地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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夜……

病室のベッドで眠る麗華。


「記憶が戻った!?」


龍二の言葉に驚いた茂は思わず声を張ってそう言った。龍二は慌てて静かにするよう口に指を当てた。茂は思わず口を手で塞ぎ小声を話した。


「龍二君、それ本当かい?」

「本当だ。俺の問いにしっかり答えたし……それに」

「それに?」

「……俺のことを『兄貴』って、呼びましたから……」

「あ~なる程……」

「それで、今後なんですが……」

「言っとくけど、退院はまだ駄目だからね。体力や精神を元の状態に戻すまでは、入院してて貰う。

それからもう少しの間は、面会もまだ君達二人だけ。記憶が戻ったからって、まだ完全じゃないかもしれないし……それにずっと記憶が無かった間のことも話さなきゃいけないしね」

「……はい」

「龍二君」

「?」

「一人で抱え込むのはもう止めな。君には僕やオッサン(輝三)、真二君や緋音ちゃんが着いてる。もちろん、麗華ちゃんの担任の鵺野先生だって。困ったりしたら、すぐに相談するんだ。皆いつでも、君の助けになりたいと思っているんだからね」

「……」

「無論、これは麗華ちゃんにも言えること。

君達兄妹は、何でも抱え込み過ぎなんだよ……少しは周りを頼ってみな。誰も嫌がらないし迷惑だなんて思わないから……ね」


透き通ったピース

翌日……屋上の屋根に焔の胴に頭を乗せ仰向けに横になり、空を眺める麗華。傍には描きかけの絵が描かれたスケッチブックが置かれていた。

 

ボーッとする麗華……すると、どこからか猫の鳴き声が聞こえ、その方に顔を向けると猫の姿をしたショウと瞬火がいた。

 

 

「ショウ、瞬火」

 

「ニャーン」

「ミャーン」

 

 

鳴き声を発しながら、ショウと瞬火は焔の胴に飛び上がり、麗華の頬に頬擦りした。頬擦りする二匹を、麗華は抱え膝に乗せ二匹を撫でた。

 

 

「?」

 

 

何かの気配に気付いたのか、麗華はショウ達を退かし立ち上がり周りを見回した。

 

そんな彼女を、配給タンクの上から眺める男が一人いた。

 

 

(戻れるなら、またあの時のように……)

 

 

何かを思い出しながら、男はその場所から姿を消した。

 

 

場所は変わり童守小学校……

 

 

書類を片付けるぬ~べ~。隣に座っていた律子は優しく声を掛けた。

 

 

「鵺野先生、そういえば麗華ちゃんの容態はどうです?

 

入院してから、もう一週間も経ちますが……」

 

「それが、ずっと面会謝絶でして会っていないんです。

 

先日行ったときは、少し様子がおかしかったしですし……」

 

「そうですか……」

 

「今日は行くつもりなので……会えれば良いんですが」

 

「元気になっていると良いですね!」

 

「はい」

 

 

病院の屋上の手すりの上を歩く麗華。歩き終わると、そこか高くジャンプし、ベンチの上に着地した。

 

 

(何とか感覚は戻ってきたか……

 

しっかし、私一週間も何してたんだ?全然憶えてない。

 

 

確か、学校で倒れて……)

 

「相変わらず、身軽だねぇ」

 

「?……茂さん」

 

「動くのは良いけど、程々にしときな」

 

「ヘーイ」

 

 

軽く返事をしながら、麗華はベンチから降りた。降りた彼女の元にシガンと瞬火が擦り寄ってきた。二匹を持ち上げ自分の肩へと乗せ頭を撫でた。

 

 

「さ、病室で少し休もう」

 

「え……もう少し」

 

「ダメダメ。只でさえ目が覚めたばかり何だから、しっかり体を休めないと」

 

「……」

 

「さ」

 

 

瞬火とシガンを下ろし麗華は、茂と共に中へ入った。近くにいた焔は人の姿へと変わり、シガンを肩へと乗せ去って行くショウ達を見送ると、遅れて中へと入った。

 

 

麗華達が屋上から去ってから少しして、安土と男が到着したかのようにして、地面へ着地し辺りに人が居ないか確認するようにして見回した。

 

 

「とりあえず、人はいないみてぇだな」

 

「そうだな……」

 

「で、どうする?」

 

「今夜、攻撃を仕掛ける……

 

それまでは、自由にしとけ。言っとくが、人を殺めたり物を壊すのは無しだ」

 

「へいへい……了解!」

 

 

安土は姿を変え、その場から立ち去った。男は人から蜘蛛の姿へと変わり、微かに開いていたドアから中へ入り、誰かの気配を探るようにして、院内を歩き回りある一室へ辿り着いた。

 

 

「それじゃあ麗華ちゃん、龍二君達が来るまでは部屋で大人しくしてるように」

 

「ハーイ」

 

 

