地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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入院してから四日が過ぎた。

麗華の記憶は未だに戻らずにいた。


蘇る記憶

病院の屋上に置かれているベンチに座り、見舞いに来た猫姿の瞬火とショウを麗華は撫でていた。傍には焔とシガンが見守るようにしていた。

 

 

その時、屋上の扉が開く音が聞こえ、麗華はふと後ろを振り向いた。屋上の扉を開けたのは、茂だった。

 

 

「茂さん」

 

「やっぱりここだったか……

 

暇だと必ず外に出るね」

 

「中にいると、息詰まって……外だと思いっ切り呼吸が出来るし、風が気持ちいいし……」

 

「そうだね……」

 

「……ねぇ、茂さん」

 

「?」

 

「正直に言ってください……

 

私、何で入院してるんです?」

 

「……」

 

「体付きからして、私小学五年生ですよね?

 

何で未だに入院してるんですか?確か最後に入院したのは、五歳の時だったはず……」

 

「……」

 

「それに、どうして母さんは一度も私の所に来ないんです?用が無ければ、必ず私の所に来て色んな話をしてくれる……弥都波なんか、ずっと私と焔の傍にいてくれました……」

 

「……」

 

「答えてください……茂さん」

 

「……本当に知りたいんだね」

 

「……はい」

 

「……いいよ。話すよ。

 

 

君はつい先週まで、童守小学校に通っていたんだ……ところが、学校で事件があってそれが発端で君は発作を起こして、童守病院に運び込まれ何とか命は助かって、今の状況になってるんだ」

 

「私が……学校?

 

……母さんは?そう、母さんはどこにいるの?」

 

「……

 

神崎院長……優華さんは、君が小学校に入学する前に亡くなった」

 

「……死んだ?何で……何で死んだの?」

 

「……それは分からない」

 

「……」

 

 

固まる麗華……ふと首から提げていた勾玉の首飾りを手に持ち見た。

それは、かつて優華が身に着けていた物……輝二から貰った物だと言っていた……それがなぜ、自分がしているのかが分からなかった。

 

 

「ほ、本当に母さんは死んだの?」

 

「……間違いないよ」

 

「……」

 

 

黙り込む麗華……蘇る記憶には、途切れ途切れ優華の血塗れになった姿が映った。

 

 

「へ~……

 

神社じゃなくて、こんな所に住み始めたんだぁ」

 

 

その声に麗華は後ろを振り返った。同時にショウと焔は威嚇の声を上げながら、攻撃態勢に入り声の主を睨んでいた。

 

 

そこにいたのは、チャラけた格好をした男とスーツ風の格好をした男が、柵の上に降りてきた。

 

 

「……だ、誰?」

 

「何だ?覚えてねぇのか?」

 

「無理もない……あの日から、五年も経っている」

 

「人の記憶っていうのは、持たないもんだねぇ……俺等は普通に覚えているのに」

 

 

チャラけた格好をした男は、柵から飛び降り麗華に近付こうとした。だが、瞬時に焔が彼女の前に立ち彼を睨んだ。猫姿になっていたショウと瞬火は、人の姿へとなり麗華を隠すようにして彼女を自分達の後ろへと隠した。

 

 

「ひょー、猫が一匹増えたわー」

 

「何しにここへ来た……今すぐ立ち去れ!!」

 

「威勢が良くなったな」

 

「外見だけじゃねぇか?」

 

「立ち去らねぇなら、ここでてめぇ等を倒す!!」

 

 

そう言うと、焔は口から炎を放ち二人に攻撃した。二人は素早く攻撃を避け、一人は焔の前もう一人は麗華の後ろへと降りた。

 

 

「さぁて、桜巫女を頂くとしましょうか!」

 

 

手から糸を出し、麗華の腕に巻き付けようとした。すると麗華は一瞬目付きを変え、構えていたショウの手に足を乗せ糸を素早く避けた。

 

 

「麗華ちゃん!」

 

「……!?

