地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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遙を連れ帰った敵……


住処にはさらった子供が、ずらりと並び寝かされていた。


(残すは後三人……これで、ようやく俺の力が)


「ここが…お主の住処か」


その声に素早く振り返ると、そこには馬の姿をした雷光が立っていた。


「誰かと思えば、久しぶりだな……鬼驎よ」

「その名は遠の昔に捨てた。

今の名は雷光だ。蟒蛇」

「その名……久しぶりに聞いたな……」

「今すぐ、そこにいる人の子達を解放しろ」

「それは無理だ……

貴様、どうしたんだ?貴様らしくないぞ。


昔は、この島の奴等は俺達を散々コケにした。それがどうだ……お前は巫女に操られ俺を封印しその後は姿を晦ました……

俺が復活した時はどこにいたのかも分からなかったが……いつのまにか、あの女の手下になっていたとはな……」

「……麗殿は某を助けてくれた巫女だ」

「巫女か……

結局、お前は人の味方に就いたか……」

「蟒蛇」

「もういい……

貴様はここで、死んでもらう……この俺の計画には邪魔何でな」

「ならば、その計画を某はここで壊す」


戦いの合図なのか、蟒蛇の住処近くに雷が落ち二人を照らした。二人の目は怒りと共に、どこか悲しげな光を放っていた。


島の巫女と桜巫女

数時間後……

 

目を覚ました龍二と麗華……だが二人は、遙をまんまと連れ去られたことに強いショックを受け、麗華は浅瀬にある岩に腰を下ろし灰色の海を眺め、龍二は彼女を遠くから見守るようにして、土手に腰を下ろし灰色の海を眺めていた。

彼等の傍に何も話さず、焔と渚は寄り添っていた。

 

 

 

その間、鎌鬼は偶々この島に居合わせていた霊力探偵として、町長達と話をしていた。

 

 

「この島の事件を、解決してくれるんですか?!」

 

「もちろんです。報酬は龍二と麗華に与えてください」

 

「あの兄妹とは、どういった……」

 

「知り合いです。時々僕が力を貸して、彼らを助けることもあります」

 

「そうですか……」

 

「しかし、あの兄妹に大人の知り合いがいたとはな」

 

「全くだ。

 

あの麗華っちゅう女なんて、昔から薄気味悪い子供だったもんな」

 

「言われてみればそうだな。あいつが居た頃は、必ずって言い程怪奇事件が起きて、その度に怪我人が出ていた……」

 

「結局、アイツがいるから今の事件が起きてるんじゃないのか?」

 

「確かにそうだよな。あの子がこの島を去った後、すぐに怪奇事件は起きなくなった。それが今じゃ、あの子が来たらまた」

「いい加減してください!!」

 

 

鎌鬼は机を手で強く叩きながら、怒鳴り声を出した。隣に座っていたぬ~べ~は、慌てて止める様にして彼の肩に手を乗せた。

 

 

「貴方方が、何かにおかしな事件に対して、全てを余所者のせいにするから……今の事件が起きてるんじゃないんですか?!

 

何でもかんでも、全てを麗華のせいにして……そもそもの原因はあなた方のその性格が、今の事件が起きているんです!!」

 

「何を!!」

 

「その行いです!!

 

麗華は……あの子は優しい子です……

 

 

この島に居た頃、あの子はどうでしたか?何か、あなた方に不愉快なことをしましたか?怪我を負わせたようなことをしましたか?考えてみてください……

 

あの子がいた頃、確かに怪奇事件は起きました……けど、その事件で誰かが死んだり取り返しのつかない大怪我を負ったことはありますか?

 

 

事件が起きる度に、あの子は……いつもいつも体に傷を負っていたと思いますよ……痛々しい傷を……」

 

「……」

 

「そう……だよな」

 

「怪奇事件が起きても、誰も死人が出なかった……けど、その近くにはいつも傷を負ったあの子(麗華)がおった……」

 

「俺達は……知らぬ間に、あの子を犯人扱いしていたのか」

 

「そもそも誰じゃったけか……あの子を犯人と決め付けたのは……」

 

「けど、あの子がいなくなった後、怪奇事件はピタリと」

 

「それは…あの子が、この島に住む妖怪達にあなた方には手を出さない様に頼み込んだからです……体を張って」

 

「……」

 

「この島で起きている神隠し……それが起きるまで、何か不可解な事件はありましたか?誰かが傷を負ったことはありますか?誰かが死にましたか?!」

 

「っ……」

 

 

 

 

灰色の海を眺める麗華……湿った風が止むと共に、立ち上がり焔を連れどこかへ向かった。彼女の様子を見た龍二は心配そうな顔を浮かべる渚の顔を撫でながら、彼女達を遠くから見守るようにして後をついて行った。

