アイドル研究部の後輩くん   作:もりこ。

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どんどんエリチが冷たい子に…演出なんで勘弁して下さい。


4話

先輩の粋な計らいで高坂さん達のスクールアイドル活動も少しづつではあるものの軌道に乗り始め、めでたしめでたし。と言う訳で練習を終えて帰宅した僕だったのだが、その直後に高坂さんから呼び出されて彼女の家まで行く事になった。

 

「ええと、此処か」

 

一応住所を聞いていたので割とすんなりとたどり着けた高坂さんの家はどうやら和菓子屋さんらしい。古めかしくもきちんと清掃、手入れのされているであろう店構えは正しく老舗と呼べるものだった。

 

「ごめんください」

 

勝手口が分からなかったので取り敢えず営業中のお店の方から入ると、店番をしているのだろうか、中学生ぐらいの女の子がガラスケースの上で頬杖を突いて船を漕いでいた。今日は暇だったのだろうか。

 

「あの、済みません」

 

「ひゃい!?」

 

寝たままでいられても困るしお客さんが来たら不味いと思い、もう少し近付いて声を掛けると、奇声を上げながら勢い良く立ち上がった女の子。何だか授業中に居眠りしてる子みたいだ。

 

「ご、ごめんさい! 本日は何をお買い求めでしょうか?」

 

「あ、ごめんね。高坂穂乃果さんのクラスメイトの宇土です。高坂さんに家まで来るように言われてたんだけど、居るかな」

 

僕の言葉に、恐らく妹さんであろう女の子はちょっと呼んできます。と断りを入れてから奥の方へと入っていった。それから少しして、高坂さんがやってきた。

 

「ごめんね、急に呼び出しちゃって。ささ、上がって上がって!」

 

勧められるがまま、お邪魔しますとだけ声を掛けて僕は高坂家の居住スペースへと足を踏み入れた。階段を上り一番奥の部屋に案内されて入ると、同じく呼び出されていたであろう園田さんと南さんが肩を並べてちゃぶ台に置いてあるPCの画面に向かい合っていた。

 

「や、さっきぶりだね」

 

「宇土君、急に呼び出してしまって済みませんでした」

 

「穂乃果ちゃんがお饅頭持ってきてくれたんだよー」

 

二人の言葉にそれとなく受け答えしつつ、僕も高坂さんにクッションを借りて席に着いた。

 

「内容は聞いてなかったんだけど、ひょっとして作曲の事で進展があったのかな」

 

「そうなの。今日練習が終わって家に帰ったら、ポストにCDが入ってたんだー!」

 

高坂さんが満面の笑みを浮かべながら差し出してきたのは無色透明なCDケースで、中には真っ白なディスクには「START:DASH!!」と手書きで記されており、それが間違いなく西木野さんが手掛けた楽曲である事が分かった。

 

「3人はもう聴いたの?」

 

僕の問いに首を横に振る3人。どうやら僕が来るまで待っていてくれたらしい。出来るだけ急いで来て良かったな、と思いながら僕はケースからディスクを取り出し、PCの前に座っている園田さんに差し出した。受け取った彼女はそれをPCのディスクトレイに挿入、それから2、3操作をして遂に西木野さんが作った「START:DASH!!」が流れ始めた。

 

ピアノ伴奏と共に西木野さんの綺麗な歌声が部屋の中に響き渡る。そのあまりの出来の良さに僕達は曲が終わるまでの4分程、ただただ無言で聴き入っていた。

 

「いや、まさかこれ程とは…」

 

絞り出すような僕の呟きに、高坂さんは何故か自慢げに「だよねだよね!」と何度も首を縦に振っている。園田さんと南さんもμ`sの初めての楽曲の誕生に思うところが有るのだろう。とても明るい表情でCDを繰り返し聴いている。

 

更に後から気付いたのだが、何と西木野さんはピアノ伴奏バージョンだけでなく、本番で使える様にミックスしたものまで作ってきてくれていた。打ち込みとかも全部出来るとか、西木野さんマジ有能。

 

「これで後は本番まで練習あるのみ、だね」

 

僕の言葉に力強く頷く三人。微力ながら登下校の時間にはライブ告知のビラもマメに配っているし、これならさすがに観客1桁なんて事態にもならないだろう、多分。

 

「ホントはにこ先輩と真姫ちゃんにもμ`sに入って一緒にやって欲しかったんだけどなー…」

 

何処か寂しげに呟く高坂さんに、僕は人差し指をぴんと立てながら告げる。

 

「僕の見立てだと、西木野さんはもうひと押しあれば一緒にやってくれそうだと思うんだよね」

 

「そうでしょうか…私も一度直接お話しましたが、その時は取り付く島もない、といった様子でしたし」

 

「いやいや園田さん。彼女は言動程アイドルを嫌ってもいないし、強く押されると断れないタイプだと僕は思うよ」

 

本当に面倒でどうでも良いなら出来ません知りませんで通せば良かった話を、西木野さんは此方のお願いに対してずっと正面から真摯に対応してくれていた。単に乗せられやすいタイプと言うのもあるが、彼女は人前で歌やダンスを披露する事に忌避感等は感じない質だと僕は思う。むしろ自身の能力に自信を持っているが故にそれを発信したいと考えている節も見られる。

 

まあ、あくまで僕の推測だけどね? と最後に付け足して終えた僕の説明に、園田さんは微妙な顔をしていた。彼女はむしろ人前で歌ったりするのは苦手なタイプだと思うんだけど…大丈夫なんだろうか。

