「本当に来てよかったのか?ティナ。先生は例に漏れず超が付くほどの変人だぞ。しかも超の前に伝説だってついていい。」
「伝説の超変人ってどこのブ○リーですか……大丈夫です。いつかドクター室戸には会わなければいけないと思ってましたから。」
「本人がいいならいいけどさ……」
菫の籠っている大学病院の前。蓮太郎とティナは出かけ帰りにここに来た。辺りはもう暗く、もうすぐ夜になるだろう。
不気味な大学病院の前でティナはポーカーフェイスを保っているが、小さな手が蓮太郎の袖を掴んでいる。
元暗殺者とはいえまだ子供だ。怖いものは怖いだろう。特に研究室の入り口手前になんて悪魔のモニュメントが置かれている。こんなものがある研究室なんてそこら辺のお化け屋敷よりもよっぽど怖いだろう。
大学病院の受け付けを顔パスし進み、悪魔のモニュメントの横を通ってそのまま研究室にそのまま入る。
「せんせー……って誰もいない?」
だが、もぬけの殻。基本的に菫は研究室にいるのだが、何故かいない。
世間一般で言う引き篭りに彼女は当てはまるのだが、そんな人が部屋にいない。
天変地異が起こるのではないかと冗談混じりで思いながらも図々しく部屋で待たせてもらうことにする。
遠慮なく椅子に座ろうと椅子を取り出した時、ティナのヒィッ!?という声が聞こえた。
「蓮太郎く~ん……」
「きゃわわわわわわわわわ!!?」
ジャングルに生息する鳥のような声を出しながらティナが肩にもたれかかった何かを振り払ってかなりの速さで蓮太郎に突っ込む。
ドスッ!と結構痛そうな音がしたが蓮太郎は特に苦もない表情でティナを抱き留める。べちゃっとティナの肩にもたれかかったそれは倒れた。
「せんせー……何やってんだよ。」
「何か……食べ物を……」
ティナの肩に死体のごとくもたれかかったのは菫だった。
蓮太郎は溜め息をつきながらポケットを漁るが何も無い。が、ティナが片桐兄妹の事務所に行く前に買ったポテトチップス(ピザ味)をそっと菫の前に置いた。その瞬間、菫がポテトチップスをひったくるように取り、徐に袋を開けてガツガツと食べ始めた。
余りの勢いにビクッと驚くティナ。
「……これが世界最高の頭脳の一人なんですか?」
「……残念な事にな。」
信じられない物を見る目で菫を見るティナ。ついでに『これ』扱いした事はスルーだ。
そして数分後。
「いやぁ、食料が尽きてるのに気が付いたのがついこの間でね。君に買い物を頼もうと思ったら携帯電話を無くしてることに気付いてね。危うく死にかけたよ。」
「木更さんみたいだな。」
「何を言うか。私は金だけはあるんだよ。外に出ないだけで。」
「ならぶっ倒れる前に買い物行けって。延珠と夏世の定期診察の時は出てきてるだろうが。」
「私は半日出るのに護摩を焚いて五体投地した後に蓮華座の上で座禅くんだまま二十四時間コーランを読んでやっと出れるのだよ。」
「そこまでして外に出るのが嫌かよ。」
「嫌だね。あんな反吐の出るような匂いしかしない世界は。」
菫はふぅ。と一息つくと、チラッとティナを見た。
「あーあ、やっちまったな。蓮太郎くん。これは長い間ぶち込まれるぞ。」
「攫ってねぇ!」
「しかも金髪ロリときた。二人目だぞ。エロゲのやり過ぎだろ。」
「やってねぇわ!!」
あー疲れた。と蓮太郎が椅子に座ってコーヒーを口にする。
「初めまして、ドクター室戸。プロフェッサーから話は聞いてました。」
「ほう、じゃあ君がエインの所の。あいつは私に対して何か言ってたかい?」
「空前絶後の変態、と。」
「……今度あった時にお前は空前絶後の堅物だと言っておいてくれ。」
「いつになるか分かりませんが言っておきます。」
「っつーことは先生とエイン・ランドは仲が悪かったのか?」
