黒い銃弾とは何だったのか   作:黄金馬鹿

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今回はイニシエーターズサイド。サーティーワンパンチをまだ見てない方はそちらを先にどうぞ


サーティーツーパンチ

何でこんな事になったんだろう。ティナは一人、留置所の中で頭を抱えていた。

ティナも今回は全くの無実だ。だが、ティナは狙ったかのように捕まった。

暗殺者時代なら暗器の一つや二つ仕込んでとっとと抜け出すのに、平和ボケした自分が初めて恨めしかった。

そして、蓮太郎の有罪が決まった瞬間、ティナは銃殺刑となる。これはもう分かりきっている。

「あ~ぁ……お先真っ暗ですね~……ッ!!」

ドンッ!!と壁を蹴る。完全な八つ当たり行為だ。こうでもしないと収まらない。

今すぐ蓮太郎に罪を擦り付けた馬鹿をぶっ殺したい。自分の事はどうでもいい。蓮太郎だけはどうにかして無罪を証明させたい。そう思う。

けど、道具が無ければ脱獄は出来ない。完全な手詰まりだ。

「くそっ、くそっ、くそっ!!」

いつもは使わない汚い言葉が出るのも気にせず壁を蹴り続ける。

力を開放しても、壁はビクともしない。

「……チッ。」

舌打ちをして備え付けのベッドに横になる。

弓月戦の時に使ったあのワイヤーが備えられている手袋があればと思うが、それを着ける前に連行されてしまった。

最早やる事が最近は壁ドンしかない。何とも生活感のない生活か。

「はぁ……なんかこう、誰かが地面を掘って来てくれないかな~……なんて、ある訳がありませんよね。」

諦めに近い溜め息を吐いたその時だった。

ボゴッ!!と床から何か鉄で出来た物が生え、そこから穴が空いた。

「ファっ!?」

まさか言ったことが現実になるとはと、衝撃の現実に思わず声が出るティナ。

「うぅ……ぺっぺ。土が口に……あ、ティナさん発見。」

「か、か、か、夏世さん?」

「は~い、そうですよ~。皆のアイドルイルカ、夏世さんで~す。」

そう、地面を突き破ってきたのはなんと夏世だった。

夏世の手には手回しドリルらしき物が握られており、頭にはライト付きヘルメット、目にはゴーグル、服装はジャージに靴は長靴。さらに背中にはツルハシまである。

「な、何でここに?」

「何って……脱獄ですよ。何言ってんですか?」

「え……?脱獄?」

「ほら、早く我等がお天道様の元まで行きますよ。看守が来てしまいます。」

夏世はティナの手を引っ張ると、そのまま穴の中に入って行った。

「狭っ!?」

だが、穴は非常に狭く、子供が四つん這いで移動するのがやっとな広さだった。

「手回しドリルで掘るのはこれが限界だったんです。しかも時間的にも案外キツくて……もう翠さんも動いています。」

「翠さんも……?何故?」

「そりゃ勿論、復讐ですよ。蓮太郎さんを陥れてティナさんを銃殺刑にしようとし、延珠さんを相方(バディ)殺しの元に送り込もうとしたクズ野郎共へのね。」

「ちょっ、延珠さんのは初耳ですよ!?」

「ウチの天才が本気出した結果です。あの人は私達の味方ですから。」

小さな抜け道を四つん這いで全力で移動する。

今まで移動してきた距離的に、明らかに手回しドリルで掘る距離ではないのはすぐに分かった。

「……何故、こんなに必死に……?」

「私、ちょっと前に相方を殺されましてね。それが原因で蓮太郎さんの家に転がり込んでる訳ですが……知人が死ぬのはもう嫌なんですよ。何もせずに死んでしまうのは。」

「けど、こんな事したらあなたまで……」

「捕まる前に無実を証明したらいいんですよ。人外がいなくたって、こっちには天才がいます。何とかなりますよ。」

