地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「!?」


子供達を起こしていた鎌鬼は、何かを察したのか振り返り遠くにある小島を見た。


「……」

「鎌鬼、どうかしましたか?」

「……胸騒ぎがする」

「はい?」

「……氷鸞、後をお願い」

「え?か、鎌鬼!?」


氷鸞の呼び止める声を無視して、鎌鬼は持っていた大鎌に乗り小島へと向かった。


(何だ……この胸騒ぎは……

無事でいてくれ……麗華、龍二!!)


同じ頃、鮫牙と一緒にある場所へと着た龍実……


「だいぶ離れちまったけど……こんなところに、何があるんだよ!」

「この辺りなんだ。以前あの蛇野郎を封印した際に使われた剣が」

「剣?」

「あぁ……蛇野郎を封印した際、その剣でバラバラにして祠に封印した。そんで、その剣もどこかに封印したって言われてんだ」

「へぇ……(さすが、妖怪)」

「なぁ、龍実…だっけ?」

「え?あ…あぁ」

「俺の事、式神にする気あるか?」

「え?」

「何て、冗談だ。

早く探そうぜ。お前、そっち探してくれ」

「わ、分かった」


探そうと腰を下ろした時、湿った風が吹いた。その風に、龍実は腰を上げ海を眺めた。


(……何だ?この……胸騒ぎは)


守る側と守られる側

“ピチャン”

 

 

「……え?」

 

「龍二……」

 

「悪ぃ……これ以外……方法が」

 

 

力無く倒れる龍二……

 

 

ぬ~べ~の鬼の手は赤く染まり、倒れた龍二を中心に赤い水が溢れ出てきた。赤く染まった鬼の手を、彼は呆気な顔をして、その手を見た。

 

 

「ハッハッハッハッハッハ!!見事に殺しやがった!!

 

やはりな!人なんざ、他人より自分の命の方が大事だって訳だ!どうだ?巫女。これが……貴様等が守ろうとしている人の姿だ!!」

 

 

蟒蛇の高笑いが、麗華の頭に響いた。彼女は未だに、その状況を飲み込むことができず、ただずっと倒れてい龍二を呆然と眺めていた。

 

動かない龍二……そこへ蛇達を倒し切った丙と渚が駆け寄り、龍二を呼び叫んだ。丙はすぐに龍二の傷を治し始め、その横で渚は懸命に彼の名を呼び叫んだ。

 

 

「丙!!早く治療を!!」

 

「今やっておる!!龍!!死ぬでないぞ!!」

 

「龍!!龍!!

 

ゴメン……私が弱いばっかりに」

 

「……せい……じゃねぇ(やべぇ……意識が……)」

 

「龍……龍!!」

 

「死ぬでないぞ!!お主が死んだら、麗は……麗はどうするんだ!!」

 

「……」

 

 

龍二の傍へ行きたい……その思いが強くなった麗華は、立ち上がり自分を閉じ込めている蛇を薙刀で全てを切り裂いた。開けられた場所から、彼女はふら付く足で抜け一歩一歩龍二の元へと歩み寄った。

 

 

(……何で……何で、来てくれないの?

 

何で……いつもみたいに……心配しないの?)

 

 

『麗華!』

 

『走ると転ぶぞ!』

 

『ほら見ろ!言う事聞かねぇから、怪我するんだ!』

 

『どうした?怖い夢でも見たか?』

 

『今日母さん泊りで帰って来ないから、二人で寝るか?』

 

 

喜んだ時の顔……心配した時の顔……時折見せる怒った時の顔……

 

麗華の脳裏に、次々にその記憶が蘇ってきた。母が死んだ後も、必ず龍二は傍にいてくれた……自分が変わっても、龍二は何も変わろうとせずいつも通りの調子で自分を見守ってくれた。

龍二の傍へと近寄った麗華は、渚と変わり龍二の姿を見た。渚は寄ってきた焔にしがみ付きただただ泣き続け、焔はそんな彼女を抱き締めながら龍の方を見た。

 

 

「……兄貴」

 

「……」

 

「丙……兄貴……お兄ちゃん、助かるよね?」

 

「……」

 

「丙……答えて」

 

「……分からぬ……

 

すまん……麗」

 

「……」

 

 

丙は龍二の傷口を翳していた手を微かに震えさせた。翳された手の下をふと見ると、そこには鬼の手で貫かれた痕の傷口が残され、そこから大量の血が溢れ出ていた。

 

その姿を見た瞬間、麗華の脳裏にある記憶が蘇った。血塗れになった母親……その横で丙が治療し、彼女の隣で泣き喚く自分と母親の手を取り懸命に呼び掛ける龍二の姿が蘇った。

 

すると、目から一滴の涙が零れ落ちその涙は龍二の血の上に落ちた。

 

 

「……許さない」

 

「?」

 

「麗?」

 

「鵺野……私の援護に回って」

 

「……」

 

「鵺野!!気をしっかり持て!!アンタ、それでも教師なの?!!」

 

「!!」

 

 

ハッと我に返ったぬ~べ~は、鬼の手を構え慌てて麗華の隣へと立った。彼女は立ち上がり、ポーチから二枚の紙を取り出した。

 

 

「一枚の攻撃が発動したら、鵺野!アンタの腕に巻き付ける!それで奴を攻撃して!!」

 

「わ、分かった」

 

「麗、止せ!!使ったお前の体が」

「どうでもいい!!」

 

「?!」

 

「私は、こいつを許さない!!

