地獄先生と陰陽師少女   作:花札

87 / 174
「弟を連れて神社にやって来た……」

「……」

「今から話すことは、全て真実だ……

お前が知りたがってた事でもあり、そしてお前が自分でその記憶を消した過去だ」


明かされた過去

五年前の二月……

 

 

居間で炬燵に入り、絵を描く麗華……その時風が吹き何かの気配に気付いたのか、麗華は炬燵から飛び出し表へ出た。その後を慌てて焔は追い駆けていった。

 

 

外へ出る麗華……境内には、人の姿をした牛鬼と安土がいた。

 

 

「牛鬼!」

 

 

麗華は嬉しそうにして、彼の元へ行こうとしたがそれを焔が止め後ろへ引き下げた。

 

 

「焔ぁ!」

 

「丙!!麗を!!」

 

「分かっておる!!麗、こっちだ」

 

「へ?」

 

 

訳が分からず、麗華は丙を見上げた。その時焔は、二人に向かって火を口から放った。二人は素早く避け、焔に向かって毒針を放った。毒針は焔の首に刺さり、焔は狼から人へと姿を変え青ざめた顔でその場に倒れた。

 

 

「焔ぁ!!」

「焔!!」

 

「……桜巫女」

 

「?」

 

「俺と一緒に来い……」

 

「……牛鬼?」

 

 

丙から離れ、手を差しのばす彼の元へ行こうとしたときだった。

二人の間を裂くようにして、水が放たれてきた。丙はすぐに放たれた方に目を向けた。そこにいたのは、走ってきたのか息を切らす龍二と渚、そして雛菊がいた。

 

 

「龍!!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「人の妹を連れて行こうとするとは、良い度胸してんじゃねぇか!」

 

「貴様か……安土」

 

「りょーかい!

 

悪いけど、お前と遊んでる暇ないんで、すぐに終わらせて貰うよ!」

 

 

安土は仕込んでいた毒針を渚と丙、雛菊に刺し、ガラ空きになった龍二に向かって蹴りを入れた。蹴り飛ばされた龍二は、麗華の元まで飛ばされた。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「桜巫女……一緒に来い」

 

「……ヤダ」

 

「?」

 

「嫌だ!!お兄ちゃん達を傷付ける妖怪なんかの所に行かない!!」

 

「……そうか。

 

なら」

 

 

安土に合図を送ると、安土は龍二を糸でこちらへ引き寄せ構えていた毒針を、首に翳した。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「一緒に来れば、兄の命は助けてやる……どうする?」

 

「……」

 

「行くんじゃねぇぞ……麗華!」

 

「テメェは黙ってろ!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「桜巫女、答えろ……どうする?」

 

「……

 

 

行く」

 

「……」

 

「行くから……お兄ちゃんを離して」

 

 

答えを聞くと、安土は気を失った龍二を投げ飛ばし離した。牛鬼は麗華を抱えると安土と共に素早くその場から立ち去った。

 

 

数時間後……目を覚ました龍二は、飛び起きた。傍にいた治療を終えた渚は、飛び起き動揺する龍二の頬を舐めた。

 

 

「渚……」

 

「龍二」

 

「……母さん」

 

「気が付いたみたいね……」

 

「……!麗華」

 

「止めなさい……今は動ける状態じゃない」

 

「……」

 

 

「辞めない!!その体でどこへ行くの!?」

 

「うるさい!!母上離せ!!」

 

 

隣の部屋から聞こえる焔と弥都波の声……すると勢い良く襖が開き、中から包帯を巻き息を切らし汗ばんだ顔で焔が出て来た。

 

 

「焔……」

 

「言う事を訊きなさい!!」

 

「主である麗を守れなかった……だったら、あいつ等を探し出して助けねぇと!!麗が!!」

 

「あなたの気持ちはよく分かる……けどその体では」

 

「……」

 

「母上の言う通りよ、焔」

 

「姉者……」

 

「今その体で動いたって……」

 

「……」

 

 

「優」

 

 

襖が少し開き、外で何かを見張っていた黒い髪を長く伸ばし、右目に前髪を垂らした女性が、優華に話し掛けてきた。

 