と、そうこう話している内に出口が見えた。

「ここ……第三次関東大戦の時に皆が避難した……?」

その出口は、蓮太郎が掘ったあの子供たち収容場に繋がっていた。

ここからティナの部屋まで掘ってきたらしい。

「すぐにここは放棄します。ここは囮です。」

夏世は空洞の外に顔を出し、誰も居ないのを確認するとリモコンを取り出して前方の壁に向けてスイッチを押した。その瞬間、壁が無くなった。

「は!?」

「大声出さないでください。3Dモニターの応用です。行きますよ。」

下水を飛び越えて無くなった壁の内側に入り、夏世はすぐにリモコンを取り出して再びスイッチを押し、壁を展開する。

「で、ここの壁もそうなんですが、本命は……」

夏世は一度真横にある壁に触れて、実在する壁ではないのを示すと、自分の真上にある土の壁の一部に手を突っ込み、外した。

「見事なもんでしょう?」

外された後には上へと続く梯子があった。

そこに先にティナを行かせると、すぐに夏世も後に続き、壁を元に戻す。

少し梯子で上がると、また四つん這いで行かなければならないほど狭い通路があった。

「ゴー。」

夏世の言葉に従い、ティナは前に進む。

そして数分進んだあたりで、ようやく立てるほどの空間が出てきた。が、出口はなく真っ暗だ。

「えっと……行き止まりなんですけど。」

「いえ、違います。ここら辺に……」

夏世が地面を照らして、一つの石を見つけると、あった。と声を漏らして押し込む。

すると、がこっと音が鳴り、壁が少し回転する。

そこに二人同時に入る。

「やぁ、やっと来たかい、夏世ちゃん、ティナちゃん。」

『作戦その一、完了やな。』

そこで待っていたのは菫とモニターに映された美織だった。

「……へ?」

「ここは菫先生の研究室ですよ。流石の私もここまで寝ずの作業だったのでもう疲れました。」

「うん、ご苦労だったね、夏世ちゃん。ゆっくり寝るといい。」

『作戦その二はまだ決行の時間やない。けど、仕込みは万全やで。延珠ちゃんにも仕込みは完了しとる。』

「良かったです……すみません、もう倒れそうなので寝かせてもらいます……」

夏世はツルハシ、ドリル、ヘルメット、ゴーグルを外すと、片付けられていたベッドの上に横になり、そのまま眠りについた。

「……あ、あの、何がどうなってるのか分からないんですけど……」

「時間は惜しいから簡潔に説明させてもらうよ。ここは夏世ちゃんと翠ちゃんの頼みによって貸している。目的は蓮太郎くんを陥れ、延珠ちゃんとティナちゃんを殺そうとした馬鹿への復讐さ。まっ、豚箱にぶち込むだけだけどね。」

「…………」

あまりの事に脳が追いつかない。

「けほっ、けほっ、か、開通しました!」

と、今度は違う方向の壁がひっくり返り、翠が現れた。翠も夏世と同じ格好をしている。

「ま、間に合いましたか!?」

『ギリギリセーフや!そんじゃ、お迎え頼むで!』

「はい!」

だが、すぐに翠は壁の向こうへとんぼ返りしていった。

「あそこはどこに?」

「彼女の作った道は二つあってね。一つは蓮太郎くんの部屋の真下の部屋を借りて畳返しの要領で入れる通路。そしてさらにその隣の部屋から下水道を通ってここまで繋がる通路さ。しかも、蓮太郎くんの真下の部屋から繋がるのは外周区さ。」

「……よく、こんな短時間で……」

「彼女はよくやってくれたよ。」

ゲームの知識も無駄にはならないもんさ。と菫はコーヒーを飲みながら空中投影されたモニターに目をやる。

ちなみに、蓮太郎は現在民警ライセンスを取られている。

 

 

****

 

 

