地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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修行を開始した三人……


輝二と優華

泰明は木刀を落とし、その場に倒れた。その横で麗華は、息を切らしてその場に座った。

 

 

「そんなんで凹んでどうする」

 

「アホ親父!!素振り五百回って……殺す気か!!」

 

「文句あるなら手を動かせ、手を!」

 

「限度っつうもんを知れ!!……?」

 

 

文句を言っている泰明の隣に座り込んでいた麗華が、木刀を松葉杖代わりに使いながら立ち上がった。

 

 

「お前よりも小せぇガキが、立ち上がってるぞ」

 

「当たり前だ、若いんだから」

 

「体力はお前より無い。学校に真面に行ってねぇし、その上生まれながらの喘息のせいで、運動も筋トレもしてねぇ」

 

「……」

 

 

同じようにして、焔も泰明の白狼と共に竃から指導を受けていた。人の姿になっても、火の技を使えるようにしたり、動きや速さ、更に力を付ける訓練だった。

 

だが、泰明と同じように白狼もその場に倒れへばっていた。

 

 

「阿修羅、お前またサボっていたな。修行を」

 

「……」

 

「?

 

修行って」

 

「動きが鈍らないように、俺が出しといた課題のようなものだ。普通にやっていれば、そう簡単にへばったりはしないはずだが……」

 

「サボってたって訳か……

 

フッ……口ほどにもねぇ奴」

 

「んだと!!」

 

「喧嘩する元気があるなら倒れるな!!」

 

「う……」

 

 

日が暮れ辺りが暗くなり、虫の音が鳴り響き始めた。

 

地面に倒れる泰明と阿修羅。

 

 

「もう……立てません」

「もう……立てません」

 

「ったく……どんだけ修行サボってたんだ」

 

「輝三、この調子じゃこいつ等二人も、修行に参加させるしかねぇな?」

 

「だな」

 

「嘘!!」

「嘘!!」

 

 

輝三に文句を言う泰明に対して、麗華は木刀を地面に着き本殿の階段に座り、息を切らしながら咳をしていた。

 

彼女の元へ、竃は駆け寄り声を掛けた。

 

 

「麗華、大丈夫か?」

 

「ゲホゲホゲホ……大丈夫。

 

まだ…まだ、行ける」

 

「俺も行ける……」

 

 

隣に座っていた焔は立ち上がり竃に言った。

 

すると、縁側から庭を覗くようにして、美子が顔を出してきた。

 

 

「お父さん、もうそれくらいにして、続きは明日に。

 

泰明はともかく、麗華ちゃんは今日来て疲れてるんだから」

 

「輝三!まだ行けゲホゲホゲホ」

 

「(発作の前兆か……)仕方ねぇ。

 

今日は終わりだ。お前の体のこともあるし、何かあったら俺が龍二に怒やされる」

 

「……でも」

 

「明日は朝からやる。今日はもう休め。

 

無論、泰明と阿修羅もだ」

 

 

輝三は家の中へ入りながらそう言った。泰明と阿修羅は文句を言いながら輝三の後をついて行き、竃は二人にため息を付きながら家の中へ入った。

 

 

「麗華ちゃん、お風呂今日は叔母さんと入ろっか?」

 

「……」

 

 

しゃがみ込んだ美子の質問の答えに麗華は戸惑った。ふと美子と目が合った途端、笑みを浮かべた優華の姿が映った。

 

 

(……母さん)

 

「どうする?」

 

「……うん」

 

 

麗華は下を向いたまま頷いた。美子は立ち上がり、彼女の背中を押して一緒に家の中へと入った。

 

 

湯に浸かっていた麗華は、縁に手を置き甲に顎を乗せ、美子の洗う姿を眺めていた。洗い終わった美子は髪をまとめ上げ湯へと浸かった。

 

 

「……麗華ちゃん、本当に輝二君に似てるわね」

 

「?」

 

「顔立ちは優華に似てるけど、性格は輝二君そっくりね」

 

「……一つ聞いてもいい?」

 

「ん?」

 

「母さんと父さんの小さい頃って……どんな感じだったの?」

 

「そうねぇ……優華は小学校高学年までね、とても大人しい子だったわ。他の子と遊ばずいつも本を読んだり自分の好きなことをしてね。

 

けど、中学に上がってからは友達を作って外で遊ぶようになって、部活なんて剣道部に入って……そういえば、丁度その頃だったかな……輝二君と会ったの」

 

「……」

 

「家族で新年会をやることになってね。

 

輝二君、そういうの苦手で輝三の後ろに隠れてたっけ……中学生がよ?