「いいや、仲が良かったさ。顔を合わせる度に拳銃で頭に綺麗な風穴をワンマガジン分開けてやりたいと思うくらいに。」
「あーもういい。大体わかった。」
蓮太郎は半ば諦めたかのような声を出して自分で買ったポテトチップス(ジンギスカン味)を口にする。
「さて、突然だがティナちゃん。私は君が好きだ。解剖室で愛し合わないかい?」
「斬新なナンパですね。解剖室は遠慮します。」
ティナが若干引きながらも返答する。そりゃ残念。と菫が肩をすくめる。
「遠慮して正解だ。先生はネクロフィリアだからな。」
「えっ。」
ドン引きするティナ。
「その内死体調達のために人を殺しかねん。」
「なら君の困った顔が見たいから延珠ちゃんか木更辺りを……」
「それやったらこの大学病院消し飛ばすぞ。研究室ごと。」
「おいやめろ。」
その程度なら文字通り片手間に出来てしまうのが蓮太郎。
「ところでティナちゃん。君は蓮太郎くんに何かイタズラはされなかったかい?主に性的な。」
「されてません。お兄さんはそんな事する人じゃありません。」
少しムッとして言い返すティナ。
「おや、信じられないかい?でもね、彼はすれ違いざまに女児の尻を撫でること数十回、小学校に潜入して女児の検便や検尿を盗むこと数百回。毎年のようにバチカンがエクソシストを派遣しようか迷ってる程だよ。
今度和英辞典を開いて調べてみるといい。
流石にイラッとして指弾でも飛ばそうかと思ったが、ティナをチラッとみると、顔を真っ青にして蓮太郎から少しずつ離れて行っている。
「そ、そんな恐れ多い方だとは露知らず大変なご迷惑をば……」
「信じるなティナ!!全部出鱈目だ!」
何故か敬語になったティナを説得する蓮太郎の横でゲラゲラ笑いこける菫。
ほんっと趣味悪いなと内心毒づきながらもティナを説得する。
ちなみに、ちゃんと蓮太郎には好きな人がいる。ついでにその人はロリではない。
「あ~笑った……あ、そうそう、蓮太郎くん。つい昨日、彰磨くんがここを訪ねてきたよ。」
「彰磨兄ぃが!?」
「あぁ。君目当てにここを訪れたらしいが、いないと分かった途端に連れと一緒に出ていったよ。無口なところと人の話を聞かないところは変わってなかったよ。」
「……もしかして、アルデバランの事を知って?」
「かもしれないね。」
蓮太郎と菫が話で盛り上がっていると、ティナが頭にハテナを浮かべたままちょいちょいと蓮太郎の服の袖を引っ張る。
「ん?あぁ、そうだった、ティナは知らなかったな。」
「彰磨と言うのは蓮太郎くんの兄貴分に当たる人で本名は薙沢彰磨。私が軽く手術を施した事もある。」
「え?」
「いやなに、昔の蓮太郎くんは力の制御が出来ず色々とやったからね。彰磨くんはたまにそれに巻き込まれて骨折とかしてきたからね。ちょっと骨を超バラニウムに入れ替えて……」
「ふぁ!?」
「おかげで彰磨くんが病院に運び込まれる事は少なくなったよ。半サイボーグになってしまったけど。」
驚愕の真実。彰磨は骨を超バラニウムに置き換えていた。何処ぞのアダマンチウムの骨格を持つヒーローみたいな事になっているのだろうかとティナは考えた。
だが、それでも病院に運び込まれるあたり蓮太郎がその頃どんな事をしてそれに彼は巻き込まれたのか、想像したくない。
多分、ティナでも数ヶ月の入院待った無しの大怪我だったのだろう。
「それと、彼の天童流格闘術の腕は凄かった。何せ、初見でやられて蓮太郎くんがしゃっくりするほどだったからね。」
「えっ!?」
「彼は内臓にダメージを与えて爆散させる……まぁ、ぶっちゃけると北斗○拳をマジでやれる男だ。」
蓮太郎にしゃっくりを起こさせるほどのダメージを与えるという最早人外の領域に片足を突っ込んだ人間と言う事実にティナはさらに驚く。
