地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「ウ……」


目を覚ます麗華……異様な寒さに震えながら、体を起こし辺りを見回した。


(……冷凍室?)


白い息を吐きながら、立ち上がり歩き回ろうとしたが、手枷が着けられ自由に動くことができなかった。


(あの野郎……

キンキンに冷えた部屋に閉じ込めたうえ、逃げられない様に手枷ってか。体冷えたところで、逃げられるわけねぇだろ……あいつ、本当の妖怪馬鹿だな)


手を口元に持っていき、息を吐きながら冷たくなった手を温め膝を抱え身を縮込ませた。


(……焔)


寒い時期……雪が降った寒い夜。
その夜は優華が当直の為いなかった。寒さと恐怖から目を覚ましす麗華……部屋を出て龍二の元へ行こうとしたが、開けた途端冷気が自室へと入り出ようにも出られなくなり、その場に膝を抱え怯え泣いていた時だった。ベットの床で寝ていた焔が目を覚まし、自分に擦り寄った。そんな彼を撫でると、焔は自分を背に乗せ自身の寝床で丸くなった。丸くなると、麗華は背から降り焔の胴に頭を乗せ、しばらく腹を撫でていると思い瞼を閉じ眠りに入った。眠った彼女に、毛布を掛け自分の尻尾を乗せると、焔も共に眠りに入った。

とても暖かく、居心地が良かった。一瞬、父親と一緒に寝るとああいう温もりが感じられるかと思った。
そんな記憶を思い出しながら、麗華は息を吐いた。


“ガチャン”


「!!」


鉄製の扉が開く音に、麗華は顔を上げた。入ってきたのは、シガンを入れた籠を持ったKだった。


「シガン!!」

「こうでもしないと、僕に噛み付くもんでね」

「当たり前だ。そいつは私と兄貴以外の人間には懐かない」

「へ~……

じゃあ、こいつも妖怪かな?」

「っ……」

「なーんて、嘘嘘。

さ、一緒に来て貰おうか」

「……!!」


力無く倒れる麗華。その姿を見たシガンは、籠の中で暴れ出し鳴き声を上げた。Kの手にはスタンガンが握られていた。


「さぁて……君の血で、僕が長年研究し続けて、ようやく辿り着いた妖怪を呼び出そう」


頼る者と頼れる者

陽が沈み、辺りがうす暗くなった頃……Kの家へと着いた龍二達。

 

 

フラフラの足取りで、氷鸞から降りるぬ~べ~を踏み台に、龍二は飛び降りた。

 

 

「何寝てんだよ、バカ教師」

 

「は、早いんだよ……スピード」

 

「そんじゃあ、帰りは氷鸞に乗って帰ろ!氷鸞、いつも通りのスピードで頼むわ!」

 

「は、はぁ……」

 

「いらん事頼むな!

 

ほら、行くぞ!」

 

 

すると風のせいか、突然玄関ドアが開いた。まるで自分達を待っていたかのように……

 

指を噛み血を出した龍二は、懐から紙を取り出しそれに血を着け、剣を出した。雷光と氷鸞は紙へと戻り、龍二の手元へと帰った。

 

 

「いいのか?二匹を戻して」

 

「こいつ等には、後でやることがある。

 

雛菊、麗華か焔、渚、誰でもいい。匂いを捜してくれ」

 

「分かった!」

 

 

狐姿になっていた雛菊は、鼻を動かし匂いを探った。すると誰かの匂いを見つけたのか、雛菊は中へと入って行った。彼女の後を、三人はついて行った。

 

 

中へ入ると、雛菊はある扉の前で人の姿へと変わり、三人を待っていた。龍二は恐る恐る、その扉を開けた。それは地下に通じる階段がある部屋だった。

 

 

「ここ……確か、教授の実験室」

 

「大学じゃないのか?」

 

「大学は仮の部屋だ。

 

本来の研究室は、教授の家の地下だ」

 

「……!!」

 

 

突然、地下からこの世とは思えないほどの強い妖気が漂ってくるのを、三人は肌で感じた。

 

 

「な……なんだ、この妖気」

 

