地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「みほちゃーん、帰るよー」

「うーん……この保険係の仕事終わってから帰るね」

「そう、じゃあバイバーイ」

「バイバーイ」


作業を進める生徒……その時、壁から何かが這いずる音が聞こえてきた。後ろを振り返るとそこには誰も居なかったが、壁に受け出る影が目に入った。


「キャァアアア!!」


過去と罪
壁男


翌日……

 

 

壁に埋め込まれた上履きに、生徒が見つけそれを囲う様にして野次馬が集っていた。

 

 

「か…壁に靴がめり込んでる……」

 

「四年生の子が行方不明なんだって」

 

「壁男の仕業よ!壁の中にいて、人を引きずり込むのよ!

 

今、学校中で話題になってんの!」

 

「怖~い!」

 

 

壁を見るぬ~べ~……もっと近くへ寄ろうと前に進むと、地面に転がっていたペンに躓き転び、壁に顔面を激突した。

 

 

「ぬ~べ~……」

 

「何バカやってんだよ……あいつは」

 

「噂じゃ二十年前、殺人事件があってこの校舎の改築の時、壁に埋め込まれた人がいるらしいわ!」

 

「じゃあ、その霊が無差別に人を襲ってるわけ?」

 

「そういう事!」

 

「迷惑な話…」

 

「生徒が一人消えて、警察も来てる……今日の授業はここまでにして、すぐに家に帰りなさい」

 

「はーい!」

 

 

 

 

放課後……

 

 

霊水昌を手に校内を見まわるぬ~べ~……

 

 

「警察は日中、校内を調べ誘拐の可能性もあるとして、捜査を町内に移した……

 

しかしこれは……確実に霊の仕業…感じる」

 

 

霊気を感じながら歩くぬ~べ~……段々と強くなり、階段付近の壁へと来た。

 

 

(どこだ?何処に……!!)

 

 

壁から手が伸び、ぬ~べ~の体を掴むとそのまま壁へとのめり込ませようとしていた。

 

 

「し、しまった!!

 

壁に……体が吸い込まれる……身動きが出来ん!!

 

 

く!!南無大慈大悲……陽神の術!!」

 

 

陽神の術……それはぬ~べ~の奥義。気を練り実態とほとんど変わらない分身を造り出す技。

 

小さくなったぬ~べ~……壁男は彼の体を持ってそのままどこかへと消えてしまった。

 

 

「くそ……体を持って行かれてしまった。取り返さなければ……

 

それにまずいな……陽神の分身では、霊能力は何一つ使えない。

 

 

しかも、気が十分に練れなくて小学生の大きさだ。活動がかなり制限されるぞ……大ピンチだ」

 

 

「ちょっとお、先生に怒られるよ!」

 

「シー!音を立てるんじゃねぇぞ!」

 

「ちょっと克也、しっかり持ち上げてよ!」

 

「わ、悪ぃ(何で尻から入るんだ?)」

 

「ったく……何で、私まで行かなきゃいけないのよ」

 

「そう言うなって」

 

 

〝ヒロシ!ヒロシ!”

 

 

機械の声が聞こえ、窓縁に足を掛けていた人影が、すぐ大音を出して転げ落ちた。

 

 

「ごめん……ポケットラブコール」

 

「アホンダラ―!」

 

「大声出すな!」

 

「コラぁ!!何やってんだ!!」

 

 

月の光でやっと見えた広達を見て、ぬ~べ~は痺れを切らして怒鳴った。その声に五人は驚き後ろを振り返った。

 

 

「だ、誰だ?」

 

「俺か?

 

俺は……!

 

 

陽神明だ!」

 

「陽神明ぁ?」

 

「そんな子いたっけ?」

 

「見かけないのは、六年生だからさ。

 

さぁ、ここは危険だ。早く家に」

「何、エラそうな事言ってんだよ!」

 

「そうよ!一つ年上だからって、生意気よ!」

 

「今日は事件があって、早く帰れと言われただろ?何で来たんだじゃあ」

 

「明日笛のテストがあるんだけど、たて笛忘れちまって」

 

「くだらない、そんな理由で……」

 

「くだらなくて悪かったな!!