 

 

結論から言うと、全然大丈夫じゃなかった。

 

生徒会との交渉の末に許可が下りた講堂でのリハーサル形式の練習の1日目。事前に頼んでいた放送部のスタッフによる音響の設定やクラスメイトの有志による舞台装置の操作など、全てが順調に進んでいたのだが、いざ曲が始まってみると全然駄目だった。

 

園田さんは舞台の上で照明を浴びた途端、萎縮してしまって歌もダンスもまるで出来なくなってしまったのだ。

 

「昔から、大勢の人から注目されるのが苦手で…普段の練習では出来ていたから大丈夫と思っていたのに、いざとなるとやっぱり駄目でした」

 

ステージ衣装のまま、舞台袖に置かれたパイプ椅子に力無く腰掛けた園田さんは、それから自分をメンバーから外して欲しいと言ったが、それは当然許可できない話だった。本番までもうほとんど時間がないのに今から2人用の振りに変更するのは現実的ではないし、こんな形でのドロップアウト、高坂さんと南さんが認める筈もなかった。

 

「大丈夫だよ海未ちゃん! 観客なんて皆かぼちゃだと思えばいいんだよっ」

 

高坂さんのアドバイスに園田さんは暫し思案した後、顔を真っ青にして「やっぱり無理ですっ!」と叫んだ。何を想像したのやら…。

 

「そう言えば海未ちゃんビラ配りもあんまりやってなかったよね…」

 

南さんの指摘に、園田さんは気まずそうに肩を揺らした。

 

「わ、私はそういうのに向いてないんです……だって、差し出したビラを無視されたり、もしその場で捨てられたりしたらと思うと…!」

 

街頭のビラ配りじゃあるまいし、学院の人達はそんな酷い事しないと思うけどなあ。

 

「大体! この衣装も何なんですか!? 私、こんな丈の短い衣装は嫌だと散々穂乃果にもことりにも言いましたよね!? は、破廉恥です…!」

 

そういう話になると自然と視線はそちらに向くもので、椅子に座っているためより短くなったスカートから覗く白く健康的な太腿は大変眼福でございました。

 

「そ、そんなに見ないで下さいぃ!」

 

「宇土君? ちょっとデリカシーないかな、今のは」

 

冷たい笑みを浮かべる南さんに底知れぬ恐怖を覚え、僕は背中に冷たい汗を感じながら素直に謝罪した。覗き駄目、絶対。

 

「ちょっと良いかしら」

 

堅い声音に振り向くと、絢瀬先輩と東条先輩が此方へと歩いてきていた。一応彼女達も講堂の使用上の問題が無いかのチェックや演目の出来を監査するという名目でリハーサルを見学していたのだ。

 

「見た所、とてもまともなパフォーマンスだったとは言えないわね」

 

絢瀬先輩の指摘はごもっともだ。僕達は反論のしようも無かったし、今回ばかりは東条先輩も表情に苦いものがある。

 

「今回は上手くいきませんでした。けど、次のリハーサルまでにはちゃんと改善します!」

 

「ちょっと穂乃果!?」

 

絢瀬先輩の冷たい視線を真っ向から受け止め、高坂さんが強い口調で言い放った。問題の張本人である園田さんは困惑しきっているが、高坂さんの眼には一切の迷いは無かった。

 

「簡単に言うけれど、園田さんだったかしら。彼女の様なあがり症は簡単に改善されるものではないわ。何か具体的な策があった上で言っているの?」

 

「それは、まだ無いですけど…」

 

言い淀む高坂さんに、絢瀬先輩は更に畳み掛ける。

 

「本番まで本当に時間がないのよ? 貴方本当に理解しているの? 学院を救う為と言った以上、半端な覚悟で舞台に上がろうだなんて考えられては困るの。正式な部活動としてやっている以上、貴方達には常に音ノ木坂学院の看板が掛かっているの。私達生徒会でもない、貴方達に掛かっているのよ? それを本当に……」

 

「そこまでやで、エリチ」

 

更にヒートアップしそうな綾瀬先輩に待ったを掛けたのは東条先輩だった。

 

「穂乃果ちゃん達に明らかな欠陥があるのはうちも思った。でもな、生徒会が独自の活動を行えないのはこの子らには関係のない話なんやで。分かるやろ」

 

東条先輩の言葉に、綾瀬先輩は眼を瞑って深呼吸を一つ。それから先程までよりは随分と落ち着きを取り戻した表情で「そうね」とだけ呟いた。

 

「次のリハーサルで改善が見られないようなら、部活紹介後のライブは中止にします。良いわね」

 

僕達の返答を待たずして、絢瀬先輩と東条先輩は帰って行った。

 

「大丈夫だよ海未ちゃん! まだ時間はあるんだから!」

 

「そうだよ! ことりも協力するからねっ」

 

二人に励まされ、取り敢えずは前向きになれたらしい園田さんを横目に見つつ僕は考える。

 

絢瀬先輩は言っていた。今音ノ木坂学院の看板を背負っているのは生徒会ではなく高坂さん達だと。何故だ? 何故生徒会が廃校を阻止する為の活動が出来ないんだ。普通なら絢瀬先輩達が先導して然るべきだろう。今まで気に留めていなかったけれど、理事長は一体どういう考えで生徒会の活動を制限しているんだろうか、今の僕には検討もつかない。

 

この問題を放置すれば、いずれ僕達の活動にも大きな支障をきたすかもしれないな…。

 


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