Magic game 作:暁楓
多分このサイト内のリリカルなのは作品史上最高なまでに“地味”な戦いになります。且つ、セコイです。
しかもそのターゲットが……。
時は流れ、九月。
由衣は学校、竹太刀はバイト、俺はアリシアの介護とそれぞれの役割を果たして生活をしつつ、指令を攻略するために少しずつ動いていた。
まず、七月辺りに打ち上げ花火を購入。そのままでも連絡や合図に使える他、
あと、八神家の動向の観察。これもできるだけさり気なく行うようにし、他にも氷室や由樹のチームと互いの情報提供を条件に協力関係を築いて観察してきた。
そして、九月ももう下旬。ついに、動く時がきた。
◇
海鳴市のとある公園では、老人会の人達でゲートボールが行われていた。
老人達の中で一人、スティックを手にしている少女がいた。赤い髪をお下げにしている少女――守護騎士ヴォルケンリッターの一人、ヴィータである。
主である八神はやてを救うために禁じられていた蒐集活動を始め、その出かける理由として目をつけた訳なのだが、今では老人達の人気者であり、ヴィータ自身趣味として楽しんでいる。
コンッとスティックでボールを打つ。
「よっしゃあ! あたしの勝ちだ!」
「ヴィータちゃんはうまいねぇ」
「へへっ!」
嬉しそうに鼻を擦るヴィータ。
そこに、二つの人影がやってきた。
「あのー、すんません」
「ん?」
ヴィータが声の方に振り向くと、そこにいたのは茶色の天然パーマの少年と黒髪で丸眼鏡をかけた少女――竹太刀と由衣であった。竹太刀の格好は至って普通だが、由衣は黒いハットを被っていて、恥ずかしそうにそれで目元を隠している。
「はい、なんでしょうか?」
「あの、この子が学芸会の出し物の一つで手品をするんですけど、よかったらお客さんになってくれませんか? 見るだけでもええですので」
「ほー、手品ですかぁ」
「手品?」
はやてを主として三ヶ月。しかしこの世界の文化を知らない部分が多いヴィータは首を傾げた。
「そうだねぇ、ちょうど一区切りついたし、見させてもらおうかねぇ」
「ありがとうございます! ほんなら、今準備しますんで」
了承の言葉を聞いて頭を下げた竹太刀は、由衣と共に準備のため駆け出した。
ヴィータは気になったので尋ねることにした。
「なあじーちゃん、手品ってなんだ?」
「まー、見ればわかるよ」
そう言われたので、とりあえず見てみることにした。
事前にある程度の準備はしていたらしく、僅か一、二分で準備を仕上げ、いよいよその手品が始まった。
手品を披露する由衣は緊張した面持ちで、折り畳み式の机におかれたトランプの箱を手に取る。
「えっと……こ、ここにトランプがあります。普通のトランプです」
箱からトランプのカードを取り出し、中身を客であるヴィータや老人達に見せる。ヴィータもトランプは家で遊んだことがあったから知っており、うんうんと頷く。
「じゃあ、これをシャッフルします」
言うと由衣はそのトランプをシャッフルし始めた。それなりに手際良く、数回シャッフルが行われる。
次に由衣はシャッフルされたトランプを二つに分けた。
「えっと、それでは……そこのあなた」
由衣はヴィータに向かって言った。
「へ、あたしか?」
「は、はい。その、どちらかのカードを引いてくれますか? 私には見えないように」
「おう、いいぞ」
ヴィータは右側のカードを引いた。カードは、ダイヤの9。
「お、覚えましたら、引いた場所に戻してください」
言われて、ヴィータはカードを元の位置に戻す。
「じゃあ、これをまたシャッフルしますね……」
そう言って由衣は二つの山札を合わせてシャッフルを始めた。シャッフルだけでなく、時折カットも混ぜ、何度も行う。
そして何度目かのシャッフルを終え、ここで由衣はトランプを机の上に置いた。
「あなたの引いたカードは何ですか?」
「え? ダイヤの9だけど」
「そうですか。では、一番上のカードを引いてください」
まさか、と思いつつ、ヴィータはカードを引いた。
ヴィータが引いたのは、先程と同じダイヤの9のそれだった。
「おお!? すげえ!」
「あっと、そうだ……その一枚だけでは寂しそうなので、お仲間も連れてきましたよ!」
「おおぉ!?」
ヴィータはさらに驚いた。由衣が三枚引くと、引いたカードはスペード、ハート、クラブそれぞれの9だったのだから。
「お前、どんな魔法使ったんだ!?」
「はっはっは。これが手品じゃよヴィータちゃん」
「大成功やなぁ、由衣ちゃん」
ヴィータ達と共に客席で見守っていた竹太刀は立ち上がり、ヴィータの元へ近づいた。
「お嬢ちゃん。よかったら、これからこの子とトランプを使ったゲームに付き合ってくれへんか?」
「ゲーム?」
「オリジナルのもんでな。『トランプ足し算』っちゅーのや」
竹太刀は机の方へと移動し、由衣と解説を始めた。
「ルールは簡単や。互いにそれぞれのトランプの山をシャッフルして、二枚引く。ほんで、その二枚の合計が高かった方の勝ち。Aは1として扱う」
解説をしながら、竹太刀はもう一つのトランプを取り出してそのゲームを始める。
互いに自分の山札をシャッフルし、二枚捲る。竹太刀が引いたのはスペードの5とダイヤの2。由衣はダイヤのJとクラブの3。点数は7体14で、今回の場合は由衣の勝ちである。
「……とまあ、こんな感じかな。どやろ?」
「へー……いいぞ。やる!」
「おおきになぁ」
竹太刀は礼を言って由衣の後ろについた。ヴィータは竹太刀が立っていた位置に移動し、置かれていたトランプを手に取る。
(へへっ! ジャンケンでは負けなしのあたしの実力を見せてやる!)
