地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「!!」


飛び起きる麗華……

息を切らし、額から流れ出ている汗を拭き取り、ふと床の方を見た。そこには布団を敷き眠る緋音の姿があった。
いつもなら、そこには狼姿で眠る焔がいる……しかし、今はいない。ベットから降り緋音を起こさぬようにして歩き、部屋を出た。
龍二の部屋へ着た麗華は、そっと戸を開けた。床には布団を敷き、腹を出し眠る真二の姿があった。戸を閉め自分の部屋へ帰ろうとした時だった。ふと龍二が眠るベットの方に目を向けると、彼も起きたのか目を擦りながら体を起こし、自分の方を見ると手招きをした。

導かれるようにして、麗華は部屋へ入り真二が起きぬよう歩き、龍二のベットに入った。入ってきた彼女に布団を掛け、龍二は何も言わず頭を撫でてやった。しばらくして、麗華は重い瞼を閉じ眠りに入り、龍二も彼女の頭に手を置き眠りに入った。


場所は変わり、ここはとある大学……

大学の屋根に降り立つ、二匹の大狼。狼から飛び降りる一つの影。


「さぁて……まずは、僕を馬鹿にしたこの学校に復讐だ。

焔、渚、やれ!」


その命令道理に、焔は火を放ち校舎を燃やした。しばらくして、次に渚がその火を消すかのようにして、水を放った。だが火が消えても、その水を止めることもなく放ち続けた。


「よし、もういいぞ」


その命令道理、焔と渚は攻撃を辞めた。二匹の傍にいた影は、焔の背に飛び乗り学校を後にした。


操られる右腕

朝……

 

 

《昨晩、K大学に異常現象が起こりました。

 

校舎が燃えてた痕と、その火を消した水の痕跡がありました。校舎内は水浸しになり、教員たちの書類やパソコンのデータが全てダメになり、警察は器物損害罪として調査を続けています。》

 

「おぉ……大学がテロリストにあったか」

 

「何朝っぱらから、変な事言ってんだよ。お前は」

 

 

真二は朝食を食べながらテレビを見ていた。そんな真二に、龍二は普段着を着ながら呆れた顔で話しかけた。

 

 

「あれ?龍二、今日は学校行かねぇのか?」

 

「あぁ。今テレビでやってた事件、もしかしたら焔達の可能性もあるから、一応現場に行くつもりだ」

 

「フ~ン……あれ?麗華もか」

 

「まぁな。それに、今の状態であいつを学校に行かせるわけにはいかない」

 

「……」

 

「ねぇ、龍二!」

 

「?」

 

「麗華ちゃん、知らない?朝起きたら、ベットにいなくて」

 

「あぁ…麗華の奴なら、俺のベットで寝てるよ」

 

「え?!」

 

「何だ?!麗華の奴、瞬間移動でも使えるのか?!」

 

「違ぇよ!!夜中に起きてきて、俺の部屋に来たんだ!」

 

「何で私の布団じゃなくて、アンタのベットに行くの!?」

 

「俺はあいつの兄貴だぞ!!着て当たり前だろ!!」

 

「そんな~」

 

「相変らずだな……麗華の奴」

 

「え?」

 

「ほら……昔、お前ん家に泊まったこと何度かあっただろ?」

 

「そういえばあったな」

 

「そうそう。私達が泊まると、おばさんいつもおいしい手料理振る舞ってくれたよね!」

 

「そうだったよなぁ」

 

「俺達がいる間ずっと、麗華はおばさんと龍二に引っ付いててさ……そんで森の中行くのも俺等が遊んでる時も、いっつも龍二にくっ付いてたよなぁ」

 

「あと、夜になると必ず龍二の布団に潜り込んできたこともあったよね!」

 

「それはお袋が、勤め先の病院から緊急呼び出しがあって、一人でまだ眠れねぇから俺の所に来たっていうだけだ」

 

「とか言って、本当は龍二に甘えてたんじゃねぇのか?麗華の奴」

 

「うるせぇ!!