「天童社長もそうでしたけど……お兄さんの周りって人外ばかり……」
「まぁ、体の骨格をアダマン……じゃなかった。超バラニウムに置き換えて平然としていたからね。拒絶反応とか出て苦しいだろうなーとか思ってたら手術後一ヶ月後には元気に北○神拳を使う彼がいたよ。」
「アダマンチウム!?今アダマンチウムって言いかけましたよね!?」
「ははは、何のことかな。私は決してそんな蓮太郎くんでしか破壊できない金属なんて作ってないよ。」
「作ったんですね、作っちゃったんですね!そんでもってそれを人の骨と入れ替えちゃったんですね!?」
「まぁ、そのお陰で彼は単体戦闘力で序列80位とかそこらまで上り詰めちゃってたし。」
「なん……だと……?」
「え、何それ初耳なんだけど。」
どうやら彼はマジの人外だったようだ。
「今はペアを組んでやり直したから九百番台だけど、確実にそれ以上の強さはあるね、うん。」
ちなみに、序列百番から上は悪魔に魂を売り渡さないといけない領域とかゾーンに到達したイニシエーターがゴロゴロいるとかそんなレベルだが、そこに人間なのに入り込んだ彼は下手をすると木更並の人外だった。
ちなみに、木更も全力を出せばそこら辺には軽く到達する。もしそこにゾーンに到達したイニシエーターがいようものなら十番台も夢ではないだろう。
「さて、ティナちゃん。君は何の用があってここに来たんだい?ただの付き添いかい?」
「あ、えっと、シェンフィールドのメンテをお願いしたくて。」
「なんだそんなことかい。まぁ、お安い御用さ。」
コロコロっとティナが机の上に置いたシェンフィールドを菫が確かに。と言って受け取る。
だが、どこかティナの表情は喉元で何か詰まった感じだ。
「何かあるのか?ティナ。言いたい事は全部吐き出しとけ。」
蓮太郎は飲み終わったコーヒーの入っていたビーカーを置きながら言う。
ティナはしばらく困惑したあと、口を開いた。
「遠からず、私には追ってが来ます。」
「エインからかい?」
「イエス、ドク。」
「なんだ、そんな事か。てっきりステージⅤが群れをなして突っ込んでくるのかと思ったぜ。」
「……そ、それはもう世界滅亡レベルですよ……私の追っては私よりも確実に序列は上です。私以外の『NEXT』の強化イニシエーター……序列百位『ギガ・ヘッジホッグ』、アシュリー・スプリングスティーン、序列九十五位『メテオフィール』、アイリーン・スペンサー、序列八十八位『フェルドランス』、フェイ・クロンミラー、序列七十五位『
「ふーん。」
「……なんでそんなに呑気なんですか……?もしかしたら私を住まわせているお兄さんに被害が……」
「はぁ……ティナちゃん。彼が『その程度の序列』の相手に負けるとでも?」
「……ですけど、お兄さんは序列百位にも……」
「……言ってやれ、蓮太郎くん。」
「おうよ。俺、里見蓮太郎は聖天子様の私怨により序列向上を無理矢理止められた序列第三位になる予定の男だ。経歴はスコーピオンをワンパン。」
それを聞いた瞬間、ティナは一瞬意識がどこかに飛んだ。
が、すぐに戻ってきた。
「……すみません、経歴をもう一度。」
「スコーピオンをワンパン。」
「証拠は……」
「これを見るんだ、ティナちゃん。」
モニターに映像が現れる。それは、数ヶ月前のスコーピオンが発生したシーンだった。
途端、画面端から何か電撃が走り、スコーピオンに直撃。
「ここをアップにしてみよう。」
菫がそれをアップにすると、そこにはスコーピオンに張り付く蓮太郎が。
「えっ。」
「ちなみに、蓮太郎くんはレールガンの弾丸となって飛んできた。」
そして再生。蓮太郎がスコーピオンの上まで登って拳を振るった。
