地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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桜の舞

屋台通りを歩く龍二と麗華。所々に屋台の食べ物を欲しそうに、口をぽかんと開けて眺める妖怪達がいた。

 

 

「相変わらず、沢山屋台出てるなぁ。

 

麗華、何か欲しいのあるか?」

 

「……あれ!」

 

 

指差した方向にあったのは、綿アメ屋だった。

龍二は早速、綿アメを一つ買い麗華に渡した。フワフワとまるで雲のように麗華は見えた。

 

 

「雲みたい……」

 

「だろ?

 

俺もガキの頃、初めて綿アメ見たときそう思ったから」

 

「ふ~ん……

 

ねぇ、お兄ちゃんはこっちに何回来たことあるの?」

 

「俺か?多分、十回は来たと思うけど……何で?」

 

「……」

 

「……!

 

そっかぁ、お前こっちに来たことなかったんだっけ。

 

 

けど、いいところだろ?自然が沢山あって」

 

「……島と変わらない」

 

「……」

 

 

下を向きボソッと麗華は言った。そんな彼女の頭に手を乗せ龍二はしゃがみ、綿アメをちぎり口に入れた。麗華は見様見真似で、綿アメを一切れ口に入れた。

 

綿アメは口の中で溶け、甘さが広がった。

 

 

「甘!」

 

「そうだろ?」

 

「うん!」

 

 

綿アメを食べ合う龍二と麗華。そんな彼等を渚と焔は、近くに生えていた木の枝に座り眺めていた。

 

 

屋台通りを歩きながら、麗華と龍二は楽しんだ。初めてお祭りに来た麗華にとって、店に置いている物や売っている物、遊びがどれも珍しく見えていた。

 

 

“パーン”

 

 

射的をする麗華に、店のオッサンはポカンと口を開けて驚いていた。

 

 

「お、お嬢ちゃん……射的の名人だな」

 

「……そうなの?」

 

「腕は確かだ!」

 

 

「龍二!麗華!」

 

 

名を呼ぶ声が聞こえ、龍二は声がした方向に顔を向けた。そこには、人混みの中を駆けてくる輝三の姿が見えた。

 

 

「輝三」

 

「ここにいたか。二人共ちょっと来い」

 

「え?花火大会はまだじゃ……」

 

「いいから来い」

 

 

先行く輝三の背中を見ながら、二人は顔を合わせ彼の後をついて行った。

 

辿り着いた場所は、公園の隣にある小さい神社だった。神社の前には、何かを話し合い困っている神主達がいた。

 

 

「輝三さん、代わりの人って……」

 

「子供……二人ですか?」

 

「?

 

輝三、何の話だ?」

 

「実はな、花火大会が始まる前にここの神社の巫女の舞があるんだが、どういう訳かいつもやってる巫女と不覡が体壊して、今年の舞に出られなくなっちまったんだ」

 

「訳ねぇ……」

 

 

輝三の話を聞きながら、龍二と麗華は周りをキョロキョロと辺りを見回した。神社のあちこちにその地に住み着いた妖怪達が、自分達を見ていた。

 

 

「あれじゃないの?訳」

 

「麗華」

 

「?」

 

「二人共、舞はできるか?」

 

「俺は出来ませんけど、コイツなら出来ます」

 

 

そう言いながら、龍二は後ろに隠れている麗華の肩に手を置き指した。

 

 

「そ、その子が?」

 

「はい!」

 

「どうする?」

 

「でもなぁ、代わりもいないし……今更中止だなんて言えないし」

 

 

話し合う二人の足元に、麗華を見上げる妖怪がいた。麗華は彼と目が合うと、微笑んだ。すると妖怪は照れ臭そうに頭をかいてもじもじした。

 

 

「言い合ってても埒があかねぇ……頼むのか?それとも頼まねぇのか?どっちだ」

 

「……

 

 

ねぇ、お嬢ちゃん。やってくれるかな?」

 

 