扉を開けながらそう言うと、茂は麗華の返事を聞きながら扉を閉めどこへ行った。蜘蛛の姿になった男は、閉まる寸前で部屋への入った。

部屋にいた麗華は、スケッチブックの絵を一枚一枚眺めていた。彼女の膝にはシガンと鼬姿をした焔が丸くなり眠っていた。

 

蜘蛛の姿になっていた男は姿を人へと変わり、彼女達の前にその姿を現した。突然目の前に現れた男に驚いた麗華は、立ち上がり身構え同時に鼬姿になっていた焔は狼へと変わり牙を剥きだし威嚇しながら攻撃態勢に入り、シガンは麗華の肩へと駆け上ると、焔同様に威嚇した。

 

 

「案ずるな。俺は桜巫女と話しに来ただけだ。

 

貴様等は……邪魔だ」

 

 

手から糸を出しその糸で、焔の体を拘束し動きを封じた。

 

 

「焔!」

 

 

焔に近付こうとしたが、その瞬間に蜘蛛の巣の形をした糸が体を覆い被さり、発射された勢いに負けそのまま壁に凭り掛かるようにして当たり、糸が壁にへばり付き身動きが取れなくなった。

 

 

「これで、誰も邪魔はしない」

 

「何が狙いだ……」

 

「……」

 

 

“ドン”

 

 

「!!」

 

 

麗華の顔スレスレの壁を殴り壊した。その破壊力に驚いた麗華は蛇に睨まれた蛙のように、足が竦み恐怖からか体が震えた。

 

 

「あれから、五年も経つんだ……そろそろ気持ちも変わってるだろ?」

 

「な、何の事?」

 

「……しらばっくれるんじゃねぇ!!」

 

「!!」

 

 

突如腹部に激しい激痛が走り、麗華は痛みで蹲ろうにも体が固定されており、顔を歪めて下に向き痛みを堪えた。男は下を向いた麗華の顔を手で上げ彼女と目線を合わせた。

 

 

「フッ……

 

五年も経つと、やはり人間は変わるか……容姿も目付きも、口調も……」

 

「……」

 

「桜巫女、お前が受け入れれば先代の桜巫女の様なことにはならずに済む……」

 

「先代の……桜巫女?

 

母さんが何だって言うの?」

 

「?

 

桜巫女、お前まさか」

 

「……母さんがどうやって死んだかなんて、知らない……」

 

「……お気楽な巫女だ。

 

貴様のせいで、先代の桜巫女は死に絶えたのに」

 

「?!」

 

「蜘蛛野郎!!それ以上、言ってみろ!!

 

噛み殺すぞ!!」

 

 

暴れ出す焔に、男は蹴りを入れ大人しくさせた。男は怯えている麗華の方に目を向けると、手で彼女の顎を持ち優しく言った。

 

 

「最後のチャンスを与える……

 

この俺と一緒に来い」

 

「……」

 

 

「君の元へは、その子は行かせないよ」

 

 

男の首に突如、大鎌が翳された。麗華はハッとしおそるおそる後ろを見た。そこにいたのは怒りの表情を浮かべた鎌鬼だった。

 

 

「か……鎌鬼」

 

「もう大丈夫だよ、麗華」

 

「……」

 

「何者だ」

 

「名前を聞くときは、まず自分から名乗り出すものだよ?」

 

 

男は麗華から手を離し、鎌鬼の方に振り向いた。鎌鬼は彼の首に翳していた鎌を離した。

 

 

「……名は牛鬼(ギュウキ)。貴様は」

 

「僕は鎌鬼……

 

名前を聞いて悪いんだけど……君にはここからいなくなってほしいんだ……」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「力尽くで、追い出すまでさ」

 

 

鎌を振り上げる鎌鬼……その攻撃を牛鬼は、手から糸を出し鎌を封じ、頭に生えていた角を手に取り、鋭い刀を出し鎌鬼目掛けて振り下ろした。鎌鬼は素早く避け壁を踏み台にし、勢い良くジャンプし自力で糸を取った鎌を振り下ろした。

 

騒がしい音に、看護師と一緒にいた龍二と輝三が疑問に思い互いの顔を見合った。すると傍にいた竃が、渚に向かって頷き先を歩き出しその後を渚がついて行った。

 

 

「構えとけ」

 

「はい……」

 

「看護師さん、すぐに茂さんを呼んできてください」

 

「わ、分かりました」

 

 

後ろを振り向き看護師は急いで、茂を呼びに行った。竃は輝三を見て頷き、それに答えるかのようにして輝三は頷き返した。竃は勢い良く扉を開けた。

 

 

「!?」

 

 

中にはボロボロになった鎌鬼と、糸で身動きが取れない焔と壁に糸がへばり付き焔同様に身動きが取れない麗華、そして敵である牛鬼が机の上に立っていた。

 

 

「テメェは!!」

 

「?

