Magic game   作:暁楓

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 皆さん初めまして。
 なろうでお世話になった方もいらっしゃるかと思いますが、ここでこの小説で気持ち新しく頑張っていきたいと思います。
 天才オリ主と鬼畜神のデスゲーム、どうぞお楽しみください。


第一話

 つまらない。そんな日常。当たり前と思える日常。

 

 そんな日常が何より大事だと思えるのは、いつだって――その日常が存在しなくなった時なんだ。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「――あれ?」

 

 気がついて、呆気に取られた俺の最初の一言がこれだった。

 

 おかしい。俺は家に帰って寝ていたはずだ。なのに気がついたら、自宅ではないどこか。人が大勢いるどこかだった。と言っても、百人かそこらだろうか?

 場所は……どこかの神殿のようだ。中央に噴水があり、周りを取り囲むように建てられた建物が、荘厳な雰囲気を醸し出している。時刻は太陽が真上にあることからして、多分正午前後。

 

「なんだここ……?」

 

「どうなってるの……何が起きてるの……?」

 

 周囲から、色んな人達の困惑の声が聞こえる。

 

 一体どうなっている……? 夜に寝て、気がついたらこんな場所……半日ちょっとの時間でここまで、しかもこれほどの人数を運ぶなんて、簡単にできるもことじゃないだろ?

 

「おーい! (りょう)ー!」

 

「!」

 

 聞き覚えのある声がして、振り返る。振り返った視線の先にはやはり、俺のよく見知った顔があった。

 彼の地毛である、殆ど赤に近い茶髪。適当に伸びたその髪を鉢巻で縛り、逆さまにした竹箒のように立てている。細くはあるがしっかりした体つき……痩せマッチョというやつだ。

 

 俺の親友――藤木(ふじき)海斗(かいと)だ。

 

「おお、やっぱり朝霧(あさぎり)綾、学年首席様だったか。いやー、助かった。親友のお前がいて良かったぜ」

 

「そんなことはいい。……海斗、一体どうなってるかわかるか?」

 

 海斗を引き寄せ、後半は声を潜めて尋ねる。こんなことをする犯人が何者かわからないため、警戒しなければならない。

 

「首席にわからなくて、俺みたいなドベにわかる訳がねえだろ。俺だってついさっき目え覚めたばっかなんだからよ」

 

「……だよな」

 

 こいつに情報を期待した俺が馬鹿だった。

 

「……おい、なんか今、俺を馬鹿にしなかったか?」

 

「してない。お前に期待してた俺に悪態ついただけだ」

 

「してんじゃねえか! それ!」

 

「とにかく。さっさと出るぞこんなところ」

 

「出れねえぞ」

 

「――は?」

 

 歩き出そうとして、海斗の言葉に足を止めた。

 海斗は、どこか――俺が行こうとしていたずっと先を指差した。

 

「ほら、あそこ見えるだろ? 壁が変な波っぽいのを打ってんの。俺も出ようとしたんだけどよ、なんか光の膜みたいなのが張ってて出れねえんだよ」

 

 人だかりでよく見えないが、確かにそうらしい。人が出て行く気配がない。よく見回したら、他のところも同じ様子だ。

 

「すげえよな〜。まるでファンタジーの世界に入ったみたいじゃねえか」

 

「呑気だなお前……」

 

 自分の状況もわからずに……。

 

『――ようこそ。私の居城へ……』

 

「っ!」

 

「うおっ!? な、なんだぁ!?」

 

 突如、頭の中に響く声。海斗がやかましく驚くのを無視して、周囲を警戒する。

 他の人達も、突然の声に動揺しているらしい。しきりに周囲を見回しているのがわかる。

 

(どこだ……?)

 

『私に名前はない……強いて名乗るなら、君達の呼び方として、神を名乗ることになる』

 

「か、神……?」

 

 誰かが呟いた。声の方を見ると、その呟いたと思われる人は警戒を解いて呆然としていた。

 彼だけじゃない。他の人達も、海斗も、呆然と棒立ち状態になっていた。

 

 噴水の上で強い光が拡散した。

 

「うっ……!?」

 

 あまりの光の強さに反射的に目を瞑る。

 

 しばらくして目を開けると、噴水の上に人が立っていた。白いローブを纏っていて、顔は整っている。見たところ、そこそこ若い。

 

『改めてようこそ、神の居城に招待されし百名……突然だが、君達にはある異世界へ転生してもらうことになる』

 

「て、転生……」

 

「それって、あれだよな……よく特典付きとかがある、あれ……」

 

『……いかにも、それに値するものだ』

 

 困惑する人達に、神を名乗る男は悠然と答える。

 

 一体、何が目的だ……?