 

それに事件なら、ぬ~べ~が解決してくれるぜ!!」

 

「残念だが、鵺野先生は今行方不明だ」

 

「?!」

 

「さ!危ないから早く帰れ」

「何だって!?」

 

(しまったぁ……)

 

「ぬ~べ~が行方不明って、どういう事よ!?」

 

 

広達にせがまれぬ~べ~(明)は仕方なく、事の成り行きを説明した。

 

 

「えー!?壁男にさらわれた!?」

 

「間抜けな教師だな。あいつ」

 

「ちょっと麗華!」

 

「お前黙って見てたのかよ!」

 

「仕方ないだろ?あっという間の出来事だったんだ」

 

「とにかく、みんなで捜しましょう!」

 

 

郷子の掛け声でぬ~べ~を捜し始めた。

 

 

「全く……何が『陽神明』だよ。バカ教師が」

 

 

四人が離れたのを計らって、麗華はぬ~べ~の隣へ立ち不機嫌そうに言った。

 

 

「ハハハハ……やっぱり、分かってたか」

 

「当たり前でしょ?見縊らないでよ……」

 

「そうだな!お前が来てくれて、助かった!」

 

「何が助かったよ?言っとくけど、何もしないよ?」

 

「そう言わずに~」

 

「うっさい!

 

ま、アンタの秘密は洩らさに様にはするけど。一応友達だっていう事にするから、話し合わせてね」

 

「はいぃ」

 

 

 

 

“ガシャン”

 

 

「これで全部だ」

 

 

ゴミ箱いっぱいに入った空き缶を、教室へと持ってきた広達……美樹は空き缶を一つ手で弄びながら、話した。

 

 

「これで何するの?麗華」

 

「敵は壁の中を移動する悪霊。

 

空き缶に、タコ糸……これを廊下の壁に張り巡らせる」

 

「単純だな?仕掛け」

 

「いつもみたいに、式神使ってズバッと倒しちまえよ!」

 

「生憎、氷鸞と雷光は置いて着ちまったんだよ」

 

「え?!」

 

「アンタ等が急かしたからだ!」

 

「ほ、焔は?!」

 

「あいつは今日、兄貴と一緒に仕事の方に行った。連れて来てると言えば……」

 

 

フードの中にいたのか、シガンが顔を出し鳴き声を上げ郷子達を見た。

 

 

「シガン一匹。悪いけど、今回はお手上げだ」

 

「そんなぁ」

 

「続き話すよ?」

 

「あ、うん!」

 

「敵が現れれば、壁が盛り上がる。盛り上がれば壁に張り巡らせるこの空き缶が鳴って知らせてくれる」

 

「そして、出てきたらこのアラームウォッチを着けたペーパーナイフを突き刺す。

 

三分後に音が鳴る……奴には、戻っていく場所があるはずだ。そこが分かる。

そこに鵺野先生の体も必ずあるはずだ」

 

「スゴォイ!」

 

「さすが陽神君!頭いい!!」

 

「私達じゃとても、思いつかない頭脳プレーだわ!」

 

「頭脳プレーだと、麗華と互角じゃねぇ?」

 

「言われてみればそうだな?」

 

「空き缶は私だけど、アラームウォッチは陽神の考えだ」

 

「へぇ」

 

「そう言えば、二人って知り合いか何かなの?」

 

「え?何で」

 

「普通に呼び捨てだからさ」

 

「まぁ……ちょっとね」

 

「さ!この話は後にして、早く仕掛けに行こう!」

 

「はーい!」

 

 

いい返事をした美樹は明にベッタリと腕を組みながら教室を出て行き、彼らに連れられて郷子達も一緒に出て行き空き缶を壁に仕掛けて行った。

 

 

「ねぇねぇ、郷子!麗華!」

 

「?」

 

「何?」

 

「陽神君って、大人っぽくって顔もいいしかなりイケてると思わない?」

 

「もう、美樹ったら~……今はそんな事言ってる時じゃないでしょ?!」

 

「学年を超えた愛も素敵~!」

 

「全く……呑気な奴」

 

 

シガンが転がしてきた空き缶を取り、仕掛けながら麗華は飽きれた。広と克也はそんな明を、気にくわぬ顔で見ていた。

 

 

「おい、何かアイツに差つけられてねぇか?」

 

「べ、別に……どうってことねぇよ!」

 

 

仕掛け終え、階段付近で敵が現れるのを待つこと数十分……手摺りに寄りかかっていた郷子は辺りを見回しながら口を開いた。

 

 

「全然現れないわね?」

 

「あぁ」

 

(う~ん……やっぱいい男!これは掘り出しもんかも!)