 

ほぉ、神主か……」

 

「腕を治してやがったのか?!」

 

「おかげでこの通りさ……この町には妖狐がいて安心したよ」

 

「妖狐……!!」

 

「渚、水攻撃だ!!」

 

 

人から狼へと素早く変わり、渚は口から水を吐き攻撃した。牛鬼は素早く避け、窓を突き破り外へと逃げていった。

 

 

「逃げられたか……」

 

「麗華!!」

「焔!!」

 

 

彼等の体に巻き付いている糸を素早く解く龍二と渚……焔は人の姿へと変わり首を振り、麗華は力無く龍二に凭り掛かるようにして倒れ込んだ。

 

 

「麗華!!しっかりしろ!!麗華!!」

 

「……」

 

 

肩を揺らし龍二は麗華を起こそうとした。麗華はゆっくりと意識を取り戻したかのようにして、顔を上げ二人を見た。

 

 

「兄貴……輝三……」

 

「大丈夫か?」

 

 

龍二の問いに麗華は、体を震え上がらせて龍二にしがみつき泣き出した。龍二は訳が分からず傍にいた輝三に目を向けながらも、麗華を抱き締めた。

 

 

「麗華ちゃん!!」

 

 

丁度そこへ、茂が駆け付けてきた。

 

茂は看護師から注射器を受け取り、麗華の腕に薬を打った。しばらくして麗華は、薬が効いてきたのか龍二の腕の中で眠ってしまった。眠った彼女を龍二はベッドへ寝かせ部屋に置かれていたソファーに座った。

 

茂は後のことを輝三に任せ、看護師と一緒に部屋を出ていった。

 

 

「無理もねぇ……記憶にない事を話されて、いきなり襲われたんだ」

 

「……」

 

「龍二、もう話せ」

 

「!?」

 

「麗華が目覚めたら、ちゃんと話すんだ。いいな?」

 

「……けど」

 

 

詰まる言葉に輝三は思わず、龍二の胸倉を強く掴み上げた。渚と焔が彼を止めに入ろうとした時、竃は二人の前に手を差し出し止めた。

 

 

「いつまで甘えてるつもりだ……」

 

「……」

 

「優華と輝二の血を引いてるのは、お前等二人しかいねぇんだぞ!!

 

年上のテメェが、しっかりしねぇでどうすんだ!!」

 

「……俺」

 

「アイツの欠けてる記憶のピースを埋められるのは、テメェ一人だけなんだぞ……

 

優華が死んだ真相を知ってんのは、テメェだけなんだぞ……」

 

 

そう言うと輝三は龍二の胸倉から手を離した。龍二は力無く座り、そして目から涙が流れ出た。

輝三はしばらく龍二を見下ろすと、竈を連れ部屋を出ていった。

 

 

部屋を出てロビーへ行くと、丁度そこへ花束を持ったぬ~べ~が病院へ入ってきた。

 

彼を連れ喫煙所へ来た輝三は、煙草に火を点けながら麗華の状態を話した。

 

 

「それじゃあ、今は落ち着いてるんですね……」

 

「あぁ。もう少ししたらオメェ等との面会も可能になるそうだ」

 

 

ぬ~べ~は安堵の息を吐き、部屋にあった椅子に腰を下ろした。

 

 

「ずっと気に掛かってたんです……入院してからずっと面会謝絶でしてたから」

 

「……」

 

「けど、今の言葉を聞いてホッとしました」

 

「そうか」

 

 

ぬ~べ~は花束を輝三に渡し、病院を出て行った。

 

病院を出た時、ぬ~べ~は只ならぬ妖気を感じ取り、後ろを振り返り病院の建物をしばらく見つめた。




夜……

眠りから覚める麗華。起き上がるとソファーの座る龍二と輝三がいた。傍には狼姿になり、竈に寄り添う渚と焔が心配そうな顔で三人を見ていた。


「兄貴……輝三」

「起きたか」

「……どうしたの?真剣な顔して……」

「……龍二」

「……


麗華」

「?」

「お前に話したいことがある」

「話したいこと?」

「……ずっと言ってたよな?

お袋が死んだ理由が知りたいって……」

「……」

「今から話す……」

「……」


ソファーから立ち上がり、龍二は窓際へ行き暗くなった外を見た。


「事の発端が起きたのは、お前がある妖怪と知り合ったことからだ」

「妖怪?」

「真冬の時……お前は森である妖怪と知り合った」

「……」

「その妖怪は、森の中で大怪我を負っていた……

お前はその妖怪を助けたんだ……けどある日、その妖怪はお前を欲しがった」

「私を?」


頭に蘇る記憶……木の根元で倒れる妖怪に、手を差し伸ばす自分。傷だらけになった妖怪の体を、丙に内緒で治療をした。


「……その妖怪ってまさか」

「夕方、お前を襲った牛鬼だ」

「……」

「そして傷が治った牛鬼は、あの日……弟を連れて神社にやって来た」

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