Magic game   作:暁楓

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 ふぅ……文才がほしいよ……。
 由衣の出番が少ないと思って作った。しかし結局出番が少なくなってた……。


第十話

 管理局とのコネを手に入れた日の、時刻としては夜の九時半頃。竹太刀から電話がかかってきた。

 

「そうか……やっぱそうなったか」

 

『やっぱって、綾は予想してたんか?』

 

「可能性は考えてた。なんだかんだで、俺の意見を押し付けていたからな」

 

『いや、綾のせいやあらへんって』

 

「で、手持ちはいくら残った?」

 

 訊くと、竹太刀は一旦黙り込んだ。

 ややあって、答える。

 

『……小銭と、なんとか奪い返した八万三千。綾の方は無事や。あいつ、そっちの方は全然知らへんしな』

 

「……そうか」

 

『わい、今すっごい後悔しとるわー。なしてあの時綾達のこと観察で留めて、仲間に入れてもらおうとせえへんかったんやろ……』

 

「過ぎてしまったものは仕方ないさ。金が足りなかったらこっちのを使ってもいいから」

 

『すまへんなぁ』

 

 さて、一体なんの話をしてるのか。大体予想のついてる人もいるかもしれないが説明しよう。

 竹太刀の話を纏めると、こういうことらしかった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 海鳴市に帰還してその夜、竹太刀は夕食を作り三人で食事。

 その頃には和也も起きていて、彼に今後の行動――ジュエルシード全てが管理局もしくはフェイトに回収されるまで待機――を説明したところわ和也が早くこちらで回収すべきだと激怒。

 その時は竹太刀が素早く取り押さえ、終盤で一気に回収するということを説明したため、和也も大人しくなったらしい。

 

 しかし九時頃。竹太刀と和也の寝床である海斗の家で和也が不審な行動をとる。

 様子を見に行き、「何してんの?」と聞いたところ、リュックに荷造りをしていた和也がガルマを起動して暴れ出した。

 とりあえず取り押さえてみると、リュックの中から一万円の札束――竹太刀と和也の合計分。明らかに五十枚以上あったので自分の分も入ってるとわかったらしい――を発見。和也が金を奪って逃げるつもりだったのがバレた。

 その時和也が初めて身体強化魔法を使用。竹太刀を超える身体能力で無理やり竹太刀の拘束を抜け、逃亡。

 逃げる和也からなんとか八万程取り返したが、それ以上追跡して金を取り返そうとすれば今度は俺達の金を狙って襲撃してくる恐れもあったため、追跡は断念。

 ちなみに、和也は逃げるときに、

 

「お前らみたいなトロい考えしか持たないノロマについて行くかバーーーカッ!!(竹太刀の再現。トーン込み)」

 

 ……とかいう捨て台詞を吐いて行ったらしい。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 で、現在。その報告のため竹太刀が電話をしてきているところに至る。

 

『まったく、あいつも好き勝手やりおって』

 

「それはいいとして、お前はどうするんだ? あいつチームを抜けたから、今ソロなんだろ?」

 

 和也は金を奪って逃げた挙げ句、竹太刀とチームも切ったらしい。確認すると確かに竹太刀の扱いがソロになっていたそうだ。

 

『そうなんよー。せやから、そっちのチームに入れさしてくれへんか?』

 

「まあ、いいけど。あいつについては?」

 

『そら、戻ってきた時にはまた二人でチーム組むわ』

 

「オーケー。じゃ、こっちで申請しておくから」

 

『おお。ほんならなー』

 

 電話を切る。

 近くで聞き耳を立てていた海斗が、俺から離れてやれやれと肩をすくめた。

 

「何やってんだあいつ。一人で指令をクリアできる訳がないだろ」

 

「今の和也が所有するスターチップは三つ。加えて、ジュエルシード一個の入手承認を受けている。緊急指令を受けない限りは死ぬことはないし、新たにチームを探すなら絶好の条件だろうな」

 

 海斗の受け答えをしながら、携帯を操作して竹太刀のチーム『反逆者』への加入申請を進める。

 

「なんで?」

 

「チームに入れるだけでジュエルシードの入手数を一個増やせる。そのアドバンテージはこの指令においては絶大だ。そいつを巡って取り合いが起き、最も有能や奴、入手数が多いチームと組むことができる」

 

「なるほどな。でも、俺はどんなことがあってもチームは抜けないぜ。親友だからな」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 送信。……よし、チーム加入完了っと。

 

「……ま、三個以上の入手に失敗するか、第二期で崖っぷちになったら泣きついてくるだろうな」

 

「チームを引き連れてか?」

 

「そうなったら、そのチームのまま動いてもらうよ」

 

 携帯を近くのテーブルに置いて、ベッドに寝転がった。もう寝よう。心身共に疲れた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 翌日。

 学校の帰り道、由衣は歩きながらあることについて悩んでいた。

 悩みは早い話が、自分が役に立ててないのではないかということ。

 

(仕方ないっていうのはわかるけど……やっぱり役に立ちたいなあ……)

 