 

つーか早く学校行かねぇと、遅刻すっぞ!」

 

「あ!やっべぇ!!」

 

「早く行かなきゃ!!」

 

「龍二!今晩も泊まるからな!!」

 

「私も!!」

 

「泊まるな!自分家へ帰れ!!」

 

 

二人が家を出て行ってから数分後、麗華は目を覚まし自分の部屋へと戻り着替え居間へと行った。

 

 

「お!起きたか」

 

「あれ?真二兄さん達は?」

 

「学校だ。お前は今日休め。

 

これから俺と一緒に、行ってもらいたいところがある」

 

「行く場所?」

 

「大学だ。昨日の夜、校舎が燃やされたうえ水浸しにされたそうだ」

 

「え……まさか」

 

「まだ分かんない。これから調べに行くから、とっとと支度しろ」

 

「うん」

 

 

同時刻、童守小学校……

 

 

「麗華の奴、どうしちまったんだろうな」

 

 

麗華の机を見ながら、広はぼそりと言った。

 

 

「昨日あんなに元気だったのに……」

 

「どうせ、またズル休みでもしてるんじゃないの?」

 

「美樹!!」

 

「冗談よ!冗談!」

 

「ぬ~べ~が言うには、家の用事みたいだけど本当かな?」

 

「さぁな」

 

「ねぇねぇ!それより、今朝のニュース観た?!」

 

「あぁ、あれだろ?大学がテロリストにあったって奴」

 

「そうそう!」

 

「あれ、誰がやったんだろうね」

 

「噂じゃ、犯人は一人らしいよ?」

 

「嘘!?どうやって、やったの?!」

 

「分かんないわ、そんなの」

 

「一人で出来たら、そいつ相当な足の速い奴だな!」

 

「そうだな!」

 

「という事は、逃げ足も速いのだ!」

 

「なるほど!」

 

「アンタ等、もっと現実を見なさい。現実を」

 

 

大学へ着た龍二と麗華……警察官の目を盗み、黄色いテープを潜り中へと入った。

 

焦げた地面とびしょ濡れになった校舎……

 

 

「ヒデェありさまだなぁ」

 

「……」

 

「もしかしたら、まだ妖気が残ってるかもしれねぇな。」

 

「じゃあ」

 

「あぁ……

 

雛菊!」

「氷鸞!」

 

 

ポーチから紙を取り出し、二人は雛菊と氷鸞を出した。

 

 

「雛菊、氷鸞。今ここに残ってる妖気を頼りに、渚と焔を捜してきてくれ!」

 

「見つからなくてもいい。手掛かりでも……小さいことでも何でもいいから!」

 

「分かった」

「承知!」

 

 

二人は姿を消し、妖気を頼りにそのままどこかへと行った。彼らを見送る龍二と麗華……

 

 

「見つかるかな……焔達」

 

「見つかるさ。

 

さ、俺等も捜すぞ」

 

「うん」

 

 

 

 

お昼過ぎ……事件は起きた。

 

小学校の屋上に、渚と焔が降りた。

 

 

「ここが妹の学校か……

 

焔、炎を放て」

 

 

その命令道理、焔は口から火を放ち校庭を火の海へとした。陽に気付いた職員室にいた教員たちはすぐに、小火器を持ち消しに行き、残ったものは火災報知機を鳴らし、生徒達を避難させようとした時だった。

 

 

「焔、もういい。次は渚、水を放て」

 

 

焔は火を止め、入れ替わりに渚が火を消すようにして水を放ち、そして校舎を水浸しにした。校舎にいた生徒達は慌てて近くの柱や扉に流されぬ様に掴まった。

余りにもおかしいと思い、ぬ~べ~は放ってくる場所が屋上からだと感づき、すぐに屋上へと向かった。屋上へ着き外へ飛び出ると、そこには狼姿になった渚と焔が立っており、傍には人が一人いた。

 

 

「焔?!渚?!」

 

「?……見つかったみたいだね。

 

焔、渚、逃げるよ」

 

 