 

『……君達は今、なぜ? と思っていることだろう。……安心して欲しい。これは君達を思ってのことなのだ』

 

「何……?」

 

『君達は……ここにいる百名の諸君は、理由はどうあれ今の人生に後悔し、人生をやり直したいと願っているはず……私は君達の為に、チャンスを与えた……』

 

「なんでそのことを……それにチャンスってなんだよ?」

 

「静かにっ」

 

 海斗の口を塞ぐ。

 

『私の指示に従い、行動せよ。そうすれば、君達の住む世界が素晴らしいものに変わる……言わば、『勝ち組』の人生を歩むことができるだろう』

 

「か、勝ち組……!」

 

 誰かが、声を上擦らせた。

 

『そう……勝ち組だ。……自分のポケットを探ってみるのだ』

 

 言われて、ポケットに手を突っ込む。ポケットの中で手が何かを掴んだ。

 出してみると、その手が掴んでいたのは小さい星の形をした、チップのようなものだった。全部で三つ。

 

『私の指令をクリアし、そのチップ……スターチップを集めることで、チップと引き換えに願いを叶えよう。引き換えるチップの数によって叶えられる願いの範囲や質は変化する。……以上だ』

 

「待てよ」

 

 一声発し、俺は前に出る。

 

「概要がわかって、俺は参加はするし、そもそも自分で負け組を認めてる奴に拒否権はないんだろうが……転生する場所もわからずに転生してくださいってのは納得できない。教えてもらおうか」

 

「おお、神をも恐れぬその口調……!」

 

 バシーン!

 

「うっさい、ちょっと黙ってろ」

 

 海斗を叩いて黙らせる。

 直後周囲から「そうだそうだ!」とか「ちゃんと説明しろ!」という声がにわかに聞こえ始めた。野次馬か、お前ら。

 

『……そうだな。場所ぐらいは伝えておこう。……リリカルなのは……と言えば、わかってくれるだろうか……』

 

 その声に、野次馬の声がピタリとやんだ。

 

 そして、次に湧き上がってきたのは、歓喜の声。

 

「リリカルなのは……?」

 

「マジで?」

 

「マジかよ……俺達にとって楽園じゃん……!」

 

「すっげぇ……!」

 

 ちなみに三番目が海斗である。

 

『……他に、質問はないかな?』

 

「正直、ルールがわからんから何から質問すればいいのかがわからない」

 

『問題ない……ルールなら君達の手持ちに入れておいた。後で確認するといい』

 

「そうか。なら、ルールに書いてあるかもしれないけど最後に一つ。スターチップと願いの交換って、何個からなんだ?」

 

『一個からでもいい。……しかし先程言ったように、叶えられる範囲や質は交換するチップの数によって異なる』

 

 ……一個からでもありだと?

 でも、それって……。

 

「だったら、話は早ぇ」

 

「!」

 

 いつの間にか自称神の隣にまで近づいていた青年はそう言うと、自称神に向かって右手を差し出した。その手には、スターチップが握られている。

 

「早速この三つで、叶えてもらおうじゃねーか! 魔力とデバイスを寄越しな!」

 

「「「!!」」」

 

 その青年の一声は、瞬く間に周囲に波紋を広げていった。

 

『……いいだろう』

 

 さらにその波紋に追い討ちをかける、承諾の一声。

 それは全体に伝達させ、行動させるにはあまりにも十分なものだった。

 

「お、俺もだ! 魔力とデバイスをくれ!」

 

「私も! 同じのをください!」

 

「魔力とデバイス、それと戦闘技術もくれよ!」

 

「レアスキルを寄越せ!」

 

 あっという間に神の周囲に人だかりが出来上がる。さっきまで噴水に最も近かったはずの俺達は、人だかりの外へと追いやられていた。

 

「お、おい。俺達もこれ使った方がいいんじゃないのか?」

 