 

だから、どうなったっていい!!こいつを倒すまでは、攻撃は止めない!!」

 

「麗……」

 

「大地の神々に次ぐ!!汝等の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

 

 

二枚の紙は、赤と黄色に輝きだした。輝きだすと、一枚の紙から炎、もう一枚の紙から雷が噴き出てきた。

 

 

「いでよ!!火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)!!そして、建御雷之男神(タケミカヅチ)!!」

 

 

二枚の紙は炎と雷を激しく放ちその勢いを増した。麗華は雷が放っている紙を、薙刀の柄の部分に貼った。紙から放たれていた雷は薙刀を覆い纏い雷の刀をまた造り出した。

 

 

「鵺野!!鬼の手!」

 

 

麗華の声に、ぬ~べ~は彼女に鬼の手を差し出した。鬼の手に麗華は炎が放たれている紙を、ぬ~べ~の鬼の手の手首に巻き付けた。すると、鬼の手は炎に覆われ巨大な炎の手が出来上がった。

 

 

「体に負担がかかる!!一発で決めろ!!」

 

「分かった!!」

 

「私が先に行く!!その後に続け!!」

 

「あぁ!!」

 

「焔!!」

 

「言われずとも!」

 

 

人の姿から狼の姿へと変わった焔は、麗華を背に乗せ自分達を見つめている蟒蛇に向かって行った。その隣を雷光が通り過ぎ、蟒蛇の動きを封じるかのようにして、角から雷を放ち彼の体を動けなくさせた。

 

焔の背に乗っていた麗華は、立ち上がり彼から飛び降り動けなくなった蟒蛇目掛けて、薙刀を振り下ろし両腕を切り落とした。

 

 

「バカめ!!そんな事をしても」

「鵺野!!今だ!!」

 

「ハァ―――!!」

 

 

麗華の掛け声と共に、後に続いていたぬ~べ~は、炎を纏った鬼の手を切り落とされた両腕に、そして蟒蛇に向かって攻撃した。

 

 

「グギャァァァアアアア!!!」

 

 

炎に体を包まれた蟒蛇は、悲痛な声を上げながらその場に転がり火を消した。燃やされた手は跡形もなく消え去り、そして蟒蛇の傷口から腕が伸びることがなかった。

 

 

「火が弱点なのか」

 

「再生するには、細胞が必要……

 

その細胞を炎で、跡形もなく消されたら終わり……

 

 

焔が放ってた、炎を見て分かったんだ。蛇たちは一瞬で燃やされた」

 

「なるほどなぁ…」

 

「って、教師なんだから普通、これくらいのこと知ってるはずでしょ?」

 

「ゥ……」

 

「それとも、私より出来ないの?勉強」

 

「教師を馬鹿にするでない!!」

 

 

「貴様等ぁ!!許さん!!」

 

 

蟒蛇の声に反応するかのようにして、突然小島が激しく揺れた。その振動で、地面が崩れ始めそれと共に島に激しい雷雨が起き風が吹き荒れた。

 

 

「一人一人殺っていこうと思ったが……面倒になった。貴様等はここで一気に殺す!!」

 

 

地面が揺れ、麗華とぬ~べ~はその場に膝を付いた。すると振動のせいか、地面に亀裂が入り崩れ始めた。

 

 

「まさか、この島を壊す気か?!」

 

「う…嘘……!!

 

ゲホゲホゲホゲホゲホゲホ!!!」

 

 

胸を押さえながら、麗華は咳き込みながらその場に倒れた。

 

 

「麗華!!」

「麗!!」

 

 

揺れる中、焔は人の姿に変わりながら麗華の元へと駆け寄った。麗華は咳をし過ぎたせいか、口から血を出し藻掻き苦しんだ。

 

 

「麗……

 

だから言ったじゃねぇか……体にくるって」

 

「まだ………ゲホゲホ………終わって…ない……ゲホゲホゲホゲホ!!」

 

 

胸を押さえ息を切らしながら、麗華はふら付く足で立ち上がり、ポーチから一枚の紙を取り出した。

 

 

「麗!!それ以上使ったら、本当にお前は!!」

 

「兄貴が動けない今、私がやるしかない!!」

 

「それでもし、死んだらどうすんだ?!

 

そんなことしたって、龍は喜ばねぇぞ!!」

 

「死んだっていい!!

 

大事な者壊されるより、ずっといい!!」

 

 

言い叫び、息を切らす麗華……そんな彼女に焔は近寄り、自身の方に体を向かせた。

 

 

“パーン”

 

 

「?!」

 

 

麗華のを叩いた焔……彼女の頬は見る見る内に、赤く腫れ麗華は頬を押さえながら俯いた。

 

 

「死ぬなんて、簡単に言うんじゃねぇ!!

