論終わりになんかしませんよ?
次回はまた飛びます。どこまでって? そろそろあそこまで飛んでもいいんじゃないですかね? この小説は基本バトル(種目問わず)なので。