 子供だから仕方がない。言うのは簡単だが、やはり堪えるものがある。

 なので、何かできることはないかと考えてみた。

 

(綾さんの怪我が回復するのは、確か回復魔法を使っていけば十日ぐらいだって言ってたから、海斗さんと綾さんがアースラに居られるのは大体十日間……ジュエルシードが全部回収されて、なのはちゃんとフェイトちゃんとの決戦がある日が確か……)

 

 今から十日ぐらい後だったか。だとしたら結構ちょうどよくアースラにいる間に原作に関われるのかもしれない。そう思うと、本当にやることがない現実に気持ちがしぼんでしまう。

 でも、と首を横に振る。

 

(やっぱりできるだけ早い方がいいよね……誤差もどれくらいかよく覚えてないし……)

 

 怪我でアースラに居座ることになったのは偶然だろう。しかし、どうやってアースラにいない状態から事件に関わっていこうとしていたのかわからない。関われない可能性もあり得る。

 なら、できるだけ早く回収できる方がいいかもしれない。

 

「……よしっ」

 

 由衣はジュエルシードの独自捜索をすることを決意した。

 

(別に入手する訳じゃない……見つけたら、触らずにアースラの人に連絡して、ただ待っていれば、ジュエルシードが発動することはないし……)

 

 安全に問題ない。そのことを認識した由衣はさっそく捜索に乗り出した。

 道端、草原、小川の中と、仮に子供がいてもおかしくない、簡単に言い訳を言うことができる場所を入念にチェックしていく。

 

 しかしいくら探せども、目当ての物が見つかる気配がない。

 

(うー……やっぱりデバイスなしで探すのは無理かな……)

 

 当然の結果である。人の目に留まるような場所にあるジュエルシードはなのはやフェイトな加えて、他の転生者によって取り尽くされていた。

 実のところ、海に存在する六個を除いてすでに誰かに回収されている。なので由衣が見つけることは最初から不可能であった。

 

「……はぁ、帰ろう」

 

 もう日も暮れる。竹太刀に心配されないためにも早く帰らねば。

 そう思って来た道から折り返そうと踵を返すと、前方に人がいた。男だ。

 別にそれだけならどうでもよかったのだが、その人から放たれた言葉が由衣の動きを止めた。

 

「お前、転生者だな」

 

「……!」

 

 ビクッと肩が震える。

 前回、前々回とは違い、由衣は一人。それが恐怖を煽る。

 込み上げてくる恐怖を断ち切るように、グッ……と唇を噛む。

 

「ククッ、図星って感じだなぁ……じゃ、早速だけど消えてもらおうか……」

 

「……何のためですか? 人のスターチップを強奪したら、ルール違反で失格になるんですよ……?」

 

 できるだけ自分を落ち着かせて、由衣は相手を静止を求める。前々回の相手は聞く耳を持たなかったことから、今回も同じである可能性がある。しかし、綾達のように抵抗する力のない由衣にはそれしか手立てがなかった。

 しかし相手の転生者はその言葉に対して、クックと笑い声を上げた。

 

「そんなの知ってるさ。ついでに、失格者はこの世界から消されるってこともな。それでも、邪魔な奴は消すのが常識だろ?」

 

「……!」

 

 相手はデバイスを起動した。起動して出来上がった杖を持ち、バリアジャケットを纏う。そして杖の先から紫の炎弾を精製する。

 ひっと、由衣が小さな悲鳴を上げる。

 転生者はそれを見て、薄く笑った。口調を軽くして言う。

 

「まあでも、君はよく見たらかわいいみたいだし。俺に従うと誓うなら、命は見逃してあげても構わないけど?」

 

「……っ。……嫌です」

 

 由衣は震える声で、しかしはっきりと言った。

 由衣は持てる勇気を振り絞り、自分の意志を最大限に吐き出す。

 

「あなたみたいな人のために……海斗さんや綾さん達を裏切りたくありません!」

 

 語尾を強めて言う。すると途端に転生者の顔から卑屈な笑みが消えていった。

 

「……じゃあ、死ねよ」

 

 紫の炎弾が由衣に襲いかかる。

 高速で飛ぶ炎弾に反応しきれずら直撃を受けて由衣の身体が飛んだ。

 

「きゃあっ!」

 

「ああ、悪かったな。そういや、殺傷設定にするのを忘れてたよ」

 

 ケラケラと笑い声を上げながら、転生者はデバイスを軽く動かす。デバイスの稼動音が鳴る。殺傷設定になった。

 杖から、先程よりも確実に大きな炎が上がった。これはきっと、魔力弾じゃない、砲撃だ。

 さっきの何倍になるんだろう。痛みを感じる前に死んでしまうかもしれない。そういった思考に、カチカチと奥歯が鳴る。

 

(綾さん……竹太刀さん……海斗さん……!!)

 

 最期を覚悟して、目をぎゅっと瞑った。

 しかし、いつまで経ってもその最期がやってこない。代わりに前方から耳に届いたのは、トン……という小さな音。

 

(え……?)