 

「俺ちょっとしょん便」

 

「一人じゃ危ない!俺が」

「俺が一緒に行く」

 

 

克也の肩に手を乗せようとした明の手を、広は払い避け不機嫌そうな声を出しながら、克也と一緒にトイレへと向かった。

 

トイレで用を足す広と克也……

 

 

「あの陽神って奴……一年しか変わらないのに、妙に大人ぶってるよな?自信たっぷりだし」

 

「張ったりさ、あんなの」

 

「しっかし、まさか麗華と知り合いだったとはな」

 

「あの二人、どこで知り合ったんだろうな?麗華の奴、一応は転校生だぜ?」

 

「昔知り合ったとかじゃねぇのか?ほら、いつか話してくれたじゃねぇか。

 

小学校上がるまでは、ずっとここに住んでたって」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

「……?

 

でも、六年にいたっけかなぁ?陽神……陽神」

 

 

“カランカランカラン”

 

 

「!?」

 

「奴だ!」

 

 

鳴り響く空き缶の音……その音に、シガンは毛を逆立たせ威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入った。

 

 

「現れた!」

 

「トイレの方だ……」

 

「?!」

 

「うわぁあああ!!」

 

 

トイレの方から、突如克也の叫び声が聞こえてきた。郷子は慌ててトイレに向かい、彼女に続いて麗華も向い、二人に続こうと明が足を動かしたとき、美樹が彼に抱き着いてきた。

 

 

「いや~ん!陽神君、怖~い!」

 

 

抱き着かれて、大きい胸に押し潰された明はそのまま床に倒れてしまった。

 

 

トイレに着くと、壁にめり込まれていく克也と、彼の手を掴み引っ張る広がいた。

 

 

「克也!」

「木村!」

 

「も…もうだめだ」

 

「がんばれ克也!」

 

「広!麗華、何とかして!!」

 

「何とかって言われても……!

 

木村!立野、息止めてろ!」

 

「?」

 

 

何かを思いついたのか、麗華はポーチから紙を取り出し、克也をめり込もうとしている壁を睨んだ。

 

 

「大地の神に次ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

 

 

声に反応した紙は、碧く輝きだし水を出した。

 

 

「いでよ!海神!」

 

 

水は槍へと姿を変え、その槍で麗華は壁を貫いた。だが、壁男はビクともしないどころか聞いている様子がなかった。そこへ遅れて入ってきた明が、克也の手を引っ張っていた広をどかし、アラームウォッチが着いたペーパーナイフを壁男の肩へと突き刺した。壁男は数回吠えると、克也を引き入れ壁の中へと入った。

 

 

「陽神く~ん!」

 

「細川、避けろ!」

 

「へ?」

 

 

めり込んだ壁男は、腕を伸ばし一瞬で美樹を壁の中へと引きずり込み、そのままどこかへと消えた。

 

 

「しまった!」

 

「美樹!克也!」

 

「攻撃が通用しないなんて……」

 

「くっそぉ!」

 

 

克也たちを追いかけようと、広が走り出したがその行為を明が止めた。

 

 

「何で止めるんだよ!」

 

「奴にはアラームをセットした。

 

これ以上は危険だ!」

 

「何だよ!怖気着いたのか?!

 

そんなのやってみなきゃ、分かんねぇだろ!!」

 

「俺は生徒を……友達を危険な目に合わせたくないだけだ」

 

「けっ!良く言うぜ!

 

さっきだって、克也を簡単に見捨てやがって……友達を思うなら、麗華みたいなことをしろよ!最後まであきらめずにさ!」

 

「広」

 

「気安く呼び捨てにすんな!!お前と友達になった覚えはないぜ!

 

行こう、郷子」

 

「う、うん」

 

「おい、待て。どこに行くんだ」

 

「克也達を助けに行くんだよ!」

 

 

そう叫びながら、広は郷子を連れてどこかへと行ってしまった。ふと麗華は、後ろで少し落ち込んでいる明の方に目を顔を向けた。

 

 

「教師と生徒じゃ、上手くいっても……友達同士じゃ、また難しいもんなんだね」

 

「今はそんな事より、皆を助けるのが先だ」

 

「助けるっつっても、私の攻撃は効かなかった……あとは、アンタの体を見つけるしかない」

 

「そうだな……あのアラームだけが頼りだな」

 

 

その頃、広と郷子は廊下を歩いていた。広は明の悪口を吐きながら歩き、その隣を郷子が思い詰めたような顔で歩いていた。

 

 

「フン!情けない奴だぜ!