瞬間、スコーピオンが消し飛んだ。
「……さて、たかだか序列二十一位というステージⅤすら倒せないイニシエーターとそれ以下のイニシエーター五人程度がなんだって?」
「匿ってくださいお願いします。」
「任せておけ。」
この瞬間、ティナの安全が確立されたのであった。
天童民間警備会社が警備している聖天子に喧嘩をふっかけたエインが全面的に悪い。
そしてティナは思った。よく、自分はスコーピオンをワンパンする人のアッパーを受けて生きていられたな、と。
「それじゃあ、ここからは大人の話だ。ティナちゃんは帰ってくれるとありがたい。」
一瞬、ティナが不安そうな視線を蓮太郎に送るが、あぁ、蓮太郎に対する不安なんて無いか。とすぐに思い直した。
「一人で帰れるか?」
「はい。余裕ですよ。」
「そんじゃ、先に帰ってくれ。」
それから二言三言話してからティナは帰っていった。
残ったのは蓮太郎と菫だけ。
「まったく、君の周りには順調に幼女が増えていくね。」
「否定できねぇ……」
「全く、いい加減延珠ちゃんの胃を休ませてやれ。彼女が血を吐く度に彼女が不憫で仕方ないんだが。」
「俺のせいじゃねぇ。」
「君のせいだ。全く、これで木更といい雰囲気なんだから延珠ちゃんはほんと報われない。どうしてこんな男に惚れたんだか……」
「知るか。」
「こんな男に惚れたのが延珠ちゃんの運の尽きか……」
菫にしては珍しく、本気で人の心配をしている。
それほど延珠は人から見て不憫だったらしい。
「いつか体内侵蝕率を下げる薬が出来たら、延珠ちゃんと夏世ちゃんとティナちゃんにあげるとするよ。」
「あんがと、先生。」
「まぁ、三人とも体内侵蝕率は20%前半後半だからね。抑制剤を欠かさず打っておけばガストレア化はすること無いから気長に待ち給え。」
「それまではあいつらに手は出させねぇよ。」
全く、心強過ぎる男を味方にしたものだ。と菫は少しだけ微笑む。
「…………まぁ、呪われた子供たち繋がりで話そうか。知ってるかい、蓮太郎くん。呪われた子供たちは人間との間に子孫を残せるんだよ。」
「理論上は、だろ。」
「いいや、実証済みだ。」
「……って事はそういう事が起こったってことか。」
「呪われた子供たちに人権なんて無い。と考える輩は大量にいるからね。現に児童婚、なんていう風習のある国もある。それに、生まれた頃から調教しておけば呪われた子供たちは抵抗しやしない。丁度いい。君に現実というものを教えておこう。」
「……現実は見てるつもりだ。」
「彼女らを一人の人間として世に送り出したいなら今の世界をちゃんと見ろ。呪われた子供たちなんてレイプしながら切り刻んだところで死にやしないから変態からすれば格好のおもちゃだ。それに、君は見た事あるかい?切り刻まれて吊るされた『子供たち』を。性行為を強要させられ、レイプさせられて内蔵が破裂して苦悶の表情を浮かべた『子供たち』の姿を。まだまだあ───」
ドゴッ!!メキメキッッ!!と炸裂音と何かが割れる音。
蓮太郎が無意識に足を振り上げ、床を踏みつけていた。
それにより床に靴の跡がつき、ヒビが壁にまで入った。
「やめろ、吐き気がする。」
「……これが、今の世界の現状だ。東京エリアは比較的他のエリアと比べて呪われた子供たちへの待遇は恵まれている。だが、聖天子様がコロッと死んでみろ。そうしたら他のエリアと同じくらい。下手したらそれ以上に呪われた子供たちへの待遇が酷いことになるかも知れないよ。」
「ケッ、くだんねぇ。んな事になったら俺が世界を変えてやらァ。一日で全世界のガストレアを殲滅して一人で全世界に宣戦布告してやる。」
「ははは、大見得切ったね。」
「えっ。」
「えっ。」
『えっ。』
「いやいや、俺たかが兵器じゃしなねぇし。」
