地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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新幹線の座席……ビール缶とつまみを広げ、窓の景色を見る一人の男。

男はふと手に持っていた一枚の写真に目を向けそれを眺めた。そこに写っているのは、白い着流しと紺色の羽織を着た少年と、髪を長く伸ばし巫女の格好をした少女……そして二人の間に立つ自分。


(元気にやってりゃいいが……)


少々、心配そうな目で男は再び窓の外の景色に目を向けた。


もう一人の家族

学校で燥ぐ、生徒達……

 

休み時間になり、各々が各々の時間を過ごしていた。そんな賑わう学校の中、校長室ではピリピリした空気が流れていた。

 

ぬ~べ~と校長の向かいに座る、一人の男……右目に大きな傷跡を着け、口に煙草を銜え不機嫌そうにして彼等を睨んでいた。

 

 

「一体……いつまで、待たせるつもりだ?

 

俺はただ、アイツに会いに来ただけだっつってんだろ?」

 

「いえですから……いくら、家族関係とはいえ…そのぉ。

 

こちらで把握してない以上、生徒に会わせることはできません」

 

「さっきから、その言葉しか話してねぇな?

 

会えばあっちがすぐに分かる。いいから、とっとと会わせろ」

 

「ですから、会わせることは」

 

「……チッ。

 

そっちが連れてきてくれねぇなら、こっちから捜しに行く」

 

 

そう言いながら、男は校長室を出て行った。校長とぬ~べ~は慌てて男の後を追い、そして前へ出て止めた。

 

 

「勝手な行為は困ります!

 

一先ず一旦、部屋へ戻ってください!」

 

「だったら会わせろ!こっちは緊急で来たんだ」

 

「し、しかし」

 

 

「ぬ~べ~?何やってんだ?」

 

 

廊下を歩いてきた広達は、ぬ~べ~の姿を見るなり、疑問を感じながら彼に近付いて来た。

 

 

「誰?その怖いオッサン」

 

「美樹!」

 

「お、お前達!早く教室へ戻ってなさい!」

 

「え?何でだよ?」

 

「まだ休み時間終わってねぇぞ?」

 

 

すると、ぬ~べ~に抑えられていた男は、彼を退けて郷子達へと近付き彼女達の後ろにいた麗華の前で立ち止まった。

 

 

「お前達!早く離れるんだ!!」

 

 

ぬ~べ~に言われ、四人は慌ててその場から離れぬ~べ~の元へと避難した。ぬ~べ~は彼等を後ろへと行かせ、意を決意したかのようにして麗華を助けに行こうと足を踏み出した時だった。

 

男は、突然麗華に向かって殴ってきた。その瞬間、彼女はその拳を手で受け止め攻撃を防いだ。男は次に蹴りで攻撃し、空いているもう片方の腕で麗華は蹴りを止めた。

男は攻撃を辞めず、止められていない手で拳を造り麗華を殴ってきた。瞬時にその拳を避け、麗華は男の頭目掛けて蹴りを入れた。その蹴りを男は素早く避け、手を床につき高く飛び麗華の頭向かって踵落としをした。麗華は足に力を入れその踵落としを受け止めた。

 

男は攻撃するのを辞め、口に銜えていた煙草を手に取り煙を吐きながら言った。

 

 

「腕は鈍ってねぇみてぇだな」

 

「当然でしょ」

 

「上出来だ」

 

 

「何ぃ!!?」

 

 

校長室で向かいに座る男の話を麗華から聞いたぬ~べ~は、声を上げて驚いた。校長室の外で広達は、ドアに耳を当てて話を盗み聞きしていた。

 

 

「いきなり大声出すなよ……」

 

「い、いやぁ……だってまさか、その人が親族だなんて……」

 

「神崎輝三(カンザキコウゾウ)。

 

父さんの一番上の兄貴で、家の家系の相談役なんだ」

 

「そ、そうだったの……」

 

「改めて自己紹介させて貰う。

 

俺は神崎輝三。地方でマル暴の刑事やってるもんだ」

 

「ま、マル暴……」

 

「顔怖いのはそのせい。目の傷は、妖怪と対決した際に出来たもの。

 

だよね?竈(カマド)」

 

 

後ろで焔と一緒に立っていた山男のような格好をした竈という名の者は、麗華を見ながら頷いた。

 

 

「ほらね」

 

「いや、ほらねじゃなくて」

「なぁなぁ輝三!何で学校来たんだ?なぁ!」

 

 

ぬ~べ~の話などお構いなしに、麗華は嬉しそうな顔で輝三に話し出した。輝三はポケットから、携帯用灰皿を取り火を消した煙草の吸い殻をしまいながら受け答えた。

 

 

「な~に……ちょいとばかし、こっちに用があってな。

 

しばらくこっちで厄介になるから、お前等迎えに行ってから家にと思って、それで」

 

「本当か?!」

 

「本当だ。

 

つーわけだから先生、麗華の授業が終わるまでちょいとばかし居させて貰うぜ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

何も言い返せないぬ~べ~と校長は、仕方なく返事をしてしまった。

 

 

話を聞いていた広達は、驚きながら小声で話していた。

 

 

「あの怖ぇ男、麗華の伯父だってよ!」

 

「何か、麗華の奴スゲェ嬉しそうじゃねぇか?」

 

「よっぽど好きなんでしょ?あの男の人の事が」

 

「麗華のあんな嬉しそうな声、初めて聞いたなぁ」

 

「そういえばそうだよな。麗華って滅多に、感情を表に出さねぇもんな」

 

 

“キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン”

 

 

「あ!休み時間、終わっちゃった!」

 

「早く教室行かねぇと!!」

 

「急ぐのだ!!」

 

