地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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現れた救世主

陽が沈み、虫の鳴き声が鳴り響く夜……

 

 

自身の部屋に置かれているベッドに潜り込み怖がる遙……家の周りには空に氷鸞、玄関、裏口、窓等に焔と渚、中には武器を手に持ち構える龍二と麗華、二人に就く丙と雛菊……鬼の手を隠している手袋をいつでも外せるよう構えるぬ~べ~……

 

 

「麗華、お前本当に大丈夫なのか?」

 

「うるさい先公だな……動ける分大丈夫だ」

 

「ならいいが……」

 

「それはそうと……あいつ等、ここに連れて来てないでしょうね?」

 

「当然だ!今頃、宿の部屋でぐっすりだ」

 

「それが、嘘でないことを願う」

 

「何だ!その言い愚さは?!」

 

「静かにしろ!!バレたらどうすんだ!!」

 

 

龍二の怒鳴られたぬ~べ~は、身を縮込ませ大人しくした。

 

すると、麗華の肩に乗っていたシガンが、毛を逆立て威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入った。

 

 

「兄貴」

 

「来たみてぇだな……

 

アホ先公」

 

「分かっている」

 

「丙と雛菊はここで待機。

 

何があっても、上にいる遙君を守れ。いいな」

 

「承知」

「承知」

 

 

二人の返事を聞くと、三人は外へと出た。外では焔と渚が狼の姿になり、威嚇の声を上げながら暗くなっている辺りを見回した。

 

外は夏だというのに、異様な寒さに見舞われていた。その寒さに麗華は浴衣の袖を上げ、露わにしていた二の腕を擦りながら、辺りの見回し警戒した。

 

 

「ほぉ……

 

あの小僧を、渡さないつもりだな?」

 

 

その声に、一同は顔を向けた。そこに立つ蛇の目をした人型の妖怪……膝まで伸ばした鋭い爪を上げ構えニヤついた。ぬ~べ~はすぐに鬼の手を現し、赤くなった目で妖怪を睨んだ。

 

 

「何だ?その眼は。まぁいい……どうせ、この島の奴等を全員、俺の贄になってもらうのだからな」

 

「もう一度聞く……

 

いったい、何の目的でこの島の奴等を殺すんだ」

 

「この俺の霊力を戻し、あの忌まわしい巫女を殺すためだ!

 

アイツがいなければ、この島は俺の物になっていた!」

 

「巫女……(やっぱり……)」

 

「だが、今じゃその巫女はいない!ならば今だと思い、あの小娘の中へと入り、霊力の高いお前をこの島から追い出した!そして、いなくなり長い年月を掛け今に至るわけだ」

 

「だったら、その長年かけたテメェの計画!」

 

「ここで潰させてもらうよ!」

 

「出来るもんなら、やってみろ……」

 

 

一瞬で姿を消した妖怪……三人は耳を澄ませ、辺りに警戒しながら敵を捜した。その時シガンが後ろを見ながら鳴き声を上げた。

その声に二人は同時に振り返り、振り下ろしてきた爪を防いだ。敵は口を大きく開け、舌を鋭くし麗華の肩に乗っていたシガンを攻撃した。シガンは攻撃を食らい、麗華の肩から落ち地面に倒れた。

 

 

「シガン!!」

 

「邪魔な溝鼠だ。溝鼠のくせして、かなり強力な霊力を持っていやがる……」

 

「生憎、こいつは普通の鼠とは違う!!それから、鼠じゃなくフェレットつう動物だ!!」

 

 

爪を払い倒し、麗華は敵の腹に膝蹴りを食らわせた。敵はもろに受けた攻撃に一瞬怯み、二人から離れた。離れたのを狙いぬ~べ~は、鬼の手を敵の開いた背中目掛けて振り下ろし攻撃した。敵の背中には傷を付けられ、敵は悲痛な声を上げながら、後ろを振り返り口から液体を吐き出しぬ~べ~にかけた。

 

 

「わぁあ!!」

 

 

かけられた液体は、ぬ~べ~の目に架かり彼は目を押えながらその場に膝を着いた。

 