屈みながら神主は麗華に訊いてきた。麗華は、龍二の後ろから少し顔を出し小さく頷いた。

 

 

「良かったぁ!」

 

「そうと決まれば、早速準備だ。お嬢ちゃんこっちへ」

 

「お兄さんも一緒に来て!」

 

「あ、はい!」

 

「それじゃあ輝三さん、この子達借ります!」

 

「オー」

 

 

 

数分後……神社には大勢の人達が、舞を見に集まっていた。その中には輝三達もおり、少し離れた場所には麗華と同じくらいの子達に、近くに生えている木の枝に座り眺める渚と焔、竃達がいた。

彼等だけではない。地に住み着いた妖怪達が集まり、ある者は宙に浮かび、ある者は焔達の近くの木の枝に座り眺め、またある者は大勢の人達に紛れて見に来ていた。

 

その様子を舞台の裏から、麗華と龍二は見ていた。麗華は用意されていた白生地に桜の花びらが散った様な模様が入った着物に身を包み、足には鈴を着けていた。龍二は狩衣の格好をし、手に撥を持って麗華の後ろから外の様子を見ていた。

 

 

「うへぇ……スゲェ人」

 

「……」

 

「いつも来てる妖怪達だって思えばいいよ」

 

「え?」

 

「俺達の家にいつも遊びに来る妖怪達が来てるって、思っとけばいいよ。何も考えるな」

 

「……」

 

「な!」

 

「……うん」

 

 

太鼓が鳴り、龍二は麗華の肩を軽く叩き自分の位置へと行った。麗華は深呼吸をして、舞台の階段を上り中央に立った。スッと目を開けると、目の前には数多くの人達の目が自分を見ていた。その目線に怯えた麗華は、体を震えさせ後退りした時だった。

 

 

「キー!キー!」

 

 

何かの鳴き声が聞こえ、フッと下を向くとそこには小さな妖怪達が、まるで自分を励ましてくれるかのようにして、踊り始めた。顔を上げると宙に浮いていた妖怪は、手拍子し木に座っていた焔達は、頷き彼女に微笑した。

 

麗華は目を閉じ深呼吸し、意を決意してゆっくりと目を開け持っていた扇子を広げ、足を構えた。それを合図に龍二は、任されていた太鼓を思いっ切り叩き鳴り響かせた。龍二の太鼓を合図に、楽器を持っていた神主や巫女達は次々に各々の楽器を鳴らした。

 

 

音が鳴り始めると、麗華は下駄を鳴らし扇子を使い舞い始めた。その舞に合わせて、一緒に上がっていた妖怪達は楽しそうに踊り出し、宙に浮いていた妖怪達は宙を舞いながら、喜んでいた。

彼等の様子に、麗華の顔に笑顔が戻り彼女は楽しそうに舞をした。

 

 

「そういうことか……」

 

 

麗華の舞を見ていた焔は、何か分かったかのようにボソリと言った。

 

 

「焔、何がだよ?」

 

「ここの巫女の舞が、毎年酷くて観たくなくて体を壊したんだ」

 

「けど、どうして不覡まで?」

 

「この神社には代わりの巫女はいくらでもいる……けどどれも酷くてやらせたくなかった……だから、不覡も一緒に……

 

 

そんなところでしょ?お頭さん」

 

 

渚の向く方には、笠を被り手に煙管を持ち鼻で笑う男が一人いた。

 

 

「よく分かったな?」

 

「何となくよ」

 

「俺も同感」

 

「へぇ……お前さん達の主、どこの巫女だ?」

 

「山桜神社の桜巫女。

 

あの子の舞が観たければ、来年か再来年にでも神社に来れば?」

 

「クックックック。そりゃあ楽しみだ。

 

 

何せ、ここの巫女の舞は酷いからなぁ……

 

俺達が見えてねぇのをいい気に、まるで人を媚びるような舞ばっかりしやがって……頭にきたから少しばかし痛め付けたんだ。

けど、あの巫女はいいなぁ。人じゃなく俺等妖怪達に楽しませてくれる舞だ……いや~楽しいねぇ」

 