「早く麗華を助けねぇと……とんでもねぇことになるぞ」

 

 

龍二の予想は的中した。それは龍二達が来る少し前。

 

 

(あれ……ここは……

 

 

動けない……何で?それに、腕が痛い……)

 

 

ゆっくりと目を開ける麗華……痛みを感じる腕に目を向けると、腕には何十本ものチューブが刺さっており、そこから滝のように血が近くに置かれているバケツに流れ出ていた。近くに置いている棒には、シガンが入った籠が提げられていた。

 

 

「いやぁ、起きたかい?」

 

「……」

 

「しばらくは動けないし、喋ることもできないよ?な~に、僕特製の薬を打たせてもらったよ。気を失っている最中にね」

 

「……」

 

「そう言う怖い顔しないで。君は選ばれた人間なんだから。なぁ、焔」

 

 

傍で操られている焔の頬を、笑顔で撫でた。一撫ですると、Kは麗華の腕からチューブを外し、バケツ一杯になった血を陣が書かれたところへと持っていき、真ん中に置き何やら呪文を唱え出した。

すると、陣が黒く輝き出し、バケツに入った血が宙を舞いその血に反応してか底から、巨大な化け物が姿を現した。ライオンの体に蛇の尾を持った怪物……完全に現れると、怪物は雄叫びを上げた。

 

 

「あぁ……遂に…遂に実現したぞ!!

 

見ろ!!これが僕の実験結果だ!!こいつを使って、僕を馬鹿にした野郎共を皆殺してやる!!」

 

「グルルルル……」

 

「そうか……お腹が空いたのかい?大丈夫。君のご飯はあそこにあるよ」

 

 

実験台に寝かされている麗華を指差しながらKは言った。怪物は息を吐きながら、陣から出てゆっくりと実験台へと近付いた。麗華は渾身の力を振り絞り、何とか起き上がることは出来たが、それ以上移動することが出来なかった。

 

怪物は味でも確かめるかのようにして、麗華の頬を舐め体中を嗅ぎまくった。そして唸り声を上げながら、彼女を睨んだ。

 

 

「……食いたければ、食え。

 

私は、隠れもしないし逃げもしない」

 

「グルルルルル……」

 

 

その言葉に答えるかのように唸り声を出すと、怪物は口を大きく開け麗華を飲み込もうとした。

 

そんな怪物に、焔と渚が体当たりした。怪物は吹っ飛ばされ壁に激突し、その行為に驚いたKはすぐにリモコンを操作した。すると首輪のライトが点滅し、二匹は苦しみ暴れ出した。

 

 

「言う事を訊け!!

 

何を拒んでいる?!訊かないと、君達の主の命はないよ!!」

 

「焔……渚……」

 

 

しばらく苦しんでいた二匹だが、ついに支配されてしまい目を見開いて麗華を睨んだ。

 

唸り声を上げる焔と渚……その時だった。

 

 

「氷術氷槍砲!!」

「雷術千鳥流し!!」

 

 

二つの攻撃が二匹に向かって放たれた。二匹はすぐさまその攻撃を避けKの元へと戻った。

 

ほぼ同時に、麗華の前に人の姿をした氷鸞と雷光が降り立った。

 

 

「……雷光……氷鸞」

 

「うひょー!!何だ?!この化け物」

 

 

その声の方にゆっくりと顔を向けると、そこには龍二達が駆け付けてきてきた。

 

 

「兄貴……真二兄さん……鵺野」

 

「鵺野と真二はそこの化け物頼む!!」

 

「分かった!!」

「りょーかい!!」

 

「氷鸞!!雷光!!

 

構うな!!二匹を攻撃しろ!!」

 

「承知!」

「承知!」

 

「雛菊!あのクソ野郎に攻撃!!」

 

 

龍二の指示通りに、雛菊はKに火を放ち攻撃し、雷光と氷鸞は再び焔達目掛けて攻撃し、真二とぬ~べ~は化け物に攻撃をした。

 

Kが目を離した隙に、龍二は麗華の元へと駆け寄り実験台の上にいる彼女を抱き締めた。

 

 

「阿呆が……何強がってんだよ」

 

「……ゴメン」

 

「すぐにこっから出るぞ」

 

「うん………だけど」

 

 

“バン”

 

 

「雷光!!」

 

 

地面に倒れる雷光……巨鳥へと姿を変えた氷鸞は氷の礫を二匹目掛けて放った。

 

 

「氷鸞!!攻撃辞めて!!」

 

「し、しかし」

 

「いいから!!