 

こうなったら、俺達だけで皆を捜し出してやる!アイツ、上級生のくせに腰抜けだよな!」

 

「……私、そうは思わない」

 

「え?」

 

「だって……陽神君がいなかったら、広と麗華まで壁男に掴まってたかもしれない!広達を助けてくれたのよ!自分だって、危険なのに……」

 

「それは……」

 

「稲葉の言う通りだ……」

 

「?」

 

「麗華……」

 

「あいつが言ってることは、全部お前等を危険から守るため。昔からああいう態度だから、誤解され勝ちかも知れないけど……あいつは自分より、まず他人を考えるんだ。」

 

「……」

 

「麗華のいう事、少しわかる。

 

それにね、陽神君……どこか不思議な感じがするの。懐かしい……ずーっと前から知ってるような……

 

会ったばっかりなのに……信頼できるっていうか……安心感みたいなもの感じるの!そう思わない?広、麗華!」

 

「稲葉……」

 

「……郷子」

 

「何?」

 

「戻ってもいいんだぜ?」

 

「え?」

 

「立野?」

 

「アイツの方が良いんなら……」

 

「広……どうしたの?今日の広、おかしいよ!」

 

 

“ピピピピピ”

 

 

どこからか聞こえるアラームの音……その音に、麗華の肩に乗っていたシガンが毛を逆立せ、威嚇の声を上げだした。

 

 

「?!」

 

「アラームの音」

 

「……一階だ!」

 

 

広は音を頼りに、階段を駆け下りて行きその後を郷子と麗華が降りて行った。音の鳴るところへ辿り着くと、そこには明が座り込み、アラームを手に拾っていた。

 

 

「残念だけど、失敗だ……」

 

「そ、そんな…」

 

「それじゃあ、皆の居場所は?!」

 

 

何も答えない明……その時、壁に貼り付けていた空き缶が一斉に鳴りだした。

 

 

「今度は上か!」

 

「郷子と麗華はここにいろ!」

 

 

二人に言うと広は、先に行った明の後を追いかけて行った。

 

 

「広君!君は麗華と変わって、郷子ちゃんの傍に!」

 

「俺に命令すんな!!お前なんかに負けるもんかぁ!!」

 

「何を意地になってるんだ!!」

 

 

階段を駆け上がり、上へと辿り着き廊下を見たが、そこには壁男の姿はなかった。しばらく、廊下を歩き捜していると、広がハッと顔を上げ明の方を見た。

 

 

「まさか……」

 

 

その顔に明もハッとした……狙いは郷子達。

 

 

 

 

階段傍で広達の帰りを待つ郷子と麗華……シガンの頭を撫でながら、麗華は階段を見上げた。

 

 

「壁から離れてれば、大丈夫だよね?」

 

「一応ね……(何だ……この胸騒ぎは)」

 

 

すると、麗華に撫でられていたシガンが、何かの気配を感じ取ったかのようにして立ち上がり、威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入った。

 

 

「シガン?どうし……!?

 

 

稲葉!そっから離れろ!!」

 

「え?……!!

 

キャァアアア!!」

 

 

 

「郷子!?」

 

「しまった!!」

 

 

彼女の悲鳴に、広達は慌てて階段駆け下りて行き、二人の元へと急いだ。辿り着くと、階段の上壁に引きずり込まれる郷子と麗華の姿があった。

 

 

「郷子!!麗華!!」

 

「止めろ!あそこじゃ無理だ!」

 

「広!!助けてぇ!!」

 

「郷子!!」

 

 

明の手を振り解き、広は階段の手すりを踏み台に手を伸ばした。彼の手を伝い、シガンがそこからジャンプし麗華の体を抱えている壁男の手を思いっきり噛みついた。壁男はその痛みに、手を放し麗華を落としたが、郷子を抱え更にシガンを持ったまま壁の中へと消えて行った。

 

 

「広!麗華!」

 

 

明は落ちた二人の元へと駆け寄った。広は痛めた箇所を押えながら、壁に寄りかかり体を起こし座った。麗華はすぐに立ち上がり、上を見上げた。

 

 

「稲葉……シガン……

 

 

クソ!私がいながら」

 

「麗華のせいじゃない……!

 

広、血が」

 

「ほっといてくれ!」

 

 

明の手を払い、広は立ち上がった。それと共に悔しさからか、壁を殴った。

 

 

「クソ!クソ!郷子を守れなかった……

 

お前の言う通り、麗華と変わって郷子の傍にいれば……」

 

「立野……」

 

「余計な意地を張ったばかりに、守らなくちゃいけない者を守れなかった……」

 

「広、お前のせいじゃ」

 

「何が何だか分かんないけど……意地張っちまう……

 

お前、正しいよ……頼りがいがあって、冷静で……俺なんかが適う訳ねぇんだ!!」

 

「広……」

 

「自分でもどうしようもなかったんだ……くそ!!」

 

「……?」

 

 

ふと麗華の方を振り向くと、彼女は真剣な表情で目を瞑っていた。

 

 

「麗華……何を」

 

 

“ヒロシ!ヒロシ!”