 

「鵺野!!」

 

「麗華は鵺野に就いてろ!」

 

 

龍二は彼女に命を出しながら二人を守るようにして、武器を構え立った。口周りに着いた液体を拭き取りながら敵は彼らを見た。

 

 

「どうだ?俺の特性の毒は?」

 

「テメェ!!」

 

 

敵は姿を変え、目の前にいる龍二を一瞬で丸呑みした。その光景を目のあたりにした麗華は、目を疑いその場に立ち尽くしその光景を見つめた。

 

 

「あ……兄…貴……」

 

「これで一人目……さぁて、残るはお前等か」

 

「貴様!!よくも龍を!!」

 

 

主を食われた渚は、怒りに任せ口から水を吐き出し攻撃した。水は麗華の横を通り過ぎ敵に当たったかと思ったが、敵は攻撃が効いていないのか平然とした顔でその場に立っていた。

 

 

「!?」

 

「き、効いてねぇ」

 

「クックック……この俺はな、水には抵抗があんだよ!」

 

「!!」

 

「クソ!!」

 

 

薙刀を持ち構え、麗華は敵目掛けて薙刀を振り下ろし攻撃した。攻撃は敵の胴に突き刺さり、動けなくなった敵を焔は前脚で敵の頭を押さえ、渚は尾の方を押え動きを封じた。突き刺した薙刀を引き抜き、麗華は敵の腸を切り裂いた。

切り裂かれた腹から、人の手が力なく出てきた。出てきた手を麗華は掴み引っ張り龍二を出した。

 

 

「龍!!」

 

「兄貴と鵺野と一緒に、渚は中で待機!変わりに雛菊を!!」

 

「承知!」

 

 

意識のない龍二と未だに目を開けられないぬ~べ~を抱え、渚は家の中へと入った。渚の方に向いていた麗華は、薙刀を手に掴もうとした時、背中に激痛が走った。後ろを振り返ると、焔を投げ飛ばし爪を構え怒りの顔を浮かべる敵の姿があった。

 

 

「貴様、よくもこの俺の腹を!!」

 

「へへ……ざまぁみろ」

 

「この!!くたばれぇ!!」

 

 

爪を振りかざし、敵は麗華に襲い掛かった。麗華は背中に出来た傷の痛みのせいかその場を動けず、襲ってくる敵を見つめ、死を覚悟した。

 

 

「殺させない!」

 

 

その声と共に、麗華の目の前に何者かが立ち敵の攻撃を受け止めた。彼女はその声に懐かしさを感じ、ゆっくりと立ち上がりその名を口にした。

 

 

「鎌…鬼?」

 

 

自分の目の前に立っているのは、以前とは違う黒いスーツに身を包みその上から黒いマントを羽織り、手には白い手袋を嵌め大鎌を持った鎌鬼の姿があった。

 

 

「チッ!!一体、どれだけの妖怪を手下にしたんだ!!貴様は!」

 

「僕は手下じゃない……

 

罪滅ぼしの為に、僕は麗華を守る」

 

「ほぉ……なら、守り抜いてみろ!!」

 

「麗華!僕が良いと言うまで、目を瞑っていてくれ!!焔もだ!」

 

 

鎌鬼に言われた焔は麗華の傍へと駆け寄り彼女を守るようにして抱き目を瞑り、麗華は焔の体に顔を埋め目を頑なに瞑った。

 

 

「さぁて、本領発揮としましょうか」

 

 

目を赤く光らせると、それに反応したかの様にして大鎌は形を変えた。敵は変化した武器に怯みもせず彼目掛けて爪で攻撃した。だが形を変えた大鎌は攻撃してくる爪をまるで予知でもしていたかのようにして、攻撃を防ぎ切り自身の攻撃を防がれたことに驚いている敵の隙を狙い、大鎌を振り回し攻撃した。

 

敵は鎌の攻撃を、頬に食らいながら後ろへと退き黒い煙を口から放ちながら姿を晦ませた。

 

 