 海斗がチップを見せてそう言い、人だかりへ突っ込もうとする。

 そんな海斗の首根っこを俺は掴んで止めた。

 

「待て、それよりこっち来いっ」

 

「うおっ!? お、おう……」

 

 ズルズルと海斗を引き摺って行く。

 

『……フフッ』

 

「――!?」

 

 一瞬、しかし確かに聞こえたその笑い声に、背筋が凍るような感覚がした。

 振り返ってみるが、声の主である神は最初に現れた時から同じ無表情のままだった。

 

「? どうした?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 海斗にそう返して、再び引き摺っていく。

 

 しかし途中で、突然海斗が抵抗してきた。

 

「ん? ちょっと待った綾。待ってくれ」

 

「どうした?」

 

「ちょっとだけ待ってくれないか? 別にあっちには行かないからさ」

 

「……わかった。あっちの壁際で待ってるからな」

 

「おう!」

 

 海斗の首根っこを離し、海斗がどこかへと走っていくのを少し見届けてから、俺も歩き出した。

 

 壁際に立って少ししたら、海斗が戻ってきた。

 ……女の子連れて。

 

「……お前、こんな状況でナンパする奴だったか?」

 

「いや、違ぇよ! 困ってそーな感じだったから、それで連れてきただけだよ!」

 

「――という名目のナンパなんだろ?」

 

「だから違ぇって!」

 

「わかってる。お前は困った人にはいの一番に助けに回るお人好しだからな。……それに、今は人手が多い方が何かと助かる」

 

「へ? 人手って……」

 

「海斗。それと君……」

 

 海斗が言い切る前に話を始め、海斗が連れてきた女の子に声をかける。

 海斗が連れてきた女の子は少々小柄に加え、黒い髪をツインテールにしていることから幼く見えた。丸縁メガネをつけているため、ちょっと顔が見えにくい。

 

「君、名前は……」

 

「あっ、すみません……藤木(ふじき)由衣(ゆい)って言います。さっきはありがとうございました。色々、怖くて……」

 

「へぇ! 同じ苗字って偶然あるものだなぁ! 俺、藤木海斗って言うんだ! よろしくな!」

 

「まあ、藤木なら珍しくないだろうな。俺は朝霧綾。海斗とは親友なんだ。……早速、二人にしてもらいたいことがある」

 

「ん、なんだよそれって?」

 

「持ち物を全部出してほしい」

 

 俺は即答した。

 

「あいつは、ルールは既に俺達の元に配布してあるみたいなこと言ってただろ。そのルールブックを確認したいんだ。そしてさっきのスターチップ以外に何がルール上の手持ちとして配布されてるのか、まずそれを確認したい」

 

「首席らしい、最初の状況確認って奴だな。よしわかった!」

 

 海斗が早速自分のポケットを探り始めた。それを見て由衣もポケットを探り始める。

 

「えっと、スターチップと携帯電話……あとは……んん?」

 

 何かを掴んだらしい。海斗が手を引っこ抜くと、分厚い札束が握られていた。

 

「うげっ!? おおおおおいっ、これ!?」

 

「一万円の札束……百万分はあるかもな」

 

「ひゃっ、百万!?」

 

「ああ、あのっ、わ、わ、私にもこれがっ……!」

 

 由衣にも同じくか……。

 確信を持ちつつ、俺もポケットを探る。

 

「……俺もだ。自分の携帯とスターチップ、そして百万。間違いなく全員の最初の持ち物がこれだな」

 

「で、でも、ルールブックがねえぞ?」

 

「決まってるだろ。携帯の中だ」

 

 携帯を開き、操作を始める。

 

「二人も携帯の中を探すんだ。必ずどこかにルールが書かれてるはず……」

 

「お、おう」

 

「は、はい」

 

 三人で携帯からルールの捜索を始める。操作に集中している間、聞こえるのは外の喧しい声ばかり。

 

「なあ、綾」

 

「なんだ」

 

「あいつ言ってたよな。ここにいる百人全員が、今の人生に後悔している奴だって」

 

「ああ、言ってたな」

 

「じゃあ、お前はなんで今の人生に後悔してんだ? 成績優秀な学年首席。まさに勝ち組じゃねえか」

 

「……………」

 

 しばらくの間を開けて、俺はようやく答えを出した。

 

「成績優秀だから、イコール勝ち組って訳じゃない……そういうことだ」

 

「やっぱ俺にはわからんね。天才の考えなんて」

 

「他人の思考なんてわかるものじゃないだろ」

 

「そーだな」

 

「あ、あの……」

 

 由衣が声を上げた。何か発見したようだ。

 

「どうした?」

 

「あの……ルールではなかったんですけど、プロフィールを開いたらこんなのが……」

 

 言って由衣は携帯を見せてきた。

 ……なんだこれ?