 

 

「!?」

 

「郷子のポケットラブコール」

 

 

『麗華』

 

「?!」

 

 

明の耳に入ってきたもう一つの音……それは、麗華の名を呼ぶ声の様にも聞こえた。その音の方向に、三人は足を走らせ向かった。資料室へ辿り着き、耳を澄ませると音と声はここから聞こえていた。喋ると鉄パイプを手に取り、音が聞こえる壁を叩き壊した。壁を壊すと、中には克也と美紀、郷子とさらに行方不明になった小四の女の子とぬ~べ~がいた。

 

 

「郷子!ぬ~べ~!」

 

「全員居る!」

 

「キュウ!」

 

「シガン!」

 

 

郷子の背後から、シガンが姿を現し麗華に飛び乗った。登ってきたシガンの頭を撫でながら、麗華はホッとした。

広は中へと入り、郷子を起こそうと体を揺らした。

 

 

「こんな所に空洞があったとはな……」

 

「校舎を建て増しした時の、設計ミス?」

 

「おそらくな」

 

「郷子!しっかりしろ!!郷子!!」

 

「ウ……」

 

「ゴメンな……守ってやれなくて」

 

「急げ広君!奴が戻ってくるぞ!」

 

 

美樹を抱き上げ、外へと出しながら彰はそう言った。

 

 

「郷こ……おい、郷子!!」

 

「……広?

 

 

?!キャァアア!!」

 

 

目が覚めた郷子の目の前には、壁から出て来る壁男の姿があった。外にいた麗華と明はすぐに、武器を持って壁男の前に立った。

 

 

「立野は早く、稲葉を連れて外に出ろ!」

 

「分かった!」

 

(く!俺の体は、奴の後ろか……)

 

「奴の気を引く!その隙を狙え!陽神!!」

 

 

ポーチから一枚の紙を取り出し、指を上池を出すとその血を紙に付けた。紙は血に反応し煙を出し中から薙刀が出てきて、その薙刀を麗華は手に取り高くジャンプし攻撃した。敵は攻撃を素早く交わし、すぐに反撃をしてきた。

 

 

(動きが速い!?)

 

 

その時、攻撃してきた敵の手が麗華に当たり、彼女は壁へと激突した。

 

 

「麗華!!」

 

「クソ!化け物め……こうなったら」

 

 

郷子を自分の後ろへと行かせ、広は地面に転がっていたシャベルを手に取った。

 

 

「来るなら来い!!郷子には、指一本触れさせないぞ!!郷子は俺が守る!!」

 

(広……)

 

 

シャベルを振り上げ攻撃しようとしたが、壁男はその攻撃をあっさりと避け反撃をしようとした。

 

 

(駄目だ……やられる!!)

 

「立野!!……!」

 

 

攻撃が当たりかけたその時……敵の背後から、ぬ~べ~が鬼の手で敵の頭を掴み、攻撃を抑えた。

 

 

「ぬ~べ~!!」

「鵺野!!」

 

「南無大慈大悲救苦救難……この者の魂を、成仏させたまえ」

 

 

お経を唱え終えると、化け物の姿は消え代わりに白骨死体がバラバラと床に落ちた。

 

 

「噂は本当だったみたいね……

 

この男、殺人事件に巻き込まれて、建設中のこの隙間に、死体を埋められたんだろうね……」

 

「可哀想に……すぐに警察に知らせよう」

 

「ぬ~べ~!!」

 

 

彼の姿を見た広達は、歓声を上げながら寄ってきた。

 

 

「広、よくやった。おかげで助かったよ。

 

麗華も、今回ばかりは本当に助かった。ありがとう」

 

「別に…礼なんて」

 

「俺じゃないよ……六年の陽神って奴のおかげなんだ。

 

俺は、足引っ張ってばっかりで……あいつがいなかったら」

 

「そんな事無いよ!広!

 

広が守ってくれなかったら、私どうなってたか……」

 

「お熱いこと」




「それにしても、陽神君どこに消えちゃったのかしら?」

「不思議な奴だよな……」


「本当、不思議な奴」

「……」


広の言葉を繰り返し言う様にして、麗華は後ろにいるぬ~べ~を見た。ぬ~べ~は引き攣った顔を浮かべながら、作り笑いをした。

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