 

「真白……」

 

「来たわ……麗も一緒」

 

「……丙、すぐに焔の傷を治しなさい。

 

弥都波、来なさい」

 

 

目付きを変え優華は、着ていた着物の裾を襷上げしそばに置いていた刀を手に取った。

 

 

表へ出て来た優華……目の前にいたのは、薙刀を手に持ち安土と牛鬼の手を握った麗華がいた。

 

 

「麗華……」

 

「どうです?俺の女は」

 

「……」

 

「桜巫女、あの女を殺りなさい」

 

 

牛鬼の手から離れ、麗華は薙刀を構え優華を見た。

 

 

「……!」

 

 

麗華の目からは溢れんばかりに、涙が流れ出ていた。

 

 

「麗華……あなた」

 

『嫌だ……』

 

「?!」

 

『母さんを殺して……神社を壊して……牛鬼の傍にいるの嫌だ……帰りたい』

 

(麗華……)

 

 

鞘から刀を抜き取り構える優華……その瞬間、麗華は薙刀を優華目掛けて振り下ろした。優華は瞬間に刀で受け止め薙ぎ払い、刀を振り下ろした。麗華は素早く避け優華の背後へ周り、薙刀を振り下ろした。優華は脚を踏み換え素早く振り返り、攻撃を避けた。

 

 

「母さん!!」

 

「龍二、早く二人に攻撃しなさい!!」

 

「はい!!

 

渚、焔!!」

 

「承知!」

「了解!」

 

「真白、弥都波、あなたも行きなさい!」

 

「はい」

「承知」

 

「龍二!剣を構えて、麗華と闘いなさい!!」

 

「はい!!」

 

 

出していた剣を握り、龍二は麗華の背後へ周り攻撃した。麗華は受け止めていた優華の刀を振り落とし、龍二の攻撃を防いだ。

 

 

「目を覚ませ麗華!!俺等のことが分かんねぇのか!?」

 

 

麗華を相手に闘う優華と龍二……

 

その一方で、安土と牛鬼を相手にする渚達……素早い動きに皆着いていけず、手こずっていた。

 

 

「クソ!!攻撃が当たらねぇ!!」

 

「焔、落ち着きなさい!!相手の動きをよく見なさい!!」

 

「ほらほらどうした?攻撃当たってねぇぞ」

 

「こっのぉぉ!!蜘蛛野郎!!図に乗るんじゃねぇ!!」

 

「焔!!

 

全く……渚、焔の援護をしなさい」

 

「承知!」

「承知!」

 

「真白は私と一緒に、牛鬼を」

 

「はい」

 

 

弥都波の言われると、真白は手に氷の礫を作り牛鬼に攻撃した。牛鬼は飛ばされてきた氷を全て、蜘蛛の巣で受け止め防いだ。

 

受け止めた礫を牛鬼は、真白の背後へ周り毒が着いた槍で彼女の背中を貫いた。

 

 

「真白!!」

 

「ほぉ……雪女か。

 

なら、火を点けたらどうなるか」

 

「……!!

 

いやぁぁあああ!!」

 

 

槍から火が放ち、真白の体は火に包まれ跡形も無く焼き消えた。

 

 

「ま、真白が……」

 

「嘘でしょ……」

 

「これで一匹……殺した。

 

桜巫女の帰る場所を無くせば、あいつはずっと俺の傍にいる」

 

 

怒りに身を任せ、焔は巨大な火の渦を放った。彼に続いて渚も水を放った。牛鬼は二つの攻撃を素早く避け、そして焔の背後へ回ると槍を突いた。当たる寸前、弥都波は焔を突き飛ばし、突いてきた槍は彼女の胸を貫いた。

 

 

「おぉ!やるねぇ!」

 

「は、母上!!」

「母上!!」

 

 

麗華の攻撃を止める龍二。その隙を狙い、優華が刀を振り下ろす。麗華は薙刀でその攻撃を防いだ。

 

 

「何ちゅう瞬微力……」

 

 