 

お前が死んだら、龍はどうするんだ?!!お前しかいねぇんだぞ!!」

 

「……」

 

「麗……」

 

 

その時、揺れが激しくなった。すると麗華が立っていた地面が崩れ落ち彼女はそのまま崩れた瓦礫と共に下へ落ちて行った。伸ばした彼女の手を、焔が掴もうとしたが間に合わなかった。

 

 

「麗ぃ!!」

 

「(……助けて……誰か)

 

兄貴……助けてぇ……

 

 

兄貴ぃ!!」

 

 

すると、焔とぬ~べ~の横を何かが通り過ぎ、その陰は穴に落ちて行った。陰は伸ばしていた麗華の手を握り、もう片方の手でつき出していた岩を掴み宙吊りになった。

 

 

「ったく……

 

 

世話のかかる妹だ……」

 

「……兄…貴」

 

 

汗だくになった龍二は、麗華の手をしっかりと握りしめながらそう言った。その手は赤く染まっており、ふと腹部の方を見ると、そこの箇所にあったはずの傷口は先程より小さくなっていたが、走り少し暴れたせいかそこから血が流れ出ていた。

 

 

「兄貴、血ぃ!!」

 

「大丈夫だ……これくらい!

 

テメェが体張って、戦ってたよりはマシだ」

 

「……」

 

「死ぬなんて、許さねぇぞ……麗華」

 

「……」

 

「お前なぁ……親父が自分の命を捨ててまで救われた命だぜ?親父の死を無駄にする気か?違うだろ?」

 

「……」

 

「言っただろ?

 

俺は……いなくなったりしないし……今握ってる、お前の手を離さないって……

 

 

お前が、しっかり……自分の道を一人で、歩むまではずっと握ってるって」

 

「……」

 

 

龍二の話を黙って聞く麗華……彼女は目から流れ出てくる大粒の涙を止めようと必死になって、腕で拭いていたが、拭いても拭いてもその涙は止まる気配がなかった。

 

 

だがその時、龍二が掴んでいた岩が崩れ二人は一緒に落ちて行った。焔と渚がその穴へ行こうとしたが、揺れが激しく以降にも行けない状況になってしまった。それだけではない……早く避難しないと、自分達も彼女達と同じ立場になってしまう。

 

 

「……雷光!バカ教師を背に乗せて、いったん非難してくれ!!

 

姉者は丙を背に乗せて、ここで待機しててくれ。俺が二人を助けに行く」

 

 

支持を出し切った焔は、二人が落ちて行く穴に向かって飛び込もうとした時だった。穴の縁に大鎌の先端が刺さり、それと共に落ちて行った龍二の手を誰かが掴み止めた。

 

 

「死なせないよ……二人は」

 

「か…」

 

「鎌鬼!!」

「鎌鬼!!」

 

 

大鎌は鎌鬼達を、引っ張り上げ縁の届くところまで行った。縁に手を掛けた龍二は上がり、握っていた麗華を引っ張り上げた。上げられた二人を、鎌鬼は手を貸し立たせ焔の背に乗せ空へと上がった。

 

小島は崩れ、海へと沈んだ。そこにいた蟒蛇は海の水を吸い込み、さらに巨大化しきられた腕は海の水のおかげか、また再生した。

 

 

「また再生してる!?」

 

「しぶとい奴だ……痛!」

 

「兄貴!?」

 

 

腹を押さえて、龍二は麗華の腕に倒れた。その異変に気付いた渚はすぐさま焔の元へと行き、丙を焔の背に乗せた。

 

 

「まだ傷口がふさがっていないのに、無理をして動くからだ!」

 

「丙、助かるよね?」

 

「大丈夫だ。後は傷口を塞ぐだけだ」

 

「……」

 

「龍二は丙に任せて、麗華。君しかいないよ……今あの大蛇を倒せるのは……」

 

「……」

 

「鬼の主さんは体力に限界が来ている。これ以上戦えば、鬼の封印が解ける可能性がある」

 

「…・・・でも」

 

「雷光、焔。君達二人は龍二と鬼の主を連れて、近くの小島に行ってくれ。龍二、君は傷口が治り次第、参戦してくれ」

 

「そう…させてもらう」

 

「鎌鬼……俺は麗華の教師だ……まだ戦えから参戦させてもらう」

 

「……なら、僕は何も言いません。一応忠告はしましたから」

 

「すまない」

 

「焔は二人を小島に置いた後、すぐに渚と交代だ」

 

「了解」

 

「麗華……不安なのは分かるが、今は君しかいないんだよ?」

 

「……」

 

「大丈夫だ……

 

お前は俺の妹だ」

 

「兄貴……」

 

「何だって、できるだろ?違うか?」

 

「……」

 

「傷治ったら、俺もすぐに参戦するから。な?」

 

「……うん」

 

「鎌鬼、鵺野……俺が来るまで、麗華を頼んだぞ」

 

「分かった」

「承知した」

 

 

龍二を丙に渡した麗華は、渚へと飛び移った。焔は彼女が移ったのを確認すると、近くにあった小島へと行った。麗華は深く息を吐き、そして意を決意したかのようにして、目の前にいる蟒蛇を睨んだ。


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