 

 

目的地に着いた麗華……目の前にあるのは龍実と大空の家だった。

中へと入り、玄関のすぐ前にある部屋の襖を開いた。中には仏壇を前に座る一人の老婆……麗華は後ろに敷かれていた座布団に正座をし口を開いた。

 

 

「アンタなんでしょ……かつて、この島を救った巫女って」

 

「……」

 

「母さんの母さん……私の祖母には歳の離れた末の妹がいた。けど、その妹には霊力もないし、霊感もない。それを知った当主が、その妹を家から追い出した。

 

けど、その妹は霊力も霊感もしっかりあった……私の祖母とあいつの祖父と同じくらいの霊力が……」

 

「……」

 

「何か答えたらどうなの?

 

静代さん」

 

「……確かに…儂にも力はあった」

 

「じゃあ……」

 

「けど、兄や姉のように振る舞えなかった……

 

わしは小学校に入った頃から、いじめにあった……霊感がある……変なものが見えている……薄気味悪がられて、同級生は儂に近付こうともしなかった……そして、いつしかいじめが起きた……

 

 

こんな力がなければいい……その強い思いが伝わったのか……儂に仕えていた白狼はいつしかいなくなり、父の前で力を見せなければならなかった時、白狼がいなく何もできなかった。そんな儂を見て、父は絶望したかのような顔で見ていた。

 

そして、父は儂を遠い親戚の男に嫁がせた。だがこの島には、強力な妖怪達がいてわしは皆に危害を加えない様に、できる事を全てやった。

 

そしてあの日……

 

 

蛇の妖怪が島の住民全員を食い殺すと言い、それを止めるべくその島の守り神であった鬼驎に島に古くから言い伝えられている水と雷の力を受け渡した。鬼驎はその力を得て蛇を封印し、そ奴を復活させないために小島に水と雷が封じ込めた水晶を祠に置き妖怪を封じた」

 

「……」

 

 

静代は立ち上がり、桐箪笥から赤い水干を出し、麗華の前に置いた。

 

 

「これは、家から離れる際姉が儂に送った物だ……」

 

「……」

 

「『離れていても、私は静代の味方だからね』

 

そう言ってくれた……お前は、姉の春子に似ていた……」

 

「……」

 

「春子の娘、優華が亡くなり葬式に呼ばれ始めてお前を観た時……まるで春子姉さんの幼い頃の生き写しを見ている様だった。

 

お前を引き取りたかったのは……決してお前に酷いことを言いたかったわけじゃない……姉の代わりに親を亡くしたお前を守りたかった……まだ幼く、母親にまだ甘えなきゃいけない年頃なのに……」

 

 

話す静代の目から、いつの間にか涙を流していた。その涙に釣られ麗華の目から、知らず知らずの内に大量の涙を流していた。

 

 

「この島を……守り抜いてはくれぬか……儂の代わりに」

 

「……はい」

 

 

涙を浴衣の袖で拭き取り、麗華は何かを決意したかのような目付きで頷き返事をした。その様子を部屋の外で待っていた焔は、いつの間にか流れていた涙を拭き取りながら、安心したかのように息を吐いた。

 

 

 

 

家を出てきた麗華……門前では柱に凭り掛かり立つ龍二と渚の姿があった。

 

 

「話が着いたみたいだな……」

 

「兄貴」

 

「傷が癒えたら、離島に乗り込むぞ……」

 

「え?」

 

「さっきお前の友達妖怪……鮫牙っつう野郎が遙を抱えて離島に入っていく蟒蛇を見たらしい」

 

「蟒蛇?それが、アイツの名前なの?」

 

「あぁ。鮫牙の奴から全部聞いた」

 

「鮫牙から?」

 

「あいつ、昔からこの島にいた鮫で長生きしたせいで妖怪になったんだとさ」

 

「あいつらしい」

 

「そういう事だ……」

 

 

柱から離れ、龍二は麗華の頭を雑に撫でると先を歩いて行った。麗華は撫でられた箇所を手で撫でながら焔と共に、龍二達の後を追いかけて行った。




町長の家に着いた麗華と龍二……

外ではぬ~べ~と鎌鬼が二人を待っていたかのように立っていた。


「鵺野」

「やっと来たか……」

「麗華、龍二……今回は僕も協力させてもらうよ」

「お願いする、鎌鬼」


鎌鬼と龍二が話す中、ぬ~べ~は麗華の元へ吐息小声で話した。


「なぁ、何で鎌鬼がここにいるんだ?奴は確か、シガンになってたんじゃ……」

「自分で考えて。

ヒントはアンタが、生徒を守る時と同じ思いが鎌鬼にもある」

「……!なるほど」

「直感で分かれ、アホ教師」

「己ぇい!!」

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