「そういやそうだったね。なら出来るか。」
「核も耐えれるし。」
「えっ。」
「えっ。」
『えっ。』
「それは生き物としてどうかと私は思うんだが?」
「だって俺生身で宇宙行っても平気だし。」
「えっ。」
「えっ。」
『えっ。』
「いや、行ったこと無いだろう君。」
「ひとっ飛びで行ったことあるけど。」
そして沈黙。
「……まぁ、何かあったら君がなんとかするんだぞ。」
「そうする……って、そういえば先生。俺さ、今外周区で教師やってんだけどさ。」
「あぁ、知ってる。」
「それで、生徒達を避難させる場所を作りたいんだが……」
「んー……ならここのマンホールの下の下水道のここの壁を壊して空洞にしてそこを居住スペースにしたらどうだい?」
「あ、いいなそれ。帰りがてらやってくるよ。」
「そうするといい。あ、そうそう。忘れる所だった。君にはこれを見せたいんだった。だが、これはかなりショッキングだぞ。」
菫はそう言うとプロジェクターを作動。ノートPCの画面を壁に投影する。
それは2031年から二十年に渡って遡った程度の年表だった。
そこにはかなりの数の黒塗りの項目。それは殆どがガストレア戦争初期から末期までにかけての事だった。
政府のガストレア戦争中の資料は焼失したとの言葉はこれを見る限り嘘だということが分かった。
ダブルクリックすればエラー音とアクセスキーのレベルが不足していますというメッセージ。
何故、こんな事を菫にさせているのか。それは、蓮太郎が自ら調べるよりも菫に調べてもらった方が、より効果的に活用してくれると思ったからだ。
そしてこのアクセスキーを使って蓮太郎は真実が知りたかった。一体裏で何が起きているのか。幼少期に一度だけ乗らせてもらった三輪車が何故『七星の遺産』とやらになっているのか。
その前に何故七星の遺産でステージⅤのガストレアを呼び出せれるのか。と、言うかもうぶっちゃけ七星の遺産でステージⅤを呼び出して片っ端から殴り消して平和を取り戻したいというのが蓮太郎の内心だった。あの疫病王、リブラだって病原菌ごと消し飛ばせるだろう。
菫のこれを見ろという声を聞き、目を凝らす。マウスで拡大された年表には赤色で文字が反転されてる場所があった。
「問題はこれだ。」
「───こ、これって……」
そこにはこう書かれていた。
『2021年某月某日、七星村消滅』
『七星村』。そんなの、聞いたことがない。何が、どうなっている。
七星村とは。七星の遺産とは。いや、違う。
『消滅』とは何だ。一つの村が消滅。そんなの核やステージⅤかガストレアの大群の進行が無い限り……
「まさか……七星村はガストレアと深い関係でもあるのか……いや、そんなの七星の遺産がある時点で明らかだ……問題は何で七星の遺産がステージⅤを呼び出す鍵になるんだ……」
「そんなの知らん。だが、七星村なんて村はここ以外出てこない。辛うじて……この地図から見つける事はできた。」
菫が2020年の日本地図を取り出すと蓮太郎にあるページを開いて渡した。
七星村は元長野県北部にあったらしい。
「もっとヤバイのは次に私が見せるものだ。これは特殊な経緯で入手した物だが……本来レベル十のアクセスキーがなければ見ることができない。」
「レベル十……」
それは、序列三十番以上の者しか見ることが出来ない情報。いずれ蓮太郎は見ることが出来る。が、それが何時になるかが分からない。だからこそ、手に入る情報はなるだけ集めておきたかった。
「政府の職員が誤って投稿した物だがすぐに消されてね……だが、キャッシュはあったから復元が出来た…………見る覚悟はあるかい?」
「……頼む。」
菫は無言で再生をした。
それは『アルディ・ファイル』と呼ばれているらしい。