人が焔の背に乗ると、それを合図に二匹は空へと飛んで行った。そんな彼らをぬ~べ~は、顔を上げ眺めた。

 

 

(まさか……今朝の事件も、今回もあの二匹の……)

 

 

放課後……

 

水浸しになった校舎を拭き終わり、ひと段落する教員たち。生徒達は皆、事故が治まったと共にすぐ自宅へと帰らせた。

 

 

「しかし、こりゃまた酷い。

 

大学の方は人がいなかったから、あまり被害は少なかったが……儂らの所じゃ、生徒も教員もいたから、第三次だな」

 

「そうですね……いったい、誰がこんなことを」

 

「鵺野先生、これも妖怪の仕業ではないんでしょうか?」

 

「可能性はあります……(信じたくはないが、犯人はおそらく)」

 

 

蘇る焔と渚の先程の姿……そして彼らの傍にいた一人の人。

 

 

「鵺野先生!」

 

「あ、はい!」

 

「お客さんです!」

 

「お客さん?」

 

 

石川先生に導かれ、職員室に入ってきたのは、血相を掻いた龍二だった。

 

 

「龍二?!」

 

「アホ教師、ここに焔と渚が来たって」

「待て待て!ここじゃマズイ、ひとまず教室に」

 

 

慌てて話を止めさせ、ぬ~べ~は龍二を連れて教室へと行った。教室に入った龍二はすぐさま、ぬ~べ~に話をし出した。

 

 

「ここに焔と渚が来たっていうのは、本当か?!」

 

「ちょっと待て!その話、誰から聞いたんだ?」

 

「雛菊だよ。あいつ、昼間この辺りを捜してたら二人が学校から飛びだったのが見えたって……どうなんだよ」

 

「……事実だ」

 

「嘘だろ……」

 

「龍二、あいつ等に何があったんだ?」

 

「知らねぇよ……昨日から姿が見えなくなって、そんで今だ」

 

「……麗華はどうした?」

 

「あいつは今、氷鸞の所に行って焔達が最後に寄った場所に行ってる。俺もそこへ行こうとしてたんだが、雛菊が焔達を見たって知らせてきて、ここへ来たんだ」

 

「そうだったのか……

 

龍二、一つ聞いて良いか?」

 

「?」

 

「渚と焔が、お前達以外の人間に従う事はあるのか?」

 

「ない。白狼一族は、大昔俺達陰陽師家の助けがあったから、一族は滅びずに済んでいるんだ。その恩返しとして、一族は主が死ぬまでは決して主以外の人間に懐くことはまずないし、命令も聞かない」

 

「そうか……」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや……あいつ等に命令を出していた人を見たんだ」

 

「え?」

 

「俺の気のせいかもしれないが……焔の背に飛び乗った人影を見たんだ」

 

「そんなはず……渚も焔も、俺達以外の人間を乗せる事ねぇ」

 

「俺も間違いだと思っている。焔達はなんだかの理由で、その人間に手を貸しているのかもしれない。

 

下手したら、お前等二人を人質に取られているのかもしれない」

 

「……」

 

「とにかく、今日は家へ帰れ。何か分かったら、すぐに連絡する」

 

「あぁ」

 

 

ぬ~べ~に言われ、龍二は一旦家へと帰った。

 

 

「ただいま……」

 

「お帰り、龍」

 

 

家へ帰ってくると、丙が出迎えてくれた。靴を脱ぎ居間の襖を開けると、畳の上で眠る麗華の姿があった。

 

 

「帰ってきてこの様だ。

 

よっぽど疲れたんだろ」

 

「あぁ……」

 

「麗にとって、焔は父親のような存在だからな。そしてもう一人の兄でもある」

 

「丙……」

 

「お主もそうだろ?お主にとって、渚は母親のような存在、そして姉でもある。違うか?」

 

「……」

 

 

照れ臭そうに、龍二は頭を掻き、頬を赤くしてソッポを向いた。そんな彼に、丙は笑みを溢しながら頭を撫でた。




“ビュー”