すると麗華は一瞬にしてその場から姿を消し、そして優華の背後へと周り薙刀を突いた。

 

 

「!!」

 

「か、母さん!!」

 

 

貫かれた優華は口から血を吐いた。その時、麗華の手が震えだし薙刀の柄から手を離した。

 

 

「?麗華」

 

「……か、母さん……」

 

「麗華……戻っ……たのね」

 

 

手を見る麗華……その手には優華の血がベットリと付いていた。

 

 

「私が……私が母さんを」

 

「麗華……」

 

「?!」

 

 

血塗れなった優華は、震える麗華を抱き締めた。

 

 

「母さん?」

 

「大丈夫……あなたの……せいじゃないから」

 

「……」

 

 

「ほぉ……催眠術が解けたか」

 

 

三人の前に立つ牛鬼と安土……優華は立ち上がり、結っていた黒い髪に手を掛け、持っていた刀で髪を切り落とした。

 

 

「か、母さん?」

 

「龍二……

 

後はお願いね」

 

「え?」

 

「母さん!!」

 

「麗華!!逃げなさい!!」

 

 

髪を紐で纏め結び、札を着け二人目掛けてそれを投げた。

 

 

「我が念と恨み、その髪に全てを取り組み、そして……二人の腕を永遠に封じよ!!」

 

 

その言葉に反応するかのように、髪に着いた札が黒い炎を放ち髪を燃やしそして、二人の両腕ち巻き付き紫色に変えさせた。その瞬間、優華は口から血を吐きながらその場に倒れた。

 

 

「母さん!!」

「母さん!!」

 

「丙!!」

 

 

倒れた優華の元へ丙が駆け付け、それと同時に雛菊が倒れた弥都波の元へと駆け付け治療をした。

 

 

「くっそぉ!!何だ?!この術!!」

 

「チッ!!安土、一旦退くぞ!!」

 

「クソ!!」

 

「桜巫女!!

 

次会いに来るまでに、答えを出しとけ……いいな」

 

 

そう言うと、二人は煙のようにして姿を消した。そして二人が去ってしばらくして、空から雪が降ってきた。

 

 

「母さん!!母さん!!」

 

「丙、母さん……助かるよな?」

 

「無理だ……心の臓を貫かれてる……もう」

 

「そんな……」

 

「私のせいだ……」

 

「麗華」

 

「私のせいで……母さんが」

 

 

目から大量の目を流す麗華。しばらくして、丙は治療する手を止めた。

 

 

「丙?」

 

「……龍、麗……

 

済まぬ……」

 

「……嘘だろ」

 

(また、助けられなかった……また)

 

「母さん……母さーん!!」

 

 

優華の亡骸に抱き着き、麗華は泣き喚いた。龍二は地面を叩きながら悔し涙を流し、丙は地面の砂を握り龍二同様に涙を流した。

 

 

同じ頃、優華と同様に息絶えた弥都波にしがみつき泣く焔と自分の力無さに嘆く雛菊……

 

 

(父上だけでなく……母上まで私は)

 

 

彼の傍で涙を流し、渚は魂が抜けたようにしてその場に座り込んでいた。




真夜中……


階段を駆け上ってきた輝三……


倒れる二つの陰……二つ陰にしがみつく六つの陰。境内の真ん中に倒れている陰の傍へ駆け寄ると、そこにいたのは優華にしがみつき泣き埋まる麗華とその場に蹲る龍二と魂が抜けたようにして、そこに座り込む丙だった。


「……優華」


変わり果てた優華の姿に、輝三は思わず息を呑んだ。輝三は着ていたコートとジャケットを、龍二と麗華に掛けてやった。そして、座り込む丙の肩を揺らし正気に戻した。


「輝三……」

「丙、何があった」

「……済まぬ。

また、助けられ無かった……済まぬ!」


輝三に抱き着き、泣き出す丙……

その頃、竃は変わり果てた弥都波の姿を見ながら、座り込んでいた渚の前に座った。


「渚」

「私は……父上だけでなく……母上まで」

「……」


泣き出す渚……竃は泣き出した渚を強く抱き締めた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。