 

舞台の上で舞をする麗華。しばらくして太鼓の音と共に彼女の舞は終わった。

盛大な拍手が上がった。麗華は辺りをキョロキョロとしながらその拍手を受け止めた。

 

 

「いいねぇ……あの子。今度あの子と話しでもしようかなぁ」

 

「いつでもいいぜ。変な行為見せなきゃいいが」

 

「変なことはしないさ。話をしたいんだ……さらったり、自分のものにしようとは思わない」

 

「……」

 

「そろそろ花火の時間だ……場所取りしねぇと。

 

じゃあな、白狼さん方」

 

 

頭はその場から煙のように、姿を消した。頭が消えたのを合図に、妖怪達は消えた。舞台裏で浴衣に着替えた麗華は、待っていた龍二の元へと駆け寄った。

 

 

「舞、良かったぞ!」

 

「小さい妖怪達が、一緒に踊ってくれたの!」

 

「そうか!」

 

「龍二君!花火見に行くよぉ!」

 

 

遠くで待っていた里奈に呼ばれ、龍二と麗華は彼等の元へと駆け寄った。

 

 

河原には大勢の人達が来ていた。焔達は木の枝に座り、花火が上がるのを待ち、輝三達はその傍で立ち花火が上がるのを待った。

 

 

“バーン”

 

 

しばらくして、空に花火が上がった。辺りからは歓声が響き、花火に見取れていた。

 

 

「綺麗ねぇ」

 

「果穂、観てごらん。花火よ」

 

「こういう時、彼女が傍にいてくれたらなぁ」

 

「孝文、お前黙れ」

 

「毎年毎年、飽きずに上がるもんだ」

 

「本当ですねぇ」

 

 

上がる花火を見上げる龍二は昔を思い出した。まだ幼く麗華が優華のお腹にまだいない頃、輝二に肩車をされ三人でその花火を観た。

 

ふと、麗華の方に目を向けると彼女は見ようと背伸びをしていたが、前にいる背の高い人達のせいで、花火が見えていないようだった。

 

 

「……麗華」

 

「?……!」

 

 

龍二は麗華を抱き上げた。麗華は少し驚きながらも、空の方に目を向けると、先程まで見えなかった花火が見えた。

 

 

「綺麗……」

 

「だろ?

 

花火は何も変わらない……昔も今も」

 

 

上がる花火を、妖怪達も嬉しそうにして上がる度に踊った。頭は見上げながら、どこからか持ってきた酒を飲み満喫していた。

 

 

 

花火が終わり、観客達は一斉に自分達の家へと帰って行った。

 

 

「終わったか……帰るぞ」

 

「ヘーイ」

 

 

人が居なくなったのを機に、焔達はそれぞれの主の隣を歩いて行った。龍二はいつの間にか眠った麗華を抱き、輝三達の後を歩いていった。




部屋で参考書を読む龍二。彼の膝に麗華は頭を乗せ眠っていた。傍では渚に擦り寄り焔は眠り、渚も一緒に眠っていた。


「やっぱり、兄貴の膝の方がよく眠れるみてぇだな?」

「輝三」

「こっちに来てから、麗華の奴余り笑わなかったからな……久し振りだった。笑った顔を見たのは」

「……」

「明日から武器を持たせての修行だ」

「けど麗華には……」

「俺の親父の薙刀を持たせる。

コイツは輝二と同じで、手足が長い。薙刀なら使えるだろ」

「……」

「龍二……

あれは話したのか?」

「……いや、まだ」

「そろそろ話した方がいいんじゃねぇのか?

何かあってからじゃ、遅いぞ」

「……もう少し。


もう少し、デカくなったら話すつもりだ……

コイツにはもう、辛い思いをさせたくない……だから」


そう言いながら、龍二は自分の膝で眠っている麗華の頭を撫でた。

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