 

 

それで優華、彼のことが気になって話し掛けてくれて……しばらく二人っきりで話してたら、輝二君凄く楽しそうに話しててね。それ以来、二人共暇があれば電話で話したり、約束して会いに行ったりして……何か出来立てホヤホヤの新婚夫婦みたいでね、見てて嬉しかったなぁ」

 

「それから結婚して……何年かして、お兄ちゃんが生まれたの?」

 

「そうねぇ……

 

この家に生まれた龍二君を連れて来て、輝三と私、それに里奈や泰明に見せてくれたっけ……」

 

「……」

 

「麗華ちゃんが生まれる前にも優華達、私達の所に来たっけ……大きいお腹抱えて。

 

龍二君、泰明や里奈に『俺はもうすぐしたら、兄ちゃんになるんだ!』って、自慢してたなぁ」

 

 

思い出しながら美子は話していたが、いつの間にか目から涙が溢れていた。彼女の涙を見た麗華は、鼻から下を湯に浸からせ目を反らした。

 

 

お風呂から上がった麗華は、用意された部屋に敷かれた布団に横になり、麗華は首から下げていた勾玉を手に取り電気に当てて見ていた。

優華の葬儀の翌日、兄から渡されたものだった。

 

 

『母さんは、いつも俺とお前のことを見て傍にいる……その証だ。俺も父さんのを持ってるから』

 

 

そう言って、龍二は手首に着けていたブレスレットを見せてくれた。

勾玉を見ている内に、瞼が重くなり麗華は上げていた手を下げ目が開けられなくなり、重かった瞼を閉じ眠りに着いた。傍で寝そべっていた焔は目を開け、寝てしまった麗華に布団を掛けスタンドの明かりを消し、彼女に寄り添い眠りに入った。

 

 

居間の縁側に足を外に出し、泰明と阿修羅は寝そべっていた。居間では美子と里奈が、お茶を飲みながら他愛のない話をしていた。

 

 

「全く、修行サボるからそうなるのよ!」

 

「うるせぇな!姉貴に言われたくないわ!!」

 

「アンタより麗華ちゃんの方が、よっぽど体力あるわ。

 

アンタより、体力ないはずなのに」

 

「偉そうにしやがって……」

 

「そういえばお母さん、麗華ちゃんは?」

 

「もう寝ちゃったわよ……疲れたんでしょうね」

 

「ガキは寝るのが早いなぁ……

 

なぁ、お袋」

 

「ん?」

 

「麗華ちゃん、夏休み終わったら学校始まるだろ?手続きとかしなくていいのか?」

 

「あ!すっかり忘れてたわ」

 

「やらなくていい」

 

 

風呂から上がった輝三は、頭を拭きながら座り美子に言った。

 

 

「でも、こっちに暮らすようになるのなら」

 

「アイツが通う学校は、童守小で再来年の新学期までは休学扱いにして貰った」

 

「いいのかよ?そんなことして」

 

「今のアイツに、真面に学校なんざ行けやしない。只でさえ島で酷い目に遭ってんだ。行ったところで発作起こして、不登校になるのがオチだ」

 

「けど、勉強どうすんだ?

 

勉強できなきゃ、益々行きづらいんじゃ」

 

「私が教えるから大丈夫です」

 

「え?!姉貴が!!」

 

「何よ、その反応!言っとくけどね、これでも私は高校の教師よ!」

 

「今は産休だけどな」

 

「仕方ないでしょ!

 

それにどうせ、こっちで一、二年居なきゃいけないんだから……」

 

「?どういう事?」

 

「文也、海外出張でしばらく帰ってこないのよ。それでお義母さんが、実家に帰ったらどうって事で」

 

「そんでお言葉に甘えて、帰ってきたって訳か」

 

「そういう事!

 

夏休みで、バイト長休みして里帰りしてる、泰明とは違うの」

 

「長休みって……親父とお袋が帰って来いって言ったから、俺は帰ってきたんだ!店長には、里帰りでしばらく行けないって言ってるし……」

 

「フ~ン……本当かしら?」

 

「何だよ!その疑い眼は!!」

 

「怪しいんだも~ん」

 

「この!!くそ女!」

 

「何ですって!!」

 

「やめねぇか!!こんな夜遅くに!!」

 

「!!」

 

「アンタ達、いい年してなんです!

 

姉弟喧嘩は、余所でやりな!!里奈!!アンタはもう、一児の母なんだよ!!落ち着いて貰わなきゃ困るよ!!」

 

「は、はいぃ……」

 

「へ!怒られてやんの」

 

「泰明!!テメェもだ!!

 

都会の大学に行きたいって言うから、行かせたが……今日の修行様子を見て、分かった。

 

 

夏休み最終日に、麗華と龍二と対決しろ。そんで勝ったら、大学へ行っていい。けど負けたら、一年休学してもらう」

 

「はいぃ?!」

 

「無論、阿修羅…貴様もだ」

 

「えぇ?!」

 

「テメェのその鈍った根性、夏休み中に叩き直してやっから、覚悟しとけ」

 

「何でそうなんだよ!!」

 

「サボったら……大学を辞めさせるからな」

 

「嘘ぉ!!」




布団の上で震える麗華。


『化け物が!!』

『オメェが来てから、変な事が起こりっぱなしだ!!』

『妖怪だぁ?んなもん、この世にいない!!』

『嘘吐きが!!』

『アンタなんか、さっさといなくなればいいのよ!』

『余所者なんだから、とっとと家に帰れよ』

『帰れ!』


「!!」


目を覚まし麗華は飛び起きた。大量の汗を流し、額を手で拭うと傍で寝ていた焔にしがみ付いた。しがみ付いてきた麗華を、焔は顔を摺り寄せ頬を舐めた。


「……もう、戻らないよね?あそこ」

「……あぁ」

「もう……行かないよね?」

「行かねぇさ……あんな所、二度とごめんだ」


麗華の頬を舐めながら、焔は泣く彼女を宥めた。次第に麗華は目を閉じ眠りに入り、寝た彼女を見た焔は自分の尾を乗せ麗華の目に溜まっている涙を舐め眠りに入った。

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