ジャンケンとトランプは違うが、運勝負という点は同じだ。ヴィータは何気にジャンケンには強いのである。その運が味方すれば勝てると、そう思っていた。
(来いっ!)
念入りにシャッフルし、二枚一気に捲る。
引いたカードは、ダイヤの8とスペードのQだった。合計点は20となる。
「よっしゃ! どうだ!」
「じゃあ、次は私ですね……」
高得点に喜ぶヴィータに対し、由衣は自分を落ち着かせながらシャッフルを始めた。別に先攻後攻があるゲームではないのだが、由衣が見入るほどにヴィータが気合いを入れていたのだろう。
数回シャッフル、最後に一回カットを行って、二枚引く。
引いたカードは、スペードのJとクラブのQだった。合計して23点。
「私の勝ち……ですね」
「うぐ……!」
ヴィータは一瞬言葉に詰まった後、すぐに机に身を乗り出した。
「もう一回! もう一回勝負だ!」
「ふえぇっ!?」
「ははは、ほんなら、三回勝負にしよか」
竹太刀の提案によって、もう二回勝負を行った。
結果は一対二と結局ヴィータは由衣に勝てず、今度は絶対に勝つと言ってヴィータは帰っていった。
◇
手品ショーが終わってヴィータが帰っていった後……。
差出人:管理者
件名:攻略通知
内容:ヴィータとの勝負での勝利を確認した。このメールをその証明とする。
なお、あなたがチームに所属している場合にはチーム全員がこの証明を共有できる。
「本当に……ありだったんですね」
「練習した甲斐があったやろ?」
「そうですけど……実感が湧きづらいというか……」
自分の携帯に届いたメールを読んで、由衣は少し微妙そうな顔をした。
綾が考案した、ヴィータに勝利する作戦とは、あの『トランプ足し算』で勝利することだった。勿論、ただ勝負をしては勝率は五分であるため、必勝法……イカサマをしたのだが。
ちなみにイカサマは、カードを削って凹凸をつけ、指で認識できるようにするタイプのガンカードだ。イカサマだとバレないようJ〜Kのカードに加工を施し、三回勝負になった時は敢えて一回普通に引いた。ちなみに手品のタネもこれであり、混同しないように竹太刀がルールを説明する前にトランプをすり替えている。
「ん? メールに続きがあるみたいやな」
「え? あ、本当ですね」
竹太刀が気づき、指摘を受けた由衣が携帯を操作する。メールの続きには、このようなことが書かれていた。
なお、戦闘以外による勝負を行った場合、勝敗に関わらず以後は同様もしくは類似の手段による勝利はチーム全員が無効となる。
「せやろな」
「ですよね」
二人揃って頷いた。もし仮に同じ手段がありだとしたら、ザフィーラ以外全員を狩ることが可能になってしまう。ザフィーラは基本狼なので勝負を仕掛けることが不可能。まあ、シグナムの場合もイカサマがバレて駄目かもしれないが。
「でも、類似ってことは、どのくらい駄目になっちゃうんでしょう?」
「捲り勝負全般やろなぁ。ポーカーとかそういう引きがモノを言って、イカサマで勝てる奴は軒並み無効にされるやろ……まあ、このことは後で綾に教えたろ。ほな、帰ろか」
「はい!」
演技に使った道具を片付け、密かに勝利した二人は帰路へと降り立った。
チーム反逆者、ヴィータに勝利。
攻略者、藤木由衣。
ヴィータは犠牲になったのだ。
ごめんなさい。ヴィータさんごめんなさい。こんなセコイ勝ち方しちゃって。由衣ちゃんもこんなセコイやり方させちゃってごめんなさい。
でも、それでも由衣ちゃんに出番が欲しかったんだ! 竹太刀も今回ちょい役だったけど出番作りたかったんだ! だから許して!