 

わ、私……何で」

 

「痛っ!!」

 

「ちっ!まだ駄目だったか……

 

一旦引くぞ!!」

 

「くっそぉ!!」

 

「桜巫女……また会いに来る」

 

 

そう言うと、二人はその場から素早く姿を消した。追い駆けようとしたが、どこへ行ったのか見当がつかなかった。

 

 

「逃げ足の速い奴等だ……」

 

「姉御、大丈夫ですか?」

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「……」

 

 

気が抜けたかのようにして、麗華はその場に倒れた。茂は慌てて倒れた彼女を支えた。

 

 

「気を失っただけだと思う……

 

一旦病室に戻ろう」

 

「はい……」

 

 

麗華を抱え茂は中へと入った。ショウと瞬火は猫の姿へとなり、焔は人の姿へとなり近くにいたシガンが彼の肩へと駆け上った。

 

 

「分かってると思うが、お前等二人は中に入らない方がいい」

 

「承知の上だ。姉御の事頼んだぞ」

 

「命に代えて」

 

「瞬火、行くぞ」

 

「えぇ」

 

 

二匹は病院の近くに生えていた木に飛び移りその場を去った。焔は二匹を見送った後、肩に登っていたシガンを着ていた服の懐に隠し中へと入った。

 

 

商店街の木に降り立つ二人……

 

 

「痛ってぇ……やっぱり、まだ駄目だったかぁ」

 

「完治するまでは、まだ闘わない方がいいな」

 

「だな……

 

それにしてもあの桜巫女、何か様子おかしくなかったか?」

 

「確かに……まるで記憶を失っているようだったな」

 

「あの日から、記憶を失ってあそこに住んでるのかな?」

 

「それはないだろ……」

 

「即答かよ」

 

「妖狐の所に戻るぞ」

 

「ヘーイ」

 

 

木から飛び去り二人はどこかへ行ってしまった。

 

 

夕方……病院へ着いた龍二と輝三。二人に気付いた茂は、別の部屋へと呼び昼間のことを話した。龍二と輝三は驚きの顔を隠せず、龍二はその表情のまま固まっていた。

 

 

「それで、麗華は?」

 

「病室で寝てるよ……相手の攻撃を瞬時に避けて、少し混乱してそのまま気を失ってね」

 

「記憶が無くとも体は覚えていたか……」

 

「それから、少しだけ記憶を取り戻しつつある」

 

「え?」

 

「妖怪に襲われる前に、僕に聞いてきたんだ……神崎院長の事を。

 

僕は隠すのが嫌いだから、死んだことを話した……麗華ちゃんは凄い戸惑っていたけどね」

 

「……」

 

 

何かを思い出し、固まり震える龍二……彼の頭にはフラッシュバックで次々と蘇る、優華が死んだ光景……泣き叫ぶ麗華、必死に優華に呼び掛ける自分の姿。

 

 

(あの時……あの時、トドメを刺しとけば)

 

 

蘇る敵二人の姿……優華が死ぬ前に、二人の腕に呪いを掛け腕を使えなくさせた。腕を押さえながら、二人は素早くその場から立ち去った。

 

 

「龍二!」

 

「?!」

 

「しっかりしろ……」

 

「……少し、風に当たってくる」

 

 

弱々しい声で言うと、龍二は部屋を出ていった。

 

 

「龍二君……」

 

「五年前の敵が来たんだ……無理もない」

 

「敵って……」

 

「……優華を殺した、妖怪さ」

 

「?!」

 

「五年前だった……優華が死ぬ一週間前、アイツから電話があったんだ。

 

 

『強力な霊力を持った妖怪が、麗華を狙ってるの……

 

とてもじゃないけど、私達じゃ対処しきれないから……お願い。助けに来て』

 

 

そう頼まれた……けどその時、俺には関わってた事件があって、すぐには行けなかった」

 

「その間に、殺されたって事ですか?」

 

「そうかもな……

 

俺が駆け付けたときには、もう……」

 

 

思い出す光景……荒れた境内……その真ん中に泣き崩れる幼い麗華と、放心状態になった龍二と丙……三人に囲まれ倒れているのは、血塗れになり動かなくなった優華。

 

傍には優華同様に動かなくなった弥都波に抱き付く、渚と焔が泣き崩れていた。

 

 