 

兄貴、シガンを出してあげて」

 

「あぁ……」

 

 

攻撃を辞める氷鸞……焔と渚は彼等を睨み付け唸り声を出した。籠からシガンを出した龍二は、すぐに麗華の元へと戻り彼女を抱き寄せ二匹を見つめた。

 

唸る焔と渚……その時だった。二匹の目から一滴の涙が流れた。

 

 

「焔……」

「渚……」

 

 

実験台から降りた麗華は、龍二に支えられながら立ち焔達を見た。

その時、雛菊が投げ飛ばされ自分達の元へと転がってきた。

 

 

「雛菊!!」

 

「全く、躾のなっていない妖怪だ。

 

焔、渚……二人を早く殺しなさい」

 

 

リモコンを操作しようと指を動かそうとした時だった。突如腕が凍り付き動かなくなってしまったのだ。そして腕へと近付いた雷光が、瞬時に刀を振りKの腕を切り落とした。

 

 

「ワァアアアア!!腕が!!僕の腕が!!」

 

 

斬られた腕を押さえながら、藻掻き苦しむK……雷光は切り落とした腕を手に持ちながら、口を開いた。

 

 

「妖を甘く見る出ない」

 

「甘く見れば、貴様など簡単に殺せます。

 

腕だけで済んだ事を有難く思ってください」

 

 

Kを見る氷鸞と雷光……切り落とした腕からリモコンを取ると、二人はすぐに麗華達の元へと駆け寄った。

 

 

「麗様、こちらを」

 

「氷鸞……雷光……

 

ありがとう」

 

 

リモコンを受け取りながら、麗華は二人に礼を言った。手にしたリモコンは多数のボタンがあり、どれを押せば良いのか見当が付かなかった。

 

 

「リモコン受け取ったはいいが……」

 

「使い方が分からん……」

 

 

その時、焔と渚が二人目掛けて突進してきた。麗華と龍二は雷光と氷鸞を突き飛ばし焔と渚の攻撃を食らった。

攻撃を食らい、痛んだ体を起こすと二人の目の前には牙を向けた焔と渚がいた。

 

 

「焔……」

「渚……」

 

 

それぞれの名を呼び、二人は手を伸ばした。

牙を向けていた二匹は雄叫びを上げ、二人の腕に噛み付いた。噛み付き唸る焔と渚に、麗華と龍二は腕を噛まれながらももう片方の手を伸ばしそして、二匹を抱き締めた。

 

 

「辛いよね……」

 

「苦しいよな……」

 

「ごめんね」

「ごめんな」

 

「頼りない主で」

「頼りない主で」

 

 

その声に反応してか、二匹の首輪が突然煙を上げそして破裂した。首輪は粉々になりそれと共に、焔と渚は狼から人の姿へと変わり、ゆっくりと目を開けた。

 

 

「麗…」

「龍…」

 

 

顔を上げる二人……その目はいつもの目の色になった。目に映った自分達の主の姿を見た瞬間、渚は龍二を、焔は麗華を強く抱き締めた。

 

 

「麗……

 

すまねぇ……独りにさせちまって」

 

「うんうん……平気だったよ」

 

「すまぬ龍……お前にまた、重荷を背負わせてしまって」

 

「いいんだ……もう」

 

「お帰り……焔」

「お帰り……渚」

 

「クソ!!

 

まだだ!!まだ終わりはしない!!」

 

 

傷口を白衣の袖で強く結び止血し、Kは狂ったかのようにそう叫ぶと、白衣のポケットから銃を取り出し放った。弾は四方を飛び散り、龍二と麗華は体を伏せた。放った一発の弾が化け物の体に当たり、化け物は雄叫びを上げ暴れ出した。

ぬ~べは、暴れ出した化け物から離れ、真二は出していた管狐を筒へと戻すと、ぬ~べ~と共に龍二達の元へと駆け寄った。

 

 

「龍二、どうする?!」

 

「このままだと、全員あいつの餌食になるぞ!!」

 

「分かってる。取り敢えず、あいつを倒してからここを出る!