 

 由衣は前を見た。

 そこにいたのは竹太刀でもなければ、綾でも海斗でも、そもそも男ではなかった。

 フェイト・テスタロッサ。彼女が由衣の前に立ったのである。

 

「フェイト、ちゃん……?」

 

「……………」

 

 フェイトは見向きもしない。

 転生者はフェイトの登場が予想外らしく呆けた表情をしていたが、すぐに、由衣より遥かに優しさのこもった声をかけた。

 

「やあ、フェイト・テスタロッサ。悪いけど、そこどいてもらえるかい? そこの悪い魔導師を片付けるところなんだ」

 

「……あなたのデバイスから、ちゃんと封印しきれていないジュエルシードの反応がある。それを渡して」

 

 そう言って黒い杖――バルディッシュの先端を転生者へ向ける。

 どうやら、そういうことらしかった。フェイトはこの転生者が持つジュエルシードを奪いに来た。そして結果的に、由衣を助けることになっただけだった。

 

「うーん、まあこっちとしては、君に渡してあげてもいいんだけど……?」

 

 転生者が言い終わるより前に、携帯の着信音がした。

 

「ちょっと失礼……」

 

 転生者は懐から携帯を取り出し、いくらか操作をした。おそらくはメールを見ているのだろう。

 フェイトはその間に彼に襲いかかることはしなかった。余計に魔力や体力を消耗せずにジュエルシードが手に入る可能性があるからだろう。

 しかし、画面を見た転生者の顔つきが険しいものに一変した。

 

「チッ……事情が変わった。ジュエルシードは渡せない」

 

「……なら」

 

《フォトンランサー》

 

 バルディッシュの機械音声。それと共に、フェイトの周りに金色の魔力弾が精製される。

 

「……力ずくでも、渡してもらう……っ!」

 

《ファイア》

 

 フェイトが言葉を言い終わると同時にフォトンランサーが発射される。すかさず転生者は用意していた砲撃を撃ち出し、二つが衝突して爆発した。

 

「ぅ……っ!」

 

 巻き起こった爆風を何とか耐え、由衣が視線を正面に戻すとすでにフェイトの姿が消えていた。

 あれ、と思うより前に前方から「ぐえっ!」と潰れたような呻き声が煙の奥から聞こえてきた。カランカランッと乾いた音もなる。

 煙が晴れる。晴れた視界に映ったのはバインドをかけられた転生者、地面に転がっている彼のデバイス、そして、そのデバイスにバルディッシュを向けるフェイトの姿だった。

 一瞬で勝負は終わった。自分達が到底及ぶ相手ではないということが、由衣は痛感させられた。

 魔力量は当然だが、それだけでは一瞬で終わる理由にも、息一つ乱さない理由にもなかなかならない。高い魔力ランクから来る速さや的確な攻撃を打ち込む正確さ、何より、それらを最大限に生かす経験の差であった。

 当然だが、自分達――転生者には戦闘の経験なんてものはない。剣道、柔道のような格闘技の経験を持つものならいるだろうが、魔法戦はそれとはほぼ全く意味がない。アニメなどでイメージできるなどと言っても、イメージだけでは高が知れている。それに自分の得意とするもの、苦手とするものがわかっていない。

 それに対してフェイトはリニスという家庭教師がいて訓練を積んでいた。自分の戦法を磨き、弱点も理解している。圧倒的な差であった。

 

「デバイス内のジュエルシードを再封印。そして収奪」

 

《イエッサー》

 

 機械音声が鳴り、まず転生者のデバイスのコアが光った。その光から、ジュエルシードが一つ排出される。そして今度はバルディッシュのコアが光り、ジュエルシードの封印をする。

 魔法陣を足元に展開し、魔力光に照らされているフェイトの姿が幻想的に見え、ファンタジーの世界みたいだと由衣は思った。実際、魔法が存在するこの世界は一種のファンタジーの世界であるが。

 

「きれいだなぁ……」

 

「……?」

 

 つい、声に出た。しかし少し距離があったためかフェイトには聞こえなかったらしい。

 フェイトはジュエルシードをバルディッシュに吸収させると、用がなくなったこの場所を飛び去っていった。

 

 フェイトの姿が見えなくなってから、ドシャッと崩れ落ちる音が由衣の耳に入ってきた。

 はっとして音源に視線を向けると、そこにはうつ伏せに倒れた転生者の姿があった。気絶しているらしい。

 その転生者から、スターチップ二つが浮かび上がってきた。一つは見慣れているものだったが、もう一つは無色透明なものだった。

 その二つのチップが砕け散る。程なくして、転生者の身体が青白く発光し始めた。

 

「……っ!」

 

 とっさに目を逸らす。パキンッ……という音が後ろから聞こえた。

 恐る恐る後ろに向き直ると、そこにはもう何もなくなっていた。

 

 魔力反応を元になのはとクロノが駆けつけてきたのは、それから間もなくだった。

 




 和也が離れちゃいました。
 元からこの予定でした。チーム反逆者はこれからこの四人でやっていきます。
 それと、実はちょっとした布線回だったりします。ちょっとしたどころでは済まないかもしれませんが。
 一体何が布線だったのかは今後のお楽しみ。

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