「俺がもっと早く駆け付けてさえいれば、優華達は死なずに済んだかもしれねぇな」

 

「オッサン……」

 

「龍二もだが、俺も責任感じてんだよ……

 

あいつ等の本当の笑顔を奪ったのは、この俺だ……

 

(俺がもっと早く駆け付けてさえいれば、二人は死なずに済んだ……

 

輝二……優華)」

 

 

病室で目を覚ます麗華……頭を抑えゆっくりと起き上がった。ボーッと病室を見ていると、床で丸まっていた焔が起き上がり、彼女に顔を擦り寄せた。焔に続いて枕元で丸まっていたシガンも、麗華の肩に駆け上り頬擦りした。

 

二匹を撫でながら、麗華はベッドから降り病室を出た。彼女を後を焔は鼬の姿になり追い駆け、シガンが乗っている反対の肩に駆け上った。

 

 

屋上へ来た麗華……屋上には、金網に凭り掛かり街を眺める龍二がいた。肩に乗っていた焔は、遠くで彼を見守る渚の元へと駆け寄りながら、鼬から人の姿へと変わった。

 

 

「姉者」

 

「焔……無事だったのね」

 

「……あいつ等、まだ麗を」

 

 

二人が話している最中、麗華は金網に凭り掛かる龍二の元へ近寄った。凭り掛かっていた龍二は近寄ってきた彼女を抱き寄せ頭を撫でた。麗華は怯えたように龍二に抱き着きしばらく二人は、ボーッと景色を眺めた。

 

 

「……あの二人って、何者なの?」

 

 

龍二の顔を見ず、景色を見ながら麗華は質問した。龍二は一瞬驚いた様な表情を浮かべ麗華を見たが、すぐに顔を曇らせ彼女と同じ方を見た。

 

 

「……(もう、無理か)

 

昼間、お前が会ったのはお袋を殺した妖怪だ」

 

「!!」

 

 

その言葉を聞いた途端、突然目の前が真っ暗になった。そして自分の中で眠っていたもう一人の自分が現れ手を伸ばしてきた。伸ばしてきた手を麗華は何の抵抗をせず、ソッと触れた。

触れた瞬間、忘れていた記憶の泡が滝のように自分の中へと入り、手を伸ばしてきた自分は泡となり消えていった。

 

 

「麗華!!」

 

「!!」

 

 

ハッと我に返ると、自分の肩を掴み心配した表情を浮かべる龍二が目の前に居た。

 

 

「麗華、大丈夫か?」

 

「……兄貴」

 

「!!

 

麗華……記憶が戻ったのか?!」

 

「……うん」

 

 

返事を聞くと、堪らず龍二は麗華を抱き締めた。抱き締められた麗華は、何故だが分からぬが自然と涙がこぼれ落ち龍二の腕の中で、静かに泣いた。




童守病院の診察室……二人の腕を治す玉藻。


「これで、完治はした。

後はリハビリしていけば、昔のように技を使えるようになる」

「やっとか……」

「技を出した際の痛みは、自然に消えるのか?」

「多少痛む。けど慣れれば気にする程の痛みじゃない」

「そうか……

世話になったな。約束の物だ」


そう言うと、兄は懐から膨らんだ巾着袋を投げ置いた。玉藻はそれを持ち上げ中を見た。中には宝石が入っていた。


「これをどこで」

「各地に行ってて、その先の山や洞窟、森で見つけて拾ったんだ」

「……確かに受け取った」

「そんじゃ!」


弟ははしゃぎながら、診察室を出て行きその後を兄はゆっくりとついて行った。


屋上に着いた二人……


「長かったなぁ……あの女の呪い」

「全くだ……治すだけで、まさか五年も掛かるとはな」

「これでようやく、二人を殺れるな?」

「……安土(アヅチ)」

「?」

「桜巫女は殺すな」

「?!何で」

「俺が話をし、その答え次第で俺が殺す……」

「……やっぱり、また諦めてなかったか……

いいぜ」

「済まんな」

「それじゃ、行きますか」

「あぁ」


二人は瞬時に飛び上がり、建物の屋根を移動しながらどこかへ行ってしまった。

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