 

慌てた様子で、広達は急いで教室へと戻った。

 

チャイムが鳴って数分後……ぬ~べ~は麗華と共に、教室へと向かっていた。

 

 

「しかし、まさかあんな怖い人が親戚だったとはな。

 

驚いたよ」

 

「驚き過ぎ。たかが目に傷があって人相が怖い男ってだけじゃん」

 

「いや、そうだが……」

 

「ま、この授業が終われば終了だし」

 

「本当にあの人と帰るのか?」

 

「決まってるでしょ。何?帰っちゃ駄目なの?」

 

「い、いやそういう意味じゃ」

 

「なら、これ以上口出ししないで」

 

「は、はいぃ」

 

 

嬉しそうに鼻歌を歌う麗華の後ろ姿に、ぬ~べ~ほ微笑んだ。

 

 

(あの麗華が、ここまで喜んでいるとは……

 

余程、あの人を信頼しているんだな……)

 

 

放課後……

 

校門へと向かう麗華……

門付近には、壁に凭り掛かって立つ輝三が、煙草を吸いながら待っていた。自分の元へと到着した麗華の頭に手を置き一撫ですると、先を歩き出した。彼の後を麗華は嬉しそうに後を追い、隣に並んで一緒に歩いた。

 

そんな彼等の様子を、郷子達はこっそりと後をつきながら見ていた。

 

 

「見ろよ……麗華のあの顔」

 

「滅多に見られないわねぇ」

 

「何か麗華……

 

大好きなお父さんと一緒に帰ってる子みたい」

 

「そういや、麗華に父ちゃん居なかったな」

 

「よっぽど嬉しいんだよ……」

 

「ねぇねぇ皆!二人の後、着けていかない?

 

何か面白そうじゃん!」

 

「美樹」

「駄目だ」

 

 

後ろから声が聞こえ振り返ると、そこにぬ~べ~が立っていた。

 

 

「ぬ~べ~」

 

「何で後着けちゃいけないのよ!?」

 

「二人っきりにしてやれ。

 

麗華にとって、輝三さんは父親と同じ存在なんだ」

 

「だから、何でついて行っちゃ行けないのよぉ」

 

「美樹、辞めとこうぜ」

 

「え?」

 

「そうよ。二人っきりにしてあげましょう」

 

「………仕方ない。今回は辞めとくか!」

 

「美樹……」

 

 

鈴海高校へと来た二人……

 

 

「ここで待ってるから、龍二呼んでこい」

 

「不審者と間違われないでね」

 

「うるせぇ。とっとと行け」

 

 

軽く返事をしながら、麗華は校内へ入った。

しばらくして、麗華に連れられて龍二が袴姿でやってきた。

 

 

「よぉ、龍二……何だ?その格好」

 

「部活だよ。急に呼び出されたからこのまま来たんだ……」

 

「そうだったか」

 

「麗華から話聞いたけど、本当にしばらくここに居るのか?」

 

「あぁ。野暮用があってな。

 

しばらくの間、世話になるぜ」

 

「別に構わねぇけど……」

 

「そんじゃ、俺等は先に帰るか。

 

龍二はどうやら、部活中みたいだしな」

 

「部活終わっても、この後バイト入ってるから帰り遅ぇよ」

 

「捻くれるな……

 

麗華、行くぞ」

 

「ハーイ」

 

 

龍二の頭を雑に撫でると、輝三は先を歩き出した。その後を麗華は嬉しそうについて行った。

彼等の後ろ姿を見届けていると、渚が姿を現し龍二に話した。

 

 

「麗の奴、嬉しそうだな」

 

「焔も同じだろ?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

 

龍二が目を向けている方に渚は顔を向けた。二人の後ろからついて歩く焔と竈。焔は嬉しそうな顔で何やら話をしていた。

 

 

「二人にとって、輝三と竈は父親みたいな存在だからな……

 

ああいう光景見てるとさ、思うんだ……親父が生きてたら、あんな風だったのかなぁって……」

 

「そうだな……」

 

「さて、練習に戻るか」

 

 

見届けた後、龍二は急いで道場へと戻った。

 

 

数時間後……

 

 

「ただいま……」

 

 

バイト先から帰ってきた龍二は、玄関の戸を開け靴を脱ぎ入った。

居間へ行こうと縁側を通ると、柱に凭り掛かり座る輝三と彼の太腿に頭を乗せ、気持ち良さそうに眠る麗華の姿があった。

 

 

「帰ったか」

 

「輝三……寝ちまったのか?麗華」

 

「今さっきだ。

 

話聞いたけど、楽しいみてぇだな?今の学校」

 

「担任が、霊能力者だから。それにお節介な奴だし」

 

「そうか……」

 

 

帰りにでも買ってきたのか、日本酒を飲みながら庭を眺めた。

 

 

「で?一体、何の用で。」

 

「ん?」

 

「とぼけた顔すんな。

 

アンタがここに来た理由って、俺等に用があるからだろ?自分の仕事はそのついで……違うか?」

 

「……フゥ―。

 

ったく、勘はいいんだな。輝二にそっくりだ」

 

「どうなんだよ」

 

「その通りだ」

 

 

日本酒が入ったお猪口を置き、ポケットから煙草を取り出し口に銜え火を点けながら言った。

 

 

「龍二……

 

奴等がこっちに来てる」

 

「?!」




月が雲に隠れた夜……


建物の屋上に降り立つ二つの影。


「ひょー。

久しぶりだなぁ。この街」

「思い出に浸るな。さっさとあの二人殺すぞ。」

「その前に、腕を早く解放させなきゃな。俺等」

「……行くぞ」


二つの影は、夜の街へと消えた。

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