 

 

 

プレイヤー 藤木由衣

 

チーム 未設定(ソロ)

 

身体年齢 未確定

 

住所 未確定

 

魔力ランク 未確定

 

スターチップ 3

 

 

 

「なんだこりゃ?」

 

「海斗、プロフィールだ。自分のを確認してくれ」

 

「ん、ああ。プロフィールだな……」

 

 海斗に指示を出して、自分もプロフィールを出してみる。

 携帯番号、メールアドレスと続いて、由衣が表示していた『情報』があった。

 だが内容は由衣とほぼ同じ。違いはプレイヤーの名前が俺の名前に変わっていることのみ。

 

「こっちは確認した。海斗は?」

 

「ああ、俺も。由衣ちゃんと同じだった」

 

「住所は当然として、魔力ランクや年齢まで未確定……? それにチームってどういうことなんだ……?」

 

「多分、ルールの一つなんでしょうけど……肝心のルールが見つかりません……」

 

 そう、ルールが見つからない。アプリにもないし、特別携帯の仕様が変わった訳でもない。プロフィールだって、由衣が見つけてくれなければ発見できなかった……。

 ……でも、これでわかることがある……。

 噴水の方を見る。ごった返しているせいで、時間がかかっているようだ。

 

「綾、何を見て……ああ、やっぱ俺達もこれ使うか? 魔力がねえと、原作に関わることもできないぜ」

 

「やっぱり、そうした方がいいんですかね……ちょっと怖いけど……」

 

「……いや、逆だ」

 

 噴水の元へ行こうとする二人を引き止める。

 

「逆?」

 

「ここでスターチップを使ってはいけない。……このチップには、多分間違いなく願いを叶える以外に意味がある」

 

「か、考えすぎでは、ないでしょうか……?」

 

 由衣の意見に、俺は首を横に振った。確信は、あった。

 

「考えてみろ。始めっから願いを叶えてもらえるだなんて、虫が良すぎると思わないか? 人が集っていく時、あいつの微かな笑い声を俺は聞いた。無計画な人達を見て嘲笑っているような感じだった」

 

「おいおい、それだけで疑うってのか?」

 

「ルールを把握してからでも遅くはない。どっちにしろあれじゃあ時間はかかるし、そもそもデカい願いを叶えてもらうには相当な数が必要になるはず」

 

「でも、魔力がないと原作に関わることも難しいですよ……? 結界から弾かれてしまいますし……」

 

「魔力ランク未確定って書いてあった……つまり最低限魔力は与えられるさ」

 

「よくわかるなーおい」

 

「それとだ、これからの話は本当に俺の勝手な推測なんだが……」

 

「……?」

 

「なんですか?」

 

 首を傾げる二人に、俺は意を決して、俺の推測を告げた。

 

「……これは、奴にとっての『遊び』だ。俺達のことをどうとでも思っていない」

 

「……は?」

 

「どういうこと……ですか?」

 

 予想道り、訳がわからないといった様子の二人に、推測の説明を始める。

 

「さっきのチップの話からもそうだ。ルールの説明をほとんどしてない上、配布したと言っているルール説明もまだ見つからない。携帯に細工したことすら説明なしだ。そんな状態で異世界に放り込む奴が、俺達を思ってるって言えるか?」

 

「で、でも、基本ルールはあの神様に従うことですし……説明する程でもないんじゃ……」

 

「……その基本ルールも罠だ」

 

「え?」

 

「おいおい、どういうことだよ?」

 

 海斗が食ってかかった。

 俺はそれの説明を行う。

 

「……二人とも、よーく考えてみろ。奴に従えば勝ち組って話を、違う視点で考えてみるんだ」

 

「違う視点……?」

 

「いや、早く言ってくれよ。俺じゃあわからねえから」

 