やがて黒い煙は晴れ、すぐに敵がいた方に目を向けるがそこにあるはずの彼の姿は無くなっていた。

 

 

「(逃がしたか……)

 

麗華、焔、もういいよ」

 

 

鎌鬼の声に、焔は目を開けすぐに起き上り後ろを振り返り敵の姿を捜したがどこにもなく、逃げられたのをすぐに確信した。焔が立ち上がると共に、麗華も立ち上がり少し怯えた様子で、傍にいる焔に寄った。焔は寄ってきた彼女を抱き寄せ、鎌鬼の元へと寄った。

 

 

「逃げられたの?」

 

「その通りだよ……」

 

「……

 

それより何で……その姿に?以前とは違うような」

 

「それは僕にもわからない……気が付いたらフェレットの姿からこの姿になっていたんだ……」

 

「もしかしたら、麗に対する思いが強くなって今のお前の姿が出来てるのかもな」

 

「思い?」

 

「誰かに強い思いを寄せてると、生まれ変わった後でもその力を発揮することができるって聞いた事がある。今の姿から以前の姿に変わるって……」

 

「!麗!」

「麗華!」

 

 

背中を抑えるようにして、麗華は体を丸めその場に座り込んだ。鎌鬼は彼女を抱き上げ、焔と共に家の中へと入った。

 

 

その様子を、敵は遙の家の屋根から見下ろしていた。屋根には傷だらけになって、倒れる氷鸞の姿があった。

 

二人が中に入ったのを確認すると、敵は姿を変え物音立てずに遙の部屋へと忍び込んだ。忍び込んだ敵の顔には、不敵な笑みを溢し鋭い牙が揃った白い歯が暗い部屋で不気味に輝いた。




明け方……

下の部屋ではテーブルに肘を着き頭を抱える遙の母と、妻を慰めるようにして背中を擦る遙の父……ソファーには大鎌をしまい、普通の男として迎え入れられた鎌鬼が祈るようにして、目を瞑り両手を握っていた。


別室では、意識のない龍二と背中に傷を負い意識を失った麗華が寝かされ、二人の治療を終えた丙が彼女に掛布団を掛けると、深い息を吐いた。傍で雛菊の治療を受けている焔は、息を吐いた丙に質問した。


「麗の容態は?」

「傷は深いけど、命に別状はない。

龍も目立った傷もない……二人とも、時期に目を覚ます」

「良かったぁ……」


雛菊の治療を終えていた渚は、胸を撫で下ろし安心したかのような声でそう言った。


「二人はいいとして……

全く、使えぬ男だな。お主は」


正座をしそっぽ向くぬ~べ~……彼を見ながら、雛菊たちは飽きれたような口調で文句を言った。


「何が『お前はまだ傷を負っているから、寝てろ。お前の代わりに俺が見張りする』よ」

「代わりの見張りが、二人より先に目を毒でやれてリタイヤ(再起不能)。その後は龍と麗が相手をしてたみたいだが……龍は敵に丸呑みされ、彼を助けようと麗が敵の腸を斬り破り無事龍を救出……だが、その直後敵の攻撃を背中に食らい、動けなくなっていた所になぜだかは分からぬが、鎌鬼が麗と焔を助けた……


けど、結局遙は連れ去られ今の状態……空を見張っていた氷鸞は、自分の情け差に悔んで、一人屋根の上……」

「す…すいません」

「全く……情けない先公だ」

「だから麗と龍に、『アホ教師』だの『バカ教師』だの言われるんだよ」

「焔の言う通りね」

「っ……」


「鬼さんをそんなに攻めなくても、いいんじゃないんですか?」


その声と共に、襖が開き部屋に鎌鬼が入ってきた。ぬ~べ~は彼の姿に驚くと、すぐさま左手に嵌めていた手袋に手を掛け鬼の手を出そうとした。その瞬間を渚はぬ~べ~の頭に、肘鉄を食らわせ阻止した。


「あ、姉者……」

「当然の報い。麗と龍に怪我を負わせた罰だ」

「ハハハ……(迦楼羅の子供って、案外怖いんだね……)」

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