映像が始まり、画面が真っ暗になる。ザ、ザ。とノイズが響き、やがて映像が画質は悪いものの見えてきた。
獣の呻くような声。
そして、それは見えた。
赤色の目と不気味に肥大した右の瞳。歪な体。それには包帯が巻かれている。さらに足の付け根から三本目の足が生え、栄養を吸われた左腕がしなびて左肩が肥大化している。
気分が悪くなった。死体はさんざん見てきた。なのに、これはそれ以上の迫力があった。
四肢と体と思われる部位が無ければそれは『ヒト』だと判別出来なかった。
「なんだよ……なんだよこれ!!」
「分からない……だが、これは人間の女性だ。」
「……あぁ、分かる。そして、これが『ガストレア』だって事も!」
画面右下には何時の間にか『Devil virus』という文字。
デビルウィルス。それにかかった人だろう。だが、これは完全にガストレアだ。
「恐らく、これが『アルディ』なのだろう。」
「アルディって何だよ。」
「簡単に言えばイヴと同じく原初の人類として度々比喩される。」
「……なんだよ、それってつまり……これは……」
「人類で最も最初にガストレアウィルスに感染した女性だ……いや、これが最初の人間から派生したガストレアだろう。」
最初のガストレア……何故、そんなものが映像に捉えられている。
「……なんで、デビルウィルスのまま伝わらなかったんだ。何で、ガストレアウィルスって名前になったんだ……?」
「世間に広まる時に名称が変わるなんてザラだ。何か理由がいるかね?」
菫は『Devil virus』については特に疑問に思ってないようだった。
こんな物を隠蔽している政府は一体……どれほど今の蓮太郎の常識を打ち砕く情報を持っているのか……そんなの想像だに出来ない。
だが、その時着信。木更からだった。
「もしもし、木更さん?」
軽く声が震えている。が、木更はそれどころじゃない剣幕で返事をする。
『里見くん!とうとうモノリス白化現象が露見したわ!もう隠しきれなくなったみたい!』
「なにっ!?先生!」
菫はすぐにテレビをつけた。
テレビでは緊急ニュースがやっており、半分程まで白くなったモノリスがそこには写っていた。
大混乱が、始まる。
モノリス崩壊まであと──────四日。
蓮太郎がアルデバランを暗殺するミッションが始まるまでの残り時間でもあった。
だが、大混乱は免れない。
前半シリアル、後半シリアス
『Devil virus』の件はアニメではカットされてましたが……これ、絶対に凄い伏線ですよね……
一応自分は頭の中である程度の考察はしているのですが、この『アルディ』は確実に物語の一端を担ってますよ
原作がまだそこまで話を進めてないので真実はまだ分かりませんが、ここの話は確実に伏線をばら蒔いてると思うんですよ
もっとも、グロ過ぎて描写できないっていうのが一番の理由なんでしょうけど
それと、原作及びアニメ版だとモノリスの件は菫は知りませんでしたが、ここの蓮太郎は信用できる上に何かいい案を出したりしてくれるかも、という淡い希望を乗せて菫には既に話していたので先生はあまり驚いていません
次回はアジュバンド結成の話。何千文字いくかな~……
あと、感想で皆彰磨兄ぃを揃いも揃って世紀末覇王とか世紀末救世主とか言っちゃったからなんかウルヴァリンもどきにしちゃったじゃないか!
しかもこれで主要人物(人間)の三人がワンパンマン、斬撃飛ばす女版人斬り抜刀斎、北斗神拳伝承者というただの人外になっちゃったよ!!本当は彰磨兄ぃだけはただの(?)北斗神拳もどきが使える人間の予定だったのに!!
もうウルヴァリンもどきにするくらいならマジで北斗神拳伝承者の世紀末覇王にしておけば良かったかなぁ……