 ……少しは考える素振りをしろよ……。

 親友の脳筋具合にため息を吐きつつ、俺は答えを述べることにした。

 

「――勝ち組になるためと言って、得体の知れない奴の言いなりになって操り人形のような人生を、俺達に送らせようとしてるんだ」

 

「「!!」」

 

 二人が息を飲むのがわかった。

 誰かの言いなりになり、危険かもしれない指示に従わされる。それは、負け組と言えるものだ。

 

「ま、マジかよ……マジなのかそれ!」

 

「……勝手な推測だけど、奴の態度を見れば、多分……」

 

「そ、そんな……みんなにも知らせなきゃ……!」

 

「ダメだ。あの噴水に群がってる人達にはもう、あいつが本当に救いの神様にしか見えてない。それに俺達は自分で負け組を認めてる。そんな負け組の言うことなんて聞いてくれやしない」

 

「そんな……」

 

 由衣は座り込んでしまった。彼女の目には、涙が浮かんでいた。

 

「どうすんだよ、お前の言うことが正しいなら、俺達に拒否権ないんだろ!?」

 

「ああ、そうだな。仮に今抗議なり謀反を謀っても、無視されるか消されるかだ」

 

「打つ手、なしかよ……!」

 

 海斗も座り込んでしまった。

 俺は、その二人に言い放つ。

 

「だからだ。今は従うんだ」

 

 右手を視線を移す。右手には、己の願いを叶えるスターチップが握られている。

 

「今は従って、スターチップを多く集めるんだ。そして力を溜めて、あいつに不意打ちを仕掛ける。……奴を倒すんだ」

 

 次に視線を噴水の上に立つ神に向ける。

 忙しそうにしている神……いや、神の衣を被った悪魔を、睨む。

 しばらく奴を睨んだ後、視線を座り込む二人に戻し、敢えて声を少し明るくする。

 

「……とまぁ、俺の勝手な推測と演説はここまでなんだけど。どうする海斗? 俺の推測は外れてるかもしれないし、合っていても謀反が成功する確率はかなり低いと思う。俺とチームを組むことになれば、自殺しようとしてるようなものだぜ?」

 

「……………」

 

 海斗はゆっくり立ち上がった。

 

「……やっぱ俺はダメだな。話にほとんどついていけなかった」

 

「……だよな。難しい話が多かったって思ってる」

 

「でも、やっぱお前と一緒に何かした方がずっと楽しいからな。一緒に下克上と行こうじゃねえか!」

 

 拳を突き出す海斗。相変わらずの単純さに呆れつつ、しかし頼りになる親友に、俺は拳を合わせた。

 そして、視線はもう一人、由衣の方へ。

 

「由衣、君はどうする? さっき言ったように、これは危険だ。俺達と組むことになれば、どうなるかわかったものじゃない。組まなければ、俺達の計画で危険に晒されることはなくなるぞ?」

 

「……私、今まで優しくしてもらったことがなかったんです。親からは出来のいい兄さんと比べられて、学校でも虐められてばっかりで……そんな自分の人生が物凄く嫌でした……」

 

「……………」

 

「由衣ちゃん……」

 

「海斗さんは、困ってた私に手を差し伸べてくれた……綾さんは話は難しいけど、私を正しい方へ導いてくれた……初めてなんです。優しくしてもらったのは」

 

 由衣が顔を上げた。涙目だが、微笑んでいた。

 

「だから……あなた達と一緒にいたいです……ご一緒させてください!」

 

「……だってよ。お前が連れてきたんだから、責任持てよ」

 

「おう! 由衣ちゃんは俺が守ってやるぜ!」

 

「はい! あ、アドレス交換しませんか?」

 

「おう、いいぜ! ほら、綾も!」

 

「俺はルール説明を探す。メールでアドレスを送ってくれ。後で登録するから――」

 

 海斗の手を払いのけて携帯を弄ろうとして――そこでようやく気づいた。

 俺達の携帯を弄ったってことはあいつ、俺達のアドレスを知っててもおかしくないよな? ならなんで、情報伝達の基本であるメールを使わなかったんだ?