「IISOの者だ。藍原延珠、君をペア不在のためこちらで保護する事となった。」

蓮太郎の部屋で、延珠はIISOが派遣した男達に囲まれていた。別に彼等はロリコンではないため、エロ同人的な展開は起こらない。

「れ、蓮太郎はまだ生きているではないか!」

「知らん。そんな事は俺達の管轄外だ。だが、聖天子様から民警ライセンスを剥奪されたと聞いた。」

「……はぁ、そっかぁ……蓮太郎、そんなに迷惑かけたのかぁ……」

延珠はその場でポケーっとしだして、天井を見始めた。

どうもその様子が可哀想で、IISOの男達は無理矢理連れていくのに抵抗を感じた。

「はぁ……ごほっごほっ……」

延珠が口元を抑え、咳をしだす。そして、

「ごほっごほっ……がふっ!」

吐血した。

手の間からかなりの量の血が溢れ、畳に染みを作る。そして、延珠はそのまま倒れた。

「と、吐血した!?」

「い、いや、藍原延珠は少し前から胃潰瘍を患ってると聞く。ストレス性だそうだ。」

「……苦労してたのか。」

まさかストレスでこんな小さな子が血を吐くとは……と思っている時だった。

「油断したな!!秘技、畳返し!!」

口元を血に染めた延珠がいきなりバック転よ要領で起き上がり、なんとも古風な畳返しを披露した。

『うぉっ!?』

しかも四方向同時に。なんとも器用だ。

「アデュー!!」

IISOの男達が襲いかかってきた畳を退かした時には、延珠の居た部分の畳が消え、その下にはポッカリと穴が空いていた。そこを覗き込むと、その真下の部屋の床に穴が空いていた。そこから逃げたのだと男達は察した。

「追うぞ!」

男達は一度部屋を出て一階に行き、蓮太郎の部屋の真下の部屋の扉を開け放ち、延珠が逃げたであろう穴に入っていった。

「…………行ったな。」

「行きましたね。」

そして、隣の部屋とその部屋を隔てる壁が回転し、延珠と作業服の翠が顔を覗かせた。

「完全にリハーサル通りですね。なら早く行きましょう。」

「そうだな。忍者みたいにコッソリとだ。」

延珠はブーツを回収してとっとと翠と共に隣の部屋の床の一部を外してその下にあるカモフラージュの土の壁の計二枚を外して穴に飛び込んだ。

 

 

****

 

 

「ふぅ……完全勝利だ、美織!」

『いや~、よく吐血するからこその迫真の演技やったね!』

「もう眠いです……」

「夏世ちゃんと寝るといい。」

「はい~……」

そんな中、ティナはポケーっとしていた。

作業服姿でお互いにお互いを抱き枕代わりにして寝る夏世と翠。そして、口元真っ赤な延珠とカラカラ笑う美織。そして、何時も通りな菫。

「……あの~、何で延珠さんが吐血したのにあんなに元気そうなんですか?」

「この血はこれだ。」

と、延珠は真っ赤な手を見せる。が、よく見ると手には何か透明なものが引っ付いている。

「……ビニール?」

「血糊を細長いビニールに入れて袖の下を通しておいたのだ。そして、咳をするフリをして途中でこれを噛み切って吐血したようにみせたんだ。おかげで口の中片栗粉を溶かした液まみれだ……」

『血糊って片栗粉溶かした水に食紅入れるだけで出来るんやで~』

「……用意周到ですね……」

「練習もしたからな。ちなみに、作戦の提案は翠だ。」

「さて、これからは蓮太郎くんの動き次第だ。蓮太郎くんが黒幕との決戦に入る時、私達も作戦その三に移ることとなる。御令嬢、君のところはどうだ?」

『人工衛星から里見ちゃんの動きはバッチリ監視しとるで。警察の動きは誤魔化せても司馬重工は誤魔化せへんで!そんでもって、『装備』の方も準備できとる。』

「流石天下の司馬重工だ。私も株を買おう。」

『おおきにな。がっぽがっぽ儲からせてあげるで~』

「金はあっても困らないからな。」

どうやら、ティナが捕まってる内に色々とあったらしい。

とりあえず、もう少し自分が落ち着いたらこの状態の原因を片っ端から聞いていこうとティナは決心したのであった。




天才と社長が手を組んで最強に見える

そんな訳でティナ脱獄&延珠逃走。主犯は菫&美織&夏世&翠

次のイニシエーターズサイドの話はもっと後になりそうです

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