真二は麗華に着いててくれ。あのクソ野郎に変な薬打たれて真面に動けねぇ」

 

「分かった」

 

「鵺野は俺と一緒に、キメラの相手だ」

 

「キメラ?」

 

「あの容姿からして、恐らくキメラっつう化け物だ。ギリシャ神話に出てくる動物だ」

 

「あいつは妖怪ではなく、神を呼び出したって事か?」

 

「そういうことだろ。

 

霊力が強ければ強いほど、とんでもねぇ化け物を呼び出すことがある」

 

 

片袖を破り、龍二は麗華の傷だらけになっていた腕に巻いた。彼女の頭を一撫ですると、剣を手に取り立ち上がった。

 

 

「氷鸞と雷光はKの動きを封じろ。殺すんじゃねぇぞ」

 

「承知」

「承知」

 

「雛菊と渚は、俺と鵺野の援護。焔は麗華と真二の援護だ」

 

「分かった」

「承知」

「承知」

 

 

“バーン”

 

 

「?!」

 

 

突如弾が、龍二達の足下の地面を抉り通った。すぐにKの方に顔を向けると、彼は口から涎を出し狂ったかのように高笑いをしながら、銃口を龍二達に向けていた。

 

 

「君等には死んで貰わないと、困るんだよ。この研究所を知られた以上、生かしちゃおけない……」

 

「……」

 

「妹さん……焔を連れて、こっちへ来なさい」

 

「?!」

 

「麗華、行くんじゃ」

“バーン”

 

「余計な口出しをするな!!」

 

「……!!

 

K!!後ろ!!」

 

「そんな子供騙しに引っ掛かる」

 

 

言い掛けたとき、Kの上半身はキメラの口の中へと消えた。残った下半身から噴水のように血が噴き出し、力無く倒れた。

 

 

「呆気ねぇ最期……」

 

 

麗華の目を手で塞ぎながら、真二はボソッとそう呟いた。

 

 

「あれが、あいつの運命だろ。

 

さぁ、とっととあの化け物元の世界に返すぞ」

 

 

その時……キメラの目から一滴の涙が流れ落ちた。

 

 

「涙?」

 

「………カエセ」

 

「?」

 

「カエセ……モトノチ」

 

「(そうか……)

 

兄貴、あの陣にキメラを誘導して」

 

「あぁ。キメラこっちだ!」

 

 

龍二の声に反応するかのようにして、キメラは歩き出した。その間、麗華は落ちていたビーカーのガラスの破片をとり、龍二が巻いてくれた袖を取り、腕に刺し血を流し真二に支えられながら陣の所へと向かった。

 

 

陣の所へと着た麗華は、ふらつく足で立ち陣の真ん中に血を垂らした。すると陣が黒く光り出し、そして龍二に釣られて着たキメラが、陣の真ん中へと立つと陣から黒い煙が上がった。

 

 

「我が血と引き替えに、この者を元の世界へ戻せ!」

 

 

黒い煙が上がると、外の空に黒い雲が覆い雲は雷をKの家に落ちた。Kの家はたちまち火の海へと代わり、それを合図に陣が黒く輝きキメラを消した。

 

 

「自分を呼んだ人間を殺し、元の世界へ帰るか……

 

幽霊の様だな」

 

「甘く見ねぇ方がいいぜ?妖怪も幽霊も神も」

 

「そうだな」

 

「お喋りしてねぇで、とっととこっから出るぞ!!

 

煙の臭いがする!!」

 

 

地面に座り込んでいる麗華を抱き抱え、龍二は雛菊達を戻した。焔と渚はすぐに狼の姿へと変わり、焔は龍二と麗華を渚は真二とぬ~べ~を乗せ、地下から脱出するため天井を壊し空へと駆け上った。


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