 いや、本当に使わなかったのか? 奴が携帯を弄ったなら、メールを送った後にそのメールを新着でなくする可能性が――

 

「まさか……」

 

 今開いているメニュー画面を閉じ、受信メールのボックスを開く。

 ……受信メールの一番上、『ゲームルール説明書』が、開封済みとして存在していた。

 

「……あった、ルール説明だ!」

 

「マジで!?」

 

 なんてあくどいやり方なんだ。新着でなければ見過ごすような作りにしやがって……!

 

「受信メールの一番上、開封済みメールにしてやがった!」

 

「えっと、ちょっと待て……うわ、本当だ。くそっ、見落としてた!」

 

「普通だったら見過ごしますよね。新着はないからって……」

 

 とにかくメールを開き、中にある説明を片っ端から読んでいった。

 

 

 

件名:ゲームルール説明書

 

内容:

 

□基本ルール

・参加者の初期能力は身体年齢8(小学2年生)〜15(中学3年生)、魔力ランクはE−〜B+、デバイスなし、所持金100万円、住居あり、スターチップ所持数3。

・指令者が発表したノルマをクリアすること。

・指令者が発表したノルマを指定期間内にクリアした場合、結果に応じて報酬のスターチップが成功者へ配布される。

・期間終了後、指令参加者はノルマ達成の有無に関わらずスターチップを3つ支払う。

・指令には開始前にスターチップを2つ支払うことで不参加とすることができる。

・緊急指令を受理した場合、その者は緊急指令に強制参加される。

・緊急指令を達成した場合報酬のスターチップを指定量配布、失敗した場合スターチップを指定量剥奪する。

・スターチップを支払うことができない場合、その者を失格とする。

 

□スターチップについて

・スターチップの入手方法は上記参照。

・スターチップの譲渡、売買、強奪は禁止。違反した場合は即失格とする。

・スターチップを消費して願いを叶えることができる。叶えられる範囲や質はチップの数によって変化。

・願いを叶えてもらう時、スターチップを握って強く念じれば神の居城へ移動することができる。

 

□チームについて

・4人までで1つのチームを編成することができる。(編成後にチームリーダーによる申告が必要)

・所属できるチームは1つまで。

・チームを結成している場合、指令の不参加は全員分行わなければならない。

・指令達成の報酬は、チーム全員にそれぞれ配布される。

・緊急指令の場合、不参加だった者には報酬は半分(少数切り捨て)になる。

・チーム脱却、解散する場合は本人による申告が必要。(チームリーダーがチーム脱却をした場合、チームは解散となる)

 

 

 

「これがルールですか……」

 

「あー、くそっ、ルールが多すぎるだろ、これ。綾、どうする?」

 

「まず、チームを作ろう。元々目的は一緒になったんだしチームを作れば、主にチップ獲得の面で有利だ」

 

「チームかあ。チームリーダーは綾で決定として、チーム名どうする?」

 

「リーダーは俺で決定なのか……」

 

「適任だと思いますよ?」

 

「まあいいけど。チーム名なら俺達の目的を反映して、『反逆者』……ってのはどうだ?」

 

「え、でもそれだと神様に目を付けられるんじゃ……私達のすることがバレちゃったら……」

 

「多分、すぐにバレるさ。だからコソコソしないで、堂々と反逆者を名乗り出ようぜってこと。海斗もその方がいいだろ?」

 

「おうよ!」

 

「じゃ、決定だな。申告は……ああ、申告用のメアドが登録されてら。えっと、チーム結成申告、チームメンバーの名前、チーム名を入力して送信っと……よし、完了だ」

 

「綾、早く行こうぜ! 他の参加者もここから出始めてる!」

 

「そうだな。よし、行くか!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

 ――こうして、俺達三人組、チーム『反逆者』の物語は始まった。




 以上、第一話でした。
 今回後書きでこの小説の誕生の経緯を話しちゃおうかと。
 早い話、ソードアート・オンラインの影響を受けたんです。
 そんでもって賭博覇王伝零が好きなんです。天才に憧れます。
 そしてSAOと零の要素をリリカルなのはにぶち込んだ結果がこれです。マジです。
 『天才故に勝利・生存は当たり前』ではなく、零のように『天才と仲間との協力でギリギリ勝利・生存』を心がけていきたいですね自分としては。
 では、これからのチーム『反逆者』の頑張りを見守っていただけると嬉しいです。
 ではでは。

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