強風に吹かれ叩かれる窓ガラスの音で、麗華は目を覚ました。眠い目を擦りながら起き上り、いつの間にか掛けられていた羽織を退かしながら、窓の方へと行った。外はすっかり暗くなっており、ふと居間に掛けられている時計を見た。時刻は午後七時だった。


(どんだけ寝てたんだ……)


目を擦りながら、麗華は外の空気を吸おうと草履を履き表へ出た。強風が吹いており、周りの木々が騒ついていた。乱れる髪を手で止めながら、麗華は周りを見回した。


「……?」


ふと本殿の方に目を向けると、石の灯篭に点された火が照らす二つの影。麗華は咄嗟に、玄関に置かれていた木刀を手に持ち、ゆっくりとその影に近付いた。


「……?!

焔!渚!」


近付きよく見ると、そこにいたのは狼姿になった焔と渚だった。木刀を下ろし、麗華は焔に駆け寄ろうとした時、突如焔と渚は唸り声を上げ、攻撃態勢に入り彼女を睨んだ。


「?

焔?渚?」

「ガルルルルル」

「どうしたの?私だよ?麗だよ」

「ガルルルルル」

「焔……渚」

「クックックック……どうだい?右腕に裏切られる気分は」

「?!」


本殿の階段に腰を掛けていた影がゆっくりと立ち上がり、そして階段を降りて行き灯篭の元へと来た。


「……誰?」

「僕は……そうだな…Kとでも名乗っとくか」

「K?」


「麗華!!」


何かを察してか、彼女の元へ龍二が駆け付けてきた。


「兄貴……焔と渚が!」

「え?……!渚!?」

「さっきから、様子が変なの!」

「兄妹揃ったみたいだね?

焔……君の主にご挨拶しな」


その命に従ってか、焔は口から火の玉を麗華目掛けて放った。その攻撃から庇う様に、龍二は背中を盾にして攻撃を防いだ。


「兄貴!」

「ハハハハハハ……どうだい?一番信頼している者から受ける攻撃は」

「な…何者だ」

「……そうか。忘れたんだね……君ら二人は。

僕は……あの牢獄の中、君達二人を忘れることは決してなかった。一度もな!!」

「……まさか……お前…痛っ!!」

「さぁて……お次は」

「……」

「渚……攻撃開始」


渚は一歩前へ出て、口から水を放った。


「氷鸞!」


ポーチから紙を取り投げた。紙から煙を放ち中から人の姿をした氷鸞が現れ、水の攻撃に瞬時に気付くとすぐにその水を氷の術で阻止した。


「な……渚様?!」

「雷光!アンタも!」


もう一枚の紙を投げだし、中から人の姿をした雷光が現れた。


「渚殿?!それに…焔?!」

「一体、何があったんですか?!麗様!」

「説明は後!二人を元に戻して!氷鸞は渚を!雷光は焔を!」

「承知!」
「承知!」


獣の姿へと変わった二人は、焔と渚に攻撃をし始めた。
だが、その攻撃は焔達には全く効かなかった……そして二人の攻撃がとだえると、焔達は反撃するかのようにして攻撃を放った。氷鸞と雷光はその攻撃を避ける暇も無くして、当たってしまい森の方へと飛ばされた。


「氷鸞!!雷光!!」

「麗華…お前は、家に入ってろ!」

「兄貴は?」

「俺は平気だ……もう少ししたら、真二達が来る。

その前にこいつを倒さ……ウッ!」

「兄貴!」


力なく倒れる龍二……背には自分を庇ってできた火傷の跡があった。そんな彼を麗華は呼び叫んだ。


「そんじゃあ……ここで、お別れだね?」

「?!」

「焔、やれ」


二人目掛けて、焔は強大な炎の渦を口から放った。麗華は倒れている龍二を守るようにして、覆い被さり目を瞑った。


「南無!!」


その声と共に、焔の攻撃は阻止され、同時に誰かが自分達の前に立った。


「……!!

ぬ……鵺野」


目の前に立っていた人物……それは、鬼の手を構えたぬ~べ~だった。

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